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マイクロソフト「de:code 2020」基調講演レポート、AzureやPower Platform、セキュリティなど5つのパートを紹介
2020年6月23日 06:00
日本マイクロソフトによる開発者向け年次イベント「de:code 2020」が、6月17日に開幕した。今年はオンライン開催で、3D空間または2D表示で参加する。会期は6月30日までとなり、セッションのオンデマンド動画が順に追加されていく形式だ。
ここでは、最初に公開された基調講演の模様をレポートする。基調講演は、日本マイクロソフト株式会社 CTOの榊原彰氏の講演に始まり、「Azure / DevTools」「Power Platform」「Microsoft 365」「Security」「Mixed Reality」の5分野のパートが設けられた。
それぞれの分野について、ブレークアウトセッションの前の概論が語られ、米Microsoftのイベント「Build 2020」での発表の一部も紹介された。特に、Power PlatformとTeamsが目立ったのが印象的だった。
新しい現実には、社会基盤の各層にITを
まず、日本マイクロソフトのCTOでありマイクロソフト ディベロップメントの代表取締役社長でもある榊原彰氏が登場した。
榊原氏は、COVID-19パンデミックを、これまでのバブル崩壊や金融危機、リーマンショック、東日本大震災といった社会と経済のショックを並べて、「今回も乗り越えられると信じている」と語った。そして、金融危機のときにフィンテックのスタートアップが台頭し、リーマンショックのときにシェアリングエコノミーが出てきたように、新たな経済形態がITにより加速するだろうとした。
ただし、ものごとを単に電子化していた時代から、人や物流、事象の挙動をふまえたソリューションを作る段階になっており、道のりは平坦ではないという。
新しい現実=New Normalには、新たな社会規範が必要となる。ソーシャルディスタンスや、物流やサプライチェーンの変化、フェイクニュースやインフォデミックを阻止していく必要、教育や働き方のデジタル化、そしてこれらを含む社会のスマート化だと榊原氏は言う。
また榊原氏は社会基盤を、道路などの公共基盤、電力やガスなどの社会インフラ、銀行や病院などのサービス基盤の層で示し、「よりITの力を各層に入れて、スマートシティだけでなく、より洞察のある社会にしていかなければならない」と語った。
技術と情熱で社会に寄与する
ここで榊原氏は、Build 2020で発表された技術をいくつか紹介した。量子コンピュータの「Azure Quantum」や、機械学習のマシンティーチングの「Bonsai」、リアルタイムのデータ分析の「Azure Synapse Link」、OpenAIと協力して開発したAIスーパーコンンピュータだ。「de:codeでは、こうした技術を各セッションで紹介する」と氏は紹介した。
こうした技術をさまざまな人が利用して課題解決する。ITプロフェッショナル(IT管理者)や、プロフェッショナルディベロッパー、市民開発者(シチズンディベロッパー)だ。
「いろいろな人たちが、より情熱を持って社会に貢献」しているとして、日本マイクロソフトまわりの人がかかわったCOVID-19関連の問題解決の取り組みを榊原氏は紹介した。
「Covid19 Radar」はCOVID-19の接触確認アプリ。GitHubでオープンソースプロジェクトとして公開され、多くの人が開発にたずさわった。なお、プロジェクトの中心となったのが、次のAzureのパートで登場する廣瀬一海氏だ。
「COVID-19対策エンジニア」コミュニティは、新型コロナに起因するいろいろな事柄をITで解決する活動。直接的なものだけでなく、在宅で自粛期間に技術の学習を進めるのを支援、といったこともしている。
「[Make IT Commodity] COVID-19 in Japan」は、COVID-19に関するデータを可視化する取り組み。この後のPower BIのパートにてゲストで登場する、株式会社セカンドファクトリーの清水優吾氏(Microsoft MVP)によるものだ。
そのほか、社内のアイデアソンや、3Dプリンターでフェースマスクを作って医療機関に寄付する活動なども榊原氏は紹介した。
ここで榊原氏は、最近Microsoftが言っている「Tech intensity」という言葉を挙げ、「私はもう1つ追加したい。『情熱』を持つことで、初めて社会に寄与する」と語った。
SPAやWebAssembly、データ分析の新プロダクト
分野別パートの1つめとして、「Azure | Developer Velocity」の題で、日本マイクロソフト株式会社の廣瀬一海氏(クラウドネイティブ&デベロッパーマーケティング部 シニアプロダクトマネージャー)が登場。Build 2020でのAzureまわりについて、開発者向けの発表をピックアップして紹介した。
廣瀬氏はまず、Microsoft Teamsが、COVID-19の影響もあって1日7500万人が合計41億分使われていることを紹介。「これを支えているのがAzureのPaaS群」として、各種サービスを挙げた。
Azureは5月時点で世界61リージョン。Oracle Cloudと相互接続するOracle interconnectも始まった。
新発表されたサービスの1つめは「Azure Static Web Apps」。SPA(Single Page Application)やPWA(Progressive Web Application)、静的サイトを無償でホスティングする。GitHub ActionによりJAMStack(JavaScript、API、Markup)を実現したり、Azure Functionsと統合してサーバーレスアプリケーションを実装したり、Azureの認証機構などを使ったりして、迅速にSPA/PWAを開発できるという。
2つめは、.NETランタイムがブラウザの中で動く「Blazor WebAssembly」だ。これによってWebアプリケーションを一貫してC#で作れ、nugetで.NETライブラリを取り込んで開発したり、社内のアプリをWebAssemblyにしたりできる。.NET Core SDK 3.1.300以降で利用できる。
3つめは、データ分析の「Azure Synapse Link」。Cosmos DBのデータを、ETLなしでダイレクトにつないで、リアルタイムで分析できるものだ。Power BIで可視化することもできるという。
リモート開発を助けるツールやサービス
続いて廣瀬氏は、New Normalとグローバルイノベーションの時代の開発のありかたとして、リモートコーディングについて語った。
氏はまず、課題となる事項を紹介した。リモートコーディングの課題としては、セキュアではないリモートデスクトップ接続、環境セットアップの時間、バグ増加という品質の問題を挙げた。リモートコラボレーションの課題としては、コラボレーションや、コミュニティ、チームワークを挙げた。さらにリモートデリバリの課題としては、自動化やサポート、セキュリティを挙げた。
この問題に対してまず、Visual Studio Codeでは、拡張機能とキーボードショートカットを複数の端末で同期して、どこからでも同様の操作性で開発できる機能をプレビューで提供している。そのほか、Visual Studio CodeをベースにしたWeb上のIDE「Visual Studio Codespaces」もある。
Visual Studio 2019では、リモート共同開発のLive Shareや、GitHubの統合機能がある。Live Shareについては、Build 2020で音声とテキストのチャット機能も発表された。
リモートでアジャイル開発するときには、Azure Boardsによるアジャイルプランニングが利用できる。例えばTeamsとAzure Boardを組み合わせてデイリースタンドアップミーティング、といった使い方ができるという。
Microsoft傘下のGitHubでもアップデートがある。GitHub CodespacesはVisual Studio CodespacesのGitHub版で、よりGitHubに統合されているという。また、GitHub Private Instancesは、企業向けにマネージドで展開されるGitHub Enterpriseだ。
そして、Teamsをハブとして、GitHubとDevOpsを統合することで、チームコラボレーションを強化できると廣瀬氏は語った。
そのほか廣瀬氏は現実の世界とMinecraftの世界を融合させるMixed Realityの「Minecraft Earth」も取り上げた。
そこから、AzureでのMixed Reality(複合現実)の技術として、空間アンカーを扱うAzure Spatial Anchors(リリース版)と、3DデータをAzureでレンダリングしてストリームするAzure Remote Rendering(プレビュー版)を紹介した。
65%のエンタープライズアプリケーション開発がローコードになる
分野別パートの2つめはPower Platformだ。
ここで登場した米Microsoftのチャールズ・ラマナ氏(ローコードプラットフォーム担当 コーポレート バイス プレジデント)はまず、Power Platformが含まれるローコード(GUIによる簡易的なプログラム開発)の市場についてデータを挙げた。
いわく、今後5年間で新たに作られるであろうアプリは5億個。モバイルアプリの需要はIT部門が供給できるより5倍で増加。85%以上の組織で非構造データの分析に苦労。86%の組織でスキルのある技術者を見つけるのに苦労している。そして、65%のエンタープライズアプリケーション開発は2024年までにローコードになるということだ。
その上でラマナ氏はPower Platformを、Office 365、Azure、Dynamics 365、単体アプリケーションをつなぐ、統合されたローコードプラットフォームとして紹介した。Power Platformには、業務分析のPower BI、アプリケーション開発のPower Apps、業務プロセス自動化のPower Automate、チャットボットのPower Virtual Agentsの4つのプロダクトがある。
ラマナ氏は、Power Platformがこれまでなかった速さで問題を解決するとして、市民開発者(ビジネス部門の人)やIT担当者(システム管理)に加えて、プロの開発者にも役立つものと説明した。
氏はPower Platformの対象を、大規模で作り込まれたシステムではなく、ロングテールにあたる末端の何千もの業務のデジタル化だと述べた。こうした部分ではコストやスキルのある従業員を割り当てられない上、ビジネスに携わっている人が直接問題を解決する必要がある。
こうした取り組みはこの数年驚異的に成長しており、さまざまな業界のFortune 500企業の97%がPower Platformを使っているとラマナ氏は語った。
プロの開発者+Power Platformは無限の可能性
ここでラマナ氏はPower Platformの主な新機能の概要を紹介した。3D空間を実現するMR(複合現実)や、RPA、対話型AIによるチャットボット、Power BIでのCommon Data ServiceのDirect Queryへの対応、Common Data ServiceのT-SQLへの対応だ。RPAについては、MicrosoftがRPA技術のSoftmotive社を買収したことも紹介された。
クラウドやオンプレミスのシステムとの接続性も語られた。300以上の業務SaaSやデータベースなどのクラウドサービスに接続するコネクタや、オンプレミスシステムに接続するオンプレミスデータゲートウェイのほか、APIとカスタムコネクタを公開すれば市民開発者も再利用できるとラマナ氏は説明した。
こうした接続性によりAzureの機能をシームレスに利用することで、プロの開発者とPower Platformの組み合わせは無限大の可能性を持ち、その上でローコードの開発もできるというシングルプラットフォーム性をラマナ氏は強調した。
2週間で開発された東京都の新型コロナ軽症患者アプリ
ラマナ氏から日本マイクロソフト株式会社の平井亜咲美氏(ビジネスアプリケーション事業本部 プロダクトマーケティングマネージャー)にバトンタッチし、Power Platformの日本における事例が紹介された。
平井氏はまず、世界の課題をすぐに解決するのがPower Platformであると説明。デジタル化や新型コロナで生活や仕事、ビジネスが変化する中で、柔軟かつスピーディに対応するために、Power Platformのようなローコード開発には大きなメリットがあるとした。
そしてPower Platformについて、GUIで開発でき現場のフィードバックを受けて速いスピードで開発できること、あるものを使って新しいものを開発する作業効率の向上、OSやデバイスを問わず広く展開できることを特徴に挙げた。
ここで挙げられたのが、東京都福祉保険局の事例だ。新型コロナの軽症患者の健康状態を報告するスマートフォンアプリを2週間で開発したという。GitHubで公開予定。
患者はスマートフォンから、体温などの健康状態を報告し、セルフサービスの問診に答える。自分のデータについては閲覧もできる。
看護師は、自分の担当する患者の報告した健康状態の推移や詳細データなどを、タブレットなどから表示できる。また、Power BIのレポート機能を使って、レポートの提出状況を確認し、未提出患者に提出を求めるということもできる。
管理者には、マスターデータの登録や、データの一括編集とエクスポートなどの機能がある。個人情報を扱うので、アクセスコントロールに注意しているという。
神戸氏が新型コロナ関連ソリューション3つを1カ月以内で開発
もう1つのPower Platformの事例として、神戸市の事例も、米Microsoftの吉田大貴氏(Power Platform CAT エンジニアリングチーム シニアプログラムマネージャ)が紹介した。
吉田氏が聞き手となり、事例を担当した神戸市の伊藤豪氏(情報化戦略部ICT総合戦略担当)が登場。協力したMicrosoft MVPの、株式会社セカンドファクトリー清水優吾氏と、株式会社ソントレーゾの中村亮太氏をまじえて、開発の背景が語られた。
開発されたのは3つ。相談先や受診先を案内するチャットボットと、新型コロナウイルス関連情報のダッシュボード、特定定額給付金の申請の進捗状況を確認できるサイトだ。
基本的には伊藤氏の開発で、清水氏や中村氏、神戸市の職員の協力を得て、1カ月以内でリリースしたという。伊藤氏は初めてPower Platformで開発したが、「操作が直感的なので、初めてでも開発できた」と感想を語った。
効果としては、特定定額給付金の確認サイトの例を伊藤氏は紹介した。ピーク時でコールセンターに1日4万件の問い合わせがあったのが、1日3000件程度になり、コールセンター業務を効率化できたという。
清水氏は、初心者がPower Platformにキャッチアップするコツとして、毎日触るとよいと語った。すると、すぐに困ったことが出てくるので、Microsoftの公式ドキュメントで調べ、トライアルアンドエラーを繰り返す。「それが一番近道じゃないかと思う」(清水氏)。
また中村氏はPower Platformの意義について、これまでWordやExcel、PowerPointが紙の形での効率化なのに対し、Power Platformがデジタル化という新しい形で推進できるのではないかと説明。「市民開発者が増えることを期待している」と語った。
Microsoft 365は開発のプラットフォームでもある
分野別パートの3つめはMicrosoft 365だ。Microsoft 365は、Windows 10とMicrosoft Officeのサブスクリプションライセンスやクラウドサービスをまとめたもので、Teamsもここに含まれる。
米Microsoftのジャレッド・スパタロウ氏(Microsoft 365 担当 コーポレート バイス プレジデント)は、Microsoft 365について、セキュアで生産性が高いものとして「われわれは『The world's productivity cloud』と呼んでいる」と語った。
その上で開発者向けに、WordやExcelなどのオフィスソリューションだけでなく、仕事の生産性を向上させるための開発のプラットフォームでもあると説明した。
スパタロウ氏はMicrosoft 365のソリューションのスタックを図示した。いちばん下にあるのが「Microsoft Graph」で、氏は「データとシグナルが入るコンテナで、人と仕事がどう働くかを記述している」と説明した。
その上に来るのが、Webベースで文書共同作業を実現する「Fluid Framework」だ。スパタロウ氏は「Windows、Mac、モバイル、Webアプリで同じように使える」と語った。
さらにその上が「Microsoft Teams」だ。「コラボレーションツールで、リモートワークを可能にするだけでなく、アプリケースのベースともなる」と、スパタロウ氏は開発者向けに説明した。TeamsとMicrosoft Officeを組み合わせることで、会議の最中でも前後でもOfficeが使えるという。さらに、それ以外のアプリケーションもTeamsと統合でき、「サードパーティアプリを連携した企業はここ2カ月で3倍になった」と氏は語った。
そしてその上で、Microsoft 365はデバイスやOSに関係なく使えることをスパタロウ氏は強調した。
TeamsとWindowsのBuild 2020での発表
続いて、Build 2020でのMicrosoft 365関連の発表について、日本マイクロソフト株式会社の山崎善寛氏(Microsoft 365 ビジネス本部 本部長)が紹介した。
山崎氏はまず、開発者に向けたプラットフォームとしてのMicrosoft 365について、4つの開発領域を挙げた。まずMicrosoft Teamsは、ビジネスチャットだけではないプラットフォームだ。Microsoft Graphは、Microsoft 365のデータにアクセスする入り口であり、膨大なデータにアクセスして新しいアプリを開発できる。Fluid Frameworkは、シームレスなアプリケーションを開発するための新しいフレームワークであり、Build 2020でオープンソース化がアナウンスされた。そして4つめはWindowsだ。
その中から山崎氏は特に、TeamsとWindowsについて紹介した。
まずTeams。2019年末にはDAU(Daily Active Users)が2000万人と発表していたが、2020年5月には7500万人を超えた。会議の数も3月から4月で倍増。加えて、スパタロウ氏も紹介したように、Teamsをプラットフォームとしたサードパーティアプリ開発が、ここ2カ月で3倍になった。
Build 2020では、TeamsとほかのMicrosoft製品の連携の強化が発表された。まず、Power Platformでは、チャットボットを作るPower Virtual AgentのTeams対応や、RPAのPower AutomateでのTeams用テンプレートなどだ。また、Visual StudioとVisual Studio Code向けに、Teams拡張機能が登場した。またAPIとしてTeams Graph APIsのバージョン1.0がリリースされた。
続いてWindowsだ。Windows 10は月間アクティブデバイス1億台に達し、Windows 10で費やしている時間が75%増加したという。
Build 2020ではWindowsについて、Win32とUWPの2種類のAPIを統合する「Project Reunion」が発表された。これにより、さまざまな種類のWindows 10で動くアプリケーションを開発できるようにするという。まずWin32から利用できるWinUI 3 preview 1の提供を開始する。
そのほかのWindowsについての発表としては、端末エミュレーターのWindows Terminal 1.0のリリースや、Windows 10内でLinux環境を動かすWSL 2(Windows Subsystem for Linux 2)、パッケージマネージャーのWindows Package Managerプレビュー版を山崎氏は紹介した。
震災や新型コロナにTeamsで臨んだ熊本市の事例
ここで、熊本市のMicrosoft 365導入事例の紹介として、市長の大西一史氏が登場した。
熊本市では、2016年の熊本地震からの復旧復興にあたり、日本マイクロソフトの協力を受け、Microsoft製品や、中でもMicrosoft 365を採用した。特に震災により、何かあっても役所を継続できる体制として、リモートワークなど働き方改革を進めてきた。
Teamsはもともと、庁内の会議や保健所などのセンシティブ情報を扱うところで使われていた。それが全面的に利用されるようになったのは、新型コロナ危機が始まった2020年2月から。当初は、センシティブ情報向けにいろいろ制限をかけていたので使いづらかったが、制限を解除したところ、あっという間に広まったという。
「使ってみるとこんな簡単にできたのかと思った。ノートPCやタブレット、スマホでアクセスできて、しかもセキュア。働き方を見直す上でも大きなツールになったなと思う」と大西氏は語る。
特に、震災と違って自宅から動けないことが、全体でTeamsを使う機運になったという。4月6日には、大西氏自身がリモートワークを始めると市民に宣言した。庁内のグループも自然発生的に作られ、「私が知らないところでグループができて、突然呼ばれて参加したりということもありました」という。「使い方として、だいぶ、日常的にやっていることをTeamsで置き換えるようになりました」(大西氏)
セキュリティ管理のキーワード「Security Posture」
分野別パートの4つめはSecurityだ。日本マイクロソフト株式会社の河野省二氏(技術統括室 チーフセキュリティオフィサー)はまず、同社が考えているセキュリティのオーバービューについて語った。
企業で言われているセキュリティ管理の課題として、新しい手法の攻撃や、増え続ける対策ソリューション、セキュリティ管理の複雑化がある。これに対してSIEMを導入しても、分析に時間がかかり、本来の目的である迅速な対応ができないという。
そこで河野氏が挙げたキーワードが「Security Posture」だ。直訳するとセキュリティに対する姿勢で、「攻撃があっても動じないIT環境の新しいカタチ」を意味するという。
Security Postureの1つめは、脆弱性のない環境を作ること。これには、すべての資産の状態を把握する「デジタルガバナンス」と、健康を保つ「サイバーハイジーン」が含まれる。Microsoftソリューションでは、IDベースのゼロトラストがある。
2つめは、インシデント対応の軽量化。そのために、よそで起きた事故のいきさつを手に入れて活用する「脅威インテリジェンス」や、「対応の自動化」が含まれる。Microsoftソリューションでは、Modern SOCがある。
「これがDevSecOpsの構築にも役立つ。むしろ前提条件」と河野氏は語った。
セキュリティ分野のBuild 2020での発表
続いて河野氏は、Build 2020で発表されたセキュリティ分野のトピックを紹介した。
まず「Azure AD External Identities」。Facebook IDなど、外部のIDでサインインできるシステムを構築するものだ。
続いて、Microsoft Security Scoreの拡張。Microsoft Security Scoreは、最低限のセキュリティ対策を実施しているかどう確認することと、目標に対してどのぐらい成熟度が高まっているかを確認の2つの側面がある。
今回の新機能としては、APIとして、Microsoft Graph Security APIとASC Security Score APIが提供される。これにより、開発の現場や、従来の環境で組み込みやすくなるという。
みらかグループのAzure Sentinel導入事例
続いて河野氏は、クラウドネイティブSIEMの「Azure Sentinel」を紹介した。Microsoft 365やAzure、その他のクラウド上のインシデントを自動分析・対応する。
このAzure Sentinelの導入事例として、臨床検査などの みらかグループの例が紹介された。まずMicrosoft 365 E5を採用した後、それをAzureやほかのクラウド、IoTなどにも広げたい、さらにサプライチェーンにも広げたいということで、Sentinelを導入したという。
さらに河野氏は、「Azure Sentinelを使ってサービスを構築していく、先進的な取り組みをしたい企業をサポートするパートナーが多数いる」として、パートナープログラムのMicrosoft Digital Trust Security Allianceを紹介した。
HoloLens 2が7月からMicrosoftストアでも発売
分野別パートの、最後の5つめはMixed Reality(複合現実)だ。
米Microsoftのドン・ボックス氏(Mixed Reality テクニカルフェロー)は、まずMixed Realityチームを紹介し、Mixed Realtyのエクスペリエンスやデバイスなどを開発していると説明した。
MicrosoftのMixed Realtyでは、クラウドによる機能はAzure上で動作している。その1つが複数のデバイスが時間と空間を超えて座標系を共有する「Azure Spatial Anchors(ASA)」で、情報を配置したり検出したりできるという。ASAは2020年5月に正式リリースされ、SDKをダウンロードして使える。iPhoneやAndroid、HoloLens 2で実行できる。
もう1つは、4月にプレビュー版が公開された「Azure Remote Rendering(ARR)」だ。デバイスの能力では生成できないモデルをAzureに投げると、Azure上でレンダリングし、デバイスにストリームというものだ。その結果、緻密(ちみつ)で精度の高いコンテンツが生成される。
「ASAもARRもSDKが入手可能なので試してほしい」とボックス氏は語った。
続いてデバイスについて。ボックス氏は頭に着けていたHoloLens 2を指して「私がいま装着しているスタイリッシュなHoloLens 2が最近(2019年11月)リリースされた」と語った。「非常に高性能でユニークなもので、初代HoloLensを使ったことがあれば違いがわかる」とボックス氏。
そして、2020年7月にMicrosoftストアでも販売開始するとアナウンスして、「購入希望者はhololens.comまで」と語った。
最後に「リモート会議にうってつけ」とボックス氏が紹介したのは、「AltspaceVR」だ。いわば、TeamsやZoomによるビデオ会議のVR版で、2017年にMicrosoftが買収したAltspaceVR社の技術だ。
「TeamsやZoomとは根本的に違う。AltspaceVRでは複数の人と、物理的に分散していても、空間的に近接して体験できる」とボックス氏。「例えばみなさんは私の映像をインターネット越しに2Dで見ているが、距離感はどうだろうか」
そしてボックス氏は「AltspaceVRでは、ダンスパーティーや卒業式やベビーシャワー(出産前に妊婦を祝うパーティ)もできる」として、「われわれも2週間前にMixed Reality Dev Daysという開発者向けイベントで使用した。みなさん、特にHoloMagicians(日本のHoloLensコミュニティ)に感謝する」と語った。