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日本IBM、初のPower10搭載エンタープライズサーバー「IBM Power E1080」

 日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、IBM)は9日、Power Systemsシリーズのエンタープライズサーバー「IBM Power E1080」を発表した。9月17日から出荷を開始する。

 IBM Power E1080は、7nmプロセスで製造された新プロセッサ「Power10」(2020年8月発表)を搭載した最初の製品だ。Power Systemsのハイエンド製品であるIBM Power E980(Power9搭載)の次世代にあたる。前世代のE980と比較して、コアあたりのパフォーマンスが最大30%向上し、処理性能が50%以上向上した

 また、アプリケーションに影響を与えずに、ハードウェアで透過的にデータを暗号化するメモリ暗号化機能を搭載した。コアあたりの暗号化エンジンも4倍となり、E980と比較してAES暗号化で2.5倍高速になっている。

 さらに、行列演算を高速化するMMA(Matrix Math Accelerator)をコアあたり4つ搭載し、AIモデルを使った推論の処理速度がE980の5倍になっている。

IBM Power E1080の本体ノード
IBM Power E1080発表
Power10プロセッサー
ラックに納められたIBM Power E1080

16ソケットのインテルCPUサーバーの4倍の性能

 同日、オンラインで開催された記者発表会では、IBM Power E1080について、日本IBMの間々田隆介氏(テクノロジー事業本部 IBM Power事業部 製品統括部長)が説明した。

Power10の実物を手に持った日本IBMの間々田隆介氏(テクノロジー事業本部 IBM Power事業部 製品統括部長)。サイズは切手より少し大きい600平方ミリメートル。背景は拡大写真

 まずPower10について。Power10は7nm技術で製造され(Power9は14nm)、180億トランジスタ(Power9は80億)からなる。コア数も、Power9では最大12コアだったが、最大15コアとなった。E1080では、コア数を10、12、15コアから選べる。

 「7nmの一番のメリットは、機能が増えたことと、パフォーマンスが上がったこと」と間々田氏は語った。新機能には、IAを高速化する回路と新しいセキュリティの命令セットがある。

 メモリインターフェイスとしては、DDIMM(Differential DIMM)のためにOMI(Open Memory Interface)を採用。高速化とともに、信頼性を2倍にしたという。

 そのほか、PCI Express Gen5に対応している。

Power10概要

 Power10の性能比較としては、同じ仕事量で消費電力がPower8から52%削減され、半分以下になっている。Power9と比べても33%の削減となる。高性能化によってサーバー台数を減らすと、省電力化とともにソフトウェアのコストも下げられると、間々田氏は説明した。

 また、8ソケットのSAPのベンチマークで世界新記録を達成したことを、間々田氏は紹介。さらに、コアあたりの性能として、16ソケットのインテルCPUサーバーの4倍の性能があると述べた。

同じ仕事量での電力削減
SAPベンチマークと、インテルCPUサーバーとの比較

メモリ暗号化やAI推論支援機能を搭載

 セキュリティ面では、新しく透過的なメモリ暗号化の機能を搭載した。ハードウェアで処理するために、アプリケーションから意識する必要がなく、処理性能にも影響がないという。これにより、メモリバスを監視したり、メモリをつなぎかえて読み取ろうとしたりする攻撃にも効果があると、間々田氏は説明した。

 また、Power9の4倍の暗号化処理回路を搭載。これにより、例えば、AES暗号化が2.5倍の処理性能になるという。

セキュリティの機能

 そのほか、AI実行のために行列計算を高速化するMMA(Matrix Math Accelerator)を、コアあたり4つ搭載。これによって、E980と比べ5倍のAI推論の処理速度を実現するとした。

 機械学習の学習フェーズはGPUマシンで実行するとして、そこで作られたモデルを元にした推論フェーズは、E1080にてGPUなしで実行する、といった用途が想定されている。「基幹業務で集まったデータからAIでビジネスの知見を獲得するときに、データを移すのは無駄があるので、データのある場所で行いたい」と間々田氏はユースケースを説明した。

AI推論の実行速度を向上

 そのほか、Power Private Cloud with Dynamic Capacityについても間々田氏は説明した。Power Private Cloud with Dynamic Capacityは、サーバー費用を基本部分と従量課金部分に分け、オンプレミスでもIBM Cloud上のPower Virtual Serverでも共通に使えるようにするもの。OSとしては、AIX、IBM i、Linux(RHEL、SLES)に対応する。

 このPower Private Cloud with Dynamic Capacityにおいて、コンテナプラットフォームのRed Hat Openshiftも、同9月9日から従量課金対応とするとアナウンスされた。

 間々田氏はOpenShiftをPower10で使うメリットとして、コンテナのスループットがx86と比べて4.1倍であることと、Power Systemsのセキュリティや信頼性などを享受できることを主張した。「すでに125社が、AIXやIBM iの横でRed Hat OpenShiftを展開して、ハイブリッド環境で使っている」(間々田氏)。

Power Private Cloud with Dynamic Capacity
OpenShiftをPower10で使うメリット

動画で解説されたIBM Power E1080の特徴

 そのほか、記者発表会で動画で解説されたE1080の特徴は以下のとおり。

IBM Power E1080のラック前面
本体ノード(5U)、制御ユニット(2U)、I/Oドロワー(4U)
本体ノードは最大4ノードまで。I/Oドロワーは1つのノードにつき0~4台、合計最大16台まで
本体ノードの内部。茶色い部分がCPUモジュール(4つ)で、右のSMPインターコネクトのケーブルが見える。CPUの左の黒い部分がメモリスロット(最大64スロット)
CPUモジュール。Power10が1つ入る
メモリ。DDIMM(Differential DIMM)を採用
本体ノードの背面。中段中央がNVMeスロット、その左右がPCIeスロット
PCIeスロットのカートリッジ。PCIe Gen5採用。ホットインサーション対応

CO2削減に割引を適用

 IBM Power E1080の販売戦略について、日本IBMの黒川亮氏(理事 テクノロジー事業本部 IBM Power事業部長)が説明した。

 同9月9日より、「SDGs割引~脱炭素を促進する持続可能なIT~」を開始する。これは、環境省「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」規定に基づき、電気利用の削減により、CO2の年間20t程度の削減効果が期待される顧客に、割引を適用するものだ。

 対象製品は、今回発表されたIBM Power E10800と、フラッシュストレージのIBM FS5000 Storage、および保守のIBM Power/Storage Expert Careだ。

 黒川氏の示した試算例では、SAP利用において、Power E870×2台をE1080×1台に置きかえることで、年間20tのCO2削減となるという。また、データベースサーバーにおいて、x86サーバー×2台をE1080×1台に集約することで、年間21tのCO2削減となるという。

日本IBMの黒川亮氏(理事 テクノロジー事業本部 IBM Power事業部長)
SDGs割引~脱炭素を促進する持続可能なIT~