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キーワードは“ブリッジ”――、VMwareがKubernetesポートフォリオ「VMware Tanzu」の展開を開始

 ヴイエムウェアは11日、2019年8月に行われたVMwareの年次カンファレンス「VMworld 2019」で発表されたエンタープライズKubernetesポートフォリオ「VMware Tanzu」に関する国内報道陣向けの説明会を開催した。

 説明を行ったVMware エグゼクティブバイスプレジデント兼ジェネラルマネージャのレイ・オファレル(Ray Ofarrel)氏は「3つのコンポーネントを含むVMware TanzuはIT管理者と開発者をつなぐブリッジとなる存在。クラウドネイティブなアプリケーションをビルドし、実行し、管理する基盤として、双方に同じインターフェイスで提供していく」と語り、エンタープライズのワークロードに最適化したKubernetesプラットフォームとしてグローバルに展開していく姿勢を見せている。

VMware エグゼクティブバイスプレジデント兼ジェネラルマネージャのレイ・オファレル氏

ネイティブKubernetes環境をエンタープライズに提供するポートフォリオ

 VMware TanzuはVMworld 2019でテクノロジープレビューとして発表されたネイティブKubernetes環境をエンタープライズに提供するポートフォリオで、以下の3つのコンポーネントによって構成されている。

開発環境(Build)

Bitnami、Pivotal、SpringなどVMwareが買収した企業のオープンソース技術を中心に構成されたモダンアプリケーションのサプライチェーン

実行環境(Run)

vSphere上にネイティブKubernetesを統合し、ストレージやネットワークの連携も含む「Project Pacific」

管理環境(Manage)

あらゆる場所にあるKubernetes実行環境を単一のコントロールポイントから一元管理できる「VMware Tanzu Mission Control」

 このうち、Project PacificとVMware Tanzu Mission Controlは本説明会の約1週間前にスペイン・バルセロナで開催された「VMworld Europe 2019」において、顧客を限定したベータプログラムの提供開始がアナウンスされている。一般提供(GA)の開始時期は現時点では未定だが、顧客からの申し込みが相次いでいることからVMwareはベータ版の利用枠をさらに拡大する予定だという。

VMware Tanzuの構成コンポーネント。このうち実行環境のProject Pacificと管理環境のTanzu Mission Controlはベータ提供が開始されている

 VMware Tanzuにおいてもっとも注目すべきポイントは、ネイティブKubernetesを統合すべくvSphereを全面的にリアーキテクトし、Project Pacificというアプリケーションプラットフォームのコアを仕上げてきたことだろう。

 Project Pacificは2018年にVMwareが買収したHeptioの技術リソースと人的リソースを投じて、約1年をかけて開発されたパッケージだが、vSphereの上にKubernetesを実装したというよりも、vSphereをネイティブKubernetesのシームレスな実行環境とすべく、かなり大胆にvSphereを書き換えたと言っていい。

 例えばサーバーレス対応などもそのひとつで、ESXi上にネイティブなアプリケーションコンテナを載せられる実装となっている。したがってユーザーはホストOSを必要とすることなく、サーバーレスにコンテナランタイムを実行することが可能だ。

Project Pacificの概要。vSphereを完全に書き換え、ネイティブKubernetesをESXiに埋め込んでいる。どんなツールで作成されたアプリケーションでもネイティブなKubernetesクラスタのもとで展開が可能に

 また、開発者は使い慣れているツールで開発したKubernetesアプリケーションを、シームレスにネイティブKubernetesクラスタの管理下にデプロイできる。もちろん、それらのアプリケーションはオンプレミス、パブリッククラウド、ハイブリッドクラウド、エッジなどあらゆる実行環境――VMwareがビジョンとして提供するところの”Any Cloud”での展開が可能となっている。

 “ネイティブ”Kubernetesであることを徹底し、開発者もIT管理者もリソースコントロールを容易に行えるプラットフォームとなっている。また、外部のアプリケーション/サービスとの連携もAPIによって可能だ。

 説明会に登壇したHeptioの共同創業者であり、オープンソースとしてのKubernetesプロジェクトを立ち上げたひとりでもあるVMware クラウドネイティブアプリケーション事業部 バイスプレジデント クレイグ・マクラッキー(Craig McLuckie)氏は、「Project PacificはVMwareと旧Heptioが到達したエンタープライズKubernetesにおける大きなマイルストーン。Project PacificによりvSphereはよりアジャイルなアプローチを獲得し、ナチュラルなIT環境を顧客に提供することができるようになった」と語っている。

VMware クラウドネイティブアプリケーション事業部 バイスプレジデント クレイグ・マクラッキー氏

 VMware Tanzuのもうひとつの大きなポイントが、ここ1~2年にVMwareが買収した企業の技術統合を積極的に活用している点だ。前述したとおり、Project Pacificは旧HeptioのKubernetesリソースを中心に構築されているが、開発環境では8月に買収を発表したPivotal(11月時点では買収未完了)のほか、オープンソースのアプリケーションパッケージングを得意とするBitnami(2019年5月に買収)の技術をソフトウェアサプライチェーンとして利用可能だ。

VMware Tanzuの開発環境はPivotalのリソースを中心にBitnamiやVMwareのオープンソースポートフォリオなどを加え、ソフトウェアサプライチェーンとして提供される

 もともとPivotalはDellグループ傘下の中でもクラウドネイティブやDevOpsにフォーカスした、先進的なテクノロジーをキャッチアップしていくというミッションを負っていたこともあり、企業文化、開発手法、開発ツール、プラットフォームといった側面からVMware Tanzuの開発のコアリソースとして活用するのは自然な流れだと言える。

 また、Bitnamiに関しては新たに「Project Galleon」としてアプリケーション/コンポーネントのパッケージング技術をフレームワーク化し、すでに「VMware Cloud Marketplace」などの同社のサービスのバックエンドで稼働中だ。VMwareは買収をビジネスの大きな柱としているが、6カ月~1年という比較的短い期間で買収企業の技術統合を実現している点は注目に値する。

 なお、VMware Tanzuの一般提供開始に備え、VMwareはパートナー向けの新たな認定資格プログラムとして「VMware Cloud Native Master Services Competency」を発表している。アプリケーションの継続的デリバリ、オープンソースをメインにしたクラウドネイティブなアプリケーション開発、Kubernetesベースのプラットフォーム運用、クラスタ保護などをテーマに、技術者の育成を強化していくという。

パートナー向けに提供される新たなコンピテンシー「VMware Cloud Native Master Service Competency」

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 「VMware Tanzuのキーワードは“ブリッジ”だ。vSphereとKubernetesをつなげる、モダンとレガシーをつなげる、内製とサードパーティをつなげる、開発者とIT管理者をつなげる――、もちろん、完全な“One size fits all environments”なソリューションはないが、存在するサイロの影響力を弱くすることはできる。あらゆる技術や文化をつなげて、顧客のアプリケーション環境をより良い状態に導く、それがVMware Tanzuのミッションであり、Kubernetesはそれをレバレッジする存在」――。オファレル氏はVMware Tanzuについてこうコメントしている。

 “Tanzu”の語源はスワヒリ語の“枝”に由来するが、日本語の“タンス(コンテナ)”の意味もかぶせているという。スケーラビリティ、アジリティ、シームレス、そしてコンテナライズというKubernetesのもつ特徴を集約したネーミングにこだわったことがうかがえる。vSphereというVMwareのコアとなる製品をリアーキテクトしてまでKubernetesにシフトしたVMware Tanzuが、市場でどう受け入れられるのか、今後の展開に引き続き注目していきたい。