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デジタルトランスフォーメーションはすべての企業の中心にある――、Dell Technologies マイケル・デルCEO

Dell Technologies Forum 2018 - Tokyo 基調講演レポート

 デルおよびEMCジャパンは19日、都内において年次イベント「Dell Technologies Forum 2018 - Tokyo」を開催した。

 このイベントは昨年まで「Dell EMC Forum」として開催されていたが、今年は満を持して『Dell Technologies』の名称を冠しての開催となり、基調講演にはDell Technologies 会長 兼 CEOのマイケル・デル氏が登壇している。

Dell Technologies 会長 兼 CEO マイケル・デル氏

 今年のテーマは「Make It Real」。これは、Dell Technologiesがグローバルに発信しているメッセージでもあり、この“It”は変革を指しているという。つまり、デジタルトランスフォーメーション(DX)などの変革を現実のものにする、という意味が込められている。

DXを実現しなければ、企業は後れをとる

 Dell Technologiesは2017年から、「デジタル」「IT」「ワークフォース」「セキュリティ」という4つの変革を推進している。

 デル氏は「これら4つの変革は、同時に起きていることを理解する必要がある。これまでITはビジネスのためにやらなければならない雑用のような存在だった。現在ではITがすべてのビジネスにかかわっており、企業の経営陣はテクノロジーについて真剣に考えるようになっている。ITはあらゆるビジネスの中心であり、DXを実現しなければ企業は後れを取ってしまう」と、DXの必要性を強く訴えた。

 さらに、「DXはすべての企業の中心にある。大量のデータと新しいテクノロジーが一緒になってコネクティッドインテリジェンスが可能となり、5Gなどネットワークも高速化している。また、AIやマシンラーニングなどによって、ビジネスにさまざまな可能性が生まれている。私たちの最優先事項は、テクノロジーによって『ビジネスをもう一度考え直す』ことにある」と述べた。

 日本におけるDXについては、「わくわくすることに、日本では2025年に向けてDXを支える政策が打ち出されている」と述べ、日本市場においてもDXの支援を積極的に推進していく姿勢を明らかにした。

データは一元管理から分散管理へとシフトし、マルチクラウド化していく

 さらにデル氏は「企業はテクノロジーを使って新しいビジネスを創出し、人や社会の役に立つことでビジネスを成功に導く。その中心となるのは大量の『データ』だ」と指摘。

 「IoTによってデータの爆発が起こっている。プロセッサ、センサー、コントローラなどの価格が下がり、あらゆるデバイスがネットワークでつながることで、大量のデータがエッジから送られてくるようになる。例えば現在の車は、タイヤを履いたコネクティッドコンピュータと言えるだろう。これらのデータを活用することで、製品やサービスをより質の高いものにしていくことができる」と述べ、DXの中心となるのはデータであると説明する。

 しかし、これらのデータは必ずしも1つのクラウドのシステムに集約されるわけではないという。「インテリジェントなデバイスのデータは、すべてを1つの集約されたクラウドに送るのではなく、エッジ側で保管/処理することが多くなっていくだろう。また、スマートフォンなどデバイス同士が、直接つながってデータを利用するケースもある」としたデル氏は、「これまでも、『集中』と『分散』はテクノロジーの変遷にあわせて振り子のように流行を繰り返してきた。今は強力なエッジコンピューティングによって、分散に振り子が振れている状況だ」と、現在の状況について述べた。

 さらに、クラウドに関しては「世界はマルチクラウドになっていくだろう。プライベートクラウドかパブリッククラウドかという選択ではなく、ワークロードに合わせてさまざまなクラウドを利用することになる」と話す。

 一方でオンプレミスについても、データセンターをソフトウェアによってコントロール可能なSDDC(Software Defind Data Center)から、自動化によってモダナイゼーションされた環境を実現するSDDC(Self Driving Data Center)へとシフトしていくという。

 いずれも頭文字が同じSDDCなので混同されがちであるが、後者はよりモダナイゼーションが実現したデータセンターであるとする。

 なお、エッジコンピューティングやマルチクラウドによる分散化や、SDDCといった「IT変革」に関しては、Dell TechnologiesファミリーであるPivotalやVMwareによって課題を解決することが可能という。

 デル氏は「Dell Technologiesは、勝利のテクノロジーを手にしている」と述べ、グループの統合力の広さをアピールした。

もっとも重要な変革は「セキュリティ」

 3つ目の変革のキーワードである「ワークフォース」は、日本の働き方改革の取り組みと非常に親和性が高い。

 デル氏は、「日本は先進国の中でも特に失業率が低い国だが、それは能力のある人が足りていないということでもある。企業は能力がある人材を引きつけ、トレーニングし、生産性を向上させる必要がある。そのためには、適切な環境と適切なツールが必要になる」と述べ、その“ツール”として、Dell Technologiesが今のようなグループ企業となる前から長年にわたって提供してきたPCについて、23四半期連続で市場シェアを伸ばしていると、その実績をアピールした。

 4つ目の「セキュリティ変革」についてデル氏は、「4つの変革の中で最も重要なのが、セキュリティ変革。セキュリティがきちんとしていなければ、ほかの3つの変革ができていても無駄になる。近い将来、すべてのデバイスがつながってデジタル化していく。そこではセキュリティが非常に重要であり、アーキテクチャの観点からセキュリティをきちんと担保していかなければならない。Dell Technologiesには、RSAやSecureWorksがあり、お客さまのセキュリティ変革を支援することができる」と説明した。

 さらにデル氏は、「Dell Technologiesは、サーバー、ストレージの市場でナンバーワンであり、セキュリティもナンバーワン。世界でなくてはならないインフラカンパニーとなっている。日本においても2けた成長しており、しかも2けた目は「1」で始まる数字ではない。2018年は研究開発に128億ドルを投資しているが、これからも継続的に投資を進めていく」と述べた。

人類の進歩に貢献するDell Technologies

 最後にデル氏は、事前に寄せられた質問に回答した。

 1つ目は「Dell Technologiesが『人類の進歩』に貢献した例を挙げてほしい」という質問で、デル氏は「テクノロジーは社会や人類に貢献するものだと考えている。例えば医療分野では、100年前はあまり科学的な医療は行われておらず、データ駆動型でもなかった。しかし、最近では高いコンピューティングパワーによって、特定の個人の細胞からゲノムデータを分析し、その人にあった医療を提供する『パーソナライズドメディシン』を実現できるようになっている。その進歩は非常に早く、しかも低コストでできるようになっている。まさに人の命を救うテクノロジーと言える」と回答した。

 また、その他の例として屋内農園「エアロファーム」を挙げ、「使われなくなった倉庫を利用して始めた農園事業において、Dell Technologiesのテクノロジーを採用している。『どのような頻度で光を当てて水やりをすれば、もっともおいしい野菜が有機的に作れるのか』を研究しており、その結果として水も節約できている」と紹介した。

 2つ目は「デル氏は日本をどのように見ているか、そしてDell Technologiesは日本のDXをどのように支援することができるか」という質問。

 日本の印象についてデル氏は「初めて日本に来たのは20歳の時。日本に来るといつも楽しく、とても好きな国。また、日本ではとてもいいビジネスができている」と話す。

 また、日本企業に対する支援については「ここ数年を見るとアベノミクスや新しい政策によってDXが進み、『新たな日本』が台頭してきている。企業にはチェンジマネジメントが必要で、新しいテクノロジーを自分たちのビジネスにどうやって活用すべきか悩んでいることが多い。Dell Technologiesはお客さまそれぞれのビジネスにあった形でテクノロジーを活用できるよう、さまざまな支援を提供していく。お客さまの未解決の要件に耳を傾け、新しい製品やサービスを提供していく。Dell Technologiesだけではなく、さまざまなパートナーと一緒にお客さまの課題を解決する」と述べた。

 3つ目の「5年後、Dell Technologiesはどうなっているか」という質問に対してデル氏は、「35年前ほど前に事業をスタートしてから、1兆ドルを超える売り上げを上げてきた。この成長はDell Technologiesを支えてくれたみなさまのおかげだと思っている。テクノロジーはこれからも、私たちの世界をより良いものにしていくと思っている。Dell Technologiesがその一翼を担っていることはとてもうれしい」と話している。

 そして講演の締めくくりとしてデル氏は「この10年、テクノロジーはエキサイティングな進化を遂げてきたがが、これはデジタル未来の基盤を作っていたということだと考えている。Dell Technologiesは今後も進化していく。みなさんと一緒に素晴らしい未来を作っていきたい」と述べた。

変革を実現するためには「感知」「理解」「行動」が必要

 続いて登壇したのは、Dell Technologies CMO アリソン・デュー氏。28年前に大学を卒業した後、日本の広告企業に勤務していたことのあるデュー氏は、「日本は私にとって第2の故郷。日本に帰ってくるのはとてもわくわくする」と日本語であいさつした。

Dell Technologies CMO アリソン・デュー氏

 そんなデュー氏が日本に勤務していた当時を振り返り、米国にいる家族とのコミュニケーションが、毎日送られてくる「はがき」経由であったことや、日本の新聞社が週に一度発売する外国人向けの英字新聞でしか米国のニュースを知ることができなかった、といったエピソードなどを明かした。

 当時勤務していた広告企業では、デザイナーは紙ベースで仕事をしており、顧客とのやり取りにはFAXを使用していたという。そして、この28年の間の変化についてデュー氏は、「コミュニケーション、情報収集、仕事のやり方など、多くのことが変化した。この変化は加速する一方だ。よく『Uber』がDXの代表例のように紹介されるが、いずれはUberだけでなくすべての業界、すべての企業において、DXをしなければ取り残されていくことになる」と述べた。

 さらにDell Technologiesが実施したDXについての調査を紹介したデュー氏は、「90%の企業が5年後にソフトウェアデファインドカンパニーになりたいと回答しているものの、自分たちの業界が5年後にも生き残れるかわからないと回答している企業が50%もいる。さらに40%の企業は、DXをどのように進めたらいいのかがわからないと回答している」と説明した。

 この大きなビジネス変革の波を乗り越えて企業が生き残るために必要なことは、「データの真価を解き放つ」ことであるとデュー氏は説明する。さらにMicrosoftがLinkedinを260億ドルで買収したことを例に挙げ、「データには価値があり、特に専門的なデータには大きな価値がある。データを使ってビジネスを成功させるには、デジタル、IT、ワークフォース、セキュリティの4つの変革が重要になる」と述べた。

 また、これらの4つの変革を実現するには、「感知」「理解」「行動」のサイクルを回す必要があるという。「感知」はあらゆるものから膨大なデータを集めることで、センサーやカメラなどさまざまな場所にあるデータを指す。「理解」はこれらの膨大なデータから意味を取りて価値を創造するための、分析や解析などの作業。そして理解で得られた結果を活用するのが「行動」となる。

 「感知」についてデュー氏は、IoTを例に挙げ、「IoTは、モノではなくコンセプト。センサー、カメラ、コンピューティング、ストレージなど、あらゆるものがネットワークで『つながる』ようになり、膨大なデータを収集できるようになっている。しかし、より高い成果を上げるためには、コンセプトに沿った設計が必要になる」と説明した。

 データから意味を取り出し大きな価値を創造する「理解」には、AIやマシンラーニングを活用する。「今後データの種類は増え、量も膨大になっていく。これらのデータを理解して意味を取り出すには、AIのエンジンとなるコンピューティング、AIの燃料となるデータの保存・管理・保護のイノベーションが必要になる」と述べたデュー氏は、コンピューティングのシリコン、AIを利用できるマルチクラウド環境、データ保存・管理・保護を行うストレージやツールなどに対し、今後もDell Technologiesが積極的に投資していくと述べた。

 「行動」についてのイノベーションとしては、ARやVRの活用を積極的に推進していくという。「ARやVRというと、ゲームをイメージされることが多いが、実際には医療などさまざまな分野で活用されるようになってきている」と述べたデュー氏は、空調設備のトレーニングに利用されている実例を挙げ、「没入型の体験によって、既存のトレーニングよりも効果的に学ぶことができるようになってきている。この分野に投資したいと考える企業も増えている」と説明した。

 なお、基調講演の冒頭であいさつに登壇したデル 代表取締役社長 平手智行氏とEMCジャパン 代表取締役社長 大塚俊彦氏が、日本のDXの現状についてコメントした。

 平手氏が「日本企業においては、DXによって競争力を高めたいが、既存システムの保守にコストがかって改革が進まないお客さまと、情報システム部門だけでなく事業部門と新しいチームを組んで改革を推進しているお客さまの、2通りの声を聞いている。このイベントでは、そのどちらの声にも対応した情報が用意されている」と見所を示すと、大塚氏は「DXの進ちょくについての調査において、日本企業の66%は今後DXを全社的に展開していく回答している。Dell Technologiesはお客さまのDXを支援する」と述べた。

デル 代表取締役社長 平手智行氏
EMCジャパン 代表取締役社長 大塚俊彦氏