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日本IBMが「IBM Power11」を発表、「AI時代における真のエンタープライズサーバー」とアピール
2025年7月10日 12:05
日本IBM株式会社は9日、エンタープライズサーバーの最新版「IBM Power11」を発表した。ハイエンド、ミッドレンジ、エントリークラスのサーバーと、クラウド版の「IBM Power Virtual Server」を、すべて同時に7月25日より提供開始する。エッジサーバーは来年登場する予定。
発表会の冒頭で、日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏は、「IBMでは顧客や市場が求めるニーズを把握し、最適な選択肢を提供するため、オンプレミスのメインフレームからクラウド、さらには他社のパブリッククラウドまで、必要に応じた組み合わせや特定のソリューションを提案している。それができるよう、さまざまな分野で投資を継続しており、その中で今回は機能向上したPowerを用意した」と語った。
日本IBM テクノロジー事業本部 Power 事業部長の原寛世氏は、Power11の特徴を3点挙げる。1点目は、エンドツーエンドの自動化によって計画的ダウンタイムがゼロになること。2点目は、「IBM Power Cyber Vault」によってランサムウェア攻撃を1分以内に検出できること。そして3点目は、AIをエンタープライズワークフローに統合し、ビジネスプロセスのスループットを5倍に向上できることだ。こうした特徴から「Power11は、AI時代における真のエンタープライズサーバーだ」と原氏は述べている。
原氏は、これまでのPowerシリーズのロードマップも振り返り、「Power8ではビッグデータに対応し、Power9ではOpenShiftに対応、現行モデルのPower10ではAI推論エンジンが搭載された。Power11は、これまでの機能をすべて積み重ねた上で、新たにゼロダウンタイムやランサムウェアの検知、そしてAIのスループット向上を実現している」とする。また、Power11の発表翌日には「IBM Power Next +2」という3世代先の開発プロジェクトが始まることに触れ、「この先も強固な投資計画と開発ロードマップが用意されている」と、今後も進化するプラットフォームであることを強調した。
Power11のイノベーションについて説明したのは、日本IBM テクノロジー事業本部 シニア IBM Power テクニカル・スペシャリストの釘井睦和氏だ。まずは、「サービスレベルを損なうことなく消費電力を最適化する、エネルギー効率の高い動作モードを搭載した」と釘井氏。CPUの性能はクロックと消費電力が相反する関係にあるが、「最適化アルゴリズムを取り入れることで、業務に影響を与えず消費電力を抑えるモードをサポートしている」という。
Power11チップのパッケージング技術も改善し、新たに2.5D統合スタックコンデンサを採用。これにより、「高パフォーマンス時にかかる高電圧のノイズを効率的に除去でき、性能を高められるほか、消費電力の最適化も可能だ」(釘井氏)という。
Power11には、ワークロードをより厳密に分離するResource Groupsという機能も新たに加わった。「多数の仮想マシン(VM)を1つの筐体内で稼働させると、隣接するVMの影響を受けることがある。Powerサーバーの場合、その影響は極小だが、ハイパーバイザーに改良が加えられ、特定のワークロードを特定のプロセッサーグループに割り当てる設定ができるようになった。このため、影響を限りなくゼロに近づけることが可能だ」と釘井氏は説明する。
メモリーの帯域幅も性能が向上した。Power10ではDDR4を利用したメモリー構成だったが、Power11ではDDR5を主軸とし、クロック周波数も改善。これにより、「3倍のDDR帯域幅が実現し、メモリーを大量に消費する大規模なアプリケーションに高いパフォーマンスを提供できるようになった」という。
またPower11には、AI集約型推論ワークロード向けに構築されたIBM Spyreアクセラレーターを搭載できるようになる。これは、10~12月に対応予定だとした。
続けて釘井氏は、Power11のチップに注目。性能向上や消費電力の削減に貢献する技術として、「まず7nmテクノロジーが採用されていること。そして、Stacked Capacitorと、インターポーザーと呼ばれる中間基盤が搭載されていること。さらに、消費電力とワークロードのバランスを取りながら最適化するWOF(Workload Optimized Frequency)機能に加え、冷却技術として新しいヒートシンクを導入している」ことを挙げた。
可用性の面では、製造技術や工程の進化により、Power11は歩留まりが大幅に改善。そのため、一部の予備コアを割り当てることが可能となり、利用可能なコア数が増加した。これにより、「コア単体の性能が15~25%向上し、チップ全体ではコア数の増加を含めて30~45%の性能向上が実現した。さらに、メモリー技術の向上により、データ転送速度が最大50%向上した」と釘井氏は述べている。
またPower事業部の戦略について、原氏が販売戦略、パートナー戦略、人材戦略の3点を解説。販売戦略については、「COBOL、SAP、Oracleのユーザーに、Powerサーバーへの移行を促す。柔軟なPower上にて、DXおよびAIの新機能を活用してもらいたい」と原氏は語る。
パートナー戦略については、「まずISVソリューションを拡充する。5月に発表した200のDXソリューションとともに価値提供する。これらのソリューションを、IBM CloudのSaaSメニューでも拡充していきたい」と原氏。また、SAPやOracleとのアライアンスをベースに、「これらのワークロードをPower上で実装していきたい」としているほか、「システムの開発会社との連携も、より強固になるよう継続する」という。
さらに人材戦略として、「IBM i、AIX、Linuxの技術者を拡充する」と原氏。IBM iの若手技術者コミュニティー「IBM i RiSING」を主導し、若い技術者同士で情報交換できる場を提供しているほか、リスキリングのセミナーも頻繁に開催している。セミナーは即日満席になるほどで、「今後より一層拡充していきたい」と原氏は述べている。