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日本マイクロソフト、Ignite 2022での3つの発表などPower Platformの最新動向を紹介

花王による導入事例の詳細も

 日本マイクロソフト株式会社は21日、Microsoft Power Platformの最新動向を紹介するプレスセミナーを開催した。開発者向けイベントIgnite 2022で発表されたPower Platformの最新情報、Power Platformを使って業務で利用するアプリケーションを開発している花王の取り組みを紹介した。

 Power Platformは、マイクロソフトが提供するローコード開発ツール。Web アプリやモバイル アプリの開発を行う「Power Apps」、プロセスやワークフローの自動化を行う「Power Automate」、チャットボットや会話型エージェントを開発する「Power Virtual Agents」、安全でデータを活用したビジネスWebサイトを構築できる「Power Pages」、データの探索や分析とレポート作成が行える「Power BI」から構成されている。

Microsoft Power Platform

 日本マイクロソフト ビジネスアプリケーション事業本部 本部長の野村圭太氏は、Power Platformを次のように説明する。「マイクロソフトのPower Platformは、世界で最も本格的な統合型のローコード開発ツール。5つの強力なローコードのアプリケーションから構成されている。開発できるものも、アプリケーション開発から業務のプロセス、ワークフロア自動化、チャットボット作成、ビジネスにフォーカスしたWebサイト開発、そしてデータを基にしたBIと多岐にわたり、これらをローコードで簡単に構築できる、5つの強力なアプリケーションから構成される」。

日本マイクロソフト ビジネスアプリケーション事業本部 本部長の野村圭太氏

 さらに、マイクロソフトが提供するほかのソリューションと連携できることも特徴となっている。

 「Power Platformの能力をフルに生かせるようにするために横断的な機能を提供していることが、大きな特徴。750を超えるデータコネクターがあり、マイクロソフトのほかのソリューションはもとより、他社のソリューションお使いの場合でも、このデータコネクターを使って連携をさせて、ローコードでソリューションを作っていくことができる」(野村氏)。

 AIについては、AI Builderを活用することで、あらかじめ学習されたAIモデルを活用することができる。Microsoft Dataverseはビジネスデータ用の集中的なデータレポジトリで、さまざまなデータとビジネスロジックを使って構成することで、セキュアなシステム構築をローコードで実現する。Power Fxは、Excelの数式のように、簡単な言語でローコード開発を行うことができる。

 大規模にローコードで開発したシステムを展開する組織に対しては、サポートを行うマネージド環境の提供も行う。「非常に包括的で、統合型のローコード開発ツールがMicrosoft Power Platformになる」(野村氏)。

Ignite 2022での3つの発表

 2022年10月13日・14日に開催された開発者向けイベント「Ignite 2022」では、Power Platformに関する3つの新しい発表が行われた。

 1つ目は、ビジネス向けWebサイト開発をローコードで行う「Microsoft Power Pages」の一般公開。ビジネスにフォーカスしたWebサイトを迅速で容易に構築できるローコード開発ツールであり、「企業はさまざまな技術的バックグラウンドがあるが、そういったバックグラウンドに関係なく、どなたでもデータを活用した安全なWebサイトを作成できる。単にWebサイトを作るだけにとどまらず、裏側で動く業務プロセスと連携させることで、ビジネスプロセスの合理化、ワークフローを自動化するといったことができるようになる。エンドトゥエンドでビジネスソリューションを実現させることができるツールとなっている」(野村氏)。

Microsoft Power Pagesの一般公開

 2つ目としては、大規模環境の運用自動化と効率化によって、IT管理者の負担を大幅に削減するマネージド環境が一般公開された。

 「標準でさまざまなガバナンス強化機能を搭載し、Microsoft Power Platformを組織内で大規模展開するにあたり、必要なガバナンスをシンプルかつ自動的に実現する。これまでローコードの導入は、ガバナンスポリシーの設定や実際の使用状況の分析に、IT管理者は人的リソース、時間を費やして取り組む必要があった。今回一般公開したマネージド環境を基にすることで、IT管理者の負担を大幅に軽減できるようになっている」(野村氏)。

マネージド環境の一般公開

 3つ目はAI Builderの機能強化。AI Builderでは、あらかじめ学習させたAIモデルを用意し、すぐにアプリケーションに組み込み、効果が出すことができる。今回、非構造化ドキュメントの処理、日本語手書きテキストの認識、複数行・ページにまたがる情報の抽出、AIモデルの共同編集が一般公開された。さらにフィードバックループがプレビューとして公開されている。

 「この度、非構造化、ドキュメントの処理も可能となり、契約書、作業報告書、手紙など自由形式の文書からデータを抽出できるようになった。また、日本語を含む164言語のサポートを強化し、手書きのテキスト、複数行にまたがる情報も正しく抽出できるようになった。さらに、AIモデルのクオリティを向上するために、お客さまの方からフィードバックをいただくというような機能も、今回プレビューとしてリリースしている」(野村氏)。

AI Builderがさらに強化

 なおマイクロソフトでは、開発について、ローコード開発ツールPower Platformを使う、プロの開発者ではない「市民開発者」、Power PlatformとAzureを活用する「IT担当者」、Azureの開発ツールを使いこなす「プロ開発者」の3層の開発者が存在すると分析。従来の開発手法では十分なリソース、ROIが見込めない領域で、ローコード開発ツールであるPower Platformを活用していくとする。

 ただし野村氏は、「本当の意味で効率化を実現するのは、ローコード開発ツールを使い、アプリケーションを開発するだけでは十分ではない」と指摘する。

 「Power Platformは、全体最適につながる、皆さまのデジタル変革を支援する、エンドトゥエンドのポートフォリオを提供する。例えば、エンドユーザーが直感的で使いやすいアプリケーションを作るところからスタートした後で、次には、『裏の業務プロセスと連動させて最適化させる』『プロセスを自動化する』などを実現できる。また、Power PagesでWebポータルを構築し、それをバックエンドのプロセスと連携したり、寄せられる質問がたくさんあるのでサポートチャットボットを追加したり、といったことが、ローコードで簡単に作れるようになってきている。加えて、その結果集まったデータは、集約してデータからBIレポートを作成するところまで、ローコードのテクノロジーでできるようになってきた。こういったことがすべてネイティブに連携し、1つのプラットフォームで提供されているのが、Power Platformの強みであり、特色だ」とした。

簡単な業務から複雑な業務まで、適材適所のマイクロソフトサービス群と人材のコラボレーションにより、効率的なデジタル化を実現できるという

 国内の企業でPower Platformを採用する例が多数登場しており、トヨタ自動車では利用開始から約2年で7600人を超えるアプリ開発者を育成しボトムアップでのDXを推進している。

トヨタ自動車における市民開発の拡大

 このほかマイクロソフトでは、さらに多くの企業の利用につなげることを狙い、ローコード活用におけるさまざまなニーズに応える、18社の支援メニューを紹介した「パートナーソリューションガイド」を提供した。こちらは、同社のサイトからダウンロードし、参照することが可能だ。

導入を支援するパートナーエコシステムの拡大

 また、市民開発者を支援するため、過去1年2万人に行ってきたトレーニングサービスをさらに拡大する。1カ月間の学習・トレーニングでPower Platformの基礎から応用までを習得できる実践プログラム「Power Platform Onboarding Center」を上限1000人に実施。さらには、3カ月間のトレーニングを通し、スキルアップ・認証取得を目指すプログラム「Power Up Skilling Program」、何から始めればよいのかわからない場合や個別相談を求める場合など幅広く相談に答える「IT よろず相談センター」を実施する予定とした。

市民開発者育成支援

200を超すアプリ開発を実現した花王

 今回、Power Platformを利用する代表的な企業として、花王の取り組みが紹介された。花王では、「これまでの延長上でない生産性の向上、人への依存・負荷を低減し、人らしい知恵創造」を目指したスマートSCM実現を進めており、その中で、デジタル化にPower Platformを活用し、全国の工場や工場以外の場所でアプリ開発を進めているという。

 今回、会見に登場した花王 SCM部門 技術開発センター 先端技術グループ(情報システム)の竹本滋紀氏は、「われわれの部署は、工場における情報システムの開発、運用。それからこの後、説明させていただく、サプライチェーンのDXを推進している」と自らの担当を説明する。

花王 SCM部門 技術開発センター 先端技術グループ(情報システム)の竹本滋紀氏

 SCMについては、スマートSCMとして改善を続けているという。さらに、「定型業務については2020年頃からRPAを活用し、効率化を進めてきた。現在、それ以外の部分の効率化について、Power Platformを使って取り組んでいる」と現状を説明する。

 SCM部門では、開発中を含め全国の工場とその他含め、263のアプリを開発している。その中で代表的なもの2つが紹介された。「2つの事例は、いずれも製造現場の担当者が主体となってPower Platformを学習し、自らアプリを開発して運用した事例となる」(竹本氏)。

スマートSCMにおける「現場DX」の活動

 1つ目の事例は、和歌山工場のケミカル製造現場で、製造現場における紙点検記録を電子化したもの。従来は紙に手書きで記録し、承認、保管、管理を行っていたため、記録、承認が手間、データを活用できない、紛失リスクといった課題を抱えていた。これを電子化し、スマートフォンでデータ入力を行い、パソコンに承認する方式へと変更した。その結果、記録と承認の簡素化作業工数削減し、データの高度活用による人生産性向上、紙資源の削減によるESG貢献を実現した。

 開発を進める上で課題となったのは、点検記録として170種類の帳票が存在したこと。この紙帳票ごとにアプリの仕様検討が必要となるため、開発スキルが要求されることになった。また、複数人でアプリ開発を行ったために、仕様や管理が煩雑になったという。そこで、すべての開発者が同じ仕様で開発できるように標準仕様(UI、データ構成等)を策定し、解決したとのこと。

製造現場における紙点検記録の電子化

 2つ目の事例は、ケミカル製造現場における原材料を記録する紙のカードのデジタル化。紙のカードは、ラックに保管していたが、カードを探す手間がかかる、手書きのために一目でわかりにくい、紛失すると生産に支障が出るといった課題があった。

 デジタル化によって、原材料管理として納入・移動・片付けを記録。危険物管理についても、保管場所の危険物倍数を閲覧できるようにすると共に、危険物管理アラートを色によって表示するなどの工夫を行った。さらに、アプリから製造管理、保管場所の検索なども行えるという。

 「スマートフォンで操作できるよう構築し、これまでの紙での原材料管理時代にはなかった、危険物管理機能がデジタル化によって加わった。危険物管理は、法令によって届け出を出し、保管数量が制限されている。デジタル化で数量を管理し、場合によってはアラートを出して管理していくことができるようになった」(竹本氏)。

ケミカル製造現場における、原材料を記録する紙のカードのデジタル化

 なお、200を超すアプリ開発を実現した背景には、社内でアプリ開発をするための3つのポイントがあったという。

 「導入支援体制を作り、組織的なバックアップを行った。工場それぞれに推進役となるインフルエンサー役となる人材を育成し、その人が周囲の人を教育していく形をとっている。さらに、現場の開発者にシステムエンジニアが伴走し、1つ1つの要望を具現化していくという取り組みを地道に繰り返した。加えて、社内で年2回、開発事例発表会を開催し、これには約300人が参加している。この発表会に参加した人が、自分もこうなってみたいと考えてもらうことが大事」(竹本氏)。

 また、本来は開発が業務ではない人が開発に取り組み、勉強するといった時間を業務時間としてカウントするのか、アプリ開発も業務評価につながるのかについては、「現業を抱えながらの開発の時間を取るのは難しいのは確か。現場マネージャーにもわれわれが働きかけ、DXの重要性を認識してもらって、実績評価につながるようお願いしている」(竹本氏)と説明している。