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両備システムズ、2030年の売上高500億円に向けて5つの取り組みを推進
LGWANネットワーク関連事業の拡充、データセンターの第3棟建設計画の推進など
2022年9月7日 06:00
株式会社両備システムズは6日、2030年度(2030年1月~12月)に売上高500億円を目指す中期経営計画を発表。2023年度までをフェーズ1として、「統合・変革期」に位置づけ、ビジネスモデルの変革を図る。2030年度までの売上高の年平均成長率は5.0%増となる。また2023年度には、データセンター「Ryobi-IDC」の第3棟の建設に向けた企画および設計に着手する考えも明らかにした。
両備システムズの小野田吉孝副社長は、「これまでは受託開発が中心であり、人月計算によるビジネスを行ってきた。公共系は独自パッケージの展開により、受託開発の比率は少なかったが、民需系では7~8割が受託開発であった。この仕組みを変え、サービスビジネスを拡大していく。Javaや,net、C言語によってスクラッチ開発していた技術者を、AWSやAzure、Salesforceなどの技術を持つ技術者や、Pythonをはじめとした言語、AIやデータ活用が可能な技術者にリスキリングしていく。また、セキュリティ人材を、2023年度までに100人規模に増やす。セキュリティ人材は、すでに3分の1の育成が完了している。AWSの技術者も40人規模でリスキリングしている」などと述べた。
データセンターの第3棟については、第1棟、第2棟と同じエリアを想定。400~500ラックと既存棟と同等規模を予定している。「データセンターが立地しているのは、岡山県内の地盤がしっかりとした場所であり、災害リスクが低い地域特性がある。電源は2系統あり、新たに特別高圧を導入して、電力の安定化ができている。これらのインフラも活用できる。だが、いまは機材が高騰しているタイミングである。その点もとらえながら、3年以内には稼働させたい」などと述べた。
5つのテーマで成長を目指す
両備システムズは、行政や医療機関などの公共領域や、製造、物流、交通などの民間領域にICTソリューションを提供。特に公共分野での実績が高く、自治体向け健康管理ソリューションでは、約40%のシェアを持っている。
2019年10月には、両備システムズを中心にグループ6社を再編。今回の中期経営計画は、再編以降では初めての中期経営計画の策定となった。
フェーズ1となる2022年度から2023年度までは「統合・変革期」とし、ビジネスモデルの変革に取り組み、2023年度の売上高は370億円を見込んでいる。
具体的には、5つテーマに取り組む姿勢を明らかにした。
1点目が、LGWANネットワークに関連する事業の拡充や、両備グループとのDX推進によるプッシュ型サービスの拡充による「プラットフォーム拡張とサービスの連携」である。
仮想基盤や情報発信ツール、認証基盤ポータル、電子申請、ファイル共有などの機能を部品として提供するPaaS基盤「R-Cloud」を中核に、VPNによる各省庁との接続、LGWANでの自治体との接続といった閉域網アクセスの提供や、Salesforce、Microsoft Azure、AWSなどのマルチクラウド環境の実現、業務や目的に特化したクラウド基盤サービスの提供、エントリーやプリンティングなどのバックオフィス業務をBPOサービスとして提供する体制を構築。これらの事業を連携し、拡充する。
「マルチクラウド環境を専用線で接続しているデータセンターは日本では少ない。自治体や民間企業が必要なクラウドを、セキュアに接続する選択肢を提供できる。行政機関との接続ハブ、業務特化したクラウド基盤、マルチクラウド接続、BPOサービスとの連携といった機能を、トータルで提供できる数少ない事業者である強みを生かしていく」と述べた。
現在、R-CloudのISMAPの取得に向けた準備を進めているという。
また、2021年12月以降に拡充したサービスとして、ファイル共有サービス「R-Cloud FileShare」や、公的個人認証実装中継サービス「R-Cloud Auth for xID」、Webフォーム作成サービス「Bridge over for kintone」、Webフォームサービス「Bokフォーム」のほか、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)とLGWAN接続サービス、ベンチャー企業であるxIDが開発した住民通知をデジタル完結するサービス「SmartPOST」の販売を開始しており、「今後もサービス拡充に向けた取り組みを継続する」と述べた。
さらに、2021年7月に、両備グループが岡山駅前にオープンした商業、オフィス、マンションを複合した「杜の街」において、居住者や勤務者、来店者向けの専用アプリを開発。「さまざまなサービスを連携するスマートシティ向けのプラットフォームとして提供する。民需拡大のモデルケースにしたい」と述べた。
2つ目は、データセンターを含めたクラウド事業およびアウトソーシング事業の拡大による「インフラビジネス拡大」である。
データセンターであるRyobi-IDCと直結したLGWANネットワークを基盤サービスとして提供。データセンターに蓄積した情報をBPOセンターで加工し、自治体や企業に戻すサービスを提供する。
現在、第2棟の3分の2が埋まる状況になっており、今後の第3棟の建設によって事業拡大に弾みをつける。
3点目としては、メディカルやFintechなどにおいて、AIや生体認証を活用した新たな付加価値の創出を目指す「新規ビジネスへのチャレンジ」に取り組む。
両備システムズでは、2018年度から岡山大学医学部と共同研究を進め、早期胃がんAI診断システム「メディカルAI」を開発中だ。「早期がんはCT画像を見ても発見しにくく、正解率は75%にとどまる。だが、AIを活用することで85%にまで高めることができている。大腸がんなど5つのがんにおいて研究を進めており、2022年度末には厚労省の外郭団体に申請し、医療機器としての認定を受けて、2023年3月には事業化する予定である。2030年度には10億円の事業規模を目指す」という。
またFintechの取り組みとして、AIによる為替の予想システムの開発に着手。2021年2月に、プロ為替ディーラーである鈴木恭輔氏が同社に入社し、その知見をもとに、アルゴリズムの開発を約10人体制でスタートしている。2022年7月からは、限度額を3億円に設定した社内運用を開始。45パターンのアルゴリズムから、予測と結果を検証しているところだ。
2023年度にはAI特化型の為替ヘッジファンドを設立する予定で、「株価の予想システムはあるが、為替の予想システムに取り組んでいるケースは世界的に見ても少ない。事業化においては、開発したAIを金融機関などに提供していくことになる」という。
4つ目の「民需系事業の拡大」では、アパレル業界向けに、受発注から生産、販売、在庫管理、出荷までを一気通貫でカバーするシステムを、2023年9月から新たに投入することを発表した。
「物流設備機器と連携し、受注から出荷までをデジタル化するソリューションや、商品計画の立案から製造販売に対応した販売管理ソリューション、ECと店舗の在庫の一元管理を行えるソリューションはそれぞれに存在するが、これらが一気通貫で流れるソリューションは存在していない。新たに物流DX開発基盤を構築し、両備グループが持つ倉庫管理システムなどと、2021年11月にM&Aを行ったドリームゲートが持つ『どんとこい』を組み合わせることで実現する。データをしっかりと連携し、共有し、加工できる仕組みによって、ワンストップサービスとして提供する。民需系事業の柱に育てていく」と述べた。
2023年9月から、販売管理(卸売・小売)、倉庫管理および物流設備(マテリアルハンドリング)機器との連携を実現。2024年4月からは、生産管理の各機能を順次提供することで、既存ECサイトや物流設備とのデータ連携が可能になる。
またECサイトの新規構築と組み合わせて、受注から出荷までの機能をワンストップで提供するサービスを2025年までに開始し、ファッションおよびアパレル業における物流DX を推進するほか、同業界における特色あるソフトウェアを提供するベンダーとのパートナーシップによって、ECシステムやオンライン展示会システム、EDI、会計および人事、給与システムとも連携して、マルチベンダー型ERPに拡張するという。2030年には50億円の売上高を目指している。
5つ目は、民需やヘルスケア分野における中規模および大規模案件の獲得、ベンチャー企業との連携を進める「積極的M&A投資」である。この1年間でも、2021年11月のドリームゲートのM&A、2022年1月のxIDとの業務提携、2022年6月のインバウンド向け観光プラットフォームを提供するMATCHAとの資本提携を行ってきたが、現在も複数の案件を進めている段階にあるという。
「ICTのスピード感に対応するには、両備システムズの力だけでは及ばない。足りないところはM&Aで対応していく。既存ビジネスを年率6%で成長させる計画を維持することは、このままでは限界に来ている。新たな事業を組み込み、そこが発揮されるシナジー効果によって6%増、7%増の成長を維持したい」と述べたほか、「これまでは小規模な投資であったが、案件の規模を拡大していくことになる。さらに、特定領域に力を持つベンチャーへの投資も強化していきたい」とした。
今後、数十億円規模のM&A投資を計画している。
中期経営計画では、フェーズ2として、2024年度から2026年度までをM&Aによる事業拡大に乗り出す「浸透・推進期」、フェーズ3となる2027年度から2029年度までを次の成長機会を獲得する「達成目前期」とし、2030年度以降の次期中期経営計画につなげる考えだ。
だが、「2021年度はコロナ関連での特需があったほか、民需が想定以上にダメージを受けたため、2023年度には、それらを踏まえて、フェーズ2以降の計画を見直すことになる。500億円という目標に変更はないが、フェーズ2では、1階となる既存ビジネスをさらに成長させるとともに、2階となる新たなビジネスを構築したい。さらに積極的なM&Aを進めることで、2030年度の売上高500億円の達成につなげる」と意気込んだ。
売上高500億円のうち、既存ビジネスで約420億円、新規ビジネスで約30億円、M&Aによる非連続の成長で約40億円を見込んでいる。
2021年度の取り組み
一方、2021年度の取り組みについても振り返った。
2021年度の売上高は前年比23.8%増の382億2200万円、経常利益は同24.2%増の40億3500万円となった。AI-OCRを活用したワクチン接種の予約業務や、コロナ禍での給付金業務などの特需や、GIGAスクール事業およびクラウド関連事業の受注が好調だったことが大幅な増収増益につながった。
2021年1月には、国が進める自治体標準化に向けた組織横断型組織として「パブリックセクター戦略室」を新設し、自治体システムの標準化に対応する体制を構築。2021年11月にはアパレル系システム開発を行うリームゲートの全株式を取得し、物流および流通ビジネスの基盤システムの構築に着手。民需ビジネスの拡大に向けた体制を強化した。また、2021年12月には、行政分野への情報サービス事業を行っているシンクを100%子会社化し、同社の主力商品である「債権管理システム」の導入ユーザーは年間で21団体増加し、346団体に拡大したという。
そのほか、医療・健康ソリューションでは子育て支援システム「ネウボラかるて」の導入や、運輸・交通ソリューションでは「アルコール検査記録システム」の販売を開始、クラウドサービス事業では、オラクルやxIDとの協業による新サービスの提供を開始、情報セキュリティ・ネットワーク事業では、医療機関向けセキュリティ「Ryobi-MediSec」の販売を開始した。
両備共創DX2022を開催
なお、両備システムズでは、年次イベント「両備共創DX2022」を、2022年9日7日~9日に、東京・虎ノ門のベルサール虎ノ門およびオンラインで開催する。「ともに挑む、ともに創るDX」をテーマに、デジタル田園都市国家構想、ウェルネス、ニューノーマル、AI・業務効率化、クラウド・セキュリティの5つの観点から、業務改革を推進するためのさまざまなソリューションを提案。スマートシティやマイナンバーカードの利活用など、官民共創に向けた連携に関する情報も提供する。また、慶應義塾大学医学部の宮田裕章教授や、社会学者の古市憲寿氏などの講演も予定されている。