特別企画
IoTの最先端を行き、通信の民主化を果たす――、「SORACOM Discovery 2019」開催 新サービス/デバイスの発表も
2019年7月11日 06:00
IoTを超えて――。
7月2日、4回目の開催となったソラコムの年次カンファレンス「SORACOM Discovery 2019」の基調講演で、同社代表取締役社長 玉川憲氏が約4000名のオーディエンスを前に掲げたテーマである。
ソラコムはIoTスタートアップの雄として、2015年9月に最初のサービスとなる「SORACOM Air」をローンチして以来、常に周囲の期待以上の成長を遂げ、日本のIoT市場の拡大と活性化に大きな役割を果たしてきた。
そのソラコムが言う「IoTを超えて」は、どういう意味をもつのだろうか。本稿ではキーノートの概要を紹介しながら、ソラコムがめざす次のマイルストーンを見ていきたい。
顧客フィードバックをもとにした継続的なイノベーションを実現
キーノートの冒頭、玉川社長はビジネスアップデートの紹介というかたちで、これまでの同社の歩みについて説明している。
Discovery 2019開催直前に発表されたソラコムのユーザー数は個人/スタートアップ/エンタープライズを含めて1万5000を超え、認定済みパートナーは116社を数える。さらにIoT回線契約数(セルラー)は100万を突破し、国内事例だけでなく、北米や欧州を中心とするグローバルの事例も着実に増加中だ。
ソラコムが順調にビジネスを成長させてきた理由はいくつもあるが、もっとも“ソラコムらしさ”があらわれているポイントとして、玉川社長がかつて在籍していたAWS(Amazon Web Services)と同じ「顧客フィードバックをもとにした継続的なイノベーション」をひたすら忠実に実現していることが挙げられる。
2015年9月のローンチ以来、ソラコムは平均して約2週間の周期でアップデートを繰り返しており、この4年間、トータルで106回の新機能リリース(7/2時点)を果たしている。継続的なイノベーションを決してやめないこと、これは2017年にKDDIグループ入りしてからも変わらない方針であり、Amazon/AWSから受け継いだソラコムのDNAと言っても過言ではない。
顧客からの直接のフィードバックをもとに、速いペースで機能を追加し、新しいサービスを提供し、品質を上げて価格を下げていく。速いサイクルのCI/CDを4年間にわたって回し続けてきたことが、ソラコムの現在の強さを支えている。
4つの新サービスを含む20近いアップデートを発表
そのDNAをあらためて示すかのように、ソラコムは今回のDiscovery 2019にあわせ、4つの新サービスを含む20近いアップデートを発表している。
以下、主要なアップデートについて簡単に紹介する。
「SORACOM IoT SIM」がKDDI LTE網対応
グローバル対応/マルチキャリアの「SORACOM IoT SIM」がNTTドコモの3G/LTE回線に加え、KDDI LTE網にもIoT SIMでの接続可能に、データ通信料金はNTTドコモの1/10となる0.02ドル/MB(リミテッドプレビュー)
データ通信料金値下げ
日本や米国を含む世界83カ国でIoT SIMのデータ通信料金値下げ、欧州主要21カ国では従前の1/4(0.08ドル/MB→0.02ドル/MB)に(7/2開始)
IoT SIMのランデブーポイントを追加
ドイツのみだったIoT SIMのランデブーポイントを日本と米国にも追加、日本や米国でのIoT SIM利用におけるレイテンシが低減(8月開始予定)
組み込みデバイス向けのeSIM
組み込みデバイス向けのeSIM(チップ型SIM)プロファイルをQRコードおよびアプリからダウンロード可能に(テクノロジープレビュー)
新サービス「SORACOM Funk」
クラウド上にオフロードされたコードを「AWS Lambda」などのサーバーレス環境で実行、その処理結果をデバイスでも受け取れるサービス。デバイス側に実装するロジックを最小限にすることが可能に。1リクエストあたり0.0018円(5万リクエスト/月の無料利用枠あり)
新サービス「SORACOM Napter」
リモートカメラなどのデバイスにオンデマンドでセキュアにアクセスできるサービス。デバイスとユーザーの間で一時的な閉域網を必要に応じて構築できる。1SIMあたり月額300円(利用した月のみ料金が発生、1カ月あたり1SIM分の無料利用枠あり)
ボタン型デバイス「LTE-M Button」(KDDI LTE回線対応)機能追加
「LTE-M Button」(KDDI LTE回線対応)に、通信基地局位置をもとにした簡易位置測位機能を実装、ボタンクリック時の位置情報把握が可能に。1SIM/1ボタンあたり50円/月(8月提供開始)
新サービス「SORACOM Harvest Files」
既存サービスの「SORACOM Harvest」を拡張し、画像や動画、ログファイルなどを保存可能に。デバイスからのダウンロードもサポートし、ファームウェアの配信などにも適用可能。データアップロードは1GBあたり200円、データダウンロードは1GBあたり20円
新IoTソリューションカメラ「S+ Camera Basic」
Raspberry Piをベースに、セルラー回線をデフォルトで内蔵したプログラマブルなリモートカメラと、デバイス管理機能やプログラム管理機能をエッジプロセッシングサービスとして備えたプラットフォーム「SORACOM Mosaic」、さらにカメラ上で動作するアプリケーションプログラムがパッケージ化されたソリューション。カメラ上の処理プログラムをコンソールから設定/変更可能。カメラ5台を含むトライアルパッケージとして98万円で提供、パートナー向けにはMosaicのプライベートベータを提供
このほかにも、NTTドコモLTE回線を利用した大容量アップロード用SIM「plan-DU」や、マイコンモジュール「M5Stack 3G」拡張ボード、デバイスのデータを特定のクラウドサービスに直接転送するリソースアダプタ「SORACOM Funnel」のパートナーファネル追加などが発表されている。
1万5000ユーザー/100万回線を超えたことでスケールメリットが大きくなり、価格の値下げが進んでいる点にも注目したい。
最先端の技術を追求したFunkやNapterを発表しながら、価格の値下げや接続ポイントの増設、対応デバイスの多様化を進めることで通信の民主化を果たす、そしてこれらを一気に年次カンファレンスにあわせてアップデートとして公開するところも、AWSのre:Inventにおける発表スタイルをほうふつとさせる。
2019年のソラコム新規導入事例
サービスアップデートとともに、玉川社長は2019年のソラコム新規導入事例をいくつか紹介している。
伊藤忠商事
スマートハウスを実現する次世代家庭用蓄電池「SmartStarL」
neuet
福岡市で1000台規模で展開中のシェアサイクル事業「メルチャリ」
長州産業
初期費用ゼロの太陽光発電システム「ソラトモサービス」
イカリ消毒
害虫捕獲装置データや温度/湿度データを収集し、環境衛生を監視するCXシステム(IoT環境衛生監視システム)
石垣島製糖
農機の位置情報からサトウキビ収穫状況を把握
日立グローバルソリューションズ
単身高齢者の活動量を検知する見守りサービス「ドシテル」
富士山の銘水
天然水の自動再注文を実現するIoTウォーターサーバー
ダイハツ工業
工場出荷から納車までのトラッキングを行い、販売店と顧客のコミュニケーションを活性化(実証実験)
ふくや
専用機器で毎日めんたいこの消費量を送信、無くなる前に自動で届ける「ふくやIoT」(福岡限定サービス)
「はじめから通信が製品やサービスに組み込まれることでビジネスモデルが進化する」――。
玉川社長はこれらの事例を紹介しながら、“IoTネイティブ”が浸透することで、いままでにないサービスが生まれるケースが増えている点を強調している。例えば、ふくやの事例などは、IoTによる可視化とサブスクリプションビジネスという新しいビジネスモデルを組み合わせた、これまでにないユニークなサービスとして位置づけられる。
ソラコムが提供する各種のIoTサービスをブロックのように組み合わせ、顧客自身が自分の手でIoTネイティブなサービスを生み出せていることも、IoTのコモデティ化の大きな原動力となっていく。
導入企業3社のエグゼクティブが登壇
キーノートではソラコム導入企業3社のエグゼクティブが登壇し、そのユースケースについて語っている。以下、簡単に概要を紹介する。
ダイハツ工業
お客さまは新車をオーダーしてから納車までの長い期間をただひたすらに待つだけ。一方、担当営業マンはひとたび契約が成立するとそのお客さまへの関心が薄れてしまい、次のお客さまのもとへと行ってしまう。
しかしお客さまにとってもっともハイテンションとなるのは”納車の日”で、そこに大きなギャップがある。このギャップを埋めるために、発注した車がどこにあるのかをお知らせするシステムをGNSS(全地球航法衛星システム: Global Navigation Satellite System)技術をもとにソラコムと協力して構築し、実証実験を行っている。
ただし、あまりにも納車の裏側を見せてしまうことには問題もある。お客さまと担当営業やサービス拠点をつなぐ“ラストワンマイル”への挑戦を、これからもソラコムと続けていく。
日本瓦斯(ニチガス)
代表取締役社長 和田眞治氏
ニチガスでは現在、ソラコムと協業し、さまざまなフォーマットのガス使用量データを電子的に読み取った後にフォーマット変換してクラウドに送信する新型NCU(Network Control Unit: ガスのデータを送信するIoTデバイス)の「スペース蛍」を開発、世界初のLPG託送サービスを開始した。
日中は太陽光で蓄電し、夜は蛍のように静かに光りながら従来の720倍のデータを10年間電池交換なしでクラウドに送信、リアルタイムなガス使用量の計測が実現できている。
今後、世界で125万台のNCUがリアルタイムにデータを送信し、ソラコムのさまざまなサービスと連携することで、トレーサビリティが大きく変わると期待している。
本田技術研究所
ホンダは2030年に向けてのビジョンとして「すべての人に、“生活の可能性が拡がる喜び”を提供する」という目標を掲げており、その達成手段のひとつとしてオープンなロボティクスプラットフォーム「Honda RaaS(Robotics-as-a-Service) Platform」の構築を進めており、ソラコムと協業している。
ロボティクスの時代であっても主役となるのは“人”であり、人のやりたい業務やゴールにロボットが協調していくようなプラットフォームを作るには、オープンであることが必須。単一のシステムではなく、さまざまな開発者やベンダと包括的につながっていけるオープンなRaaSのコアをソラコムと一緒に作っていく。
いずれの企業もいままでにないIoTのユースケースやプラットフォームをソラコムとともに、試行錯誤しながら作っていきたいという強い決意と抱負を表明している。
ソラコムのイノベーティブな姿勢はKDDIにとっても大きな力となる
キーノートの最後には、ソラコムの親会社であるKDDIの代表取締役社長 高橋誠氏が初めてDiscoveryに登壇し、2017年の買収以来の両社の関係について、玉川社長とともに語っている。
「2017年9月に買収が決まったとき、不安を覚えていたソラコムの社員もいたが、高橋社長がソラコムのオフィスまで来て全員に向かって丁寧に説明してくれた」と玉川社長は買収当時を振り返っている。
IoTスタートアップとして順調な成長を遂げていたソラコムの突然のKDDIグループ入りは、社外はもとより社内の従業員にも大きな衝撃だったことがうかがえる。
ソラコムがKDDIグループの傘下に入った最大の理由が次世代ネットワーク、特に5Gにおけるアドバンテージを確保するためだったとされている。KDDIもまた5Gの取り組みを加速させており、ソラコムとの5Gにおけるシナジー戦略として現在、KDDIの「MEC(モバイルエッジコンピューティング)」テストサイト上に、ソラコムが構築した通信コア(パケット交換サービス×加入者管理などのサービス管理機能)をマイクロサービスとして実装し、運用する実証実験を行っている。
クラウドの運用ではどうして生じてしまう数十ミリ秒のレイテンシを、通信コアを基地局のインフラに埋め込むことで解決を図ろうとする試みだが、うまくいけば自動運転や産業ロボットといったユースケースにおいても5Gの超低レイテンシを生かすことが期待される。
「IoTは5G時代を支える重要な技術であり、ソラコムにはその最先端を走ってほしい。リカーリングモデルやオープンイノベーションがキーワードとなる5Gにおいて、ソラコムのイノベーティブな姿勢はわれわれにとっても大きな力となる」(高橋社長)。
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「クラウドから数多くのイノベーティブな企業が生まれてきたが、いまのIoTは10年前のクラウドのような世界。まだまだ新しい可能性がたくさん存在する。日本から、世界から、ひとつでもイノベーティブなIoTサービスが誕生してほしいと願っている。ソラコムはプラットフォーマーとして”You Create, We Connect”を実現していく」――。
玉川社長は、キーノートをこう締めくくっている。ソラコムが誕生した4年前に比較すると、IoTの世界は大きく広がったが、まだ解決すべき課題は数多くあり、成熟というレベルにはほど遠い。だからこそ本当の意味で誰もが使えるようなコモディティな技術へと押し上げていく義務がプラットフォーマーにはある。
IoTを超えたその先にどんな世界がつながっているのか――。IoTプラットフォーマーとしてのソラコムの挑戦はまだ続く。