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国内市場で圧倒的に強い存在を目指す――、富士通が国内ソリューション・サービスビジネスの強化を解説

デリバリー機能とフロント機能を一貫した体制として再編

 富士通株式会社は25日、国内ソリューション・サービスビジネスを強化すると発表。ジャパン・グローバルゲートウェイや、SI子会社の再編などによるデリバリー機能の強化、富士通Japanを核とした国内サービスフロントの強化に取り組む考えを示した。

 富士通 代表取締役副社長/CTOの古田英範氏は、「富士通グループが持つ既存の強みをさらに強くすること、さらなる成長と効率化を追求することを通じて、価値の高い富士通ならではのサービスを提供したい。サービス体制の強化に向けた一連の施策は、富士通にとって重要な取り組みに位置づけている。国内サービス体制の最適化を進め、国内市場で圧倒的に強い存在を目指し、顧客のビジネスの成功を支えるパートナーとして、高品質で、信頼性の高いサービスを提供する」とした。

富士通 代表取締役副社長/CTOの古田英範氏

パーパスの実現に向けた国内ソリューション・サービスビジネスの強化

 富士通は2021年4月1日付でグループフォーメーションを再編する予定であり、ソリューション・サービス事業においては、ソリューション・サービスの設計、開発、導入、運用、保守といったデリバリー機能の変革を加速させるため、国内の主要SI系グループ会社11社を富士通に、4社を富士通Japanに統合。さらに統合後、半年をかけて、各社が保有するデリバリー機能を、2020年11月に新設したジャパン・グローバルゲートウェイに集約。デリバリー機能を強化することを発表している。

 また、パーパスの実現に向けて取り組む課題として、7つのテーマを掲げているが、今回の国内ソリューション・サービスビジネスの強化は、「日本国内における課題解決力強化」「お客さま事業の一層の安定化に貢献」の2点に関連するものだと位置づけた。

富士通パーパスの実現に向けて

 古田副社長/CTOは、「デリバリー機能とフロント機能を一貫体制として再編することになる。旧来型のサービスモデルから脱却し、富士通の中核であるサービスモデルを大きく刷新するものだ」と位置づけ、「サービスデリバリーの改革」と「国内サービスフロントの強化」という2つの観点から説明した。

サービスビジネスの新しい基軸を作る

 このうち「サービスデリバリーの改革」では、ジャパン・グローバルゲートウェイへのデリバリー機能の集約と、SI系グループ会社の再編が柱になる。

 古田副社長/CTOは、「国内IT人材不足の懸念があり、国内グループにおけるグローバル人材の数も低水準にある。グローバルデリバリーセンター(GDC)は、2014年には数百人規模だったものが3000人規模にはなったが、国内活用は期待したほど進んでいない。日本固有のIT業界の構造や、ビジネスパートナーを含めたプロジェクト体制の組み方といったこともその背景にある。顧客の個別仕様への対応、富士通における属人化も、知見の分散につながっている。スキルを持った高度人材を顧客のDXに配置できていない、組織の縦割りやサイロ化などによる組織の分散といった課題もある。これまでにも社内変革を進めてきたが、スピード感が伴わず、DXのニーズに的確に応えられていなかった」と富士通グループが抱える課題を指摘。

 「ITサービスにおける徹底した標準化、グローバルリソースの活用、グループレベルでのデリバリーモデルの変革により、顧客のシステム投資の最適化を実現することが、ジャパン・グローバルゲートウェイのミッションになる。グローバルのナレッジ共有、グローバライゼーション、ダイバーシティのフロントランナーとしての役割も果たす」と述べた。

 また国内ビジネスパートナーとの連携により、成長が見込まれるデジタル領域における連携を深め、付加価値の高い市場へのシフトに取り組むことも示した。

 さらに、以前からのプロジェクト体制ごとのGDC活用から脱却し、ソリューションごとに徹底的に標準化したシェアードサービスモデルへと転換。グローバル要員との一体体制で、これを提供するという。

 サービスデリバリーについては、システム共通機能を対象にしたシェアードサービスを提供し、ソリューションごとのチームにより、システム開発をエンドトゥエンドで支援。プロジェクト固有モデルにおいては、デリバリー機能をジャパン・グローバルゲートウェイに移管することになる。

 「こうしたサービスデリバリーの拡充により、国内ビジネスでのGDC活用を大きく拡大し、富士通のサービスビジネス全体の効率化、利益率の向上につなげたい」と述べた。

 ジャパン・グローバルゲートウェイは、2021年4月に、15社のSI系グループ会社を富士通本体および富士通Japanに統合・再編するとともに、2021年10月以降において、7000人体制で本格始動する。

 「デリバリー機能の集約は段階的に進める。統合時には、各社の組織をユニットとして維持するが、半年をかけて、各社のデリバリー機能を、ジャパン・グローバルゲートウェイに集約していく」とした。

グループ内デリバリー機能の集約

 また、富士通 理事 ジャパン・グローバルゲートウェイ本部長の浦元克浩氏は、「これまでにも標準化の取り組みは続けてきたが、ジャパン・グローバルゲートウェイでは、標準化のレベルを高め、ひとつのタスクが1週間~2週間で管理できるように詳細化を進める。属人性や言語の壁を排除し、グローバルリソースの活用を目指す。ジャパン・グローバルゲートウェイを通じて、ソリューションごとのサービス体制を敷くことができ、持続的に生産性向上、品質向上につなげられる」などと述べた。

富士通 理事 ジャパン・グローバルゲートウェイ本部長の浦元克浩氏

 古田副社長/CTOは、これまでのSE会社の再編の経緯などについて振り返りながら、今回の狙いを示してみせた。

 「富士通は、1980年代に、日本全国をくまなくカバーする形でSE会社を設置。富士通本体にはない独自の強みをそれぞれに生かしてきた。だが、それぞれの強みに注力した結果、富士通全体での強みが分散。各社の役割分担も明確ではないという課題が生まれた。現在では、SE会社が、富士通本体あるいは富士通Japanのソリューションビジネスと同じ仕事をしているという状況となっている」と前置き。

 「2004年に、営業とSEの一体化組織を構築し、2009年に解消した経緯があるが、ビジネスグループや本部は一体化したものの、営業組織とSE組織が融合せず、機能についても分けていた。いまは富士通グループの事業ポートフォリオがソリューション・サービスにシフトしており、フロントの営業とお客さま対応しているSEの仕事が似てきた。そこで、新たな一体体制を敷くことになる」と説明した。

 また、2017年にはSE会社である富士通システムズ・イーストと、富士通システムズ・ウエスト、富士通ミッションクリティカルシステムズを富士通に吸収。コスト効率、デリバリー向上につながっており、今回の統合、再編は、この成果をもとに加速するものと位置づけている。

 「今回の統合、再編により、総合力の発揮による競争力の強化と、効率化による収益向上を目指す。グループ内に分散しているソリューションの知見やノウハウ、SE各社が持つ得意技を集結。グループ会社と富士通本体との垣根を取り払い、リソースの有効活用を行い、適材適所の人材配置を進め、自律的な個人のスキル形成を進める。また、重複投資の排除などにより、SIビジネスの利益率向上、品質向上も図る。例えば、セキュリティについては、これまでは緩やかな連携でビジネスを行っていたが、これを本体に集約することで、顧客のライフサイクル全体を、継続的にサポートできる体制が整う」と述べた。

 さらに、「いまは、富士通の自社製品でソリューションを提供する時代ではない。また、富士通のソリューションのなかにもオープンソースが使われている。だが、品質保証の点では、富士通が責任を持って行う。品質保証は、製造・流通、金融、官公庁、防衛といった領域によって戦略が変わる」などとした。

SI系グループ会社の再編-実行の目的

国内サービスフロントの強化

 一方、「国内サービスフロントの強化」では、富士通Japanの本格始動が柱となる。

 富士通Japanは、2020年10月に、富士通マーケティング、富士通エフ・アイ・ピー、富士通の民需担当SEにより発足。2021年4月に、JAPANビジネスグループの営業およびSE、富士通エフサスと富士通ネットワークソリューションズの民需や自治体などのビジネスプロデュース機能と、富士通新潟システムズ、富士通ワイエフシー、富士通山口情報、富士通エフ・オー・エムのSI系グループ会社4社を統合する。

 これまでは業種ごとに分かれていたフロント組織を、クロスインダストリー型の組織に転換。古田副社長/CTOは、「これまでは国内中堅民需や公共に対して、富士通本体、富士通マーケティング、富士通エフ。アイ・ピー、各SE会社が、それぞれにパッケージを持ったり、デリバリーを行ったりしていた体制を見直すことになる」とした。

富士通Japanの設立ステップ
業種ごとに分かれていたフロント組織を、クロスインダストリー型の組織に転換

 また、「日本は少子高齢化や災害などの社会課題を持つ課題先進国であるとともに、自治体、医療、文教といった領域では、法律、規制、慣習などの規制を受けている。そのためにビジネス変革やデジタル化の遅れが見られている。必要なサービスが届けられていないという反省がある。日本に特化して、地域に根ざした課題を解決し、日本を豊かに、圧倒的に強くしていくためということを、富士通Japanという社名に込めた。活動を通じて生み出したソリューションなどをいち早く世界に届け、グローバルにおけるリファレンスを目指す」との狙いを説明。

 「富士通Japanは、日本の社会課題をデジタル技術で解決し、富士通のパーパスを国内で実践、具現化すること、国内における圧倒的地位を確立し、シェア、売り上げ、利益の最大化を図ることを目指す」と述べた。

 富士通本体は、グローバルに対応する大手企業、金融、中央官庁、社会インフラをつかさどる企業群を担当。富士通Japanは日本に特化した製造、流通の準大手、中堅中小企業、自治体、医療、教育機関を担当することになる。

 これまで、富士通グループの複数の会社がひとつの顧客を訪問していたり、顧客から見ると分散化していた窓口を一本化し、ワンストップでソリューションを提供できるようにする。

 また、これまでサービスが提供できていなかった全国の顧客に、高品質のサービスを提供。現在の営業担当者をビジネスプロデューサーと呼ぶ職種に転換し、営業スタイルの変革を通じて、リーチできていなかった社会課題の解決や、デジタルビジネスへのアプローチを強化する。

 さらにチャネルパートナーとの連携では、プロダクト中心から、SI、ソリューションの販売を中心に、関係をさらに進化させる考えを示した。

富士通Japanのミッション

 組織体制は、全国6エリア本部制によるフロントグループ、国内へのデリバリーを担当するデリバリーグループ、SaaSを中心としたアプリケーション開発を行うソリューション開発グループで構成。「フロントグループではビジネスプロデューサーと、アカウントSEと呼ばれていたシステムエンジニアの一体型組織とし、デリバリーグループはクロスインダストリー型ビジネスにも対応できる組織となり、社会課題の解決を取り組む。また、富士通Japanが開発している新たなアプリケーションは、自治体、医療、中堅中小向けのいずれもがクラウドが前提となっており、それを継続する」という。

組織構造の変革

 直販ビジネスとパートナーによるチャネル戦略の両軸で展開し、「パートナーのソリューションをパートナーが販売するという仕組みも用意する。富士通のクラウドや他社クラウドを含めたインフラサービスの上で、富士通および富士通Japanがマネージドサービスを提供し、その上でパートナーが得意技としているアプリケーションを展開してもらうことになる。重複する機能を持ったパッケージについては、富士通グループのアプリケーションとパートナーのアプリケーションをあわせて体系化することを考えている」という。

 また、「デジタル領域でのモダナイゼーション、クラウド領域での標準化や共同利用化へのシフト、AIなどの高付加価値化を図ることで、他社領域やこれまでリーチできなかった領域にも展開。将来の成長分野としてDXには積極的な投資を行う。従来型IT領域においては、政策動向の先取りやSIからパッケージビジネスへの転換を図る」とした。

ビジネス戦略

 なお、2020年から、ビジネスプロデューサー変革プログラムを開始しており、約8000人の営業担当者のうち、3000人に対する教育が完了。今後、全員に広げるという。

 富士通 執行役員専務 JAPANリージョン部門長の窪田雅己氏は、「コロナ禍においてはテレセールスが中心になっている。その一方で、一緒になって、より深く入り込み、課題を見つけだしてほしいという要望がある。また、業種ごとや顧客ごとに個別最適化したソリューションではなく、クロスインダストリー型で標準化したソリューションの提案が求められている。そうしたニーズにもビジネスプロデューサーは対応していくことになる」とした。

富士通 執行役員専務 JAPANリージョン部門長の窪田雅己氏

 ビジネスプロデューサーとSEとの一体体制については、2020年度から自動車分野においてすでにスタートしており、2021年4月からすべての業種で実施することになるという。業種によっては、SEが中心に取り組んでいたり、営業が中心に展開しているといった差があるが、それぞれの特性を生かして一体化を進めるという。

 また古田副社長/CTOは、「今回の再編は第1ステップとして、体制の確立を目指す。それによって生まれる強さをベースに、グローバルに最適化した、均一のオファリングを提供できるようになる。拡大するデジタル市場における富士通のプレゼンスを高めることを目指しており、富士通が掲げるパーパスの実現に向けて、グループ一体となって取り組んでいく」との点を強調。

 これによって、「富士通の成長戦略の実行をスピードアップすることができる。具体的には、コスト効率化を中心に、2022年度には営業利益ベースで200億円の効果を想定している。また、富士通Japanとしても、2022年度には営業利益率10%を目指している。新たなフォーメーションを生かして、さらに大きな波及効果を生み出すことで、サービスビジネス全体の変革と成長を加速し、経営目標の達成につなげたい」とした。

 200億円の営業利益効果のうち、SIグループ会社の富士通本体への統合で60億円、ジャパン・グローバルゲートウェイで60億円強、富士通Japanで70億円強を見込んでいる。

成長戦略の実行を加速

 従来、富士通マーケティングが展開してきたERPパッケージである「GLOVIA」については、「ゼロベースでオファリングを考え直しており、ERPの中核となる会計においては、自治体向けと民需向けを一緒にすることも検討している。基盤を標準化して、その上で自治体向け、民需向けという提案を行うことで、強みが生かせるようになる。業種が異なっていたから違うパッケージというのではなく、標準化することで広く活用できる」(古田副社長/CTO)などと述べた。

 なお富士通では、自治体市場でのシェアが22%、医療が33%、教育は20%となっており、これをいずれも40%に高めたいとした。