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クラウドは次のフェーズへ――、「AWS re:Invent 2017」でアンディ・ジャシーCEOが示した5年間の総決算

The Waiting Is The Hardest Part:“待たない”IoTコンピューティングの実現へ

 最後のカテゴリは、マシンラーニングと同様にAWSがもっとも力を入れている分野であるIoTだ。ハウスバンドがこのために演奏したのはトム・ペティの「The Waiting」。ジャシーCEOは曲の冒頭の「The waiting is the hardest part(待つことは最大の難関)」というフレーズを取り上げ、IoTにおけるレイテンシの課題を解決する重要性を強調している。

 IoT関連のアップデートとして、ジャシーCEOは以下の発表を行っている。

・AWS IoT 1-Click:1クリックでデバイスごとにLambdaファンクションを作成(プレビュー、バージニア/オレゴン/オハイオ/アイルランド/フランクフルト/ロンドン/東京)
・AWS IoT Device Management:IoTデバイスの一元管理(GA、東京を含む10リージョン)
・AWS IoT Device Defender:IoTデバイス全体に対するセキュリティポリシーの適用(2018年提供予定)
・AWS IoT Analytics:フルマネージドなIoTデータの簡易分析サービス(プレビュー、バージニア/オハイオ)
・Amazon FreeRTOS:GreengrassやAWS IoT Coreとも接続可能なマイクロコンピュータのためのIoTオペレーティングシステム(GA、東京を含む8リージョン)
・AWS Greengrass ML Inference:マシンラーニングをエッジで実行、デバイス上での推論が可能に(プレビュー、オハイオ/バージニア)

一見すると地味なアップデートだが、大量のIoTデバイスを管理するユーザーにはうれしい機能の「AWS IoT Device Management」。リアルタイムにデバイス全体を検索することも可能

 基本的には、ユーザーからのフィードバックをもとにしたAWS IoTファミリのエンハンスが中心だが、オープンソースの組み込みシステムとしてコアな人気をもつFreeRTOSをサポートしたり、エッジでのマシンラーニングを実現したりするなど、AWSならではの意外性のある発表も目立つ。

より小さなデバイスを管理したいというニーズに応え、FreeRTOSを実装した「Amazon FreeRTOS」で、より広い層のIoTユーザーにアプローチする
AI×IoTなサービスとなる「Amazon Greengrass ML Inference」は、エッジでのマシンラーニングを可能にするサービス

 サイズやバッテリーという面でのIoTならではの課題に対し、クラウドならではの実装を強化していくことで、“待たない”IoTコンピューティングの実現を進めていく姿勢だ。

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 AWSが最初のクラウドサービスとしてAmazon S3をローンチしたのは、2006年の12月のことだ。それから6年後の2012年11月に最初のre:Inventが行われ、ジャシーCEO(当時はSVP)によりAmazon Redshiftが発表されたときの衝撃を、筆者は今もはっきりと覚えている。

 データアナリティクスは高価なオンプレミスのハードウェア上でしかできない、そんな既存の概念をまさしく破壊したのがRedshiftだった。少し大げさにいえば、クラウドがただのITトレンドではなく、世界を変えられる技術であることを明らかにしたローンチだったといえる。

 あれから5年が経過した現在、あらためてジャシーCEOが発表したサービスを見てみると、残念ながらRedshiftを超えるほどのインパクトは感じない。

 だが、一方でAWSはこの5年をかけてあたかもパズルのピースをひとつひとつ埋めるかのようにアップデートを繰り返し、今回のre:Invent 2017でもって、クラウドの歴史における1つのフェーズを完了させたようにも思える。

 キーノートの最後、ジャシーCEOはもう一度、最初に紹介した「Everything Is Everything」に言及し、「After winter, must come spring(冬のあとには必ず春が来る)」というフレーズで締めくくった。クラウドの1つの季節が終わり、パズルのピースはそろった。

 これまでの蓄積を土台にした、クラウドの新しいフェーズがいままさに始まろうとしている。

「冬のあとには必ず春が来る」――。プラットフォームをすべてそろえたところで1つのフェーズが終わり、クラウドの次の季節を迎えることになる