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グーグル・クラウドの最新ソリューションを紹介、「Google Cloud Day:Digital」基調講演レポート
Anthos GKE on AWSやGoogle Cloud VMware Engine、AIサービス群など
2020年6月10日 11:29
グーグル・クラウド・ジャパンのイベント「Google Cloud Day:Digital」が6月9日~11日に開催されている。
主にエンタープライズ向けにGoogle Cloudをアピールするイベントで、昨年まで「Google Cloud Next Tokyo」として開催されていたイベントに相当する。今年はコロナ禍によりオンライン開催となった。
初日の6月9日には基調講演が行われ、Google Cloudの企業のデジタル化に向けたサービスが事例とともに紹介されている。
講演の中では、日本でのGoogle Cloudパートナーに、アビームコンサルティング株式会社、株式会社日立製作所、SCSK株式会社の3社が新しく参加したことが発表された。また、分散RDBMSのCloud Spannerにおいてアジアでのマルチリージョン構成に対応したことも発表された。
平手日本代表が登場
講演ではまずGoogle Cloud日本代表の平手智行氏が登場した。今回は、2019年11月に就任した平手氏の、大きなイベントでのお披露目となる。
平手氏は、このパンデミックに対して聞いた顧客の声として、「直近の課題への対応」「新しい生活様式への対応」「新たなビジネスエリアの開拓」の3段階の要望を挙げた。
「直近の課題への対応」には、安全で安心なコミュニケーション手段や社内システムへのアクセス手段が該当する。次の「新しい生活様式への対応」には、ITを含めた全体コストの最適化と事業継続性の確保が該当する。最後の「新たなビジネスエリアの開拓」には、企業や個人の行動変容に合わせた、素早いサービスの開発とITアーキテクチャの構築が該当する。これらについて平手氏は「Google Cloudは3つのいずれの段階でも支援する」と語った。
Google MeetやBeyondCorpリモートアクセスを紹介
続いて平手氏は、コミュニケーション手段としてビデオ会議の「Google Meet」を紹介した。世界でさまざまな業種の600万社が採用しているという。2020年9月までの特典として、個人ユーザーには時間制限なしの利用を、G Suiteのユーザーには最上位のGoogle Meet機能を提供している。
また、社内へのリモートアクセスとしては、4月に提供開始した「BeyondCorpリモートアクセス」を紹介した。ゼロトラストセキュリティモデルにより、ユーザーのIDや使用状況にもとづいてアクセスを制御するもので、VPNと共存できるという。
「AI画伯」へのアクセス集中にCloud Runで対応
次に、Google Cloudの佐藤聖規氏(カスタマー エンジニア 技術部長)が、アプリケーション運用コストを最適化するプラットフォームを紹介した。
まずはサーバーレスコンピューティング。その一つであるCloud Runでは、コードを書いてコンテナイメージとして用意すれば、それを動かすインフラを意識せずにフルマネージドで実行される。これにより、利用企業はコードを書くことに集中でき、高速でデプロイでき、使ったぶんだけ支払う。
「例えば、新型コロナ対策サイトを素早く立ち上げ、スパイクにもスケーラブルに対応できる。一時的な社内サイトも素早くデプロイできる」と佐藤聖規氏は語った。
Cloud Runの事例としては、顔写真から西洋風肖像画を作成する「AI画伯」の例を佐藤聖規氏は紹介した。話題になったため世界中からアクセスが集中し、10日間で100万ユーザーまでアクセスが増加したのを、瞬時にコンテナが起動してスケールするCloud Runで対応したという。
AnthosのAWS対応などの新機能
続いては、GKE(Google Kubernetes Engine)をパブリッククラウドとオンプレミスで統合して使える「Anthos」を取り上げた。
4月には、Google Cloud以外のパブリッククラウドとしてAmazon Web Services(AWS)に対応した「Anthos GKE on AWS」が登場した。AIのサービス事例で後述する株式会社プレイドが、Anthos GKE on AWSを先行ユーザーとして利用しているという。
また、コンテナを動かす仮想マシンの管理強化や、移行ツールのMigrate for Anthosの進化、GCPのマーケットプレイスから構築できる「Anthosサンプルデプロイメント」などを佐藤聖規氏は紹介した。
VMware環境をクラウドに移行するGoogle Cloud VMware Engine
次に、既存のシステムのLift&Shiftのためのプラットフォームとして、「Google Cloud VMware Engine」を佐藤聖規氏は紹介した。オンプレミスのVMware vSphereのワークロードを最小限の変更でクラウドに移行し、Google Cloudサービスとの統合もできる。
これについては、ヴイエムウェア株式会社の進藤資訓氏(CTO, North Asia)がゲストとして登場し説明した。
進藤氏はVMwareのビジョンとしてAny App、Any Cloud、Any Deviceを紹介。その背景からGoogle Cloud VMware Engineが生まれたと語った。VMware Cloud Verified認定もされている。
Google Cloud VMware Engineは2020年第2四半期に米国の2リージョンで開始予定で、下半期には日本を含む8つのリージョンで開始予定だという。
Cloud AIビルディングブロックを使ったKARTEやUbieの事例
ここから、Googleの佐藤一憲氏(デベロッパー アドボケイト)が、企業向けのGoogle Cloud AIサービス群を紹介した。
まず、アプリケーションに視覚や言語などの能力を組み込むCloud AIビルディングブロックだ。
事例として、株式会社プレイドの例を佐藤一憲氏は紹介した。サイトの顧客行動データをリアルタイム分析するサービス「KARTE」で、AI Platform Pipelinesにより自動化してMLopsを実現したという。
また、Ubie株式会社の「AI問診Ubie(ユビー)」は、AIとの対話により問診票を作る電子問診票だ。初診問診時間が1/3になるという。システムにAI Platform NotebooksやGKEなどを採用。最近はCOVID-19トリアージ支援システムにも応用され、医師の負担が大幅に減少したという。
コンタクトセンターやレコメンデーションエンジンを構築できるサービス
次に、AI開発をしない企業向けのCloud AIソリューションを佐藤一憲氏は紹介した。
そのうちContact Center AIは、Google AIによるコールセンターを構築するものだ。音声認識や音声合成、対話構築プラットフォームDialogflowなどにより、AIが応答する。デモ動画では、コンタクトセンターのGenesys CloudとGoogle Cloudをつなぎ、電話で給付金申請をしたり、保険金の支払いへの問い合わせをオペレーターにつないだりしてみせた。
また、Recommendations AIは、リテール向けのレコメンデーションエンジン。既存サービスからデータを取り込むにあたり、データの前処理やモデル設計などの専門的な作業が自動化され簡単になるという。これを利用することで、クリック率やコンバージョン率、収益などが向上した例を佐藤一憲氏は紹介した。
BigQueryとGCPで機械学習を活用するZOZO
Cloud AIサービスの導入事例として、株式会社ZOZOテクノロジーズの今村雅幸氏(執行役員CTO)が登場した。
同社ではデータハウスとしてさまざまなデータ(現在2PB以上)をBigQueryで管理し、それをもとにGCPで機械学習しているという。
今村氏はその例として、「類似アイテム検索」について、ワークフロー構築や学習、推論でGCPを活用し、コンバージョンレートを1.2倍に向上させたと語った。
またコーディネートアプリ「WEAR」の検索機能でも、データを活用して髪型別にコーディネートを検索できる。
そのほか、クーポンやメールの最適化にも機械学習を活用。AutoML Tablesにより、AIエンジニアでないひとも予測に利用しているという。
今後については、Recommendations AIを採用して、レコメンテーションのための推薦基盤を構築中と今村氏は語った。
Oracle DBをクラウド移行するOracle on Bare Metal Solution
Google Cloudの葛木美紀氏(カスタマー エンジニア)は、さまざまなデータプラットフォームを紹介した。
まず、既存データベースを、スパイク対応やデータ分析などで活用するためにクラウド移行するためのサービスとして、葛木氏はOracle DB移行のための「Oracle on Bare Metal Solution」を紹介した。Oracle認定、最適化されたハードウェアで、Google Cloud東京リージョンから2ミリ秒以内のレイテンシーで、従来と同じ構成でコストを最適化できるという。今年中には東京リージョンでも開始するという。
【お詫びと訂正】
- 初出時、開始時期を来年度としておりましたが、今年中が正しい時期になります。お詫びして訂正いたします。
Cloud Spannerがアジアでのマルチリージョン構成に対応
次に、クラウドネイティブなデータベースへの移行として「Cloud Spanner」を葛木氏は紹介した。
この中で、新しくアジアでのマルチリージョン構成に対応したことを葛木氏はアナウンスした。「今週中に利用できるようになる」という。これにより、例えば東京と大阪での自動フェイルオーバーなどに対応する。
Cloud Spannerの事例として葛木氏は、JCBの実証実験や、ふくおかファイナンシャルグループの次世代コアバンクシステム、メルペイ、Squareなど、金融系サービスでの利用を挙げた。
また、サーバーレスNoSQLデータベースの「Cloud Firestore」も葛木氏は紹介した。これについての事例としては、Daigasグループ(大阪ガスグループ)が開発・運用の工数を6割削減した例を紹介。このほか、NTTドコモや、株式会社ギックス(GiXo)の例を挙げた。
【お詫びと訂正】
- 初出時、DaigasグループとNTTドコモの社名が入れ替わっておりました。お詫びして訂正いたします。
ユーザー自身がデータ分析できるツールでデータドリブンな意思決定の文化
そのほか葛木氏は、データドリブンな意思決定の文化を作るためのものとして、Connected SheetsやLookerでユーザーが自分でデータ分析するケースや、BigQueryでオンプレミスと比べてトータルコストを52%削減するという調査結果などを紹介した。
Connected Sheetsの事例としては、資材や工具の通販のモノタロウが紹介された。マーケティングやアナリストだけでなく、商品開発や物流、管理部門でも活用しているという。
またエンタープライズ向けBIツールのLookerの事例としては、三菱重工のIoTデータでの利用や、株式会社メタルワンでの経営指標分析を葛木氏は挙げた。
データ分析サービスをGCPを使って2名・2か月強でローンチしたギックス
ここで、名前の挙がった中から、株式会社ギックスの網野知博氏(代表取締役CEO)が登場した。ギックスは「GiXo(Garbage In, X Out)」を意味し、データ分析によるコンサルティングを行っている。
ギックスでは、初期仮説構築のゼロ化ツール「Refeed」や、回遊を誘うスタンプラリー「マイグル」、土地の価値を見える化する「トチカチ」など、ほぼすべてGoogle Cloudで構築しているという。
例えば、トチカチでは、前日比や前週比のほか、「パラレルワールド比」(パンデミックがなかった場合との比較など)という項目も分析できる。これを、Google Cloudを活用することで、2名体制ながら1か月強でローンチしたと網野氏は説明した。
アビームコンサルティング、日立、SCSKがパートナーに参加
最後に再び平手氏が登場し、Google Cloudのパートナーの重要性を語った。
Google Cloudはエンタープライズでの採用数ではAWSやAzureの後塵(こうじん)を拝している。平手氏は、「企業のビジネス課題を理解し、最適なソリューションを提供するために、パートナーはかかせない」と語った。
ここで平手氏は、日本でのGoogle Cloudパートナーに、アビームコンサルティング株式会社、株式会社日立製作所、SCSK株式会社の3社が新しく参加したことを発表した。
そのほか、Google Cloudの最新の知識とスキルを学ぶオンライントレーニングを紹介。特に、当日(6月9日)からQwiklabsやCourseraの無料や割引のキャンペーンを開始したことを明らかにした。