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日立、2025年4月からの新たな事業体制を明らかに 德永社長直下に戦略SIB BUを新設
2025年2月5日 06:00
株式会社日立製作所(以下、日立)は、2025年4月1日付で実施する新たな事業体制について明らかにした。
4月1日からは德永俊昭氏が社長兼CEOに就任し、新体制がスタートするとともに、次期中期経営計画を開始する新年度に入る。今回の事業体制強化は、德永社長兼CEO新体制における最初の一手となる。
1月31日に実施された2024年度第3四半期連結業績の会見の席上、新体制に言及した日立製作所 執行役専務 CFOの加藤知巳氏は、「新体制の狙いは、デジタルをコアにした『真のOne Hitachi』への変革を実現し、デジタルセントリックな企業として社会イノベーション事業の成長を持続的に加速させ、企業価値を向上させていくものになる」と説明した。
新たな事業体制の“4つのポイント”
今回発表した新たな事業体制では、4つのポイントがある。
ひとつめは、戦略SIBビジネスユニットの新設である。
SIBは、Social Innovation Business(社会イノベーション事業)の略称で、日立が取り組む中核事業を指す。同社がこれまで培ってきたIT(Information Technology)とOT(Operational Technology)、プロダクトを組み合わせるとともに、Lumadaによって、さまざまな社会課題の解決に貢献するという同社の基本戦略でもある。
戦略SIBビジネスユニットは德永社長兼CEOの直下に新設され、執行役専務に就任する谷口潤氏が、同ビジネスユニットのCEOに就く。
生成AIの活用が拡大することで、急速に需要が拡大しているデータセンターや、ヘルスケア、バッテリーなどを、戦略テーマとしてトップダウンで決定し、新たな成長機会の獲得に向けて、グローバルに事業を創生することを目指す。
同社では、「既存のビジネスを強化する一方で、新たな成長機会を獲得するため、全社のリソースを結集し、新たな社会イノベーション事業を創生する組織になる」と位置づけている。
また、「技術の変化点をとらえるには社内外のエコシステムの活用が鍵であり、コーポレートベンチャリングを活用したオープンイノベーションを加速し、研究開発を通じて革新的技術を見極め、事業創生につなげる。技術および社会の転換点を先取りし、新たな成長領域として事業を創生することで、将来にわたってさらなる持続的な成長を実現する」と、戦略SIBの役割を示す。
加藤執行役専務 CFOは、「日立の成功の鍵は、デジタルをコアにして、各事業がより一層連携し、日立ならではの価値を創出することにある。また、新たな成長機会を獲得し、将来の基盤を築き、世界各地で社会イノベーション事業を拡大することにある。これを実現するのが、戦略SIBビジネスユニットになる」と述べた。
2つめが、デジタルをコアにした「One Hitachi」の推進である。
阿部淳副社長が、日立グループ全体のデジタル事業を統括。デジタルシステム&サービス(DSS)セクターと、OTおよびプロダクト領域との連携をより強化し、各事業におけるデジタル化をさらに加速させる体制を敷く。
また、GlobalLogicをはじめとするグローバルでビジネスを統括するデジタルエンジニアリング&AIソリューションビジネスユニットを新設。グローバル事業体の一体運営を通じた事業拡大を図る。さらに、AI&ソフトウェアサービスビジネスユニットを新設して、生成AIの活用によってLumada事業を進化させ、業種や地域の壁を越えた成長につなげるという。
一方、コネクティブインダストリー(CI)セクターを、ブリス・コッホ副社長が統括。同時に同セクターを、アーバンシステムビジネスユニット、インダストリアルプロダクツ&サービスビジネスユニット、インダストリアル AIビジネスの3つのビジネスユニットに再編。事業ポートフォリオのシンプル化により、経営のスピードを上げ、事業間のシナジー創出を加速し、市場での競争力向上を目指す。また、インダストリアルデジタルビジネスユニットを再編して、一部を社会ビジネスユニットに移管。デジタルシステム&サービスセクターとの一体運営により、インダストリー領域でのデジタル化を加速する。
加藤執行役専務 CFOは、「コネクティブインダストリーセクターは、日立の強いプロダクトを集めて、デジタルでつなぎ、ソリューションとして提供し、お客さまへの提供価値を最大化していくことになる。お客さまと事業特性の観点で、3つのビジネスユニットに集約し、全体をシンプル化することにした。このセクターには、まだ伸びしろがある」と語った。
さらに、グリーンエナジー&モビリティ(GEM)セクターにあったエネルギー事業(エナジー部門)と、鉄道事業(モビリティ部門)を、それぞれセクターとして独立。世界的なGX(Green Transformation)の流れをとらえて、さらなる事業拡大に取り組むという。
エナジー部門は、原子力ビジネスユニットとパワーグリッドビジネスユニットで構成。執行役専務のアンドレアス・シーレンベック氏が率いる。モビリティ部門には鉄道ビジネスユニットを設置。執行役専務のジュゼッペ・マリノ氏が担当する。
加藤執行役専務 CFOは、「事業規模の大きさからいえば、セクターとして独立させるのは自然である」とし、「パワーグリッド事業は数年間で大きく成長を遂げてきた。鉄道事業も1兆円を超える規模のビジネスになっている。扱う案件の大型化、経営環境の複雑化があり、直接、CEOにレポートする形にすることで、経営スピードをあげることができる。また、これだけの規模になり、リスクマネジメントも重要なファクターになる。それを強化する意味もある」と再編の理由を述べた。
今回の再編により、2025年4月からは、デジタルシステム&サービス、コネクティブインダストリーに加えて、エナジー、モビリティの4つのセクターで事業を推進することになる。さらに、社会イノベーション事業を推進する上で、デジタルシステム&サービスを中核とし、各事業を緊密に連携させることで、日立グループのOT、プロダクト領域におけるデジタル化を加速させ、One Hitachiとしての価値を創出。グローバルでの競争力向上を目指すことになる。
3つめが、グローバル体制およびコーポレート機能の強化である。
One Hitachiとしての成長を、グローバルで加速するための体制強化であり、既存ビジネスの強化と新たな成長機会の獲得を目指す。
具体的には、地域それぞれのマーケット起点で、One Hitachiの機会や次の成長を探索することを目的に、米州、EMEA、APAC、インド、日本、中国の6拠点において、戦略およびマーケティング機能を強化する。これにより、地域起点での事業創生を行う。各地域に地域戦略担当役員を配置し、地域ごとの成長機会とリスクを、タイムリーに経営戦略の議論に反映させることで、地域とセクター、ビジネスユニット間における経営のスピードを加速する。
また、コーポレート機能の強化では、デジタルをコアとした成長を実現する全社経営戦略を策定。さらに、生成 AI領域における研究開発に注力するほか、国や地域、事業を超えてグローバルに One Hitachiを推進する人財の育成を推進する方針を示した。
4つめが、多様な人財が活躍できる組織の強化である。
2025年4月からスタートする新たな事業体制では、4つのセクターのうち、3つのセクターを日本人以外が管掌することになるほか、戦略 SIBビジネスユニットのプレジデント兼COOにはミケーレ・フラッキオーラ執行役常務が就任。さらに、CD & SO(Chief Digital & Security Officer)には、ITおよびサイバーセキュリティ領域で豊富な経験を持つマイケル・グッドマン氏を、執行役常務として外部から招へいするなど、リーダーシップチームにおける外国人比率を高めている。
同社では、「世界中の多様な人財が、それぞれの能力を発揮しつつ、力を結集することが、日立製作所の今後の成長の源泉になる。多様なバックグラウンドを持つリーダーが、デジタルをコアにした真のOne Hitachiの実現に向けて、総力を結集し、持続的な成長を加速させていく」としている。
新たな事業体制の発表により、2025年4月1日からスタートする德永社長兼CEOでの成長戦略の方向性が垣間みられたともいえる。
なお德永次期社長兼CEOは、2024年12月16日に行われた就任会見のなかで、「デジタルをコアとして、真のOne HITACHIを実現し、社会イノベーション事業のグローバルリーダーを目指した歩みを加速していく」とし、「Lumadaをより進化させること、グローバルの各地域での成長機会の探索を強化すること、One HITACHIで新規事業を創生する取り組みを加速することで、日立グループの持続的な成長を実現したい」と述べている。今回の新たな事業体制は、まさにその方針に沿ったものだといえよう。
德永社長兼CEOの就任後には、2025年度からスタートする次期中期経営計画が発表されることになる。新たな事業体制の発表により、次期中計の青写真がぼんやりと見え始めてきた。