インタビュー

クラウドは成長の“伸びしろ”、NetAppが進める新たなビジネスとは?

米NetAppのハウSVPに聞く

 ネットアップ株式会社が12月11日に開催したイベント「NetApp Innovation 2019 Tokyo」の基調講演では、ストレージ機器よりクラウド上のソリューションのほうが主なテーマになっていた。

 NetAppがなぜクラウドに力を入れるのかについて、基調講演にも登壇した米NetAppのSenior Vice President ONTAP Data ServicesであるBrendon Howe(ブレンドン・ハウ)氏に話を聞いた。

米NetAppのBrendon Howe氏(Senior Vice President ONTAP Data Services)

クラウドはこれからの成長の伸びしろ

――基調講演では、クラウドが主役でハードウェアが脇役だったことに驚きました。

 記者やアナリストには「ハードウェアのビジネスを放棄するのか?」と聞かれますが、もちろんノーです(笑)。NetAppのハードウェアは多くの企業に愛用され、主力ビジネスです。その先の成長の伸びしろとしてクラウドについて話しています。

 NetAppでは、大手IaaSがAWSぐらいしかなかったころから、成長の可能性としてクラウドに注目しています。そして、ユーザーがクラウドを活用したいのであれば、どうNetAppがお手伝いできるかを考え、プロダクトを提供してきました。

 そこでわかったのは、クラウドを使っているユーザーは、われわれのプロダクトがネイティブサービスとして提供されることを望んでいるということです。そこで、クラウドでもオンプレミスでもAPIで同じように扱えるようにしました。ユーザーはシステムが欲しいわけではなくサービスとして利用したいわけで、競合のストレージハードウェアベンダーは、われわれの5年前の段階にあるといえます。

――クラウドでのビジネスの、特に日本での感触はどうでしょうか。

 まだ初期段階で、われわれの売上割合としては小さいものですが、大切なビジネスです。まずは小規模で始め、成功事例を作ることで、大きな市場を取っていく必要があります。日本でも、最初の10社のお客さまから成果を出していきます。日本市場には多くのチャンスがあり、楽しみにしています。

デザインルールは「No API, No Service」

――基調講演では、ゲノム解析のWuXi NextCODE社の事例が紹介されました。Cloud Volumes Serviceを採用することで、計算性能を向上させコストを削減したという話です。これがなぜCloud Volumes Servicesによって実現できたのかがよくわからなかったので、教えてください。

 WuXi NextCODEでは非常に大規模なゲノムデータベースを持っており、依頼してきた人の遺伝子とのパターンマッチングにより、健康の属性を把握できるサービスを提供しています。そのデータ量も計算負荷も非常に高いので、クラウドに移行する必要がありました。そこで、Cloud Volumes Serviceにより、計算時間を短縮でき、コストもかなり下げることができました。

――それをなぜストレージで解決できたのでしょうか。

 まず、われわれのストレージのほうがAWSより価格が安いということがあります。しかしそれ以上に、Cloud Volumes Serviceにより計算ノードを柔軟に増減できるようになったことのほうが大きな影響がありました。

 Cloud Volumes Serviceは共有ストレージなので、1つのストレージを複数のノードに同時にマッピングできますが、AWSのEBSなどでは1:1のマッピングになります。そこで、Cloud Volumes Serviceを使うことでスケールアウトやスケールインが柔軟にできるようになって、パフォーマンスを上げ、コストを下げることが可能になりました。

 AWSにはEFS(Elastic File System)などもありますが、われわれのほうがパフォーマンスが有利です。

――基調講演の最後では、Cloud Centralの画面にクラウドからオンプレミスまでのストレージを表示し、データファブリックの各種サービスを同じように利用できるサービスイメージをデモしていました。このデモの意味と、どこまで実現しているかを教えてください。

 われわれのデータファブリックは、コンセプトなのか、製品なのか、戦略なのかなど、なかなかわかってもらえないのが課題です。そこで、開発中のプロジェクトを見ていただくことで、ユーザーにとってのデータファブリックを理解してもらう目的のデモです。

 データファブリックの各サービスは、AWSとAzure、Googleで提供できています。日本リージョンではまだAWSだけですが。

 今回のデモは、データファブリックをユーザー自身で定義するものであること、APIを通じてサービスをマネージするプラットフォームであることを見せたものです。お客さま自身の環境を組み合わせて、一般的なAPIでマネージできる。この実現はかなり先まで見えていて、近日中にリリースする予定です。

――例えば、ほかのベンダーの製品も扱える可能性はあるのでしょうか。

 はい。簡単な例でいうと、Cloud BackupはEMCのストレージのバックアップにも使えます。また、例えばNutanixでプライベートクラウドを構築していて、パブリッククラウドに拡大したいというユーザーもいるでしょう。こうしたことをうまくやるには、ベンダーにとらわれない、オープンなAPIやオープンなプラットフォームが必要です。

――その実現のためにNetAppではどのようなことをするのでしょうか。

 われわれからのアクションはありません。他社でオープンなAPIを提供していれば、それを使います。NetAppではAPIをオープンにすることをデザインルールとしており、「No API, No Service」(APIのないサービスなんて)と言っています。

クラウドで成長すればハードウェアも成長する

――NetAppでは、ストレージ機器を中心に、クラウドを含めてデータ管理のさまざまな分野にビジネスを広げています。現在の競合といえるのは、どのような会社でしょうか。

 まだはっきり見えていませんが、従来の競合とは違います。われわれは、ユーザーがハイブリッドクラウドを可能になるよう独特のやりかたで実現しています。

 例えば、ハイパースケーラーと呼ばれる最大規模のクラウドプロバイダーは、おそらくCloud Volumes Serviceなどと同じようなものを作ろうとしていると思います。そういう意味ではパートナーでもあり競合でもあります。われわれは、“Cooperation(協力)”と“Competition(競争)”を合わせた“Coopetition”と言っています。

 この競争にあたって、われわれはユーザーを大事にし、特定のクラウドに特化しないものを作っていきます。それができれば、われわれの不安は解消しますし、できなければわれわれの将来はありません。

 おそらくエンタープライズ顧客にとって、1つの正解というのはないと思います。すべてクラウドになるとか、すべてAWSになるとかいったことを言う人もいますが、われわれはそう思っていません。そこで、ヘテロジニアスで、さまざまなベンダーと取り組めることが大切だと考えています。

――最後にメッセージを。

 皮肉なことに、NetAppはストレージベンダーとして成功したため、ハードウェアの箱の会社と思われています。

 われわれは会社をあげて、この見られ方を変えようとしているところです。われわれは、アクティブでディスラプティブ(破壊的)である必要があり、そうでなければこの領域で勝っていくことはできません。実現は大変ですが、NetAppはいいポジションにいると思います。

 われわれは、NetAppがクラウドで成長できれば、ハードウェアのビジネスも成長すると考えています。そのとき、オンプレミスとクラウドを併用する会社にとって、より意味を持つ会社になっていると思います。