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ファーストペンギンとして新しい市場を切り開く――、ソラコムが海外旅行者向けeSIMデータ通信サービス「SORACOM Mobile」をリリース

 株式会社ソラコムは21日、デュアルSIM搭載のiPhoneおよびiPadモデルを対象に、eSIMデータ通信サービス「SORACOM Mobile」の提供を同日より開始した。本サービスの第1弾として、海外旅行者および海外出張者向けに北米、欧州、オセアニア地域をカバーするeSIMのデータ通信プランを、日本、米国、英国で提供する。

 ソラコム 代表取締役社長 玉川憲氏は「SORACOM Mobileはソラコムにとって初のコンシューマ向け製品。物理SIMを必要としないeSIMはまだ生まれたての市場だが、必ず潮目が変わる瞬間が来る。そのときに備えて、eSIMの“ファーストペンギン”として先進的な事例と健全なエコシステムをグローバルレベルで構築し、さらなるテクノロジーの民主化につなげていきたい」と語り、IoT市場を新たなアプローチで切り開いていく姿勢を見せている。

ソラコム 代表取締役社長 玉川憲氏。新型コロナウイルスの影響により、今回の会見はオンラインで行われた

ソラコム初のコンシューマ向けサービス

 SORACOM MobileはiPhone/iPad上の専用アプリ(日本語/英語)からプリペイドのデータ通信プランを選択し、iPhone/iPadに内蔵されているeSIMに直接インストールするサービス。海外旅行旅行や出張など、通信事業者を一時的に変更しなければならないシーンで、物理SIMカードの購入や差し替えをしなくても、すぐにデータ通信を開始することができる。

 APNの設定やQRコードの読み込みといった作業も必要なく、アプリ内でeSIMデータ通信開始までのすべてのプロセスが完了する点が特徴だ。

SORACOM MobileでeSIMデータ通信を開始するまでの流れ。プラン選択からアカウント作成、支払い、モバイル設定まで、アプリ内でクリックするだけでほぼ作業が完了する

 対象となるiPhone/iPadのモデルは以下の通り。なお、本サービスを利用するにあたっては当該端末のSIMロックが解除されている必要がある。

iPhone

iPhone 11/iPhone 11 Pro/iPhone 11 Pro Max/iPhone XS/iPhone XS Max/iPhone XR

iPad

11 inch iPad Pro/12.9 inch iPad Pro(3rd)/iPad Air(3rd)/iPad(7th)/iPad mini(5th)

 SORACOM MobileアプリをApp Storeから購入できる国は、日本、米国、英国の3カ国。また、通信サービスが利用できる国と地域は現時点で42カ国となっている。ソラコムによれば利用可能な国と地域は順次追加されていく予定だという。

 データ通信プランおよび料金は以下の通りで、いずれも最大利用期間は30日。なお音声およびSMS/MMSサービスは提供されない。

ヨーロッパプラン

・1GB:6.99ドル
・3GB:15.99ドル
・5GB:23.99ドル
・10GB:42.99ドル

北米/オセアニアプラン

・1GB:12.99ドル
・3GB:32.99ドル
・5GB:52.99ドル
・10GB:97.99ドル

リスクを取ることで技術的優位性や知見を蓄積する

 カード型SIMに比べて温度耐性や振動耐性、衝撃耐性にすぐれているeSIMは、車載や工業製品などのIoT/M2M製品への導入がグローバルで徐々に増えつつある。

 SORACOM Mobileはソラコムにとって初のコンシューマ向けサービスだが、同社がeSIMビジネスに取り組むのはこれが最初ではない。2017年10月にはデバイスに埋め込み可能な5mm×6mmのチップ型SIM「MFF2(Machine to machine Form Factor 2)」の提供を開始しており、代表的な採用事例にはソースネクストの音声翻訳機「ポケトーク」がある。

ソラコムの知名度を一気に押し上げたソースネクストの「ポケトーク」でもeSIMが使われている

 また、2019年7月に開催されたソラコムの年次カンファレンス「SORACOM Discovery 2019」では、テクノロジープレビューとしてeSIMプロファイルのQRコード/アプリからのダウンロードが開始されているが、これはAppleとの協業を実現した今回のSORACOM Mobileへの布石だったともいえる。

 プロファイルを外部から自由に書き換えられるeSIMは、IoTの世界にさまざまな可能性をもたらす存在であり、「IoTテクノロジーの民主化」をビジョンとして掲げるソラコムが、物理的なSIMからユーザーを解放するという意味でeSIMに注力するのは自然な流れだろう。

 一方で玉川社長のコメントにもあるように、eSIM市場の規模は現段階ではまだ大きいとは言い難い。特にSIMロック端末が一般的な日本の場合、大手通信キャリアがまだeSIMに積極的な姿勢を見せてないこともあり、急激な市場の拡大は現時点では望めないのが現状だ。

 にもかかわらずソラコムがあえてeSIMビジネスに本格的に参入するのは、競合が少ないうちに“ファーストペンギン”としてのリスクを取ることで、技術的優位性や知見を蓄積し、さらにソラコムが得意とするスピーディな技術革新と事業展開でもってeSIM市場全体を拡大する狙いがある。

 「eSIMのような技術には、必ずしきい値を超えて潮目が変わる時期が訪れる。だが、そのときまで黙って見ているだけでは市場は広がらない。ソラコムはもともとスタートアップであり、イノベーターでもある。KDDIグループのイノベーション担当チームとしても、eSIMのような新しい技術には率先して関与し、潮目が変わったときにはよりよいサービスを提供できる体制を整えておきたい」(玉川社長)。

日本ではまだ知名度が低いが、「iPhone XS」登場以来、eSIMを搭載したデュアルSIM端末とその上で動くサービスへの注目度は高まっている。SORACOM Mobileが今後、旅行会社やレンタカー会社、エアラインなど、移動を事業にする企業と提携する可能性は高い

 もっとも、SORACOM Mobileはソラコムにとって初めてのコンシューマビジネスであるだけに、今回のサービスローンチはあくまで「eSIMビジネスの知見をためる段階」(玉川社長)と位置づけられている。ターゲットも旅行や出張の頻度が多いアーリーアダプターに限定、さらにユースケースをある程度包括したうえで、いずれのプランも30日限定となっているのもそのためだ。

 「イノベーターとしてeSIMビジネスには身を乗り出して参加するが、ビジネスそのものは丁寧に、慎重にアクセルを踏むやり方で展開する」と玉川社長は語っており、「先進技術はアクティブに吸収しつつも、ビジネスは使ってもらうことを第一に進めていく」というソラコムのこれまでのサービスローンチに共通するパターンが今回も見て取れる。

 Apple製品以外のスマートフォンへの対応、提供地域やプランの拡大、他社との協業によるエコシステム拡大など、すでに次のフェーズが期待されているSORACOM Mobile。国内eSIM市場拡大のトリガとして、さらにソラコム初のコンシューマビジネスとして、今後の展開が引き続き注目される。

新サービス「SORACOM Mobile」のロゴ。「m」が中抜けになっているのはSORACOMとMobileのそれぞれのMを重ねたイメージからデザインされている