大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ
ソラコム創業秘話を玉川社長が語る~福島県喜多方市で會津熱中塾を開催
IT産業関係者が講師で参加する會津熱中塾とは?
2016年9月14日 06:00
起業家の前に立ちはだかる「嫁ブロック」
起業することを決めてから、企業に至るまでに、いくつかのポイントがあったという。
ひとつめは、「独立してスタートアップ企業をやります」といった際に必ず聞かれた、「奥さんは大丈夫なんですか?」という言葉だったという。
これを玉川氏は、「嫁ブロック」と表現する。
ただ、「実際に奥さんに聞いてみたところ、いいんじゃない?という回答が帰ってきた」という。
「スタートアップに大切なのは、いい奥さんを持つということ」とジョークを飛ばしながら、「身の回りの人と信頼関係を作り、理解を得ることは大切」と語る。
そして、近くの人から得たアドバイスでのなかで最も良かったのは、兄からもらったアドバイスであり、それは、「今日すぐにやめるのでなく、きちっと準備をしてからやめるということだった」という。
2つめのポイントは、人の採用だ。
ピーター・ティール氏のZERO to ONEでは、人の採用について「スタートアップとは、君が世界を変えられると、君自身が説得できた人たちの集まりである」としているという。
玉川社長は、「自分が人生で出会ってきたすばらしい人を思い浮かべた。まずは、大学時代のテニスサークルの後輩から声をかけた。一緒に働いて楽しいと思える人を集めた。だが振り返ってみると、万が一、ソラコムが倒産しても、一人で食っていける人にばかり声をかけていた」と語る。
またソラコムの社員の一人は、モーリシャス共和国に住んでいる外国人だという。モーリシャスはマダガスカル島の近くにあり、海に囲まれた自然豊かな国だ。セレブが集う、ビーチリゾートとしても有名である。
「モーリシャスに住むオリビエという社員には、社長の私ですらまだ直接会ったことがない。SIMのプログラムを書くことができる、世界に約20人しかいないエンジニアの1人であり、テレビ会議のやりとりを通じて、ソラコムのテクノロジー、ビジョンを理解してくれた。ソラコムの売上高が100億円になったらモーリシャスにいくことになっている」と笑う。
ソラコムのユニークな組織づくり
そして、ソラコムの組織づくりもユニークだ。
「ソラコムはみんながリーダー」という意識を持ち、その基本的姿勢をもとに、15個のリーダーシッププリンシバルを設定するという独自の方針を掲げている。そのなかでは、「顧客中心主義」や「完璧よりもスピード」、「未来に対して明るく肯定的」といった考え方を示しているという。
一方で働く環境については、フルフレックス制としながらも、25人の全社員が毎日午前11時の会議にリモート環境から出席し、活動を報告する。いまは、ロボットに活動内容を話しておけば、会議においてその内容がテキストで表示されるようになり、報告時間の短縮につなげている。
さらに社長を「ケン」と呼ぶなど、あだ名で呼び合う文化を定着。これによって、役職、年齢などによる意見の壁をつくらないようにしているという。「たとえインターンであっても、社長や社員と同じようにアイデアを出す環境を作りたい」というのがこの根底にある。
そのほか、スタートアップの資金集めのコツについても触れ、「出資する側がポイントとしているのは、チームが優秀であるか、その会社に独自の技術があるのか、狙っている市場が大きいのかという3点。ソラコムが狙っている市場は、ドコモ、au、ソフトバンクの3社をあわせて20兆円の規模がある市場であり、その100分の1の市場があると見ても、2000億円の規模がある。狙っている市場は大きい」と語った。
なお講義の後半、玉川社長は、「世界や、日本はよりよい場所になっているのか」と、會津熱中塾の塾生に呼びかけた。
「熊本地震やテロの問題など、多くの困難があるが、それでも、私は、よりよい場所になっていると感じている」と発言。「1820年代には多くの人が飢えに苦しむ貧困状態にあったが、いまではそれが減り、2000年代に入ってからは10%以下になっている。私は、良いテクノロジーで、世の中を良くすることができると考えている」とする。
さらに、「アマゾンの創業者であるジェフ・ベソス氏は、子供の時にタバコを吸っている祖母に、計算できることを自慢しようとして、喫煙によって、寿命がどれだけ短くなるのかを具体的な数字で示したという。これを聞いた祖母は涙を流し、それを見ていた祖父は、ベソス氏に、賢いだけではいけない、優しさが大切であると諭した」という逸話も披露。
最後に、「ベソス氏は、We are our Choiceという言葉を使いながら、与えられたものではなく、自ら選択することが大切であることを示している。人にはさまざまな選択肢がある。ほかの人を蹴落としてまで賢くなるか、それともやさしくなるかといったことも選択である。選択の積み重ねを大切にしなくてはならない」とコメントした上で、「あなたがなにを選ぶか、その決断があなたを作っていくことになる。あなただけの道を切り開いてほしい」と語り、講義を締めくくった。
グローバル展開を加速するソラコム
現在ソラコムでは、SORACOM Airをはじめとして8つのサービスを提供。今後すべてのサービスを、国内にとどまらず、グローバル対応していくという。
「ひとつのSIMで世界中をつなげることができるように、複数の通信キャリアと契約しており、現時点で、120を超える国と地域に対応している。利用者が海外展開するときにも、あらためて契約する必要がない。日本や、世界から、多くのIoTプレーヤーが生まれることを支援したい」と述べた。
今年5月および6月には、ベンチャーキャピタルなどから合計で約30億円を調達。ここで得た資金は、主に海外展開に活用するという。同社では、シンガホール、デンマークに続いて、米国の拠点を開設し、海外展開を加速する考えだ。