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クラウドは次のフェーズへ――、「AWS re:Invent 2017」でアンディ・ジャシーCEOが示した5年間の総決算
2017年12月4日 12:25
Freedom!:データベースをもっと“自由”に
2つ目のカテゴリであるデータベースのアップデートにおいて演奏されたのは、ジョージ・マイケルの「Freedom! 90」だ。曲が流れたあと、ジャシーCEOのスライドにはOracle Exadataの写真とOracleのラリー・エリソンCEOを揶揄した風刺画が映し出されている。曲とスライドが意味するところはもちろん“プロプライエタリなRDB”からの解放だ。
“データベースの自由”を実現する手段としてジャシーCEOが発表したのは、以下の5つのアップデート。カッコ内は現時点でのステータスと対応リージョンを示す。
・Aurora Multi-Master:複数のリージョンをまたいでリード/ライトの双方でスケール可能なリレーショナルデータベース(プレビュー)
・Aurora Serverless:さまざまなワークロードに対応するオンデマンドでオートスケールなデータベース(プレビュー)
・DynamoDB GlobalTables:複数のリージョンをまたいでスケールするマルチマスターなフルマネージドデータベース(GA、バージニア/オハイオ/アイルランド/フランクフルト)
・DynamoDB backup and restore:DynamoDBのオンデマンドバックアップを自動的に実行し、短期間のデータ復旧用に一時的なりストアをサポート(バックアップ→GA、リストア→プレビュー、バージニア/オハイオ/オレゴン/アイルランド)
・Amazon Neptune:フルマネージドなグラフ型データベース(プレビュー、バージニア)
この中でもっとも注目を集めたのはAurora Multi-Masterだろう。複数のリージョンにまたがってマルチマスター構成を実現できるのであれば、Oracle RACにも匹敵する高可用性を備えたAuroraシステムをグローバル規模で構築可能となる。リード重視のAuroraがリード/ライトの両方でスケールできるという点も、大きな魅力の1つだろう。
ただし、現時点ではシングルリージョン/マルチマスターのみのプレビュー提供であり、参加者の間からは「本当にマルチリージョンでのマルチマスターが実現できるのか」という疑問の声も少なくない。ジャシーCEOは「2018年の早い段階でマルチリージョン/マルチタスクに対応する」と話していたが、実際にリリースされるまでしばらく議論が続きそうだ。
もう1つのAuroraのアップデートであるAurora Serverlessは、いわば“LambdaのAurora版”といった位置づけのサービスだ。オンデマンドでデータベースを起動でき、データ量が増えればデータベースノードが自動でスケールする。使わなくなったらシャットダウンできるので、利用したキャパシティに応じての課金で済む。課金は秒単位のため、コスト面での大きな削減が期待できる。
DynamoDB関連のアップデートは、いずれもエンタープライズのフィードバックを強く受けてのものだ。ソーシャルゲームやアドテク、メディアといった業界でのユースケースが主流だったDynamoDBが、大規模エンタープライズでも確実に導入が進んでいる事実がうかがえる。
データベース関連のアップデートの最後にジャシーCEOから発表されたのは、AWSとしては初のグラフデータベースとなるNeptuneだ。億単位のリレーションを保持しながら、レイテンシはミリ秒単位に抑えられており、3つのアベイラビリティゾーン(AZ)をまたいで6つのレプリカを構成できる。もちろんバックアップ/リストアも可能だ。
Apache TinkerPop3とW3C RDF(Resource Description Framework)という2つの標準的なグラフフレームワークをサポートし、クエリ言語としてGremlinとSPARQLを利用できる。フルマネージドサービスなので、ユーザーはメンテナンスやパッチ適用などのオペレーションに煩わされる必要がない。
マネージドサービス、マルチリージョン、マルチマスター、バックアップ/リストア、オートスケール、オンデマンドの起動とシャットダウン、秒単位の課金――。発表されたデータベースサービスのキーワードは、既存のデータベースにつながれていた枷(かせ)をひとつひとつはずしていくカギであり、ユーザーに“Freedom”を提供する存在であることが理解できる。