大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

リコーが2030年度に向けた「中期経営戦略'26」を発表――「ワークプレイスのインテグレーター」への進化を図る
2026年3月30日 06:00
株式会社リコーは25日、「中期経営戦略'26」を発表した。2030年度に、ROICで7%以上、ROEで10%以上、ストック利益で15%増以上、人的資本ROIで25%を目指すほか、成長投資として3500億円を計画。そのうち、M&Aで2500億円を計画する。売上高や営業利益の具体的な目標は掲げていないが、営業利益では、2030年度に1400億円以上という「目線」を示した。
これまでリコーでは、3カ年の中期経営計画を推進していたが、今回からは5年先を見据えた計画を打ち出す一方、毎年見直しを行うローリング方式に変更した。
リコーの大山晃社長 CEOは、「激動の時代に3年間の計画を立案しても、その3年間に世の中が変化すれば置いていかれることになる。市場変化には、年次で迅速、柔軟に対応しながらも、5年先の視点の戦略に基づくバックキャスティングで、改革や投資を行うことも必要である。単年度計画の必達と、実行精度を高めることを目指す」とした。
リコーが目指す5年後の姿として、大山社長 CEOは、「デジタルサービスの会社として進化を続け、お客さまの競争優位や価値提供による差別化のために、製品やサービス、最新テクノロジーを組み合わせて提供するインテグレーターを目指す」と宣言。
「お客さまの働く場とは、オフィスには限定せずに、デジタルでつながるあらゆる環境が対象となる。これをワークプレイスと呼ぶ。ここがリコーの主戦場になる。この領域において、グローバルでインテグレーションができるプレイヤーはリコーしかない。競争優位なポイントになる」とした。
「ワークプレイスのインテグレーター」の実現においては、アセットライト化、アセットライトな事業ポートフォリオの拡大、ストック利益の増加を進め、ROICの改善と安定収益の増加を図る。これにより、負債比率を増やしても、柔軟な資本構成(Debt/Equity)と適時適切な株主還元が可能になり、ROEが株主資本コストを継続して上回り、企業価値とTSR(Total Shareholder Return)の向上を実現できるとした。
「各地域の販売サービス会社が、インテグレーターとして事業成長することが、ROICおよびROEの改善ドライバーとなる。これらの販売サービス会社のROICは、現状では6.9%だが、これを2030年度には13%以上に改善させたい。販売サービス会社の事業規模も1.15倍に拡大する計画である」と述べた。
また、「プリンティングは成熟市場であるが、ETRIAを通じて、環境性能に優れた技術により、競争相手にもエンジンを使ってもらうビジネスを推進し、エンジンシェアを拡大する。さらに、商用・産業印刷では、安定収益を生み出すとともに、インクジェット技術により、お客さまのコスト低減や環境対応を支える新たな成長事業を立ち上げる。例えば、ペロブスカイト太陽電池の低コスト生産などでの貢献を想定しており、これは5年後には高収益事業になると確信している」とした。
オフィスプリンティングは、ETRIAの展開により、事業縮小を微減にとどめる一方で、オフィスプリンティングで培ったアセットや顧客基盤を活用し、ストック利益を積み重ねるワークプレイスサービスへとシフト。同様に、オフィスプリンティングでの既存テクノロジーを活用して商用・産業印刷に展開するとともに、インクジェットテクノロジーに関しては、新規事業への展開を推進するという方向性を示した。
また、利益成長に向けた基本方針として3点を挙げた。
ひとつめは、「ストック利益の積み上げによる収益性向上」である。ストック利益の構成は、2025年度見通しではオフィスプリンティングが59%を占めるが、これを2030年度には42%と縮小する一方で、ワークプレイスサービス(オフィスサービス)を24%から37%に大きく引き上げる。また、商用・産業印刷は、13%から14%に増やす。
これを実現するために、「地域特性に応じた最適なインテグレーションによる提供価値の拡大」、「高収益なサービスポートフォリオ・共通モジュール拡大とガバナンスの強化」、「事業ポートフォリオの進化に基づく戦略的M&A」、「販売体制強化とETRIAによる競争優位な商品投入」、「インクジェット技術による収益力向上・事業領域拡大」の5つに取り組む。
また、2つめの基本方針である「継続的なコスト構造の見直し」では、「グローバルでの経費構造改革とアセットライト化」を推進、3つめの「人材の活性化」では、「人材ポートフォリオの最適化と個の能力の最大限発揮」を実現するという。
「構造改革は止めない。バックオフィス業務の改革や、グローバルSCMの改革、事業や個社のポートフォリオの最適化、利益を生まない資産の整理や拠点の統廃合を進め、400億円以上の経費効果を見込む」と述べた。
「ワークプレイスのインテグレーター」としての提供価値と事例
「中期経営戦略'26」で、リコーの目指す姿に位置づけられたのが、「ワークプレイスのインテグレーター」である。
これを実現する上で、デジタルワークプレイスのインフラ整備のための「ITサービス」、複合機をはじめとするオフィス機器などを対象にした「マネージドサービス」、創造性を発揮する空間、サービスを提供する「WE(Workplace Experience)」、ビジネスプロセスの自動化により生産性を向上する「PA(Process Automation)」を提供。「グローバルでの顧客基盤と顧客との共創力、各種商材やAI開発における自社IPがリコーの強みであり、ここには投資を行っていく」とした。
「ワークプレイスのインテグレーター」の具体的な事例も示して見せた。
あるグローバル顧客では、グローバルのあらゆる拠点を対象に、会議室の効率的な運用を実現する上で、安定した品質や可視化したコスト、ESG要件などを充足したサプライヤーの選定が課題であったが、リコーでは高付加価値なワークプレイスとコラボレーションサービスを提供できる強みを生かして、7000室の会議室に、6000台を対象にしたMPS(Managed Print Service)の導入、3000台のバーコードラベルプリンターの導入、オンサイトとオフサイトの商用印刷サービスを提供。8500万ドル(約128億円)以上の取引を実現したという。
リコーでは、GMA(Global Major Account)向けに、共通オファリングの強化を進めており、クロスセル、顧客との共創、グローバル展開という3つの方向性で展開。現在、約2000億円の事業規模のうち、約半分をオフィスサービスが占めているという。
日本においては、中堅中小企業への展開を強化。ある土木工事業では、複合機の導入から開始し、ネットワーク機器やセキュリティ機器の構築および運用、クラウドオフィスアプリの導入、業種業務アプリの導入といったように価値提供の範囲を拡大。オフィスサービスによるストック利益の積み上げが進んでいる例を示した。
「日本では優良顧客の拡大を推進する。北米では、2000社を対象にしたBPS(Business Process Services)によるデジタル化を進め、欧州では販売会社間のクロスオファリングの拡充を進める」とする一方で、2026年4月からの本社の新たな体制として、「GMAの売上拡大、自社商材の展開、共通プラットフォームおよびモジュール化、ガバナンスの強化を進め、サービス、製品、システムを共通化することで、収益性を高める役割を担うことになる」とした。
ETRIAによるシェア拡大とインクジェット技術の多角化戦略
一方、プリンティング事業において鍵となるのが、ETRIAである。
2024年7月に事業を開始したETRIAは、リコー、東芝テック、OKIが参画し、複合機の開発・生産に関する事業を統合するとともに、共通エンジンの開発・生産を手掛けている。
まずは既存資産をそれぞれに有効活用するところからスタートしたが、各社が持つ強いモジュールを組み合わせて製品化を進めるフェーズへと移行。新たな中期経営計画期間中には、各社の技術を結集し、ゼロベースでの新規エンジンの開発を進めることになる。
大山社長 CEOは、「新規エンジンの開発になると、シナジーの規模が大きく変わる。部品の調達がひとつになり、消耗品も同じものを生産でき、競争力がさらに向上する」とし、「5年後に目指す姿は、ETRIA連携によって、プリンティング業界No.1を確立することである。ETRIAによるエンジンシェアを30%にまで拡大する」と意気込んだ。
その一方で、新たな中期経営計画では、自社ブランドの領域できちんと勝ち切るための体制を敷くことを明言。競争力と販売力の強化により、A3カラーMFPにおいてトップシェア獲得を目指すという。
さらに、同社が新たに掲げたのが、インクジェット技術を強みとした事業拡大である。
「5年後には、商用・産業印刷事業で、業界をリードする安定収益を実現する一方で、機能する印刷事業や、モノづくりに変革を起こす新たな事業に取り組む。紙に印刷するだけでなく、さまざまなものをインクにすることができる独自の『機能性材料技術』と、インクを正確に飛ばすことができる『インクジェット技術』、これらを制御する『プリンティングシステム技術』を活用することで、社会課題解決に資する新規事業の事業化に乗り出すことになる。5年間で高収益事業化する」と自信を見せた。
車両のボディ印刷などのデジタル塗装、次世代太陽電池であるペロブスカイト太陽電池の生産、リチウムイオン電池の製造、電子素子の製造などのプリンテッドエレクトロニクス、再生医療や創薬への応用といったヘルスケアなどを対象に、機能する印刷の価値提供を加速するという。
なお、AIについては、「リコーでは、5つの分野を定義している。自社開発の日本語LLMのほか、製品およびサービスへのAIの搭載、AIエージェントをオーケストレーションするインテグレーションビジネス、社内AX(AI Transformation)の成功をもとにした顧客への展開、AIガバナンスへの取り組みである。AIは、中期経営計画のすべての戦略に関連してくる」と述べた。
成長投資については、3500億円を計画。内訳は、M&Aで2500億円、新規設備投資で1000億円とした。
M&Aに対する基本的な考え方は、「ワークプレイスのインテグレーター」を実現するためとし、WEおよびPAを対象に、顧客接点におけるケイパビリティの強化、インテグレーションを差別化する技術の獲得、収益性の高い自社IPの獲得の3点を目的としている。「規模を買うようなM&Aはやらない。シナジーを創出し、ROIを改善するためのM&Aを行う。必要に応じて、2000億円規模の有利子負債も活用しながら、M&Aによる成長投資を行う」と位置づけた。
ガバナンス改革と人的資本戦略
ガバナンス改革についても説明した。
意思決定や戦略立案機能の強化に向けて、執行役員の役割を再定義し、若手役員も登用。一方で、CEOの戦略立案を支援する諮問機関である「Strategic Advisory Board(SAB)」を設置し、将来戦略の確度を高めるという。実行力およびスピードを2倍に高めることを目標に、執行役員の役割を本社と事業に分離。CEOに対して行っていた2段階評価をすべての執行役員にも適用し、緊張感を持った経営を推進するという。
さらに、人的資本戦略では、「企業価値向上に寄与する企業文化の醸成」に取り組むとし、「勝ちにこだわるWinning Spiritの定着に取り組む。また、将来の事業成長を支えるケイパビリティの獲得のために、グローバル人材の活用や、デジタル人材やAI人材の育成を行う。加えて、ジョブ型人事制度の進化や、トータルリワード戦略の実施により、個人の能力を最大限に発揮させる人的資本施策に取り組む」とした。
人的資本ROIで25%以上(2025年度は17%)を目指すほか、エンゲージメントスコアでは4.00以上(同3.89)を目指す。
また、「リコーでは、ESGと事業成長の同軸化を進めている。持続可能な経済(Prosperity)、持続可能な社会(People)、持続可能な地球環境(Planet)による3Psバランスへの貢献を具体化し、2030年度までにそれぞれの『P』ごとに実現する目標を、ステークホルダーに明示する」とした。
大山社長 CEOは、「政治や経済を取り巻く変化、AIの急速な進展など、外部環境の変化が激しい。それに対して、これまでとは異なるアプローチを取る必要がある。例えば、地域別対応と固定で推進するものを見極め、規模と収益性を確保するマネジメントを強化したり、アセットライト化を推進するためにROIC経営を徹底する必要がある」としたほか、「リコーの使命と目指す姿は、『"はたらく"に歓びを』であり、このミッションは、これからも継続していく。"はたらく"に寄り添い変革を起こし続けることで、人ならではの創造力の発揮を支え、持続可能な未来の社会をつくる」と述べた。
第21次中期経営戦略の振り返り
一方、2023年度から2025年度までの第21次中期経営戦略(21次中経)についても振り返った。
売上高は2兆3500億円の計画に対して、2025年度見通しでは2兆6000億円の着地を想定しているものの、ROE9%超、営業利益1300億円、営業利益率5.5%、ROICで6.5%という計画はいずれも未達になる。
大山社長 CEOは、「顧客からの評価、GHGスコープ削減率、デジタルスキル レベル2以上の人員数、女性管理職比率といった将来財務(非財務)指標では、おおむね目標を達成している。だが、財務指標は未達になる。おわび申し上げる」と陳謝。
「営業利益は900億円となり、米国の関税の影響や一過性影響を調整しても1100億円であり、未達となる。しかし、前中計からは改善している。オフィスサービスの伸長、中計の中で開始した企業価値向上プロジェクトが利益を押し上げた。今後はコスト構造改革のさらなる踏み込みが必要である」と総括した。米国関税では全体で約150億円のマイナス影響があった。
セグメント別では、リコーデジタルサービスでは、ストック利益が積み上がり、増収増益を実現したものの、当初の見込みに対して、オフィスサービスの収益力向上のスピードが軟化。機材設置などの収益性が低いサービスが先行したことや、リコーチャネルと、欧州での買収会社とのシナジー創出の遅延、成長投資枠の活用が想定を下回ったことも反省点に挙げた。「かなり固めにふるいにかけたために、成長投資枠を使い切れなかった」とした。
リコーデジタルプロダクツでは、ETRIAの設立により、共通エンジンの開発をスタートしたことを実績に挙げる一方で、リコーブランド製品によるオフィスプリンティングへのフォーカス不足を反省。「成熟市場において需要が鈍化する中で、さらにシェアも落としてしまった。また、A4機の立ち上げの遅れがあり、大型商談の確保や代理店獲得でマイナス影響があった」と振り返った。
リコーグラフィックコミュニケーションズでは、商用印刷において4機種を投入し、これが今後の業績向上に貢献すると期待する一方で、米国関税を発端とした北米市場における商用印刷の需要低迷がマイナスに影響したという。
大山社長 CEOは、「オフィスプリンティングは、強力なA4機を投入するなどの諸施策によって、2025年度後半から挽回している。オフィスサービスでは収益性の高いサービスやサポート契約の付加、アプリケーションサービスオファリングの強化など、ストック利益の積み上げを加速している。AI関連事業の展開が、ドアオープナーになっている。さらに、企業価値向上プロジェクトの効果の刈り取りを加速し、グローバルでのシナジープロジェクトに着手している」と、対処策の実行状況についても説明した。
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リコーが、今回発表した「中期経営戦略'26」は、新たにローリング方式を用いたものとなり、変化の激しい時代に対応した計画立案となっている。
言い換えれば、単年度ごとに確実な業績達成と、体質改善が求められる施策ともいえ、中期経営計画の財務指標の目標が未達に終わったリコーにとっては、実行力が試されるものとなる。まずは2026年度の目標達成が、最初のステップとなり、その具体的な数値は、5月12日に発表される2025年度通期決算の中で発表されることになるだろう。
リコーが掲げた「ワークプレイスのインテグレーター」の実現に向けて、どんな製品、サービス、技術によって、体質を「肉付け」をしていくのかも注目される。
















