ニュース

AWSジャパン・長崎社長が日本での注力分野を説明、「お客さまと並走しながらクラウドの旅を支援したい」

 アマゾンウェブサービスジャパン株式会社(AWSジャパン)は2日、2021年の国内事業戦略について説明。国内2拠点目となるAWSアジアパシフィック(大阪)リージョンを、この日に正式オープンしたことを発表した。

 また2021年の注力分野として、「日本国内のインフラストラクチャの拡充」、「クラウド移行を加速させる顧客支援体制の強化」、「次の10年を見据えたクラウド人材育成」の3点を挙げた。

 AWSジャパンの長崎忠雄社長は、「すべてのお客さまのイノベーションをAWSのテクノロジーで実現できるように、お客さまと並走しながらクラウドの旅を支援したい」と述べている。

AWSジャパン 代表取締役社長の長崎忠雄氏(提供:AWSジャパン)

大阪リージョンが正式オープン

 ひとつ目の「日本国内のインフラストラクチャの拡充」では、AWSアジアパシフィック(大阪)リージョンをオープンしたことを挙げ、「日本で2拠点目のフルリージョンとしてオープンする。3つのアベイラビリティゾーン(AZ)で構成され、すべてのユーザーが利用できるようになる。幅広いAWSサービスへの対応に加えて、大阪ローカルリージョンでは提供していなかったオンデマンドインスタンスの適用が可能になり、柔軟な利用ができる。また、Savings Plansによる長期契約により最大で72%のコストダウンが可能になる」とした。

AWSアジアパシフィック(大阪)リージョンを正式オープン

 AWSでは、2018年2月に一部ユーザーを対象にしてAWS大阪ローカルリージョンを稼働させていたが、フルリージョンとなったことで、コンピューティングやストレージ、データベースなど幅広いサービスが利用できるようになった。

 「使い勝手は東京リージョンと同じであり、これまでの知見を100%生かせる。Amazon WorkSpacesやAWS IoTなどはまだ利用できないが、お客さまの声を聞きながら、提供するサービスの数を増やしていきたい。また、関西圏をはじめとする西日本地域のお客さまが、従来よりも低いレイテンシでサービスを利用してもらえるようになる。これまでの大阪ローカルリージョンは単体のリージョンとして使用することはできなかったが、3つのアベイラビリティゾーンにより、高い耐久性と堅牢性を実現しながら、アプリケーション構築が実現できる」と説明。

 また、「400km離れた東京リージョンとの組み合わせによるマルチアベイラビリティゾーン構成が可能になり、ミッションクリティカルなワークロードや基幹系システムなど、コンプライアンスやセキュリティ要件が厳しいお客さまでも、AWS上でアプリケーションを稼働できるようになる」とした。

 さらに、「大阪リージョンでは無料利用枠も用意している。まずは使い始めてほしい。大阪リージョンの活用方法サポートするために、4月13日に『初めてのAWS大阪リージョン』と題した学びの場もオンラインで用意している」とも述べている。

 大阪リージョンはすでに、ベルシステム24、ジブラルタ生命保険、KDDI、近畿大学、三菱UFJフィナンシャル・グループ、ナブテスコ、NTT東日本、オージス総研、ソニー銀行、プルデンシャル生命保険、三井住友信託銀行、東京海上日動火災などが利用しているそうで、「より多くのお客さまに、大阪リージョンが貢献できることを楽しみにしている」とした。

 なお大阪リージョンは、アジア太平洋地域では北京、香港、ムンバイ、寧夏、ソウル、シンガポール、シドニー、東京に加えて9カ所目のリージョンとなり、全世界では26番目のリージョンとなる。また、大阪でも立ち上がった13都市に広がるAWS Wavelength Zoneにより、5G時代のモバイルエッジコンピューティングに対応したサービスも提供できるとしている。

 会見では、デジタル改革担当大臣の平井卓也氏が、大阪リージョンの開設を祝うビデオメッセージを寄せ、「日本では多くの企業がAWSを活用しているが、日本政府もAWSにお世話になっている。デジタル化を進める上で、クラウドの利活用は政府、民間を問わずに重要なポイントである。もう少しエンドトゥエンドでデジタルの力を発揮できたら、経済はここまで悪くならず、国民もここまで不便を感じなかっただろうという大きな反省がある。2021年9月にスタートするデジタル庁は、国民目線で、国民が望むデジタル化を、速い結果を求めて動き出す。デジタル化を進める上で必要となる標準化や相互連携も促進しなくてはならない。クラウド・バイ・デフォルトにより、クラウド基盤の上で、シームレスにシステムを動かすことがデジタル庁の宿題である」などとした。

デジタル改革担当大臣の平井卓也氏がビデオメッセージを寄せた

 長崎社長は、日本におけるAWS GovCloudの提供については、「お客さまとの対話や要望によって決まる。米国では法律で縛られた厳しいワークロードに対応しているが、日本でもそうした要望があるのであれば、喜んで耳を傾ける準備がある」とした。また、「デジタル庁についても、積極的に支援していく」と述べている。

クラウド移行の加速に向けて顧客支援体制を強化する

 2つ目の「クラウド移行を加速させる顧客支援体制の強化」では、2年後の国内企業のIT予算に占めるクラウドの比率は79.3%に達するというIDC Japanの予測を引き合いに出しながら、「クラウド移行におけるお客さまの課題は、移行コストやアーキテクチャ、リーダーシップ、クラウド人材といった点である。クラウドジャーニーを加速させ、お客さまのビジネスを成功に導くためには、お客さまと共に並走しなくてはならない」とコメント。

 また、「ここ2~3年は大規模なワークロードのマイグレーションが増加している。多くのお客さまがこれまで踏み込んだことがないオンプレミスからクラウドへの移行が始まり、そこでさまざまな悩みがあったり、ノウハウやプロセス、人材育成などに課題を感じていたりすることがわかった」と指摘し、大規模なクラウド移行に取り組む企業や組織を、計画、移行準備から実行までを加速し、成功に導くための包括的なプログラムである「AWS Migration Acceleration Program(MAP)」を提供していることを紹介した。

 MAPでは、専任のカスタマーサクセスマネージャー(CSM)が、企業のクラウドジャーニーをサポート。クラウドの推進、定着する仕組みの提供、継続利用のための追加支援の3点を柱として、さまざまな施策を用意しているという。

 「AWS Professional Servicesにより、さまざまなバックグラウンドを持つ経験豊富なコンサルタントが、経験をもとに導きだしたベストプラクティスをもとに、クラウドジャーニーの全工程にわたって移行支援を実施したり、パートナーとの連携による支援などを通じて、さまざまなニーズにMAPが適用できる」と説明した。

AWS Migration Acceleration Program

 また、「いまオンプレミスで稼働している多くのワークロードは、AWSに移行すると考えている。だが、その移行の期間において、ハイブリッドクラウドという期間が存在することになる。クラウドが占める割合はまだ数%である。約95%がクラウドに乗っていない。クラウドへの移行は始まったばかりである。いまのデジタル化の動きをみると、近い将来、多くのワークロードがクラウドに移行することになる。その経過のなかで、AWSはハイブリッドを積極的に支援する」とも話す。

 さらに、業種ごとに最適化されたワークロードに対応するソリューションを強化。製造業向けには、コンピュータービジョンを使用して視覚表現の欠陥や異常を発見する「Amazon Lookout for Vision」を、2月下旬から東京リージョンでサービス開始する。

 自動車業界向けには、MaaSの実現に向けてトヨタと業務提携を拡大したほか、ソニーのコンセプトカーであるVISION-Sのシステム基盤にもAWSを採用。アプリケーション基盤の構成済みテンプレートであるAWS Connected Mobility Solutionの提供も予定しているという。

 メディアでは、コンテンツ制作、処理、配信までを一気通貫で提供するサービスを提案。金融分野では三菱UFJフィナンシャル・グループ、ソニー銀行などでの活用事例のほか、「2021年は、金融業界に特化したチーム体制を強化。営業、技術、プロフェッショナルサービスの人員を配置し、金融業界の経験者も採用している。Fintech、地銀、メガバンクまで、多くの金融機関に対して、ミッションクリティカルなワークロードを、クラウドへと移行するベストプラクティスを提案していく」と述べた。

 さらにゲーム業界では、マルチプレーヤーゲーム専用のゲームサーバーに特化したサービスを提供するAmazon GameLift、ヘルスケア業界では、医療データを保存、変換、クエリ、分析するのに適したAmazon HealthLake、通信業界では5G デバイスのための超低レイテンシーアプリケーションを提供するAWS Wavelength Zone、小売業界では、基幹システムからデータ分析基盤、コンタクトセンターや画像分析に至るまで、AWSを広く活用している事例を紹介。

 「今後は、業種ごとに最適化された、ワークロードに対応したソリューションが増えることになる」と述べた。

業種ごとに最適化されたワークロードに対応するソリューション

 一方で、「クラウド移行に向けた優先順位はどうしたらいいのか、デジタルをビジネスにどう生かしたからいいのかがわからないといった声が多い。こうした声に応える形で用意したのが、AWS EXECUTIVE BRIEFING CENTER(EBC)である。クラウドを導入してきたお客さまの経験をみると、エグゼクティブ層が明確なゴール設定をすることが成功する共通点であることがわかっている。意思決定層に学びの場を提供するのがEBCである」としながら、「2年前に施設は造ったが、新型コロナウイルスの影響によってあまり生かされることがなく、オンラインで実施している」とも語った。

 EBCでは、企業文化変革から人材育成、イノベーションの推進まで、経営レベルでの対話を通じて、企業の課題解決を手伝う取り組みのほか、イノベーティブな組織づくりやクラウドを活用した企業変革についての議論など、ITやテクノロジーに偏らない豊富なトピックを用意。「ミッションステートメントを社内の末端までどう浸透させるかといったプロセスを実体験してもらい、顧客目線でのサービス開発や新サービス創出を経験してもらうことになる」とした。

 オンライン開催に主軸を移したことで、2020年は100回以上実施。この回数は米国本社に次いで2番目であり、「日本の経営層がクラウドに対して学ぶ姿勢、変革を起こしたいという姿勢が強いことの表れ」と分析。2021年は、さらに2倍以上の開催を予定し、海外の専門担当者も積極的に活用するという。

 さらに、スタートアップ企業に対する新たな支援策として、AWS Activate Foundersを開始したことを発表した。自己資金型およびブーストラップ型のスタートアップ企業を対象にした無料プログラムで、2年間有効の1000ドル分のAWSクレジットを提供し、AWSをゼロコストで利用できたり、1年間有効の350ドル分のAWSデベロッパーサポートクレジットを提供し、テクニカルサポートとベストプラクティスが入手できたりする。

 また、開発者が好きな場所、好きな時間にAWSのエキスパートに技術相談ができるOnline Ask An Expertを開始。「新型コロナの影響で閉鎖しているAWS Loft Tokyoの機能をオンラインに全面移行しており、データベースなどの特定カテゴリー向けの相談枠なども用意している」という。

Online Ask An Expert

 一方、パートナー戦略についても説明した。

 現在、国内337社のコンサルティングパートナー、291社のテクノロジーパートナーとともに、クラウド活用のあらゆる局面にある企業や組織に対して、専門知識を持ったAWS パートナーがクラウドへの移行をサポートすることができると発言。

 「日本のクラウド活用を次のステージに押し上げるためにはパートナーの協力が欠かせない。だが、パートナーの数を追っているのではなく、クオリティを求めている。ワークロードに特化したり、業種に特化したりといったコンピテンシープログラムを用意。クラウドにマイグレーションしたいと考えている企業に、専門家を数多く有しているパートナーを紹介し、並走していくことができる体制が整っている」とした。

 また、国内初のディストリビューターとして、ダイワボウ情報システムとのパートナー契約を締結。同社の全国90拠点を活用した地域密着型の営業体制と、約1万9000社の販売パートナーを通じて、全国の企業や地方自治体、教育機関のクラウドシフトを支援するという。

AWSのパートナーネットワーク

今後もさまざまな層に向けて人材育成をしていく

 3つ目の「次の10年を見据えたクラウド人材育成」では、「人材こそがクラウド活用の鍵であるが、クラウドに精通した人材が不足し、進化するサービスに追いつくことが難しいという声が聞かれる。AWSが独自に調査した結果、クラウドアーキテクチャの設計スキルを必要とする労働者数の増加率は、2025年の間に年平均40%以上の成長が想定されている。Amazonは2025年までに世界中で2900万人の人々に、無償でクラウドコンピューティングスキルのトレーニングを実施するミッションを掲げている。今後もさまざまな層に向けて人材育成をしていくことになる」とした。

 学校の教員向けには、高等教育機関向けのカリキュラムと教育者向けのプログラム「AWS Academy」を提供。2018年に比べて加盟校数が5倍になっていること、学生向けには、若年層のプログラミング技術や創作意欲を支援するコンテスト「AWS Robot Delivery Challenge」を実施し、2021年は初心者部門を新設し、さらに規模を拡大していることに触れながら、「新たに社会人向けの教育プログラムを用意した。職業能力開発総合大学校において、クラウドジャーニーの第一歩となるオンライン学習プログラムのAWS Educateが利用できるようにし、AWS Academyも、休職者、在職者も活用できるようにしている」と説明している。

 そのほか、2021年5月11日・12日には、日本最大級のクラウドに関する学びの場と位置づける「AWS SUMMIT ONLINE」を開催し、150以上のセッションとハンズオン、双方向コミュニケーション、楽しみながら学べるDeveloper Zoneなどを用意していることにも触れた。

人材育成面での施策

東京リージョン開設から10年が経過

 一方、会見当日の3月2日について、長崎社長は、「3月2日は、AWSにとって、また、日本のクラウドの歴史を考える上で重要な日である。10年前の2011年3月2日に、AWSが日本で初めて東京リージョンを開設した。10年前はわずか2つのアベイラビリティゾーン(AZ)であり、サービスは12個しかなかった」と前置き。

 「そこからスタートし、この10年間にわたり、お客さまの声に耳を傾けながら、AWSクラウドは進化を続け、2012年には年間160個だった新たな機能の開発は、2020年には年間2757個の新機能がAWSクラウドに追加されている。いまでは、日本国内で数10万のお客さまにご利用いただき、数百社のパートナーに提案をしてもらっている。また、ユーザーグループであるJAWS-UGは、全支部の登録者数が4万8000人以上となっており、日々活発な勉強会が行われている。多くの方々に支えられた10年であった」と振り返った。

2011年3月2日に、AWSが日本で初めて東京リージョンを開設
日本におけるこれまでの歩み

 また長崎社長は、「2020年は生活様式が変化するなど、急激で非連続的な変化の1年であったが、これは進化するチャンスをわれわれに与えた1年でもあった。そして、クラウドの真価である価値創造に集中できることを多くの人に理解をしてもらえた1年でもあった」と語る。

 そして、「クラウドの真価は、スモールスタートですぐに使い始められること、必要なときに必要なだけ使うことできること、アイデアから実装までの時間を短縮できることの3点。すぐにスタートでき、ニーズの変化にすぐに対応できるスケーラビリティと、リスクとコストを減らすマネージ型サービスを提供している。変化が激しく、先行きが不透明になるほど巨額の投資ができにくくなり、意思決定が難しくなる。可変的に対応できる手だてをいち早く打ちながら、精度を高めることが求められている。こうしたことにクラウドは真価を発揮できる。お客さまの進化を加速できる手伝いができるパートナーになれる」などと述べた。

 さらに、クラウドデスクトップサービスのAmazon WorkSpaces、コラボレーションツールのAmazon Chime、コールセンター向けのAmazon Connectなどがコロナ禍において需要が高まっていることにも触れ、「多くの引き合いがあり、今後も機能拡張を前倒しで続けていくことになる。お客さまの声を聞きながら強化を進めていくことになる」とした。

 なお、2021年2月20日に発生した東京リージョンでの障害については、「シングルAZで起こる障害は、マルチAZを使ったアプリケーション構築にすることで回避できる。クラウドは100%安全ではなく、なにかあったときに回避できるアプリケーションアーキテクチャやシステムアーキテクチャをどう構築できるかのノウハウが必要であり、われわれはそれを蓄積している。今回の障害もマルチAZによって回避できた」とした。

 このほか、2020年の新たな導入事例についても紹介。ビッグデータを活用した感染拡大を防ぐために、LINEアカウントを通じた自治体向けの取り組みとして、IQVIAジャパンと慶應義塾大学医療政策・管理学教室、LINEが共同で取り組んだ「LINEパーソナルサポートプロジェクト」では、AWSのサーバーレスアーキテクチャを活用して、わずか2週間でローンチ。各自治体の担当者向けの可視化にBIサービスであるAmazon QuickSightを活用し、市民サービスに活用しているとのことで、神奈川県などで導入しているという。

 エンターテイメント分野では、サイバーエージェントと、EXILEなどが所属するLDH JAPANが手を組んだCyber LDH映像配信サービス「CL」において、数10万人規模の視聴者が見込まれる大規模なライブキャストやコンサートライブ配信プラットフォームを、Amazon Elemental Media Servicesを採用してエンジニア5人で構築。ライブ配信を実現したと説明した。

LINEパーソナルサポートプロジェクト
Cyber LDH映像配信サービス「CL」

 さらに、クラウド人材の育成にもオンラインを活用したことを報告。「生活様式が大きく変化するなかでも学びを継続し、オンラインでトレーニングを実施。日本で配信用スタジオを開設し、日本で必要とされるトレーニングを即座に収録し、オンラインで配信できる仕組みも作った。AWSが提供する日本での年間トレーニングの受講者数は10万人以上となり、オンラインの特性を生かして、日本全国から参加してもらえた。また、日本でのAWS認定資格者数が前年比57%増と大きな伸びになった。今年はこれをさらに上回ることを見込んでいる」と述べた。

 なお米Amazon.comでは、創業者であるジェフ・ベゾスCEOが、2021年第3四半期(7~9月)に退任し、AWSのアンディ・ジャシーCEOが昇格することが発表されているが、長崎社長は「AWSに携わるスタッフは全員がこの人事を喜んでいる。アンディ・ジャシーは、AWSのビジネスプランをゼロから立ち上げ、ここまで成長させ、お客さまの声を聞いて改善を図るという、アマゾンのミッションステートメントを実直にやり続けてきた。そしてイノベータとしても評価された。AWSの後任CEOは未定だが、アンディのようにイノベータであり、ないものを生み出す力がある人物が就くことになるだろう」とした。