イベント
日本マイクロソフトがパートナー向けイベントを開催、最新技術や支援策などを説明
2017年9月4日 06:00
日本マイクロソフトは1日、パートナー企業を対象にした「Japan Partner Conference 2017 Tokyo~ Inspire Japan!」を、東京・芝公園のザ・プリンスパークタワー東京で開催した。
2017年7月からスタートした同社2018年度の経営戦略や、最新製品およびサービスに加えて、米国時間の7月9日からワシントンD.C.で開催されたパートナー企業向けイベント「Microsoft Inspire 2017」で発表された、新たなパートナー支援策などについても紹介する場になった。
会場では、基調講演やブレークアウトセッションのほか、Microsoft Azureに関するハンズオンセッション「Microsoft Azure HANDS-ON LABS」や、IoTビジネス共創ラボなどのコミュニティ活動の紹介、Microsoft HoloLensをはじめとした最新技術を活用した製品やサービスの展示などが行われた。
クラウドの売上高が全体に47%に
午前10時から行われた基調講演では、日本マイクロソフトの平野拓也社長が登壇。パートナーとのビジネス連携における注力分野、顧客のデジタルトランスフォーメーション推進に向けた取り組みなどについて説明した。
冒頭、平野社長は、スクリーンに「ありがとうございます」という文字を表示しながら、「日本マイクロソフトは、パートナーなくてはビジネスができない。その協力に感謝している」と切り出した。
2017年6月に終了した2017年度において、グローバルでの法人向けクラウドビジネスの売上高が189億ドルに達し、2018年度に目標にしている200億ドルに近づいていることなどに触れる一方、日本マイクロソフトでも、「働き方改革の追い風、Office 365などのソリューションが深く刺さり、いい1年であった」と総括。
「私が社長に就任してから2年間で、日本マイクロソフトの売上高の半分をクラウドで占めるという目標を掲げたが、これを2年間で47%にまで引き上げた。50%に達していないのはインチキかもしれないが、これで良しとしたい」とした。
また、インテリジェントエッジやインテリジェントクラウドによる新たな方針や、デジタルトランスフォーメーションに向けたキーワードとして、「社員にパワーを」「お客様とつながる」「業務を最適化」「製品の変革」という4つに加えて、「モダンワークプレイス」「ビジネスアプリケーション」「アプリケーション&インフラストラクチャー」「データ&AI」という4つのソリューション枠で取り組んでいくことなどを示した。
また、「Microsoft Azureの3けた成長を2020年まで継続していきたい。Office 365は多くの企業に入っているが、いまの倍以上は入るだろう。そして、Windows 10デバイスは5000万台は入っていくことになるだろう」などと、日本における成長戦略を明らかにした。
2017年度の注力分野を説明
今回の基調講演では、2017年度の注力分野に、「働き方改革」「デバイスモダナイゼーション」「インダストリーイノベーション」の3点を挙げていることを示し、それぞれに対して、時間をかけて説明した。
「働き方改革」では、働き方改革推進企業として自らを実験台として実践し、そこで蓄積した知見を、日本の企業に対して提案していくこと、スチームケースとの提携により、オフィス家具の領域からも新たな仕事の仕方を提案するとともに、日本マイクロソフトの品川本社内にクリエーティブスペースを用意してこれを公開すること、働き方改革ムーブメントサイトを用意してさまざまな情報を提供することなどを紹介。
今後は、Microsoft Inspire 2017で発表した「Microsoft 365」によって、働き方改革の提案を進めるとともに、安心、安全な利用環境を提案していくことなどを強調した。
デバイスモダナイゼーションでは、インテリジェントエッジの観点から説明。「Windows 10を搭載したデバイスが全世界で5億台に達した。今年秋には、新たなアップデートを提供し、ほかのプラットフォームとの連携も強化されることになる。さらに、Windows 10Sを今年秋から日本でも投入することになる」とした。
また平野社長は、Surface Pro LTEモデルを今年秋に国内市場に投入することを発表。「日本のビジネススタイルにあった新たなSurfaceを提供することができる」と述べた。また、Surface Hubについては、「すでに国内で100社以上が導入した。1社で100台以上を導入している例もある。社長などのエグゼクティブの部屋に導入されたり、“ワイガヤ”でミーティングする部屋に導入するケースが多い」とし、「このほど、Surface Hubを取り扱えるリセラー制度を導入する。1年以内に、40社以上にこのプログラムを活用してもらいたい」と述べた。
さらに、ミックスドリアリティ(MR)のパートナープログラムを国内で展開していくことを発表。「米国でのトレーニング、アプリケーションのデザインおよびオプティマイズなどを提供する」とし、すでに、MR認定パートナーとして活動している博報堂、wise、ネクストスケープの取り組みをビデオで紹介した。
そのほか、平野社長は、「Windows XPのサポート終了時には、不要な特需を生み出し、多くのパートナー企業に迷惑をおかけした。それを学習して、2020年に迎えるWindows 7およびOffice 2010のサポート終了に向けたキャンペーンおよびメッセージの発信には、早めに取り組んでいく」と語った。
インダストリーイノベーションでは、2017年7月から新たな組織体制を敷き、業種ごとに分かれた組織として、専任担当者を配置することなどを紹介。さらに、トヨタのラリーカーであるYARISにおいて、マイクロソフトがWRCのテクノロジーパートナーとして支援。コネクテッドラリーカーの実現やファンとの交流などをサポートしていること、NOW ON Azureと呼ぶサイトを通じて、Azureの活用事例を紹介していることに触れ、「今後、AIを含めて、さまざまな業種に向けて訴求したいく」とした。
代表的なユーザー事例を紹介
続いて、ユーザー事例をいくつか紹介した。
最初に登壇したのが、FIXERの松岡清一社長と、北國銀行の杖村修司代表取締役専務だ。
FIXERと北國銀行は、日本マイクロソフトとともに、Azureを基盤としたインターネットバンキング「北國クラウドバンキング」で提携しており、地銀発の取り組みとしても注目されている。
北國銀行の杖村修司代表取締役専務は、「シンガポールに海外支店を地銀として初めて出店したし、勘定系システムおよび周辺システムをオープン系に移行するなど、本店移転に伴う働き方改革に取り組んできた。クラウドバンキングでは、個人や法人、地方公共団体のニーズを突き詰めていこうと考えており、Fintechというところは意識していない」と前置き。
「銀行のビジネスモデルを変えていくには、ITが不可欠である。欧米では、店舗を持たず、ATMも持たず、デジタルだけで完結する金融機関が登場している。日本でもそうした銀行が登場するだろう。北國クラウドバンキングによって新たなサービスを提供するとともに、人員を有人店舗にシフトして付加価値を高めることができる。キャッシュレスへの取り組みも行い、地銀発で地方経済のデジタル変革を加速し、地域の発展と、日本全体の発展につなげたい」とコメントした。
またFIXERの松岡清一社長は、「Azureとスマホがあれば、デジタルバンキングによって地銀の業務がすべて実現できてしまう時代がやってくる。既存の業務だけでなく、ITを活用した新たなエンゲージメントを実現することによって、地域の中小企業に対してもビジネス変革を提案できる。北國銀行では、開発リソースをインドに広げているが、当社もそこと連動しながら新たなシステムを支援したい。日本のキャッシュレス化を北陸から進めてほしい」と述べた。
続いて、ソフトバンク・テクノロジー(SBT)の眞柄泰利取締役常務執行役員と、ミツフジの三寺歩社長が登壇。SBTが提供しているセキュアIoTプラットフォーム(SIOTP)を第1号導入した、ミツフジでの事例を紹介した。西陣織のネクタイに織り込んだセンサーや、トレーニングウェアに搭載したセンサーから情報を収集し、サービスを提供するというもので、従業員の体調変化の見える化とその予兆管理などに活用しているという。
AIを活用デジタルトランスフォーメーションの事例としては、エイベックス・グループとPreferred Networksを紹介した。
エイベックス・グループ・ホールディングス グループ執行役員グループ戦略室の加藤信介室長は、「エンターテインメントとテクノロジーの組み合わせては、もはや当社の経営理念のように考えている。これによって、感動を何倍にも高め、新たな形でコンテンツを届けることができている。当社に所属しているピコ太郎も、このインフラがなければ、ここまでヒットはしなかった」と切り出した。
エイベックス・グループは、マイクロソフトのコグニティブサービスを利用して、ライブ来場者の表情から感情を数値化する技術を利用していることを紹介。来場者の感動を定量的に把握し、これをファンの満足度向上につなげたり、アーティストの活動にも反映させたりしているという。
また、Preferred Networksの西川徹社長兼最高経営責任者は、製造分野や教育分野などに深層学習を活用していることを紹介しながら、「深層学習を利用することで、ひとつひとつ制御することなく、柔軟にさまざまな用途に対応できるようになると、活用できる場所が広がることになる。Preferred Networksでは、オープンソースの深層学習フレームワークであるChainerをAzure上で提供したり、録画自動着色サービスのPaintsChainerをAzureで提供したりといったことを行っている。また、白黒映像カラー化AI技術などの商用利用も開始している。今後はAzure上で、大規模に深層学習を展開できることもできる環境も提供していく」などとした。
新たなパートナー支援を発表
これらの事例を紹介したあと、日本マイクロソフトの平野社長は、日本における業種コミュニティ活用について説明。「Industry"x-Biz"Community」を展開していくことを示した。ここでは、野村総合研究所やFIXERを中心に、金融デジタルイノベーション・コンソーシアムを2017年9月末に設立。三井情報やリクルートキャリアを中心にHRTechコミュニティを2017年11月に発足することを発表した。
また、7月からスタートしたパートナー事業本部の役割についても説明。新たにパートナー事業本部を担当する高橋美波執行役員常務が登壇し、「新たな体制では、サービスを作り、広め、販売する組織になる。パートナーのソリューション開発を支援し、マーケティングし、ともに販売していくことを一気通貫で支援していく」とした。
また、Partner Success for Japanと呼ぶ新たなパートナー支援プログラムを開始することを発表。「ここでは、AIやARといった最新技術に関する情報をいち早く伝え、テクニカルリソースやトレーニングを提供し、マーケティング支援を行う」とした。
高橋執行役員常務は、「2025年には、われわれが対象とする市場は、26兆円の規模が見込まれる。それに向けて、2018年度は、パートナーとの関係を深く築いていきたい。さまざまなソリューションを提供し、日本を元気にしたい」と語った。
最新技術のデモを披露
最後に登壇したのは、日本マイクロソフト 業務執行役員 エバンジェリストの西脇資哲氏だ。
「パートナーが知っておくべき製品やサービス、技術を紹介する」として、最初にデモンストレーションを行ったのが、MyAnalyticsによる働き方改革の事例。自分の働き方の状況を見える化するだけでなく、これからどんな仕事の仕方をすればいいのかを提案してくれる様子をデモンストレーションした。
また、AIについてのデモンストレーションを行い、Microsoft Translatorでは、日本語の音声入力を、正確にテキスト化して表示。言葉の抑揚からしゃべる内容の意思も反映し、内容によって語尾に「?」をつけるといったことも示した。
また、映像認識技術では、TBS系で大ヒットしたドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」のエンディング映像や、乃木坂46のプロモーションビデオを使って、顔認識により、リアルタイムで名前や年齢、性別などを表示する機能を紹介した。
さらにヒアリを認識して、それを検知するアプリとして活用できるデモンストレーションや、ユーザー事例として紹介されたエイベックスグループでの、ライブ来場者の表情から感情を数値化する技術を紹介した。
また、トヨタのラリーカーであるYARISのデモンストレーションでは、HoloLensを使用して、実車を見ながら、エンジンやタイヤなどの仮想的な映像を組み合わせて表示し、メンテナンスなどにも活用できる例や、ドライバーごとに最適なライン取りなどを提示するといった内容を示した。
なお、基調講演では、FIXERが2017 Country Partner of the Year Awardを受賞したことや、マイクロソフト・ジャパン・パートナー・オブ・ザ・イヤー2017として、20社の企業が受賞したことも紹介した。