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日本オラクルの三澤智光社長が“復帰会見”、「ビジネスやIT、社会基盤を支えるベンダーとして社会に貢献する」

 2020年12月1日付で日本オラクル株式会社 執行役社長に就任した三澤智光氏が、12月14日、オンラインで会見を行った。

 三澤新社長は、「日本オラクルの社長に着任してビジョンを作りたいと考え、お客さまのDXをお手伝いする『Trusted Technology Advisor』になることを目指すと掲げた。テクノロジーベンダーである日本オラクルは、お客さまのテクノロジージャーニーをナビゲートする義務があり、一緒になってDXを実現する必要がある。そうした意味を込めた。ビジネス、IT、社会基盤を支えるベンダーとして社会に貢献したい」と発言。

 また、クラウドに関する市場認識や市場を取り巻く課題を指摘しながら、そこにおけるOracle Cloudの特徴について時間を割いて強調。「Digital Transformation」、「Mission Critical Hybrid」、「Social Infrastructure」の3点にフォーカスする新たな事業戦略を打ち出した。

 日本オラクルから新社長人事が発表されたのが11月19日。それからわずか25日後、社長就任からは2週間という短期間で具体的な事業方針が発表されることになったが、これは、日本オラクルでの21年間の経験を持ち、同社を知り尽くしている三澤氏ならではのものだといっていいだろう。

 日本オラクルでは2017年以降、2代に渡って外国人が社長を務めてきたが、業界内からは「いよいよ本命の登板」と期待の声もあがる。

 「今回の発表は第1弾となる。これからも、第2弾、第3弾と続くことになる。ワクワクする話を届けたい」と三澤社長。今回の会見では、Oracle製品の強みを明確に示すなど、日本オラクルを離れた4年間のブランクをまったく感じさせないものとなった。

日本オラクル 執行役社長の三澤智光氏

戻って驚いたのは“SaaSの進化”

 三澤新社長は、1964年4月、岡山県総社市出身。1987年3月に横浜国立大学卒後、同年4月に富士通に入社。同社福井支店など、営業現場での経験が長い。

 日本オラクルには1995年5月に入社し、2000年8月に執行役員 パートナー営業本部長兼ソリューション統括部長に、2006年6月に社常務執行役員 システム製品統括本部長兼マーケティング本部長に就任。さらに2011年6月に、専務執行役員 テクノロジー製品事業統括本部長、2014年12月に副社長執行役員データベース事業統括、2015年12月に執行役副社長クラウド・テクノロジー事業統括に就任していたが、2016年3月に日本オラクルを退社して、同年7月に日本アイ・ビー・エムに入社し、取締役 専務執行役員 IBMクラウド事業本部長に就任した。

 日本オラクルでクラウド事業を牽引してきた三澤氏が、日本IBMでクラウド事業の牽引役を担うことに、当時は業界内で大きな注目が集まっていた。それから約4年を経過し、2020年6月に日本IBMを退社。去就が注目されていたが、2020年10月に米Oracle シニア・バイス・プレジデントに就任し、さらに2020年12月に日本オラクルの執行役社長に就任した。

 三澤社長は、「私はエンタープライズ中毒のようなところがある」と前置きし、「お客さまに信頼性される会社で働きたい、社会に貢献するシステムを提供しているところで働きたいと考えてきた。本当の意味で社会インフラに近い基盤を提供できている数少ないベンダーのひとつがオラクルである。インフラ面だけでなく、アプリケーションのバリューも提供できている。ビジネスとITの両方で、エンタープライズ領域で貢献できる会社として、Oracleは魅力的であった。気恥ずかしかったが戻った」とコメント。

 「戻って驚いたのはSaaSの進化である。SaaSのビジネスは絶好調であり、最大規模のSaaSのプロバイダーであることは間違いない。また日本オラクルの社員ががんばって、重要な顧客に対して引き続き責任感を持ってサポートし、新たなSaaSの事例やクラウドの事例を獲得している。これは外から見ていてはわからなかったところだった」と語った。

 また、「日本IBMには大変お世話になり学ぶことも多かった。製品ビジネスを主軸とする企業と異なり、アウトソーシングを含めたサービスを行っている企業の立ち位置や、責任の重さを勉強した。Oracleのようなベンダーががんばる部分がある一方で、IBMのように日本のITを支える部分があり、両方の視点で見ることができたことは大きな経験になった」などと話している。

 日本オラクルの社長としての役割については、「Oracleはビジネスをクラウドトランスフォーメーションしようとしているが、日本オラクルは、まだオンプレミスのソフトウェアと、それに基づくサポートビジネスの構成比が高い。このビジネスは重要だが、今後、圧倒的な成長が想定されるSaaSやクラウドのビジネス比率をどう増やすかが、私に対する本社の期待である」とする。

 一方で、「日本における課題はまだある。Trusted Technology Advisorという点で、お客さまやパートナーから信頼される企業になっているのか。まだ物足りないと思われている部分はたくさんあるだろう。ひとつひとつを改善したい。日本オラクルは競争力のある製品を持っている。『Oracleに任せておけば安心だ』といってもらえるお客さまをどれぐらい増やすことができるかが大切だ。信頼できると言ってもらえれば、必ず成功する」と語った。

3つの事業戦略を説明

 「Digital Transformation」「Mission Critical Hybrid」「Social Infrastructure」の3つの事業戦略については、次のように説明した。

 Digital Transformationでは、「クラウドネイティブのフルスイートのSaaSを使って、お客さまのビジネスのトランスフォーメーションを加速させたい。Mission Critical Hybridでは、お客さまのビジネスを支えるITのトランスフォーメーションを次世代のハイブリッドクラウドで支援する。そして、Social Infrastructureでは、社会基盤となったOracle DatabaseやExadataのさらなる堅牢化と進化で社会に貢献したい」という。

3つの事業戦略

O次世代のクラウドネイティブなSaaSを提供

 またOracle Cloudを構成する「Oracle Cloud Applications」と「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」についても、それぞれ説明した。

 Oracle Cloud Applicationsについては、「ERP、HCM、CXといった領域で新たに開発した次世代のクラウドネイティブなSaaSを提供できる」と位置づけ、「多くのお客さまにおいて、その時々に導入したオンプレミスとクラウドソリューションが混在し、データモデルはバラバラであり、限定的なデータを利用したAIの自動化にとどまり、分散した異なるテクノロジーによる拡張や、非機能要件が異なるインフラで構成されるなど、柔軟性に乏しく、非効率なITシステムとなっている」と現状について説明。

 「シングルデータモデルによるプロセスの効率化と最適化されたAIによる自動化、オープンテクノロジーによる拡張によって、非効率なアドオンを極小化、クラウドによる大幅なコスト削減という3つのメリットを提供できる。CRMがオンプレミスからクラウドに移行してきたように、今後は間違いなく、バックオフィスもクラウドに移行する。クラウドネイティブであり、フルスイートでアプリケーションを持っている日本オラクルは、今後のビジネスアプリケーションビジネスの成長が期待できる」と意気込んだ。

Oracle Cloud Applications

OCIの4つの特徴がもたらす価値

 OCIについては、「高速かつ安全なネットワークデザイン」、「ミッションクリティカルエンタープライズワークロードへの対応」、「ヒューマンエラーをなくすセキュリティサービス」、「真のハイブリッドクラウド環境」という4つの特徴があるとし、「この4つの特徴は、今回、Oracleに戻って驚いたポイントであり、以前、在籍したときにはなかった考え方である。5年で大きく進化した点である」と語る。

 そして、「第1世代のクラウドは階層型ネットワークを採用しているため、拡張性や遅延の観点で課題があったが、第2世代クラウドとして、Leaf & Spine型ネットワークの採用により、ハイパースケールなネットワーク環境を実現している。クラウドを支えるネットワークの概念の基礎から見直して、ミッションクリティカルなワークロードに耐えられるようにしている」と、その価値を説明した。

ミッションクリティカルエンタープライズワークロードへの対応

 また、「テナントの考え方はソフトウェアによる仮想化ではなく、オフボックスネットワークバーチャリゼーションの技術を用いて、ネットワークレイヤーでテナントを分離させるものになる。仮想化のオーバーヘッドがなく、コンピューティングパワーの100%をユーザー処理に利用できるほか、コンパートメントという領域を作ることで、よりセキュアな環境を実現できる。第1世代のクラウドは大きな体育館に雑魚寝しているイメージであり、プライバシーが欲しい場合には、ダンボールで間仕切りをするといった程度のものだった。だが、OCIで提供する第2世代はマンション型であり、ワンルームの小さなものや7LDKの大きなものを用意し、その大きさを自由に変えることができる」などとした。

 このほか、「OCIは、データベース、ネットワーク、ストレージのすべてを暗号化しており、暗号化キーはお客さま自身に管理してもらうため、Oracleがデータを参照することは不可能である。加えて、自動化されたさまざまなセキュリティ管理機能を提供しているため、人による設定ミスがない。さらに、データ中心のセキュリティを行っている唯一のベンダーであり、セキュリティ機能のほぼすべてを無償で利用できる」と、セキュリティ面での価値を強調。

 真のハイブリッドクラウド環境についても、「一般的なハイブリッドクラウドでは、パブリッククラウドと同じ環境をプライベートクラウドでは構築できないという課題がある。多くのベンダーが提供しているプライベートクラウド環境は機能限定版となっている。だが、Oracleが提供するOracle Dedicated Region Cloud@Customerでは、パブリッククラウドと同じものを配置することができる。これは、第2世代であるからこそ実現できるものであり、システムの要件に縛られずに真のハイブリッドクラウド環境を実現できるのはOracleだけである」と述べた。

ヒューマンエラーをなくすセキュリティサービス
真のハイブリッドクラウド環境

 理化学研究所の世界最速のスーパーコンピュータ「富岳」においても、OCIがバックエンドで活用されている例を示しながら、「安くて速いクラウド環境である点が評価されている」という。

 また、「AWSもAzureも素晴らしいクラウドを提供している。その仕様に適合するニーズではあれば、それを使うべきである。ただOracleの差別化点は、大企業の利用に耐えられる、フルスイートのSaaSを提供できる点であり、これを実現しているのは日本オラクルしかない。そうしたSaaSが必要なお客さまには日本オラクルがクラウドを提供していかなくてはならない。また、データの一貫性や信頼性を求めるお客さまには、第2世代のクラウドを提供するOracleが最適である」と語る。

 その上で、「Oracleで動いていたものをAWSに移行したお客さまがいるが、アウトプットの結果はほぼ同じである。ほぼ同じものを作るのに、期間とコストをかけている。これはもったいないが、残念ながらこうしたプロジェクトが多い。また、Lift & Shiftをしながらも、データの一貫性と信頼性を担保することが難しかったことが理由で、Oracleに戻す場合もある。なぜこうしたことが起こるのか。日本オラクルがしっかりとしていないからである。この仕組みはOracleのクラウドの方がいいといったように明確に示していく必要がある。日本の社会システムのバックエンドのかなりの部分を日本オラクルは支えてきた。社会インフラを進化させるときに、過ちを犯させることはわれわれの過失である。適材適所でのクラウド提案が必要である」と語った。

Oracle@Oracleの成果を多くの企業へ届けていく

 一方、自社のサービスや製品を活用して、自らの業務改革を行う「Oracle@Oracle」についても説明。「Oracle@Oracleのメインテーマは、クラウドを活用したデータドリブンなDXである。ビジネス環境のさまざまな変化に迅速に追随するために、オンプレミスからクラウドへの移行、Oracle社内の各種情報のシングルデータモデル化、AIを活用した業務の自動化の3点から取り組んでいる」とする。

 具体的な成果としては、Oracleでは70%の受注業務を完全自動化したほか、日本オラクルでは、8%だった契約書の電子化を92%にまで高め、600件あった契約書の押印を1件に減少。さらに、四半期決算発表を16日目に実施し、コロナ禍においても3日間短縮したこと、残高照会の自動化を40%実現したこと、人事評価に抱える時間を70%減少したことなどを示した。

 「Oracleは、過去18年間で、ハードウェア、ソフトウェア主体のビジネスから、サブスクリプションビジネスへとチェンジしてきたが、これは、ビジネスの変化に素早く追従することを可能にしたクラウドネイティブなシングルデータモデルを実践してきたからである。今後はAIによるさらなる自動化を進める。経費システムもチャットボット化して、よりよいユーザーエクスペリエンスへと進化させたい。Oracle@Oracleの成果を、1社でも多くのお客さまに届けたい」と述べた。

 日本オラクルでは、デジタル改革担当役員に、副社長兼COOである湊宏司氏を就け、日本オラクルのDXの推進を進めるとともに、この成果を社外に発信することを積極化するという。

Oracle@Oracle
具体的な変革実績

 また三澤社長は、テクノロジーの進化がもたらす近未来の取り組みとして、「Oracleは、Persistent Memory Nativeのソフトウェアを提供することで、トランザクションシステムに革新を起こしていく。さらにAIの活用によって、システムの自動化を推進し、能動的なデータ活用を推進する。作るAIではなく、使うAIを提供していく。そして、マイクロサービスやコンテナなどのクラウドネイティブ技術は、データの一貫性や、永続性を必要とするアプリケーションには向いていないと言われるが、Oracleのデータベースの進化がそれを変えていくことになる」などとした。