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IBM、分散クラウドサービス「IBM Cloud Satellite」の正式提供を開始
オンプレミスでもWatsonなどのマネージドサービスが利用可能に
2021年3月9日 08:00
日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は3月1日(米国現地時間)、分散クラウドサービス「IBM Cloud Satellite」の提供をグローバルで開始したことを発表し、3月2日(日本時間)にメディア向けの説明会を開催した。
IBM Cloud Satelliteは、KubernetesとRed Hat OpenShiftをコアテクノロジーとしたフルマネージドのクラウドサービスだ。コンテナベースのアプリケーションを、任意のクラウド、オンプレミス、エッジなどあらゆる環境で柔軟に稼働させることができる。例えば重要なデータが保存されているオンプレミス環境にも、クラウドネイティブなアプリをデプロイして、データを移動させることなく処理できるのだ。
テクノロジー事業本部 IBM Cloud テクニカル・セールス部長 シニア・アーキテクト 安田智有氏は、「IBM Cloud Satelliteは、お客さまが開発したアプリケーションと、IBM Cloud上で提供しているマネージドサービスの機能をIBM Cloud以外の環境でも組み合わせて利用できるサービス。デプロイ先にRed Hat OpenShiftがあれば、オンプレミス、IBM Cloud以外のパブリッククラウド、エッジ環境などを自由に指定可能で、例えばWatsonなどIBM Cloudの機能と自社開発のアプリケーションや、エコシステムパートナーが提供している機能を組み合わせ、IBM Cloudのコントロールプレーンで一元的に管理することができる」と説明した。
エコシステムパートナーとして、すでにCisco SystemsやDell Technologiesをはじめとする65社以上が参画している。なお、エッジ領域ではLumenと連携しており、カメラやセンサーなどIoTデバイスから得られるデータを、クラウドで集中的に処理するのではなく、エッジで高速処理できる。つまりデータを移動させることなく、データが生成されたエッジ環境で処理するということだ。
日本IBM 執行役員 テクノロジー事業本部 クラウド・プラットフォーム事業部長 今野智宏氏は、「企業は、AI、オートメーション、ブロックチェーンといったデジタルテクノロジーによって、自社が保有しているデータ資産を活用して基幹業務を変革している。これまで一部業務領域でのみ利用されてきたクラウドが、基幹業務でも利用されるようになっている。1つのパブリッククラウド環境だけに閉じるのではなく、複数ベンダーのパブリッククラウド、プライベートクラウド、オンプレミス、エッジを連携させることが価値を持つようになっていく」と述べる。
また、IBMでは同社のハイブリッドクラウド戦略を推進するため、2020年10月にマネージドインフラストラクチャ部門を分社化することを発表している。今野氏は「IBMと新会社は、強固なリレーションシップを持ち続ける」と述べ、2021年末までに分社化手続きの完了を予定していることを明らかにしている。
さらに今野氏はIBM Cloudの強みとして「Enterprise Grade Cloud」「Security Leadership」「Open Hybrid Cloud Services」という3つを挙げる。
Enterprise Grade Cloudは、企業の基幹システムに耐えうる高品質なサービスレベルを意味している。「今後、企業のミッションクリティカルなワークロードがクラウドにシフトしていく。IBM Cloudは、VMware、SAP環境認定、AIX、zLinuxなどユニークなサービスを提供しているが、こうしたコンピュータリソースだけではなく、金融サービス向けなど業界向けクラウドも重視している」と今野氏は説明する。
Security Leadershipは、業界最高水準のセキュリティ性能だ。今野氏は「昨今、パブリッククラウドのセキュリティ基準などがメディアで取り上げられることも多いが、お客さま以外、いかなる者もお客さまのデータにアクセスできないクラウドはIBM Cloudだけ」と述べた。
Open Hybrid Cloud Servicesは、KubernetesやRed Hat OpenShiftなどのオープンなテクノロジーによってどこでもクラウドサービスを動かせることを意味している。今野氏は「今後はマルチクラウド化が進んでいくと思われるが、それぞれの環境でアプリケーションの開発・運用・管理の方法が異なると、俊敏性や効率性が損なわれてしまう。重要なことは、一度作ればどこでも動くアーキテクチャとオープンなテクノロジーの採用にある」と説明。もちろん今回正式にサービス提供が開始されたIBM Cloud Satelliteもこの戦略の1つだ。
2021年、IBMがグローバルでフォーカスしているのは、業界向けクラウドであるという。今野氏は、すでに発表している金融業界向けクラウドについては、グローバルで展開しているIBM Cloud for Financial Servicesに加え、日本IBMが展開しているデジタルサービスプラットフォーム(DSP)を紹介した。
「今後は規制の厳しい通信、医療、政府・公共などへの展開が予定されている。先日は医療分野において藤田以下大学病院とのDSP構築を始める発表をしており、それ以外の業界についても順次展開していく。さらに、1つの業種・業界にとどまらず、異業種間連携なども視野に入れている」(今野氏)。
今野氏は、3月1日に発表された「コンテナ共創センター」の取り組みについても触れ、「日本のデジタル化に不可欠なコンテナ技術の普及と、クラウドベンダーロックインを排除した真のオープンクラウドを実現すべく、企業の枠を超えてISVのソリューション、SIerのソリューション、ソフトウェアのコンテナ化を推進する。コンテナ化の技術アドバイスはもちろん、技術者同士のコミュニティによって共創を実現していきたい」と述べた。
IBM Cloudは日本国内に、東京と大阪の2つのリージョンを展開している。大阪リージョンのサービスは昨年の9月に開始しているが、急速に機能拡充されており、3月末ごろには東京リージョンとほぼ同等のサービスが提供されるようになると安田氏は説明している。
さらに、安田氏は「IBM Cloudはリージョン間の通信を無料で利用できることが、お客さまに評価されている」と述べ、ほかのパブリッククラウドで課題になりがちなデータ転送にかかるコストがIBM Cloudでは無償であることをアピールしている。しかも、IBM Cloudとして「Enterprise Grade」であることにこだわりを持っており、 東京と大阪リージョンのゾーン内におけるレイテンシは設計で2ミリ秒以下、実測でも同等レベル以下であり、東京-大阪間でも8ミリ秒以下であるという。