イベント

将来のマクラーレンはテクノロジー企業になる――、レース以外でのテクノロジーの応用も

 デルおよびEMCジャパンは19日、都内において年次イベント「Dell Technologies Forum 2018 - Tokyo」を開催した。

 基調講演には、Dell Technologies 会長 兼 CEOのマイケル・デル氏が登壇しているが、ゲストスピーカーとしてデンソーやマクラーレンの担当者が登壇し、自社の取り組みを紹介している。

DXのユーザー事例

 そのうち、デンソー MaaS開発部長 兼 デジタルイノベーション室長 成迫剛志氏は、「社内にシリコンバレー流をつくる ~変革へ対応する組織づくり」と題して、常に変革に対応できる柔軟な組織づくりを紹介した。

 ビッグデータやAIのテクノロジーによって、ITは大きな変革期を迎えている。成迫氏は「まさに『ITのカンブリア大爆発』をと言える大きな変革期を迎えている。カンブリア紀は爆発的に生物が生まれて進化し、そして淘汰(とうた)されていった時期だが、今は次々に新しいテクノロジーが生まれて急速に進化し、ビジネスに予想もしない変化が起きている。しかも、その速度は思う以上に速く、一気に状況が変化している」と述べた。

 自動車業界でも、100年に一度の大変革期と言われている。この変革の要素は、車がネットワーク的につながる「Connected」、自動運転など自律的な動きを実現する「Autonomous」、利用から所有へのシフトである「Sharing」、電気自動車などの「EV」をまとめて「CASE」と呼んでいる。

 また、これらの要素に加えて、サービスとしての移動手段である「Mobility as a Service」も注目されつつあるという。成迫氏が所属しているMaaS開発部は、まさに(MaaS:Mobility as a Service)という意味である。

デンソー MaaS開発部長 兼 デジタルイノベーション室長 成迫剛志氏

 成迫氏は、ビジネスの変革は、現在のビジネスの延長線上にあるのではなく、現在とは異なる起点から発想した、まったく新しいビジネスを創造することだという。成迫氏はUberを例に挙げ、「タクシーの燃費を上げたり、車の乗り心地をよくするというのは、現在のビジネスの延長線上にある発想。しかし、UberはITを活用することで『自分たちはタクシーの車両を所有しない』という、現在のビジネスとはまったく異なる起点から始めたビジネスだ」と説明した。

 「既存の市場原理を破壊する『ディスラプター』たちは、デザイン思考でモノやサービスを作りだしている。アイデアを出したらとにかく速く、安く、動くものを作る。それは完成系でなくても構わない。まずは動くものを顧客に見せて、一緒に完成させるというサイクルでモノやサービスを作っている。シリコンバレーのスタートアップ企業が行っているこうした手法は、いい加減にやっているように見られがちだが、実際にはそうではない。とにかく速く安く、顧客が求める『正解』を導きだすため、作りながら考える『アジャイル開発』を行っているのだ」と述べる成迫氏は、既存の大企業でありながらスタートアップ企業のように柔軟な組織を実現するため、デジタルイノベーション室を作ったという。

 デジタルイノベーション室では、シリコンバレーのスタートアップ企業のようにマルチクラウド、AI、OSSなどのツールを駆使し、アジャイル開発によって新しいモノを作っているという。

 成迫氏は「スタートアップ企業とは競合するかもしれないし、協業するかもしれない。もし協業するのであれば、同じツールを使って、同じ言語を使っていなければ、同じ土俵には立てず、パートナーにはなれない」と述べた。

 また、所属しているチームのメンバーからは、「今までの開発手法には戻れない」「新たな技術に触れて自分が進化した」「社会人になって初めて仕事が楽しいと思った」といったポジティブなコメントが寄せられているとのこと。

 しかし、デザイン思考やテクノロジー、アジャイル開発といったものはあくまでツールにすぎないとする成迫氏は、「ツールを使うことはあくまでも手段であり、目的はDXを実現することだ」と述べている。

F1で培ったテクノロジーは医療分野でも利用できる

 同じくゲストスピーカーとして登壇したのは、Dell Technologiesもスポンサーを務めるF1レースチームを率いるマクラーレン・グループ COO ジョナサン・ニール氏だ。同氏はF1レースにおけるテクノロジーの活用と、レース以外でのテクノロジーの応用について語った。

マクラーレン・グループ COO ジョナサン・ニール氏

 「F1はスポーツがテクノロジー、あるいはエンターテインメントビジネスとテクノロジーが出会う場所。F1レースにおいて一番速いマシンと一番遅いマシンの性能差は4%しかないと言われており、トップチーム同士であれば、その差は1.1~1.5%しかない」と述べたニール氏は、さらに「激しい競争を勝ちぬくためには絶えず改善しなければならず、常に新しいテクノロジーが求められている」と説明した。

 マクラーレンはF1マシンにおいて、1万7000のパラメータを収集し、ガレージに設置しているデルのPowerEdgeサーバーで処理し、レースごとにまったく違う設定を行っている。F1は年間20近いレースが世界各国で実施されているが、鈴鹿で行われたレースとオースティンで行われたレースでは、まったく違う設定になっているという。

 ニール氏は「F1の世界では20年以上前から、コネクティッドカーを実現している。そして、20年前のデータは今でも使える貴重なデータになっている」と述べ、さらにこうしたマクラーレンの実績は、自動車レース以外の分野でも活用されつつあるとする。

 例えば、英国の空港で航空管制のシミュレーション、自動運転などの技術支援に加え、最近では医療分野でも利用されるようになっているとのことで、「医療とレースはまったく関係ないように思われるかもしれないが、コネクティッドカーの技術は、コネクティッドヒューマンも可能にする。ウェアラブルなセンサーを患者に装着し、収集したデータに基づいて、より正確な診断できるようになりつつある。将来的にマクラーレンは、2025年ごろにはテクノロジー企業になっているだろう」と語った。

テクノロジーを活用することで、より良い社会を実現する

 基調講演の最後にはDell EMC Japan最高技術責任者 黒田晴彦氏が登壇し、「私たちはテクノロジーによって人も企業も社会もよくなっていくと信じている。もちろん、すべてを1社だけで実現することは難しいため、Dell Technologiesというファミリーを作り、さらに多くのパートナーと一緒に活動している。今後もテクノロジーによってお客さまのビジネスに貢献し、より良い社会を実現するために活動していきたい」と締めくくった。

Dell EMC Japan最高技術責任者 黒田晴彦氏