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企業のデジタル化に向け、Azureでクラウドネイティブ開発や内製を支援――、日本マイクロソフト

 日本マイクロソフト株式会社は2日、Microsoft Azureを活用したクラウドネイティブ開発や内製支援、データ分析およびAI基盤の提供などについて説明した。

 まず、日本マイクロソフトでは、開発支援および育成支援プログラムとして、1)超短期実装ハッカソンやアジャイル開発、スクラム開発のノウハウをハンズオン形式で体験できる「Azure Light-up」、2)中長期にわたってパートナーによる並走型開発支援を行う「Cloud Native Dojo」、3)MCPおよびAzureの資格取得に向けた学習コースの提供や、ゲーミフィケーション要素を用いた自己学習文化の醸成を行う「Enterprise Skills Initiative & Cloud Skills Challenge」、4)IDやゼロトラストセキュリティ、コスト全体最適化、コンプライアンス、スキル計画、利用ガイドラインの整備などを支援する「Cloud Center of Excellence」などを提供していることを紹介した。

 日本マイクロソフト 業務執行役員 Azureビジネス本部の上原正太郎本部長は、「クラウドジャーニーを推進する上での顧客の課題は、IT人材やスキル不足であり、特にユーザー企業のなかには開発者が少なく、IT企業に7割が集中しているという日本固有の課題がある。現場任せの育成体質にも問題があるといえる。また、委託先任せであり、データ分析、活用ナレッジが自社に蓄積されず、DevOpsが実践できないという課題もある。そして、クラウド活用におけるルールやガバナンスが策定されておらず、オンプレミスをリファクター、リアーキテクト、リビルドが進まない点も顕在化された課題である」と、日本の課題を指摘。

 その上で「こうした課題の解決を支援することが急務だと考えており、日本マイクロソフトでは、クラウドネイティブ開発支援や内製支援、人材育成支援などのプログラムを用意している」とした。

日本マイクロソフト 業務執行役員 Azureビジネス本部の上原正太郎本部長

エキスパートとともに数日でMVPを作成するプログラム「Azure Light-up」

 1)のAzure Light-upでは、クラウドを知り尽くしたパートナーとのハッカソンを通じて、最短3日間という超短期間で、MVP(Minimum Viable Product)までを一気に作成。同時に、スキルトランスファーにより、ハッカソンに参加したエンジニアの超高速な成長も期待できるプログラムと位置づけている。

 「コロナ禍にあわせてオンラインを活用したハッカソンも実施しており、対人で行うのと変わらないクオリティを担保できている」(日本マイクロソフト Azureビジネス本部クラウドネイティブ&デベロッパーマーケティング部の坂田州部長)という。リピート率は99%という高い満足度を実現している。

 価格は約200万円から。伊藤忠テクノソリューションズ、オルターブース、ゼンアーキテクツの3社が、Azure Light-upパートナーとなっている。

日本マイクロソフト Azureビジネス本部クラウドネイティブ&デベロッパーマーケティング部の坂田州部長
Azure Light-up

 具体的事例として、富士フイルムソフトウェアの例を挙げた。同社では、法人向けファイル共有サービス「IMAGEWORKS」を提供しているが、これをオンプレミスから、PaaSおよびサーバーレスを活用したサービス基盤にモダナイズすることを決定したものの、開発環境の変更に高いハードルを感じていたという。

 そこで、パートナー企業であるゼンアーキテクツと、日本マイクロソフトのアーキテクトとともに、ハッカソン形式の短期集中型開発を数回に渡って実施。検索機能のパフォーマンスと利便性を向上させるべく、Azure Cognitive Searchを活用し、通常3カ月程度かかる作業をハッカソン形式により3日で実現したとのこと。さらに、ハッカソンで得た知見、ノウハウにより、エンジニアの育成とともに、新しい文化を醸成できたとも述べた。

富士フイルムソフトウェアの事例

クラウドネイティブ開発の実践法を習得するプログラム「Cloud Native Dojo」

 2)のCloud Native Dojoは、高い開発力や技術力を有するパートナー企業と日本マイクロソフトが並走しながら、クラウドネイティブ開発を実践するプログラム。中長期間に渡り、パートナーと日本マイクロソフトとともに協働スクラムチームを作り、並走開発しながらアジャイル開発を実践する。人材育成や開発体制の構築、プロセス整備なども推進できる内容となっている。

 「アジャイル開発やスクラム開発の手法をトレーニングしたり、DevOpsツールチェーン基盤の整備を行ったりする。トレーナーチームと内製開発チームが協働チームとなって、実プロジェクトでアジャイル開発を実践。顧客自身が自走した開発を最終ゴールに設定しており、効率よく、プロフェッショナルから学べる有償プログラムとなっている。デジタル変革に向けて本気で内製化したい、あるいは現状に課題を持っている企業に提供していきたい」と語る。

 期間は約2~3カ月で、価格は300万円から。アプリケーション開発まで含むと数1000万円規模になるという。

 Cloud Native Dojoパートナーとしては、アークウェイ、エーピーコミュニケーションズ、日立ソリューションズ、エムティーアイなど7社がある。「パートナーによって、持っている強みやソリューションに差がある。まずは日本マイクロソフトに相談してほしい」としている。

Cloud Native Dojo

 ここでは、いくつかのユーザー事例を紹介した。東京証券取引所の「CONNEQTOR」では、複雑な要件が絡む金融向けエンタープライズシステムを、Kubernetesを活用し、リーンスタートアップ・アジャイルの手法によって、短期で実現したという。また、Azure Kubernetes Serviceを採用し、運用の負担を軽減。わずか8カ月で試験運用を開始するとともに、PaaSのメリットを活用した機能開発や機能追加を行った。こうして、テストユーザーからの声をサービスに迅速に反映できる体制を確立できたという。

東京証券取引所の事例

 またFrancfranc(フランフラン)の事例では、顧客の行動データを社内で分析するノウハウがなかったり、オフラインとオンラインで顧客IDやデータが統合されていなかったり、といった課題に対して、日本マイクロソフトが無償提供している「DataHack」を活用。日本マイクロソフトのデータサイエンティストやアーキテクトが参加するとともに、Azure Machine Learning、ノーコード分析ツール群も活用することにより、非エンジニアや非データサイエンティストだけのチームで継続的に分析したり、モデルを構築したりできる体制を確立したという。

 IDC Japanの調査によると、企業のデータ活用は遅れており、データ分析をほとんど活用していない企業が31.2%、現状把握の分析レベルが35.3%となっている。デジタルビジネスを実践している企業は12.0%にとどまる。「知識不足や人材不足の企業が多い。まずは、DataHackやAzure Light-upを活用してほしい」と述べた。

Azure上で展開されるデータサービス群

 一方、クラウド時代のデータ分析・AI基盤の活用については「日本マイクロソフトでは、Azure上で展開されるデータサービス群を持っており、データの取り込みから保存、準備/加工、分析し、BIによる可視化までのサービスを一気通貫で提供している」と説明。

 75種類を超えるデータ統合コネクタからコード不要でデータを取り込む「Azure Data Factory」、あらゆるデータに対するT-SQLクエリーで、99.9%のSLAを実現する「Azure Data Lake Storage」、データブリックスとの連携によって、データ分析にかかわるさまざまなロールに対応し、Vanilla Sparkと比べて最大10倍高速化した「Azure Databricks」、ペタバイトスケールのクラウドデータウェアハウス(DWH)であり、ほかのクラウドプロバイダーと比べて最大14倍の高速化と94%のコストダウンを実現する「Azure Synapse Analytics」、エンドトゥエンドのセルフサービスビジネスインテリジェンスおよび分析プラットフォーム「Power BI」を紹介した。

Azure上で展開される主なデータサービス群

 説明会では、特にAzure Synapse Analyticsについて時間を割いて説明した。「SQL Datawarehouseからリブランドしたもので、2020年12月から一般提供を開始した。エンタープライズDWHの機能をベースに、データ統合やビッグデータ分析をひとつに統合した、制限のない分析サービスとなる。コンピュート層とストレージ層を分離したアーキテクチャにより、ペタバイト級のデータ分析でも高速にクエリーが実行できるほか、分析に必要な操作を包含した統合エクスペリエンス、強力な分析情報、高いセキュリティを実現。これからデータ分析を開始したい、あるいはさまざまなツールを導入してしまいガバナンスがきかないというユーザーには有効である」とした。

Azure Synapse Analytics

 ヤマトホールディングスでは、データドリブン経営のカギを握る「クロネコ・ビックデータ基盤(KBD基盤)」のデータ分析基盤に、Azure Synapse Analyticsを採用。会員数4000万人、ビジネス顧客は120万社、取扱店舗が18万店、年間18億個の荷物を取り扱う環境において、パフォーマンス、スケーラビリティ、運用の容易性が評価されたという。

 そのほか、CCCマーケティングや沖縄銀行、コマツ、コナカミノルタなどがAzure Synapse Analyticsを導入しているという。

ヤマトホールディングスの事例

統合データガバナンスサービス「Azure Purview」を発表

 また、日本にマイクソロフトでは、オンプレミス、マルチクラウド、SaaSのデータの管理と統制を行う統合データガバナンスサービス「Azure Purview」を新たに発表した。

 「用語や分類、秘密度ラベルなど、さまざまな観点に基づいたフィルターによるデータ検索環境を実現。Azure上のデータだけでなく、オンプレミス上のデータ、他社クラウドのデータもまとめて管理できるデータカタログ化が可能である。これは、Azure Arcに近いものになる。また、Office 365などの秘密度ラベルを適用したり、機密レベルごとに閲覧範囲を割り振ることが可能な機密データの分類が特徴である」とした。

Azure Purview

2021年度のAzure事業への取り組み

 一方、上原業務執行役員は、2021年度のAzure事業への取り組みについても説明した。

 「日本マイクロソフトは、日本の企業のデジタル改革を推進するテクノロジーパートナーを目指している」と前置き。「Azureの主戦場である国内パブリッククラウド市場は、1兆3000億円の市場規模であり、今後も年平均成長率18%以上が見込まれている。新型コロナウイルスの影響で一時的に経済成長は鈍化しているが、クラウド市場は高い伸びが見込まれており、社内システムのクラウド化に加えて、新規のデジタルビジネスをはじめとした価値創造を目的としたクラウド活用が成長。DXの動きも貢献することになる」と市場環境を分析した。

 さらに、「Azureの注力領域は、既存アプリケーションのAzureへの移行を促進する『クラウドへの移行』、クラウドネイティブなアプリ開発と既存アプリのモダナイズを推進する『アプリの変革』、クラウド導入プロセスの標準化とクラウドセンターオブエクセレンス(CCoE)文化を醸成する『クラウド導入・活用支援』の3点になる。特に、『アプリの変革』では、モード2による企業のデジタル化と競争力向上に向けたクラウドネイティブ開発および開発の内製化、データ資産の活用、それらを支える分析基盤が重要になる」と述べた。

2021年度の注力シナリオ

 このうち「アプリの変革」に関しては、クラウドネイティブなアプリ開発と、既存アプリのモダナイズの重要性を示しながら、「パートナーエコシステムの強化」と「業界別ユースケースを起点とした新規ビジネス開拓」という観点から説明した。

 また「パートナーエコシステムの強化」では、「企業が競争力を高めるにはDevOpsが重要であり、それを支えるPaaS、コンテナ、サーバーレスを用いたクラウドネイティブな開発のニーズが高まり、これに対応するパートナー企業も増加。クラウドネイティブの開発者は全世界650万人を超えている。これは、日本でも増加傾向にある。Azure Kubernetes Service(AKS)の提供や、GitHubとの連携も加速しており、開発者に向けて、洗練したエクスペリエンスを提供できる。さらに、クラウド時代におけるスケーラブルな次世代データ分析基盤とAIの活用が不可欠であり、デジタル時代の石油と言われるデータ資産を活用したデータドリブン経営への移行を提案している。これらの実現において欠かせないのがパートナーであり、2021年度はパートナーのリクルーティングと育成に力を注いでいる」などとした。

 3つ目の「業界別ユースケースを起点とした新規ビジネス開拓」では、「各業界における先進企業のテクノロジービジョンの実現に向けた支援、デジタル変革の推進を行っている」とし、製造業では、IoTやクラウドベースのコンピューティングのほか、AI、複合現実の活用により、産業オートメーションを強化していること、流通業ではカメラを使った入館時の顔認識、AIによる需要予測やデータ分析、キャッシュレス決済などの活用を推進。自動車産業では、センサーや分析などを活用し、コネクテッドカーや自動運転、ライドシェアにおけるイノベーションの加速を支援している例を示した。