インタビュー

中途採用のCMOが進める“NECのマーケティング改革” NEC・榎本亮CMO

 日本電気株式会社(以下、NEC)がマーケティング変革に乗り出している。その中心的役割を果たしているのが、CMO(チーフマーケティングオフィサー)を務める榎本亮執行役員だ。

 日本IBMやセールスフォース・ドットコムを経て、2015年に執行役員兼コーポレートマーケティング本部長としてNEC入りし、2017年から現職を就いている。

 2019年2月に東京・三田のNEC本社1階にオープンした「NEC Future Creation Hub」も、マーケティングの観点からさまざまな要素を盛り込んだ施設であり、マーケティング変革の成果のひとつだ。

 「マーケティングのやり方次第で、企業の利益率向上にも貢献できる」と語る榎本亮CMOに、NECのマーケティング戦略について聞いた。

NECの執行役員兼CMO 榎本亮氏

NEC Future Creation Hubの狙い

――NECは、東京・三田の同社本社ビル1階に「NEC Future Creation Hub」を開設しました。この狙いはなんですか。

 ショールームの形でNECのソリューションや製品を体験してもらう場所は、これまでにもありました。直近でも、品川にNECイノベーションワールドを開設していました。しかし2月8日に新たにオープンしたNEC Future Creation Hubは、これまでのショールームとは異なり、「Hub」という名前をつけたところに重要な意味があります。

「NEC Future Creation Hub
来日したドイツのメルケル首相もNEC Future Creation Hubを訪問している

 「Hub」という言葉には、ここから社会に対する価値を生み出して、みんなと一緒になって変えていく場にしたいという意味を込めました。つまり、「共創」の場であるということです。いろいろな人が集まって、なにかを感じて、深い議論をして、なにかを生み出していく場にしたいと思っています。この施設から発信するメッセージの主語は、すべて「We」としており、ともに共創することを目指していきます。

 実は共創という言葉は、2005年ごろにNECが商標を取っているんです。いまから10年以上も前に、「共に創る」という概念や理念を考えて、商標を取った社員がNECにいることは、素晴らしいことだと思っています。

 もちろん、「共に創りましょう」といっているのに、この言葉に「マルアール」をつけてNECの言葉だと主張するのは、その理念とは真逆になりますから、NECは、これからも「マルアール」をつけずに、幅広く活用してもらうようにします。

「共創」はNECが商標を取得しているものの、今後は“マルアール”を付けずに、幅広く活用してもらえるようにするという

 また本社ビルに設置したことで、共創に必要な関係者が一堂に会しやすく、あらゆる拠点を結んだ議論をしたり、オープンイノベーションの拠点として活用したりできる効果も期待しています。さらに社員に対しても、NECの価値観やソリューションに触れてもらう場にしたいですね。

 我々が変わるという覚悟を込めたものであり、社会課題の解決と企業の変革に向けて、NECとして、なにを提案したいのかということを明確に示す場にしたいと思っています。

――年間の来場者数はどれぐらいを見込んでいますか。

 NEC Future Creation Hubでは、年間8000人の来場者数を見込んでいます。規模が少ないように感じるかもしれませんが、これは一回あたりの会議で深い議論をしたい、と考えているからです。ですから、来場者数を追うということはしません。深い議論をして、どうやって未来を創っていくかといった対話を進めたいと思います。

 NECには、デジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるための人材が、約1600人います。バリュークリエーター、ビジネスデザイナー、SME(Subject Matter Expert)、データサイエンティスト、エバンジェリストなどで構成されており、私はこの人材たちを、DXを実現する専門家集団として「デジタルオールスターズ」と呼んでいます。NEC Future Creation Hubでは、これらの人材が重要な役割を果たします。

 約1800平方メートルを持つNEC Future Creation Hubは、本社受付の両サイドに広がっており、時計回りで進む形で展示を追うことで、ストーリー性を持って、NECの考え方を理解できるようにしているのが特徴です。

 最初に、ミーティングスペースでトーン&マナーを設定した上で、これまでのNECの取り組みや、2050年を見据えたビジョンを紹介し、課題の共有、変革の必要性の共有を、体験型映像などを通じて行い、顔認証による会議室の入退場の体験や、小売業や製造業、流通業における具体的な課題解決ソリューション、そして、NECが持つ先進テクノロジーを展示し、近未来に実現される安全・安心・効率・公平な都市の姿や、新たな企業活動を、都市経営や企業経営などの視点で見せ、それをソリューションとして紹介しています。

 そして、当社が推進するNEC共創プログラムのプロセスにのっとり、さまざまな社会ソリューション事例を作っていくことになります。いわば、NECが社会をどう思っていて、なにができるかということを、カスタマージャーニーとして見ることができ、未来に向けた価値観を見てもらって、体験してもらう場になります。

 しかし、NECが取り組んでいるのは社会ソリューションであり、机上だけでできるものではありません。当社の人材が、お客さまのもとに出向いて、現地、現物を確かめながら深いディスカッションをして、初めて価値を提供できます。NEC Future Creation Hubに閉じた活動ではなく、現場との連携によって共創を進めることになります。

 NECのソリューションは、ネットで情報を見てもらって理解してもらえるものばかりではありません。むしろわかりにくいものの方が多いといえます。それをリアルの場で、来て、見て、触れて、そして社員と話をしてもらうことで伝わる仕組みを提供するのが、NEC Future Creation Hubとなります。共創によって、世界を変えていくことが、NECならばできるということを感じてもらえたらと思っています。

かつてのNECは「公家」の集団というイメージ

――榎本執行役員は、アーサーアンダーセン(のちにベリングポイント)、日本IBM、セールスフォース・ドットコムを経て、2015年にNECに入社し、現在、CMOの役割を担っていますが、そもそも、なぜ、NECに入ることになったのですか。

 2014年の夏ごろに、ヘッドハンティング会社を通じてお誘いをいただいたのがきっかけです。そのときは、セールスフォース・ドットコムで、通信業界担当執行役員の立場にありました。セールスフォース・ドットコムは、働きがいのある会社として高い評価を受けている企業ですし、正直、辞めるつもりはありませんでした。

 ただ、その一方で、私はアーサーアンダーセンや日本IBM時代から、マーケティング変革や営業改革といったことを担当してきた経緯もあり、お話をいただいたときに、その総仕上げとして、日本の企業のマーケティング変革をやってみたいという気持ちはありました。

 外資系企業では、なかなか本社で勤務するという経験はできませんが、日本の企業であれば、本社に勤務するということができます。セールスフォース・ドットコムは2月から新年度が始まるのですが、新たな年度においてもコミットした仕事を継続することになれば、NECの採用面接をお断りすることもあるという前提で話を進めました。そうしたなか、セールスフォース・ドットコムの事業方針にも変更があり、それもNEC入りを決断する後押しのひとつになりました。

――これまでの経歴から見ても、NECの企業文化は異なると思いますが、NECにはどんな印象を抱いていましたか。

 これまでに在籍した外資系企業に比べると、文化はかなり違うとは思っており、それは、まさにその通りでした(笑)。

 ただし、コンサルティング時代には、日本の企業を担当したり、それが電機メーカーであったりといったこともありましたし、さらに、コンサルティングを行った企業に対するインプリメンテーションはNECが行う、といった形で協業をしたケースもありました。NECの企業カルチャーや組織の仕組みについては、これまでの経験をもとにして理解はしており、その点ではサプライズはありませんでした。

――NECに対してはどんな印象を持っていましたか。

 NECは、「野武士」の集団よりは、「公家」の集団というイメージでしたね。戦うよりは、「和をもって尊しとなす」を優先するといった印象です。物事を解決する際に、本質的に何をしたらいいのか、あるいはどうしたらいい方向に行くのかということにハイライトし、そこに向けて仕事をするのがNECの社風であり、お客さまにとって何がうれしいのか、何が喜ばれるのかといった論点から議論を始めます。これは、NECが持つ素晴らしい文化だといえます。

 ただし裏を返せば、この文化が、アグレッシブさやスピード感に欠けるといったことにつながる可能性があります。NECに入社してからも、それを感じています。

 人間に例えれば、右脳か、左脳かといえば、NECは左脳。そして、理系か、文系かといえば、当然、理系です。イノベーションのための技術を数多く持っているのが特徴です。ただ、イノベーションとマーケティングをクルマの両輪に例えるならば、マーケティングのタイヤがあまりにも小さいのがNECの特徴であり、「○○の技術は世界一」とか、「○○は世界で最も速い」とか、イノベーションや技術の観点からアウトプットすることが多かったといえます。マーケティングのタイヤを大きくして、同じサイズにしていかないと前には進みません。

 例えば、お客さまのニーズが、A地点からB地点に「安全」に移動することが目的であった場合に、「エンジンがパワフルなのが特徴だ」といっても、お客さまには伝わりません。しっかりと安全に移動できるというお客さまの課題解決を訴求しながら、エンジンの素晴らしさを伝えなくてはいけません。

――そうした観点では、どんな取り組みを開始していますか。

 昨年、NECの生体認証「Bio-IDiom(バイオイディオム)」が、グッドデザイン賞を獲得しました。技術という観点では、世界最高の認識率などが評価されていますが、グッドデザイン賞では、顔、虹彩、指紋、掌紋、指静脈、声、耳音響という複数の生体認証を、現場のニーズに合わせて使い分けて組み合わせる「マルチモーダル認証」というアイデアと、そのビジネスモデルが評価されて受賞しました。

 警察や政府の出入国管理、国民ID、そしてエンターテイメント分野など、約70カ国、700システム以上での導入実績がある技術であり、それを顧客のニーズに最適な形で提供できるところが評価されたわけです。

ビデオ制作の新たな取り組みでマーケティングへの意識を変えた

 一方で、ビデオ制作においても、新たな取り組みを開始しています。

――ビデオ制作の新たな取り組みとは、どんなものですか。

 YouTubeを見てもらえればわかるのですが、2015年より以前にNECが制作したビデオは、ほとんどが技術解説に終始しています。なかには、動画であるのにも関わらず、PowerPointの資料を映し出して細かく解説するというものもありました。しかも、1本あたりの映像が4分、5分と長い。延々と技術を語り尽くすわけです(笑)。だいたい3分を超える映像は、ほとんどの人がクリックしてくれませんよ。

 そこで私が来てからは、ビデオの作り方を大きく変えました。徹底したのは、NECのビデオには必ずお客さまを登場させるということでした。お客さまの価値という視点から語ってもらう映像づくりとし、それをNECがどう支えたのかというストーリーとしました。NECはお客さまのためにどう貢献しているのかということを、お客さまから語っていただくものとしたわけです。

 そして、全体の映像は3分以内。そのうち、NECの貢献については1分以内。技術の深いところまでは解説しません。

 最初は、社内から、お客さまにビデオ出演を頼みたくない、といった声も出ていました。「お客さまに、忙しい時間を取ってもらうことができない」、「お客さまがビデオ出演するメリットがない」、あるいは「頼みにくい」という社員もいましたが、ビデオの主旨をしっかりと説明したところ、お客さまにとっても、プラスの訴求効果が生まれるということを理解してもらい、出演をお願いしてもらいました。すると、多くのお客さまから、それならば出演してもいいという声を多くいただき、お客さま自身もビデオ出演を喜んでくれることがわかったのです。

 そうなると、社内でのコミュニケーションの仕方も変化します。従来の手法では、自分のたちの技術やソリューションを語りたい、あるいは自慢したいというスタンスであり、あとはマーケティング部門に丸投げのような形だったのですが、今度は、お客さまを巻き込むわけですから、現場も任せっきりではいけないという話になる。

 また、私たちからも事例を紹介する際に、「本当にお客さまはNECに感謝してくれているのか」、「どんなメリットが享受されているのか」ということを確認しなくてはなりませんから、現場も自問自答するわけです。そうした対話の繰り返しによって、マーケティング部門も現場部門も、意識が変わってきました。

 一方で、ビデオの数も増やし、それにあわせて予算も確保しました。

 従来は、NECの社会ソリューションの代表的事例として、外に出せるビデオは10本ぐらいしかありませんでした。10万人の社員がいる会社のビジネスで、事例が10個しかないというわけはありません(笑)。最初から、お客さまに事例紹介の提案をしても、断られるのが当たり前という意識の社員が多かったので、結果として、10本しか制作できなかったのです。

 「お客さまに手間をかけるようなことをしてはいけない」というのは、まさにNECらしい発想がベースにありました。しかし、現場を巻き込んだ新たな取り組みによって、いまや事例ビデオは約150本にまで増えています。もともとの事例の数は増えていないのに、事例ビデオの数は一気に15倍以上に増加しました。

 それは、NECとお客さまとのコミュニケーションがより緊密になり、お客さまがNECをより深く理解をしていただいた結果、ビデオにも積極的に出演をいただいたというわけです。マーケティング部門をきっかけにして、現場とお客さまとの関係を強化することができた事例ともいえるのではないでしょうか。

――遠藤信博会長に対してもダメ出しをした、というエピソードも漏れ聞きましたが(笑)。

 遠藤会長は、誰よりも深く技術を理解しています。そのため、NECのプライベートイベントであるiEXPOの基調講演などでも、技術をしっかりと説明してこそNECの価値が伝わる、という基本姿勢を持っています。それは否定しません。

 ただ、NECの技術の深いところまでを話してもらうと、大学の授業を1コマ受けているようなものになってしまうわけです(笑)。折角の機会ですから、会長として話をしてもらいたい別のテーマもあり、そこで、テクノロジーの解説はできるだけ圧縮してもらい、NECが社会に対して提供できる価値はどこにあるのか、という部分を増やしてもらうように提案をしたのです。

 私は2015年5月に入社し、6月に開催された世界ICTサミット(現在の世界デジタルサミット)での遠藤会長の講演を聞いて、危機感を覚え(笑)、そこで提言をしたわけです。2015年7月に大阪で開催したiEXPOには間に合わなかったのですが、11月までの間にコミュニケーションを繰り返し、2015年11月以降は、社会価値の提案をベースにしたストーリーを増やしてもらっています。

展示の数を減らしたにもかかわらず来場者からの依頼は増加

――プライベートイベントであるiEXPOの展示にも変化が出ていますね。

 2015年のiEXPOでは、160個の展示ブースがありました。各事業部門が自分たちのソリューションを、「我こそは」といって展示を競い、160の部門が160の展示をすることで、NECの総合力を見せていたのです。それはそれでいいのですが、果たしてそれで、本当にお客さまに伝わっているのだろうかという疑問が生まれました。

 iEXPOの展示会場は、NECとして社会とどう向き合うのか、という社会ソリューション企業としてのスタンスを説明するものであり、各部署の展示即売会ではありません。個別の製品や技術を展示してお客さまに買ってくださいというのではなく、いろいろな部門の技術や製品を組み合わせ、ストーリー性を持たせ、価値観を語れることが必要だと感じました。

 結果として、2016年は100弱の展示に減らし、2017年は約70の展示にしました。そして、2018年は50に減らしています。

2018年のiEXPOでは、3つのゾーンにわけて50のテーマを展示していた。2015年と比べて、展示の数は1/3以下になっているという

 この提案に対しては、当初は現場から大きな反発がありました。予算持っているのは各部門ですから、やりたいようにやるという気持ちもあったのでしょう。しかしイベントが終了したあと、展示の数を減らしたにも関わらず、「詳しい話を聞きたい」、「提案をしてほしい」という話が3倍に増えたのです。

 この技術を見てくださいではなく、お客さまの課題解決にどう生かせるのかということにコンパイルし、ソリューションとして展示したことで、来場者からは、わかりやすくなった、伝わりやすくなったという評価をいただいています。

 技術や製品を展示するだけでは、私たちは「ベンダー」の立場から抜け出せません。私たちが目指しているのは、お客さまと一緒になって課題解決を考える「パートナー」です。パートナーとして選んでもらえるための展示をした結果、「NECにちょっと相談してみるか」ということにつながるわけです。iEXPOでも、そうした変化が生まれています。

――新野隆社長は、NEC自らを、「いい技術は持っているが、その技術を外に訴求していくことや、技術をマネタイズすることが下手だ」といっています。これは改善されつつあるのでしょうか。

 肌感覚としては、変化をしている気がします。私は、CxOの「C」は、チーフではなく、チェンジだと思っています。CIOは、ITの力を持って会社を変えていくのが仕事ですし、私はCMOですから、マーケットに訴えて、その観点から会社を変えるのが役割です。

 仮に、マーケティングメッセージのポイントがずれていれば、市場戦略がずれるだけでなく、製品開発投資のずれにつながり、ひいては事業戦略、経営戦略そのもののずれにつながります。その点を強く意識しています。

――マーケティングによる成果は、なにで推し量るのでしょうか。

 最終的には業績ということになります。中期経営計画や年度方針の数値にミートすることが、最低限、やらなくてはならないことです。

 例えば、競争入札などでガチンコで戦う場合には、性能競争よりも価格競争が前面にでる場合が多くなりがちです。結果として、利幅が薄くなります。

 一方でお客さまから指名を受けた仕事は、健全な利益をいただけるものとなります。NECというブランドをお客さまから積極的に選んでもらえるようになったり、新たなことをやりたいと思ったら、まずはNECに聞いてみる、あるいは、まずはNECとPoCをやってみようといったことが増えれば、それは、最終的にはNECの利益率のプラスとなって表れることになるでしょう。そうした観点から、我々は利益率を押し上げることに貢献できると思っています。

グローバルビジネスの拡大へ向けて

――いま、NECが抱える課題はなんでしょうか。

 全社的な課題として、グローバルビジネスの拡大というテーマがあります。NECの売上げ構成比は、約75%が国内です。グローバルの売上げ構成比をどう上げるのかが課題となります。しかし、今はその比率に準拠するように、マーケティングを担当する社員の75%が国内を向いています。いや、もっと高い割合で日本市場に向いているのが現実です。実態としては、グローバルのマーケティングについては、各リージョンにお願いしているにすぎないという状況にとどまっています。

 NECは、グローバルでの成長を目指すといっているのに、いまのままでは、成長するための体制が整っているとはいえません。マーケティングは、売上比率が変わってから手を打つのではなく、売上比率に先行して手を打ち、そのあとに売上比率がついてくるのが正しい姿です。

 ですから今後は、グローバルの取り組みを強く進める考えです。昨年秋に、グローバルのマーケティング担当者を100人以上集めて、方針などを説明する「グローバルマーケティング&コミュニケーション会議」を日本で開催しました。

 来年度以降、日本のマーケティング担当者もグローバルを意識した取り組みを開始することになります。海外の現地スタッフだけでは、動画コンテンツを作るノウハウも不足していますから、そうしたところは日本から支援をしていきます。

 実は2018年度から、事業部門ごとに配置していたマーケティング機能を横断的な組織にまとめました。

 NECは、メディアやインダストリーアナリストなどを対象にしたブランドコミュケーションと、サーバーやPCなどのセールスプロモーションの両翼のマーケティングには取り組んできましたが、その真ん中にあるプロダクトマーケティングやデジタルマーケティングといった、マーケットとの継続的な接点づくりに弱さがありました。

 今は、ソリューションや製品開発のかなり早い段階からマーケティング部門が参加し、市場性や競合に対するNECの立ち位置などについて情報を共有し、3C(コンペティター、カンパニー、カスタマー)や4P(プロダクト、プライス、プロモーション、プレイス)といった観点から、事業部門に深く入り込むようにしています。

 組織を統合したことで、事業部門と話して、専門家の立場から、3C4Pをしっかりと提案していくことができるようになりました。

 事業部のなかにいると自分の製品やソリューションが可愛いですから、それをわかってほしい、これを売りたいというマーケティングになりがちです。マーケティングによる価値訴求が、あるときは価格という場合もありますし、ある時にはスピードということもあります。あるいは安定感という場合もあります。

 このときに重要なのは、お客さまのニーズを考えてなにが大切かということです。例えば、NECが「通信」を語るときには、速さではなく接続性が大切になります。安定してつながっていることが前提になるわけです。

 NECの技術や製品でつなげば、品質を維持して、高品質の通信環境を提供するということが、NECがネットワークを訴求するポイントになる。こういうことを、3C4Pの観点から事業部門に話して、お客さまニーズにマッチした的確なマーケティングにつなげていきたいですね。

 さらに、NECはCS(顧客満足度)を重視する会社ですが、これまでのCS推進部門は、調達部門にひも付いていました。これをマーケティング部門に取り込みました。NECの基本姿勢は、いいものを開発していいものを販売するというものですから、調達部門が買ってきたものや、それを元に開発したものが、安心して使ってもらえることで、お客さまの満足度に直結するという姿勢がありました。ですから、調達部門がCSまで見ていたわけです。

 2018年度からはマーケティング部門のなかに組み入れたことで、お客さまの声を開発や調達にフィードバックする仕組みとしました。つまり、製品にひも付くCSではなく、お客さまに密着した形のCS推進体制に変えたわけです。お客さまの声を常にタイムリーに拾い上げ、タイムリーに事業部門にフィードバックする体制をつくり、マーケティング部門がそのハブの役割を果たすことになります。

 例えば、お客さまのログを見ていると、利用時間が少なくなったとか、ログインが減ったり、書き込みが少なくなったりということがわかります。これは、私たちの製品になにか問題があったり、不満があったりということが背景にあるわけです。利用しているお客さまからお叱りをいただく前に、それに気がついて、コミュニケーションを取ることができれば、事前に課題を解決して、より緊密な関係ができるわけです。

 海外については、まだマーケティング機能を統合をしていないのですが、ここについては、組織を変えれば、プロセスが変わるというのではなく、やり方が変われば、それに最適化した形で組織を変えるという考え方で取り組んでいきたいと思っています。

事業戦略に最初からマーケティング戦略が組み込まれた状態を強化したい

――NECの成長戦略において、マーケティング部門が果たす役割はなんでしょうか。

 ブランディングとプロモーションといった観点だけでなく、事業戦略のなかに最初からマーケティング戦略が組み込まれているような状態を、もっと強化したいと考えています。

 この先の成長においては、新規にお客さまを獲得して、モノをバンバン売って、対価をもらうといったビジネスが減少します。

 NECがサービスカンパニーにシフトするなかで、お客さまとの関係性を維持、強化することが、マーケティングにおいて重要な役割になると思っています。NECはお客さまと、リスクもベネフィットもシェアするパートナーにならないと生き残っていけなくなるでしょう。既存顧客との関係を、より強固に築くことを重視した方が、利益確保にもつながります。選ばれるブランドになること、関係性を強くすることは、利益率を上げることにつながります。

 社内を見ると、課題感や危機感を持っているNECの社員が増えています。私はNECに入ってからまだ3年ですから、知っている社員の方が少ないのですが、最近では、社員の方から私に声をかけてくれるということが増えました。社内で書いているブログを見て、「ブログ、読んでますよ」とか、「デジタルオールスターズに入りました」ということを言ってくれるわけです。

 私自身、折角、中途採用で入ってきたので、これまでの経験を生かし、NECの文化を尊重しながら、企業文化を変化させていきたい。もちろん、「これは身体にいいから」といってカンフル剤を一気に注入しても、かえって身体にはよくない場合もありますから(笑)。

 そのあたりは注意深くやっていかなくてはいけないと思っています。