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日本IBMがハイブリッドクラウド&AI戦略を説明、“4層構成で顧客のDXを支援”
Think 2021で発表された8つの新ソリューションも紹介
2021年6月11日 06:00
ハイブリッドクラウド基盤を中心とした上下4層で顧客のDXを支援
伊藤専務執行役員は、「IBMは、ハイブリッドクラウドプラットフォームとAIテクノロジーにおいて、ナンバーワンの会社を目指す。Red Hatを中核としたハイブリッドクラウドプラットフォームの上下に、IBMクラウドやIBMシステムズ、IBMソフトウェア、IBMサービスを加えた4層の構成によって、お客さまのDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援していくことになる」と述べた。
これは、2020年5月に米IBMのCEOに就任した、アービンド・クリシュナ氏が打ち出した基本戦略にのっとった発言だ。
伊藤専務執行役員は、「IBMがハイブリッドクラウドプラットフォームとAIのテクノロジーを活用し、顧客の変革や社会の変革に貢献することを打ち出したのには理由がある」と前置き。
「この10年でパブリッククラウドが広がり、多くの顧客と社会がそれを許容し、サービスが変化してきた。その一方で、企業のITシステムはすべてがパブリッククラウドに移行するわけではないこともわかった。長年に渡り多くの企業を支援しているIBMは、その両方に対応したハイブリッドプラットフォームを提供していくことになる。それを担うナンバーワンカンパニーになりたい」とする。
そしてAIに関しては、「IBMは長年AIに取り組んでおり、ここ1、2年は企業のすべての業務プロセスにAIが活用されはじめている。これからはさらに活用領域が広がると想定されており、AIの活用によって、企業の生産性向上、DXに貢献したい。さらに、長年培ってきた業種ごとの知見を加えるのが新たなIBMの姿であり、IBMの戦略になる」と定義した。
IBMでは、Red Hat OpenShiftによって、企業をベンダーロックインから解き放つハイブリッドクラウドプラットフォームを提供しているが、「これが、すべてのキーになる」(伊藤専務執行役員)と位置づける。
そして、ハイブリッドクラウドプラットフォームの下の層にインフラストラクチャの層を置く。これは、IBMクラウドや他社のクラウド、IBMシステムズによるサーバーやストレージなどで構成。「IBMクラウドとIBMシステムズという両方のテクノロジーを持つことで、顧客のニーズに応え、全般的な支援ができる」とした。
また、Red Hatによるハイブリッドクラウドプラットフォームの上は、IBM Cloud Paksで構成するハイブリッドクラウドソフトウェアの層とし、「IBMソフトウェアはコンテナ化された形で提供しており、OpenShiftの上であれば、その下のインフラが、AWSでもGCPでも動作させることができるミドルウェアとなっている」とした。
そして最上位にある層を、ビジネス変革/ハイブリッドクラウドサービスと定義。「業界ごとの知見を活用したIBMサービスにより、顧客のデジタル変革の実現、アプリケーションのモダナイゼーション、各ビジネスプロセスにおけるAI活用を提供することになる」と述べた。
さらに、「クリシュナCEOの体制になってからエコシステムを強化しているのが特徴であり、システムインテグレーターとの協業、ソリューションパートナーとの協業などが進んでいる」とした。
ハイブリッドクラウドの4つの重点領域
また伊藤専務執行役員は、日本IBMのテクノロジー事業本部が取り組むハイブリッドクラウドにおける重点領域として、「IBMソフトウェア」、「IBMクラウド」、「IBMシステムズ」、「エコパートナー」の4点を挙げて説明した。
「IBMソフトウェア」では、IBM Cloud Paksによって、オープンへの対応や、すべてをコンテナ化することを基本戦略とする一方、サブスクリプションモデルの推進により、as a Serviceでの提供や、オンプレミス上で動作するソフトウェアライセンスを適材適所で利用できる環境を用意したと説明。さらに、自動化、予測、モダナイズ、セキュリティの4つの観点から、企業のデジタル変革を支援していると述べた。
「IBMクラウド」では、分散クラウドであるIBM Cloud Satelliteの提供を開始したこと、金融業界や通信業界などの規制が厳しい業界に向けたパブリッククラウドを提供していることを紹介した。そして、「クラウドという点では、AWSやAzureには規模ではかなわないが、成長率ではいい線をいっている。多くの企業に採用してもらっているところであり、特にこの半年はユニーク性を持って取り組んでいる」と自信をみせた。
「IBMシステムズ」では、メインフレームやAIXを中心としたPower Systems、ストレージの提供に加えて、Red Hat OpenShiftを組み込んだ製品を強化する一方、「機器を購入してもらい、数年単位で更新するという付き合い方ではなく、柔軟性を持った従量課金体系も用意している」とも語った。
そして、「エコパートナー」では、従来からの再販パートナーに加えて、パートナーが持つソリューションにIBMのクラウドやソフトウェアを組み込んでもらうアプローチや、その上で展開するサービスパートナーへのアプローチを強化していることを示した。
また、「この1年間では、戦略的な買収を通じて製品ラインアップを強化。ハイブリッドクラウドを支援するテクノジーを持つ企業や、AIを促進するテクノロジーを持つ企業との提携、買収を集中的に行っている。サービス面でもSalesforceやSAP、Workdayなどとの協業を発表している。これも顧客のDXを推進するための取り組みである」とした。
日本IBMによると、最近1年間での企業買収や戦略的アライアンスは18件に達しているという。
Think 2021での8つの発表
一方、2021年5月12日に開催されたIBMグローバル最大の年次イベント「Think 2021」で発表された内容のなかから、8つの技術や製品、サービスについて説明した。
Think 2021は、IBMの顧客やビジネスパートナーを対象に開催したオンラインイベントで、全世界から3万500人弱が参加。日本からは1000人を超える顧客が参加し、それにあわせて、日本語通訳サービスも提供したという。
1つ目のWatson Orchestrateは、ビジネスバーソンの生産性向上を実現するための対話型AIで、Slackなどのコラボレーションツールをインターフェイスにして利用できる。「スキルと呼ばれる機能のなかかから、AIが適切なものを導き出したり、組み合わせたりして利用できる。自動化が難しかった複数タスクに及ぶ業務を、正しい順序で実行することができるようになった点が新たな特徴である」という。
例えば、カレンダーというスキルを使えば、Slackを通じて相手とのミーティングを設定する場合に、Watson Orchestrateから「なんのミーティングをするのか」といったようにタイトルが欠如していることをとらえて、質問をしてくる。
また営業担当者は、顧客に対する見積もり値引きがいくらまでできるのかを問いかけると、Watson OrchestrateがSalesforceの顧客情報や製品データベースをもとにして見積もり条件を提示。さらに、見積書作成のワークフローを回すことを依頼すると、Watson Orchestrateが見積書を作成し、承認までの手配を行うという。
このWatson Orchestrateは現在β版を提供しており、2021年後半にはIBM Cloud Paksのコンポーネントのひとつとしてリリースする予定だ。
2つ目のCloud Pak for Watson AIOpsは、AIを活用してIT運用の課題を解決できる運用基盤。監視データを集約、分析し、なにが起こっているのかをリアルタイムに捕捉し、問題発生をとらえ、影響範囲を予測し、対処方法を提案するという。
「複雑で、サイロ化されたマルチクラウド/ハイブリッドクラウド環境でのIT運用が持つ課題を解決できる。ひとつのダッシュボードで運用全体を確認ができるほか、予兆を検知し、プロアクティブな保全活動もできるように、製品を進化させているところである」とした。
2020年11月に買収を発表したINSTANA、2021年5月に買収を発表したTurbonomicによる機能も、Cloud Pak for Watson AIOpsのなかに統合するという。
3つ目のWebSphere Automationは、WebSphereを複数のシステムにまたがって運用している際の非効率さを解消できるサービスで、企業におけるすべてのWebSphere環境を一元的に把握。「多くのミッションクリティカルを支える基盤ミドルウェアとして、引き続き、WebSphereを利用してもらえるようにするために、利便性を高めたものである」と説明している。
4つ目の次世代Cloud Pak for Dataは、「Intelligent Data Fabric」という新たなコンセプトに基づいたもので、「AIを活用してより賢く、自動化していくことになる。Cloud Pak for Dataを大きく進化させることができた」という。これは、Cloud Pak for Data V4.0と呼ばれる製品で、2021年6月末にリリースするとのこと。
ここでは、AIモデル開発のAutoAI、ポリシー管理のAutoPrivacy、仮想的なデータ統合クエリーのAutoSQL、自動化データカタログのAutoCatalogといった4つの“Auto”を提供。「個々の機能がより自動化されることで、データを整備、管理、活用する人たちにとって、飛躍的に生産性を高めることができる」とした。
5つ目の項目となる「信頼できるAI」では、信頼できるデータ、信頼できるプロセス、信頼できるモデルによって、信頼できるAIが実現するとし、「IBMは、これまでにもAIの信頼性と透明性を重視してきたが、データ、モデル、プロセスのすべてで信頼性を担保し、リスク、コンプライアンス、ガバナンスの仕組みを用意することで、より信頼ができるAIが実現できる。導き出した答えにバイアスがかかっていないかという点も監視、管理できるようになり、こうした取り組みによって信頼できるAIを利用してもらえるようになる」と述べた。
続いて、6つ目のIBM Cloud Code Engineは、アプリケーション開発者向けのフルマネージドランタイムであり、サーバーレスプラットフォームでアプリケーション、ジョブ、コンテナを実行。「本当の意味で、Knativeを提供できるサービスとして認識している。IBMクラウドを多くの開発者に評価してもらえることが大切。開発者に寄り添うサービスとして提供する」とした。
7つ目のTailored Fit Pricing IBM Z Hardwareは、IBM Zハードウェアの柔軟な新たな価格モデル。「現在でも約7割の企業がオンプレミス環境となっている。この比率が逆転するには10年ぐらいはかかるだろう。IBM Zは社会基盤を担うものとしていまでも利用されているが、投資がクラウドのスピードや柔軟性に対応できないという声もあった。Fintechのように勘定系システムにアクセスされる状況になると、メインフレームも柔軟性を持つ必要がある。後手になった部分はあるが、そうした要望にミートするようなプライシングモデルを発表した。15分ごとのキャパシティ利用状況を把握して、課金するモデルとなっている。昨年末には、サーバー、ストレージについても柔軟なプライシングモデルを導入しており、IBMハードウェアのすべてで実現できた」などと述べた。
そして、最後に触れたIBM Spectrum Fusionは、コンテナネイティブのストレージを採用したHCIだ。高速なCPUおよびGPUを搭載し、Red Hat OpenShiftをプリビルド。構築、運用の手間がなく、コンテナベースの高速データ分析基盤を即座に開始できる。「高速処理に最適なものである。エッジでの利用も可能であるほか、IBM Cloud Satelliteとの連携により、クラウドサービスの一部も利用できるようになる」という。
2021年後半に発売。2022年には、IBM Spectrum Fusionのソフトウェア部分だけを切り出して販売する予定であり、それに伴い、さまざまなハードウェアベンダーと協調することになるという。「サーバー、ストレージを別に用意している顧客においても、IBM Spectrum Fusionのソフトウェアを利用することで、同様の高速処理が利用できるようになる」とした。
さらに伊藤専務執行役は、テクノロジー事業本部ではスピード感を持ってDXに取り組みたいという企業の要望に応えるために、テクノロジー支援体制を強化したことについても触れ、「IBMの製品は半年ごとにバージョンアップを繰り返しており、それらの情報も届けたい。共創に向けて、すべての局面で、お客さまに寄り添えるようなスペシャリストを用意している。積極的にエンジニアの中途採用を進めており、外でオープンな経験をしてきた人材も増やしている。360度の新しいテクニカル・エクスペリエンス・ジャーニーにより、お客さまのDXを推進していく」などと述べた。