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クラウドは次のフェーズへ――、「AWS re:Invent 2017」でアンディ・ジャシーCEOが示した5年間の総決算

 毎年、11月後半から12月初旬にかけて米ラスベガスで開催されるAWSの年次カンファレンス「AWS re:Invent」――。

 6回目となった今回は、11月27日から12月1日(いずれも米国時間)までの5日間にわたり、世界中から4万3000人が参加。会場も4カ所に分散され、過去最大規模のイベントとなった。5年前の2012年に初めて行われたre:Inventの参加者が5000人だったことを振り返れば、いかにAWS、そしてクラウド市場が拡大してきたかがわかる。

 re:Invventでは、AWSの顔である2人のキーパーソン――、CEOのアンディ・ジャシー(Andy Jassy)氏と、Amazon CTOのヴァーナー・ボーガス(Werner Vogels)氏のキーノートが必ず行われ、それぞれがそれぞれのメッセージとともに新サービスを発表する。

 本稿では、11月29日に行われたジャシーCEOのキーノートで明らかになったAWSの新サービスを紹介しながら、AWSが描こうとする、あらたなクラウドの世界を展望してみたい。

アンディ・ジャシーCEO

Everything Is Everything:プラットフォームは“すべて”をカバー

 今回のジャシーCEOのキーノートは例年とはかなり趣向が異なっており、「コンピュート/コンテナ」「データベース」「ビッグデータ/データレイク」「マシンラーニング」「IoT」という5つのカテゴリに沿って新サービスを紹介。その際、それぞれのカテゴリを象徴する5つの楽曲のパートを、ハウスバンドが最初に演奏し、歌詞の内容にひもづけたジャシーCEOのメッセージを伝えている。

 最初の発表であるコンピュート/コンテナに関連した曲は、ローリン・ヒルの「Everything Is Everything」だった。ジャシーCEOは毎年、新インスタンスファミリなど、AWSクラウドを支えるコンピュートサービスのアップデートを最初に発表するのが恒例となっている。

 しかし今年は、すでに前日(11/28)の時点で、グローバルインフラストラクチャ部門のシニアバイスプレジデントであるピーター・デサンティス(Peter DeSantis)氏により、ハードウェアへのダイレクトアクセスを実現する「Amazon EC2 Bare Metal」(プレビュー版)や新世代の標準インスタンス「Amazon EC2 M4インスタンス」などが発表されている。

 代わってジャシーCEOが最初に紹介したコンピュート関連のアップデートは、「Amazon Elastic Container Service for Kubernetes(Amazon EKS)」と「AWS Fargate」という2つのコンテナサービスだ。

 Amazon EKSは文字通り、AWSのコンテナ管理サービス「Amazon ECS」のKubernetes対応版である。「ECSでKubernetesを走らせたいという顧客の声に応えた、スケーラブルでセキュアなKubernetesサービス」とジャシーCEOが説明する通り、いまやコンテナ管理のデファクトとなったKubernetesのコントロールプレーンをマネージド型で提供するサービスだ。

 セキュリティが高いレベルで担保されているのが特徴で、マネージド型でありながら、ユーザーのVPC内でコンテナが稼働するインスタンスを起動できるほか、コントロールプレーンのエンドポイントに対するアクセス認証としてIAMを利用することが可能だ。

 また、CloudTrailやCloudWatch、ELB(Elastic Load Balancing)といったAWSのさまざまなサービスとKubernetesのスムーズな連携が可能な点もEKSの大きな魅力といえる。マネージドサービスであるため、当然ながらアップグレードやパッチ適用などはすべて自動化されている。なお、現時点ではオレゴンリージョンによるプレビュー版のみの提供となっている。

ECSによるKubernetesサポートのAmazon EKS。AWSのほかのサービスとの連携も可能に

 もう1つのAWS Fargateは、Amazon ECSとAmazon EKSという2つのマネージドコンテナサービスの選択肢を得たユーザーが、より簡単にコンテナを扱えるよう、コンテナインスタンスの構築から管理/運用までを、一気通貫でサポートするフルマネージドサービスだ。

 コンテナは使いたいがインスタンスの管理はしたくないというニーズに応えたアップデートで、ユーザーはコンテナ実行のためのサーバーやクラスタを管理することなく、必要なときに必要なだけのコンテナをスケーラブルに実行できる。課金の対象は使用したリソース量のみ。現時点での対応リージョンはバージニアリージョンで、ECS対応はすでにGA、EKSに関しては「2018年の早い段階」(ジャシーCEO)での対応が予定されている。

使いたいときに使いたいだけコンテナを利用できるAWS Fargateでは、インスタンスの管理は一切不要。ECSとEKSのどちらにも対応する

 これまでのre:Inventでは、新インスタンスの発表がそのままAWSのコンピュートリソースの拡充をあらわしていた。だが今回、ジャシーCEOは「インスタンス」「コンテナ」「サーバーレス」の3つのアーキテクチャをAWSのコンピュートリソースとして位置づけた。

 これまでAWSが決して手を出さなかったベアメタルサービスの提供も含め、今回のアップデートにより、クラウドの基盤を支えるアーキテクチャがインスタンスという仮想サーバーだけだった時代から大きく拡張したといえる。

 プラットフォームの“すべて”を獲りにいくというAWSの戦略は、クラウドの基盤であるコンピュートリソースのラインアップに如実にあらわれている。

Everything Is Everything――、プラットフォームのすべてを獲りにいく方針として、コンピュートの定義をインスタンスからサーバーレス、コンテナまで広げている