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AIは脅威ではなく最大の機会だ――日立・德永社長が話す「新しいデジタルインフラ企業」への変革とHMAX拡大戦略

Investor Day 2026レポート

 株式会社日立製作所(以下、日立)は10日、「Hitachi Investor Day 2026」を開催した。

 日立の德永俊昭社長兼CEOは、「AIは日立にとって脅威なのか、機会なのか。そして、HMAXは、日立の成長エンジンでありうるのか。その点を明確にしたい」と切り出し、日立グループが推進している新経営計画「Inspire 2027」の進捗や、今後の方向性について説明した。

 また、Lumada 80-20に向けた取り組みや、HMAXの拡大戦略のほか、デジタルシステム&サービス(DSS)セクターでは、FDE Teamの陣容を5000人規模に拡大すること、2027年度までに最大1兆円の投資枠を確保したことなども示した。

日立 代表執行役 執行役社長兼CEOの德永俊昭氏

 2025年度については、「日立グループ新経営計画『Inspire 2027』の初年度として、極めて順調なスタートとなった」と振り返り、利益やコアFCF、ROICが過去最高を更新したこと、Lumadaの売上収益比率が11ポイント上昇して40%になったこと、HMAXのグローバルローンチを行ったこと、1753億円の成長投資を行ったことに加えて、4セクターにおける2025年度末のバックログが、合計で前年比24%増となる21兆円に達したことに触れた。

 そして、「拡大を続けるバックログは持続的成長に向けた強固な収益基盤になっており、同時にフィジカルAIの実装フィールドを提供する場にもなる。これらは、AIを実装し、データを収集し、新たな価値を創出するための巨大なデジタライズドアセットに転換されることになる」と位置づけた。

昨年のInvestor Dayで提示したCEOプライオリティを着実に実行
4セクターが着実に成長機会をとらえ、バックログは大きく伸張

 だが、「現状に満足しているわけではない。日立にとって、新しく巨大な成長機会が目前に広がっている」とし、急速に進化するAIが、日立にとって脅威なのか、機会なのかと自問自答しながら、「答えは明快である。AIは日立にとっては脅威ではない。日立の成長を非連続的に加速させる最大の機会である」と断言した。

 日立の注力領域であるエナジー、モビリティ、インダストリーの顧客が、Physical AIの実装によって、生産性向上やイノベーションの創出に向けた取り組みが急拡大していることを指摘。「Physical AIの実装は、AIがサイバー空間を飛び出し、現実社会に直接影響を与えることを意味している。AIの誤りによって、設備や機械が停止したり、製品の品質不良が多発したりといった大きなリスクを伴い、安全な実装の難易度が極めて高い。だが、この特性が日立に大きな成長機会をもたらす。Physical AIの安全な実装のためには、IT、OT、プロダクトのすべての技術と知見を高度に融合させる必要がある。ミッションクリティカルな社会インフラを長年にわたって支えてきた日立の優位性を存分に発揮できる領域である」と定義した。

 日立には、旺盛なインフラ更新需要に支えられた膨大なインストールベースがあり、ここにPhysical AIを実装し、現場の運用や保守を高度化することができるとし、それを実行するために、電力、鉄道、産業などにおけるドメインナレッジを持つPhysical AI FDE(Forward Deployed Engineer)が運用現場に入り込み、Physical AIの実装と安定稼働に貢献することを示した。

 「Physical AI FDEが現場で培った知見やデータモデルをHMAXに集約し、横展開することになる。労働集約型ではない、スケーラブルな成長を目指すことができる」とした。

 さらに、「既存のITシステム資産をAI-Ready化するモダナイゼーションの需要が急拡大している」とし、「DSSがこれまでに開発を手掛けた1万5000の稼働中のITシステムは、日立が優先的にアクセスできる巨大な市場といえる。これが、日立の将来の成長を確固たるものにしている」と位置づけた。

AIがもたらす、さらなる成長機会

 また、業務を支えているITシステムに、最新のAI技術を取り込み、業務プロセス改革やサービス強化を実現することが急務になっていることを指摘。DSSセクターでは、国内で3万5000人のシステムエンジニアを擁し、AIを活用して自らの生産性を向上させ、顧客のモダナイゼーションニーズに応えていること、ミッションクリティカルな知見を持つFDEが、顧客のシステム部門と一体となり、AnthropicやGoogle Cloud、Microsoft、OpenAIなどのAIエコシステムパートナーと連携しながら、顧客の要望に応え、高信頼・高品質なAXをリードする環境を構築していることをアピールした。

 そして、それらの成果を、VelocityAI、HARC for AI、HMAXなどに還元し、多くの顧客に対するAXを支援できることも強調した。

 Anthropicとのパートナーシップでは、セキュリティプログラム「Project Glasswing」に日立が参画。Claude Mythos Previewへのアクセス権が付与されており、エネルギー分野をはじめとする社会インフラ向けに日立が提供するソフトウェアプロダクトにおいて、サイバーセキュリティを強化するために、これを活用する。また、Google Cloudとのパートナーシップでは、FDEによるフィジカルAIの社会実装と、セキュリティ領域での戦略的アライアンスを拡大。Gemini Enterpriseを活用しながらHMAXを高度化する取り組みも進めることになる。

 また、德永社長兼CEOは、CEOプライオリティとして、2025年度に引き続き、「Lumada事業の拡大」、「キャピタルアロケーション」、「ガバナンスの深化」の3点を挙げ、「激変する経営環境のもと、より実行力を強化し、成長への飽くなき挑戦と規律ある経営を両立する」と述べ、2026年度は、「HMAXの拡大および戦略投資強化」、「不断のポートフォリオ改革」のほか、「規律ある成長投資の加速」、「One Hitachi経営の深化」などに取り組む姿勢を示した。

激変する経営環境のもと、成長への飽くなき挑戦と規律ある経営を両立

 また、德永社長兼CEOは、「日立は、エナジー、モビリティ、インダストリー、デジタルの4事業に注力し、デジタルセントリック企業への変革に取り組んでいる。デジタライズドアセットの上で、日立が提供するHMAXなどのデジタルサービスを、社会インフラの安定稼働に必要不可欠なOS(Operating System)へと進化させる。社会インフラを運用する際の前提OSとして組み込むと、データのさらなる蓄積が進み、AIの精度が上がり、OSとしての提供価値が一層向上する。これは、強固な参入障壁の構築にもつながる」と語る

 さらに、「日立は、社会インフラに対するOSの提供を通じて、高い利益率を伴ったリカーリング収益を、長期的に、安定的に生み出す企業へと変革していく。強いプロダクトとITシステムを起点として、ドメインナレッジとAIを駆使したサービスにより、リカーリング収益を生み出す『新しいデジタルインフラストラクチャ企業』になることが、『Inspire 2027』の先に見据える日立の姿となる」と位置づけた。

日立は、社会インフラのデジタル化と、安定稼働を支える「OS」で、持続的に成長

ポートフォリオ改革を加速、デジタル・サービス拡大へのM&Aを重視

 一方、日立の加藤知巳CFOは、Lumada事業の拡大に向けて、ポートフォリオ改革を加速していることについて説明。「インオーガニックの成長投資は、デジタル強化やサービス拡大を重視する。案件の多くは、既存事業を強化するボルトオン型M&Aを想定している」とし、これまでに、グローバルなデジタルモビリティ企業としての成長を加速するためのClever Devices、鉄道の運行と保守の最適化を行い、日立レールのHMAXの成長をサポートするOmnicom、HMAX Energy をはじめとするデジタルサービス事業を強化するShermco、GlobalLogicのデータおよびコンサルティングのケイパビリティを強化するsynvertを買収したことに触れた。

日立 代表執行役 執行役専務 CFO兼Chief Risk Management Officerの加藤知巳氏

 「2025年度のポートフォリオ改革関連の社内における審議件数は、前年度の3倍に増加しており、取り組みを大きく加速している。Lumadaのデジタルサービス事業の拡大に貢献する案件を中心にM&Aを進めてきた」と振り返った。

 一方で、Astemo、日立グローバルライフソリューションズ、日立建機、日立チャネルソリューションズ、ジョンソンコントロールズ日立空調の資産売却、事業再編を行っている。

Lumada事業の拡大に向けたポートフォリオ改革を加速

国内5000人規模のFDE Teamと最大1兆円の投資枠でAI市場を攻略

 「Hitachi Investor Day 2026」では、4つのセクターごとに説明が行われた。

 デジタルシステム&サービス(DSS)セクターの事業戦略については、日立 代表執行役 執行役副社長 社長補佐 デジタルシステム&サービスセクターCEOの阿部淳氏が説明した。

日立 代表執行役 執行役副社長 社長補佐 デジタルシステム&サービスセクターCEOの阿部淳氏

 2025年度については、好調な国内事業がDSSの業績をけん引して、過去最高益を更新したこと、Lumada事業の売上収益比率が62%に達したことを報告。「高付加価値モデルへと転換し、収益性が向上している。また、バッグログは1兆8000億円まで積み上がっており、これが今後の成長に向けた好材料となっている」と総括した。

好調な国内事業が業績をけん引し、過去最高益を更新

 国内事業では、Adj. EBITA率が18.4%となり、国内ITサービスベンダーのなかでもトップレベルの利益率を達成。30億円以上の大型案件が前年比87%増と大きく拡大したほか、公共、電力、鉄道に加えて、防衛分野が大きく伸長していることを示し、「高い参入障壁を持つミッションクリティカル領域での成長が、日立の競争優位性を強固なものにしている」と述べた。

国内事業の伸長

 また、GlobalLogicでは、事業ポートフォリオの重心がAIへと移り、OTセクターとのシナジーを拡大。GlobalLogicが持つデジタルエンジニアリング力と、日立のOTおよびプロダクトとの融合による事業が、前年比73%増という高い伸びを見せていることを示し、「GlobalLogicは、日立グループ全体のDXを加速する中核的役割を担っている」と位置づけた。

シナジーを拡大するGlobalLogic

 阿部副社長は、AIによる事業へのインパクトについても言及した。

 「AIは新たな市場を生み出し、成長機会をもたらしている。複雑な企業システムへの確実なAI実装によるモダナイゼーションやAIサービス、止められないシステムでのAI実装のほか、信頼性と安全性を両立したPhysical AIによって、新たな価値の創出とともに、市場が急拡大している。重要なのは、この市場において、誰が価値を実現し、収益に変えられるかという点である。AIインパクトによって創出される新たな市場は、2030年には100兆円規模になる。日立はこの分野で強みを発揮できるポジションにある。日立にとって成長機会である」と位置づけた。

 DSSセクターでは、「モダナイゼーション・AIサービス」と「社会インフラ×AI」の2つの市場において、成長戦略を推進する。

 「モダナイゼーション・AIサービス」では、強固な顧客基盤を生かしながら、AI-Ready化(モダナイズ)の支援と、AIサービス提供のスピード向上が鍵になると指摘。こうした取り組みにより、2030年度には、国内売上目標を3~5兆円に引き上げる計画を打ち出した。

「モダナイゼーション・AIサービス」市場での成長

 この実現に向けて、FDE Teamの存在が重要になると述べる。

 「FDE Teamは、お客さまの現場に入り込み、AIなどを活用して、課題定義、実装、運用、改善までを、一気通貫で担うことができるスペシャリストチームとなる。提案書を作るだけでなく、顧客課題とビジネス価値を定義し、すぐにプロトタイプやモックアップで提案するスピードを持つことが競争力につながる。FDE Teamの陣容を国内だけで5000人規模に増やし、デリバリー能力を飛躍的に高める」とした。

 一方で、FDE Teamとは別に、Physical AI FDE Teamを設置する。FDE Teamは、ITおよびデータ領域におけるAI実装にとどまるのに対し、Physical AI FDE Teamは、分断されていたITとOTの人財を融合。GlobalLogic やHitachi Digital Servicesが持つデータ基盤、セキュリティ、AI技術と、OTセクターのドメインエキスパートが持つプロダクト知識、ドメインナレッジ、制御技術を組み合わせた日立ならではの組織になるとし、社会インフラにおけるAI活用と高い信頼性、安全性を実現できるとした。「DSSセクターでは、Physical AI FDE Teamを核として、HMAXの収益化とスケール化を進める」とも述べた。

 2026年5月に発表した「Frontier AI Deployment Center」が、FDE Teamの活動を支え、技術の提供、ユースケースの蓄積、OJTなどによる人財育成を進める。

FDE Team

 さらに、Agentic Integrationにより、顧客の継続的な業務変革を、迅速・高品質で実現する基盤を整備する。これは、要件定義、設計、コーディング、テスト、運用といった開発工程をAIエージェントが担う新たな開発手法であり、日立のノウハウやアセットを組み込み、開発スピードを飛躍的に高め、生産性とスケールを向上させることができるという。

 「FDE Teamが課題を定義し、Agentic Integrationが高速に実装することで、顧客の継続的な業務変革を支えることが可能になる。これは効率化にとどまるものではなく、売上成長や利益拡大につなげ、高付加価値な事業構造への転換を実現するものになる」と位置づけた。

Agentic Integration

 もうひとつの成長戦略の柱である「社会インフラ×AI」は、Physical AIの取り組みになる。

 ここでは、HMAX by Hitachiにより、稼働データをAIで分析し、インフラを自律的に最適化。これにより、効率性と信頼性を引き上げることができるとし、「この市場は、数兆円から10数兆円の規模が見込まれる。だが、現時点では確立されたプレーヤーは不在である。日立グループが持つアセットを総動員して、トップを目指す」と宣言した。

「社会インフラ×AI」市場での成長

 日立グループでは、ドメインナレッジをベースとしたPhysical AIや、Physical AIに関する知見を持ったFDE Teamによる人財、ミッションクリティカルセキュリティの実現、ITおよびOTのデータを統合するデータ基盤の4つを一体化して提供できるところに強みがあるとする。

 データ基盤では、ITのデータとOTのデータを統合・構造化し、安全にAIで活用できるように整備するという。また、業種、業界を超えたデータ連携を可能にし、データ主導の新たな価値創出と、継続的な収益拡大につなげるとした。

 「社会インフラにAIを実装するには、一般的なIT知識だけでは不十分であり、現場を理解するドメインナレッジが不可欠である。こりにデータ基盤や人財、セキュリティによる強みを一体化して提供することで、高い信頼性と効率性を同時に実現する。これを具現化するHMAXは、社会インフラの運用を支えるOSへと進化することになる」と語った。

Physical AIの社会実装

 DSSセクターにおける投資戦略では、オーガニック投資として、2026年度に300億円を増額し、FDEの育成や独自AI技術の強化などに活用。2027年度までにインオーガニックの投資枠として最大1兆円を確保し、必要な技術や顧客基盤を持つ企業に対するM&Aを機動的に実行する。

 「財務規律を保ちながら、資本をダイナミックに投下する。成長市場を確実に取り込み、事業のスケールとともに、競争力を一層高める」と述べた。

 一方で、構造改革については、ITプロダクトを中心に推進していることに触れ、ストレージ事業では競争力を持つハイエンドのブロックストレージにリソースを集中。ATM事業ではOKIとの事業統合により、市場環境に最適な体制に移行する。

成長投資

4つの注力領域でPhysical AIを展開、「エッジAI半導体」も開発中

 コネクティブインダストリーズ(CI)セクターの取り組みは、日立 執行役専務 コネクティブインダストリーズセクターの網谷憲晴CEOが説明した。

日立 執行役専務 コネクティブインダストリーズセクターCEOの網谷憲晴氏

 「2025年度は、Lumadaの売上収益比率が9ポイント増加して43%となった。AI需要をとらえたLumadaの力強い成長で、利益率が向上した。データセンター需要をとらえたファシリティ事業が成長したほか、AI需要の増大に伴う半導体製造関連事業の拡大、診断および製薬プロセスがAIにより革新したライフサイエンス事業が大きな成長を遂げている」と成果を示す。

 そして、「CIセクターは、インダストリー領域におけるPhysical AI事業のリーディングカンパニーを目指す。コネクテッドプロダクトをデジタライズドアセットに進化させ、高度で高信頼な制御と、高度な計測技術で、世の中に存在しないデータを創出し、Physical AIへとつなげていく。また、現場のデータと実運用を熟知したドメインナレッジに、AIを掛け合わせたHMAXにより、現場の自律化、最適化を進め、Time to Marketの短縮に貢献する」とした。

CIセクターのめざす姿

 CIセクターでは、AI投資が旺盛な領域に経営資源を集中し、Physical AI事業による成長を基本戦略に据えている。特に、ファシリティ、半導体製造、医療診断、医薬品製造の4つの領域に経営資源を集中させる姿勢を見せる。

CIセクターの注力事業領域

 ひとつめのファシリティ領域では、65万台の導入実績を持つ昇降機のほか、空調機器、データセンター向けUPSなど、強いデジタライズドアセットを起点に、HMAX for Buildingsを通じたメンテナンスやオペレーションの効率化、ビルファシリティ運用の最適化を実現するという。すでに、使用エネルギーで約16%の削減、施設管理コストで1棟あたり3%の改善成果が出ている。

 「三井不動産や野村不動産への価値提供の実績だけでなく、協創パートナーであるボッシュとの新たな提携を発表した。ボッシュが持つ300万台の空調機器と、HMAX for Buildingsをつなぎ、エネルギーの最適化サービスを提供する」と述べた。

ファシリティ領域におけるフィジカルAI

 2つめの半導体製造領域では、世界で76%という圧倒的なシェアを持つCD-SEMが、世界トップクラスの2nm計測技術により、最先端プロセスにおける業界標準となっている強みを生かし、そこにX線検査技術などを加えることで、前工程の8割を占める成膜、露光、エッチングの工程を一体化したPhysical AIの提供が実現できるという。

 IoT統合プラットフォームである「ExTOPE」により、3つの工程の開発期間を約50%に短縮。同時に、約90%という高い稼働率を実現するという。さらに、サムスンやインテルとの協業を加速し、グローバルの半導体メーカーに対するPhysical AIの提案を進めることになる。

半導体製造領域におけるフィジカルAI

 3つめの医療診断領域では、全世界に9万台以上のインストールベースを持ち、グローバルシェアナンバーワンの生化学・免疫分析装置や、同様にトップシェアの遺伝子検査装置をデジタライズドアセットと位置づけ、HMAX for Healthcareにより、高精度な複数診断の提供により、的確な治療選択と医療最適化を実現。体外診断の8割を占める検査領域に貢献できるという。

 「HMAX for Healthcareでは、生化学・免疫診断、遺伝子診断、がん分析診断のデータを組み合わせて、的確な診療選択と医療の最適化を実現することができる」と語った。

診断領域におけるフィジカルAI

 4つめの医薬品製造領域においては、製法開発からスケールアップの早期化、保全計画AIを活用した安定稼働を支援。リスク低減によるスケールアップ期間を30%短縮し、保全計画AIによる最適化効果として、約10%の生産機会に貢献できるという。

 今後は、培養装置やラインビルドに、分光分析装置を加えて、工程全体の品質向上と歩留まり改善を、Physical AIで実現。「Lab to Fabを一貫支援するHMAX for Biopharmaにより、各工程のサイロを突破し、飛躍的な価値を提供する。また、第一三共や富士フイルムとの協創のほか、約350社の医薬品産業の顧客基盤を生かして、Physical AIの価値を提供していく」とも述べた。

医薬品製造領域におけるフィジカルAI

 一方、Physical AIの事業拡大において、重要な役割を果たすのが、現在、開発中の「エッジAI半導体」だ。

 最先端のGPUと比較して10倍以上の電力効率を達成し、専用サーバーが不要で、リアルタイムの解析を行うことができるため、さまざまな産業機械や産業ロボットを知能化できるというメリットがある。

 日立では、昇降機やCD-SEM、生化学・免疫分析装置、DNAシーケンサーに、エッジAI半導体を搭載し、エッジAIプロダクトに進化させるほか、協創パートナーの製品に実装し、機器連携などを強化。さらに、日立グループの製造プロセスの革新にも活用して、その成果を顧客に展開するカスタマゼロを加速する。

フィジカルAI拡大戦略

 また、Physical AI事業を拡大させるための研究開発投資として、2027年度までの3年間で3700億円を投資。先端材料の量産化の加速、高い計測感度に基づく品質向上、プロダクトの知能化、データセンター用プロダクトの強化などを図る。ここでは、新レーザー分光技術の開発、エッジAI半導体のレパートリー拡充、データセンター向けにはSiC素子を採用したUPS、高効率空冷チラーの強化を進めるという。

フィジカルAI事業拡大に向けたR&D強化

 網谷CEOは、「CIセクターは、2030年度の売上収益のすべてをPhysical AI事業だけで構成する。これにより、継続的な高収益と高成長を両立し、Lumadaの売上収益比率80%、Adj. EBITA率20%の『Lumada 80-20』を実現する。グローバルトッププロダクトを中核としたPhysical AI事業の拡大に加え、データセンター、ロボティクス、アドバンストマテリアル、サーキュラーエコノミーにおいて、次なるグローバルトッププロダクトの創生によるPhysical AI事業のさらなる拡大を目指す」とした。

 なお、2026年4月に、家電事業をノジマに譲渡することを発表しており、これをNon-Lumada事業の構造改革と位置づけ、「引き続き、事業の選択と集中を進め、事業価値の最大化を図る」と述べた。

4年で60億ドル以上を投資、サービス比率を倍増へ

 エナジーセクターの事業戦略については、日立 執行役専務 エナジーセクターのアンドレアス・シーレンベックCEOが説明した。

日立 執行役専務 エナジーセクターCEOのアンドレアス・シーレンベック氏

 エナジーセクターでは、2025年度の売上収益、利益、キャッシュ、受注が過去最高を達成したことを受けて、Inspire 2027の目標を上方修正。さらに、日立エナジーに、サービスビジネスユニットを2025年4月に設置。HMAX Energyを提供開始したことなどを、2025年度の成果に挙げた。

 シーレンベックCEOは、「市場環境は追い風のなかにある。蓄電池システム、静止型無効電力装置、HVDC(高圧直流送電)、変圧器、パワーエレクトロニクスなどの市場は高い成長を遂げるほか、ソフトウェアソリューションやサービスも高い成長を遂げる。2030年度に、日立エナジーが対象とする市場規模は、パワーグリッドでは2500億ドル、原子力では900億ドルに達する」と述べた。

 また、「190カ国において、2400億ドル以上となる50万以上のアセットを提供し、インストールベースではナンバーワンとなっている。だが、サービス領域ではナンバーワンでないために、サービスビジネスユニットを設置した。2030年度までにサービス比率を倍増となる30%以上に高める計画だ。2030年度までは、受注残は売上収益の2.5~3倍の高い水準で、安定的に推移する見通しである。受注実績をもとに、1年間の事業計画が見えており、それに向けて、工場設備を拡充しているところだ。着実な遂行が鍵になる」と、中期的に高い成長を維持することを強調した。

 特に、データセンター関連の受注成長率は150%以上、サービスでは売上成長率が約20%、EconiQでは1000以上の革新的製品を投入しており、カナダでは初のSMR(小型モジュール炉)の建設を開始したことなどを成果に挙げた。

高成長セグメントの需要獲得

 設備投資においては、2020年度から2023年度までに30億ドルの投資を行ったのに続き、2024年度から2027年度までの4年間で60億ドル以上の投資を計画しており、「世界で40以上の既存工場の増強および新規工場建設を行っている。これは先行投資ではなく、収益性が確保された案件を対象にした投資を進めている」と語った。

業界最大の投資プログラムを展開

 エナジーセクターでは、ERPシステムである「Reiwa」により、すべての国と工場をカバーし、サプライヤーと顧客を一元管理することで、オンタイムデリバリーを改善。年間1億5000万ドルのコスト削減を実現しているという。さらに、Resilincを活用した積極的なリスクマネジメントを通じて、レジリエンスを強化。サプライチェーン改善によるアウトプット拡大の成果は、年間2億ドルに達したという。

 今後は、製造方式を受注生産(MTO)から、見込み生産(MTS)へと転換して効率性を向上。CelonisとAIを活用して全社横断のすべてのプロセスをデジタル化。プロセスの最適化によって、2030年までに年間2億5000万ドル以上の利益改善効果を見込むとしている。

デジタルコアが実現する運用効率化

 一方、HMAX Energyについては、すでにいくつかの導入事例があることを示した。

 タイのタタでは、大規模な稼働設備群全体の状態を把握するために、高度化したセンサー・監視システムを導入し、故障率およびダウンタイムを60%削減。イタリアのERGでは、PASS(Plug And Switch System Switchgear)の状態をリモートで監視し、保守計画を動的に最適化することで、電力供給の稼働時間を最大化できるデジタルサービス契約を導入し、現地点検作業に要する時間を35%短縮した。ドイツおよびスウェーデンのBaltic Cableでは、リアルタイムデータの活用や可視化、高度な分析を通じて、複雑なシステム運用や保守を簡素化する高圧直流送電(HVDC)向けデジタルツインを導入して、インシデント対応時間を90%短縮したという。

HMAX Energy関連事例

 一方、データセンタービジネスについては、2025年度に受注が倍増し、今後は2027年度までに5倍に伸びると予測。オファリングによる標準化を進め、コンテナ型800V対応ソリッドステート変圧器を用意するなど、短納期化を実現しているという。

データセンターの成長:需要の急拡大を背景に受注が拡大

7.1兆円の受注残を確実につなぎ、マルチモーダル化とHMAXを拡大

 モビリティセクターの取り組みについては、日立 執行役専務 モビリティセクターのジュゼッペ・マリノCEOが説明した。

日立 執行役専務 モビリティセクターCEOのジュゼッペ・マリノ氏

 2025年度は、売上収益で前年比13%増、利益率では0.4ポイントの改善、受注では1.2倍に増加しているといった成果を強調。

FY2025の振り返り

 また、ハイテクセンサー企業であるOmnicomの買収や、米国ヘイガーズタウン(Hagerstown)におけるデジタル工場の稼働などに取り組んだことを取り上げたほか、新たに買収を発表した米Clever Devicesでは、高度道路交通システム(ITS)で実績を持ち、バスをはじめとした公共交通機関にも対応できることから、マルチモーダル化によって、HMAX for Railの適用領域の拡大に貢献できると見ているという。

デジタル分野への成長投資

 2025年度におけるHMAX for Railの成果について触れた。

 この1年間で、HMAX搭載車両が2000編成から2500編成に増加し、日立製以外の車両が35%以上になっていることに触れながら、東武鉄道では、車両検査の自動化や予知保全などを可能にする次世代デジタルアセットマネジメントを導入。2033年までに開業予定のトリノ地下鉄2号線では、完全無人運転を可能にする車両および信号システムを導入することが決定した。また、コペンハーゲンメトロでは、完全無人運転車両を運用中であり、運用および保守の最適化を実現しているという。

デジタル・HMAX事業の拡大

 今後の取り組みとして、「サステナビリティの実現」、「スケーラブルなデジタルソリューションの推進」、「グローバルモビリティへの拡大」の3点を挙げる一方、信号システム事業、車両事業、デジタルサービス事業をドライバーとした包括的な事業ポートフォリオを確立していることを示した。

Sustainable Digital Global Mobility Player

 「信号システム事業ではタレスGTSの統合が完了し、グローバルにフットプリントが拡大。信号システム事業が、売上収益全体の52%を占めている。車両事業では高速鉄道を中心としたハイエンド車両プラットフォームに注力し、リカーリング事業の強固な基盤を確立しており、売上収益全体の37%を占めた。さらに、デジタルサービス事業はHMAXをベースに、自動運転・運賃徴収システムなどを提案している。リカーリングおよびソフトウェアベース事業は、前年比で76%増となっている」と述べる。

3つの事業ドライバー

 さらに、「過去最高となる7兆1000億円の受注残を確実に遂行するとともに、Agentic AIの導入による業務プロセスの効率化を推進する。社内では、すでに90のAgentic AIを採用している。また、One Hitachiをテコに、デジタルケイパビリティと提供価値の強化を図る」と語った。モビリティセクターでは、旺盛な受注実績をもとに、2026年度の売上収益の90%を、既存受注残からの獲得で見込んでいるという。

受注残の確実な遂行

 モビリティセクターでの事業の構成要素を、フィジカルレイヤー、デジタルレイヤー、アーキテクチャレイヤーの3つと定義。フィジカルレイヤーでは、独自センサー技術やオペレーション統合、ドメインナレッジが差別化になり、デジタルレイヤーでは、蓄積しているデジタル領域の専門性や、LLM(大規模言語モデル)、VLM(視覚言語モデル)、VLA(視覚・言語・行動モデル)などのAI技術を活用。アーキテクチャレイヤーにおいては、クラウドアーキテクチャやサイバーセキュリティ領域の専門性、社内データセンター基盤が、日立の競争優位の源泉になることを強調した。

OT×IT――日立の競争優位の源泉

 今後の鉄道分野におけるHMAXの事業機会として、保守最適化、エネルギー効率化、自動運転をはじめとした高度モビリティの領域をあわせると、約3兆円の市場規模があると試算。2025年6月には、2000億円だったHMAXの案件パイプラインは、現在、6000億円にまで拡大し、100件以上の案件があることも示した。

 今後は、戦略的買収とオーガニック成長による継続的なイノベーションを推進。「2025年度までの取り組みによって、強い基盤を築くことができた。2030年度に向けて、実行力とグローバルスケールに裏付けられたSustainable Digital Global Mobility Playerを目指す」と意気込みを語った。