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東北大、北大、NECなど、リアルタイムでハザードと被害・社会影響を予測する「津波災害デジタルツイン」の開発を開始

 国立大学法人東北大学、国立大学法人北海道大学、日本電気株式会社(以下、NEC)、株式会社RTi-cast、LocationMind株式会社の5者は25日、内閣府が主導する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の研究課題「スマート防災ネットワークの構築」において、津波におけるハザードとその社会影響を予測し、最適な災害対応をリアルタイムで提示する「津波災害デジタルツイン」の開発を9月に開始したと発表した。また、事業の推進にあたり、実証のパートナーや導入を検討する沿岸部自治体や民間事業者を募集する。

 津波災害発生時の対応においては、人流への影響、建物の被害分布の把握や交通網を含むライフラインなどの被害状況の早期把握が必要となる。しかし災害時に、それらの膨大なデータをリアルタイムで入手し、迅速かつ効果的な対応に結び付けることはこれまで困難とされていた。そこでSIPでは、AI技術を活用した、津波や風水害における人的被害の軽減、災害対応機関の人手不足解消、迅速な災害対応などを目指した研究開発を推進することで、日本の災害対応力強化を目指している。

 事業では、2011年に発生した東北地方太平洋沖地震津波災害の教訓をもとに開発した「リアルタイム津波浸水被害予測システム」を高度に発展させ、「ハザード予測層」「社会影響予測層」「最適対応層」の3つの機能から構成される「津波災害デジタルツイン」の開発・社会実装を進める。さらに、2023年8月から東北大学サイバーサイエンスセンターで運用を開始した、NECの「SX-Aurora TSUBASA」を中核とするスーパーコンピューター「AOBA」や、国内のさまざまなスーパーコンピューターを活用して、日本の津波災害に対するレジリエンス向上に貢献する。

津波災害デジタルツインの仕組み

 「ハザード予測層」では、災害前後の地震動・地殻変動や潮位条件・沖合水位などの多様な地球観測データや、海岸施設や重要施設など社会基盤のセンシングデータをリアルタイムで取り込み、シミュレーション技術を活用することで、津波浸水範囲や浸水被害などの正確なハザードの予測を行う。地震発生から5分を目安に、空間分解能10メートルという詳細な津波浸水予測を完了させる。

 「社会影響予測層」では、ハザード予測層から得られる浸水予測データをもとに、建物被害や人流への影響を予測する。特に、携帯電話位置情報を活用した人流データなど、社会動態データをリアルタイムで取り込むことで、機械学習を活用した曝露人口のリアルタイム予測や人流の滞留予測などの、社会への影響・被害の予測を可能となする。また、平常時においても、人流データの時系列のモニタリングにより、大きな人流変化がある大規模なイベントや災害の発生を迅速に検知する。

 「最適対応層」では、ハザード予測層と社会影響予測層からのデータを入力として、予測される社会への影響・被害を最小化・回避するための最適な対応を、「SX-Aurora TSUBASA」による疑似量⼦アニーリング技術および量子アニーリング技術を併用して、組み合わせ最適化問題とし導き出す。量子技術により得られた最適解が現実世界での望ましい災害対応となるよう、検証していく。

 今後、2027年度までに「津波災害デジタルツイン」の完成を目指し、プロトタイプシステムを2025年度までに構築し、高知県、仙台市、東海地方での実証を進める。さらに、津波災害をケーススタディーとして、将来的には他の災害への拡張も目指す。