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AWSジャパン、11月1日から「AWS Startup Loft Tokyo」を再オープン、スタートアップの“ハブ”拠点としての役割をさらに強化

 アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(以下、AWSジャパン)は27日、新型コロナウイルスの感染拡大により2020年3月からクローズしていた同社のスタートアップ支援施設「AWS Startup Loft Tokyo(以下、Loft)」を、11月1日から再オープンすることを明らかにした。

新型コロナウイルスの感染拡大によりクローズしていたスタートアップのためのコワーキングスペース「AWS Startup Loft Tokyo」が、11月1日午前10時から再オープン。2020年3月にクローズしてから2年半ぶりの稼働となる

 同社でスタートアップ支援事業を統括するAWSジャパン スタートアップ事業開発部 本部長 畑浩史氏は「非常に多くのスタートアップ関係者からLoft再開への要望をいただいてきており、われわれとしても再開のタイミングをいつにするか、新型コロナの感染状況や社会情勢を見ながら慎重に検討を重ねてきた。ここ数カ月、社会全体が”横のつながりを取り戻そう”という動きに強くシフトしており、また、現政権がスタートアップ支援に本格的に取り組んでいることもあわせ、いまこそLoft再開のタイミングだと判断した。インフラやコミュニティなどの支援を通して、日本のスタートアップ業界のハブとしての役割をあらためて担っていきたい」と、Loft再オープンの意気込みを語る。

AWSジャパン スタートアップ事業開発部 本部長 畑浩史氏

 AWS Startup Loftは、AWSがグローバルで展開するスタートアップ支援プログラムの一環の無料コワーキングスペースで、永続的な施設であるPermanent Loftと、期間限定のPop-up Loftで構成される。東京・目黒にあるAWS Startup Loftは米国の2都市(サンフランシスコ、ニューヨーク)に続く世界で3拠点目のPermanent Loftとして2018年10月にオープン。パンデミック拡大により2020年3月にクローズするまでの1年半で、約数万人のデベロッパーやスタートアップ開発者が訪れていた。

AWS Startup Loft Tokyoは世界で3カ所目のPermanent Loft(永続的な施設)として2018年10月にオープン、以来、数万人のスタートアップ関係者がコーディング環境として、あるいはネットワーキングや技術向上の場として利用してきた

 Loftがこれほど多くのスタートアップから支持を得た理由について、畑氏は「スタートアップならではの悩みや課題に、AWSが一緒になって取り組んでいる場だと認識されたからではないか」と説明する。

 コワーキングスペースであるから、デベロッパーが集中してコーディングできる環境はもちろん、AWSのソリューションアーキテクトに質問したり外部の有識者に質問したりする機会や、イベントへの参加、あるいはほかのスタートアップとの交流など、Loftではこれまでさまざまな“場”をスタートアップに提供してきた。

 「リモート中心だからこそ、たまに集まれる場、エキスパートに直接相談できる場、エンジニアどうしのつながりが得られる場、そういった“挑戦をカタチにできる場”をLoftでは用意してきた。一人で悩んでいても解決できないが、ここに来れば何かを得られると思ってくれていたスタートアップも多い」(畑氏)。

単なるコワーキングスペースを超えた「挑戦をカタチにする場」という役割を担ってきたことが、スタートアップ関係者の支持を獲得した

 このように高い評価を得ていたLoftだが、11月1日からの再オープンにあたり、これまでの基本の支援メニュー「予約不要のコワーキングスペース」「Ask An Expert(AWSエキスパートによる技術相談)」「イベント開催」は、ほぼ同じ内容で提供される(感染対策の一環で、利用可能な席数は若干減少)。

以前から提供してきた基本メニュー「コワーキングスペース」「Ask An Expert」「イベント開催」は引き続き提供されるが、感染対策のため、利用可能な席数は若干減っている(100席程度)

 これらに加え、新メニューとして以下の4つが提供される。

・ハイブリッド配信 … リアルイベントを配信しリモートでも参加可能に
・VCメンタリング@Loft … VCキャピタリストが起業相談、資金調達相談などをメンタリング
・ex-CTOメンタリング@Loft … 元CTOのAWSソリューションアーキテクトが人材採用など非技術に関するCTOの相談、壁打ちに対応
・Web3@Loft … Web3に関する技術勉強会やワークショップの開催、ミートアップなどネットワーキング機会の提供

再オープンにともない追加された新しい4つの支援メニューは、技術/非技術の両面からスタートアップを支援する

 これらの新メニューも「スタートアップならではの悩み」に向き合って生まれたものであることが伺える。例えばスタートアップにおける人材採用や資金調達などは、レガシー企業のアプローチとは大きく異なることは想像できる。しかし具体的にどう動けばいいのか、何か支援があるならそれはどこにあって、どうすれば受けられるのか、その緒(いとぐち)にさえたどり着けないスタートアップは少なくない。

 技術/非技術を問わず、相談先の少ないスタートアップに対し、「その課題にともに向き合うコンパス(進むべき道を示す羅針盤)とスピード(Time-to-Marketを短くする技術と手法)を、このLoftでスタートアップに提供し、その活動を通して日本経済に貢献したい」と、AWSジャパン 代表執行役員社長 長崎忠雄氏はAWSジャパンによるスタートアップ支援の意義を語っている。

「イノベーターとしてのスタートアップには、進むべき道をガイドしてくれる“コンパス”と、Go-to-Marketを速める“スピード”が欠かせない。AWSジャパンはAWS Startup Loft Tokyoを通じてこの2つを日本のスタートアップに提供していく」(長崎社長)

 「AmazonもAWSもはじめはスタートアップだった。スタートアップはAWSにとって創業期からの大切な顧客であり、AWSはスタートアップとともに成長してきた。そしてスタートアップが世に送り出す技術は社会的なインパクトが大きい。AWSジャパンはこれからもLoftによる支援をはじめ、さまざまなスタートアップ支援を提供していく」(長崎社長)。

AWSジャパン 代表執行役員社長 長崎忠雄氏

 なお、AWSジャパンはLoftの再オープンを記念して、11月4日からさまざまなイベントの開催を予定している。

AWS Startup Loft Tokyoの再オープンを記念して11月から12月にかけてさまざまなイベントが予定されている。一部はオンラインやハイブリッドでも配信されるのでリモートからの参加も可能

日本のスタートアップの現状を語るパネルディスカッションも

 本発表会にはゲストとして以下の3名が登壇し、畑氏とともに日本のスタートアップの現状を語るパネルディスカッションを行っている。

・経済産業省 新規事業創造推進室 室長補佐 岡本英樹氏
・インキュベイトファンド 代表パートナー 一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA) 企画部長 村田祐介氏
・TURING 共同創業者 CEO 山本一成氏

Loft再オープンにあたり、政府(経済産業省)、VC、スタートアップそれぞれの立場から、AWSジャパンへの期待と国内スタートアップの現状に対する意見が出された

 以下、それぞれのコメントを抜粋して紹介する。

■岡本氏
 岸田政権では「スタートアップ創出元年」「スタートアップ育成5カ年計画」「スタートアップ担当大臣の任命」などを表明/実施しており、スタートアップ支援を加速させている。現在、世界中のあらゆる国でスタートアップをただ支援するだけでなく、実際にその技術やサービスを取り込んで市民に提供するというガバメントプロキュアメント(政府調達)が進んでおり、日本としても取り組むべきだが、多くのスタートアップがそのこと自体を知らない。また、スタートアップが政府機関に相談することへの心のバリアも大きいと思う。

 AWSがLoftのような場を提供することで、スタートアップと政府の仲介役を果たしてくれることに期待している。シリコンバレーが成長したように、あるいはパリがいまスタートアップが集まる街として注目されているように、スタートアップは個社で成長するというより、ネットワークで成長するものだと感じている。東京もまたそのエコシステムを成長させられるよう、このLoftをハブにして東京全体を盛り上げていってほしい。

経済産業省 新規事業創造推進室 室長補佐 岡本英樹氏

■村田氏
 自分自身、Loftがクローズする前は頻繁にここに通っていた。Loftのバリューはまさに「AWSがやっている」「AWSが一緒に作ってくれる」ということに尽きる。ゼロイチからものを生み出すスタートアップには熱量が大事だが、リモートだけのコミュニケーションではお互いの熱量が見えにくい。Loftの再オープンにより、インパーソンな環境がスタートアップに提供されることでどんな情報が発信されるのか期待している。政府の施策に対しては、米国政府がテスラやSpaceX、モデルナにやったような”スタートアップへのえこひいき”、優先してスタートアップの製品やサービスを買い上げることをやってほしいと思っている。

インキュベイトファンド 代表パートナー 一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA) 企画部長 村田祐介氏

■山本氏
将棋ソフトの「Ponanza」などAIに関連したプログラムを開発してきたが、現在は自 動運転車のスタートアップTURINGを経営している。LoftにはAWSのソリューションアーキテクトに直接質問できるので、本当によく利用していたし今回の再オープンは歓迎したい。やはりひとりでコードを書いているのは寂しいし、隣に人がいない状況はスタートアップにとって良くない。なのでTURINGでは基本的に従業員は出社するワークスタイルにしている。

 自動運転車のスタートアップとしてつらいことは「公道を走ってOKなクルマの認可」を誰も整理できていないという点。経産省もいろいろ頑張っているのはわかるが、クルマを作る話となると管轄が違うようで、われわれが困っていることを誰に伝えていいのかわからない。このままでは既存のプレーヤー以外、誰も自動車業界に参加できないことになってしまう。

TURING 共同創業者 CEO 山本一成氏

 いずれもAWS Startup Loft Tokyoにスタートアップと政府やVCとの間を仲介するハブとしての役割を強く期待しており、AWSジャパンもいままで以上にその要望に応えていく姿勢を明らかにしている。支援メニューも支援体制もパワーアップしたLoftの再開により、日本のスタートアップ支援がコロナ前よりも加速していくことを多くの関係者が期待している。

AWSアカウントさえもっていれば予約不要、誰でも無料で利用できる、目黒駅すぐそばの広々としたコワーキングスペースが再オープン。コロナ前は「みんな静かに黙々とコーディングしながらも、ものすごい熱気にあふれていて、お互いの熱気を共有していた」(村田氏)という、“静かな熱い場所”がスタートアップの世界に戻ってくる