大河原克行のキーマンウォッチ

“2つのレノボ”がパートナー向けの取り組みを一本化――、新プログラム「Lenovo 360」の進捗を聞く

レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ ジョン・ロボトム社長

 レノボ・エンタープライズ・ソリューションズが、2022年4月から、新たなパートナープログラム「Lenovo 360」をスタートして約半年を経過した。同プログラムを推進する組織として、パートナー事業本部を新設。パートナー戦略においては、PC事業などを行うレノボ・ジャパンと、サーバー事業などを行うレノボ・エンタープライズ・ソリューションズの取り組みを一本化し、「ポケットからクラウドまで」の提供を実現している。

 レノボ・エンタープライズ・ソリューションズのジョン・ロボトム社長と、パートナー事業本部の荒木俊彦執行役員に、同社の事業戦略やLenovo 360の成果などについて聞いた。

レノボ・エンタープライズ・ソリューションズのジョン・ロボトム社長

PC事業以外の売上構成比が37%に

――日本ではレノボ・エンタープライズ・ソリューションズが担当している、インフラストラクチャー・ソリューション・グループ(ISG)は、最新決算でも成長が際立っていますね。

ロボトム: 2022/2023会計年度での第1四半期(2022年4~6月)業績は、レノボグループ全体の売上高は前年同期比0.2%増の169億5600万ドル、税引前利益は6%増の6億9100万ドル、純利益は前年同期比11%増の5億1600万ドルとなり、売上高と利益率は9四半期連続で向上しています。売上高は微増ですが、為替の影響がなければ前年同期比5%増になったと見ています。

レノボグループの022/2023会計年度での第1四半期(2022年4~6月)業績

 そのなかでISGは、売上高では初めて20億ドルを突破し、前年同期比では14%増という高い成長を遂げ、3四半期連続で黒字化しています。特に、クラウドサービスプロバイダー部門やサーバー部門、ストレージ部門は過去最高の売上高を達成し、いずれも市場平均の伸びを大きく上回りました。

 また、エッジコンピューティングの売上高は前年同期比でほぼ倍増しています。エッジに関するニーズは急速に高まっていますし、私たちもそれにあわせてソリューションの提供を強化しているところです。レノボは、エッジコンピューティングの領域では、黎明期から取り組んでいるベンダーであり、この領域でも、しっかりお客さまをサポートしていきたいですね。

――ソリューションカンパニーとしてのポジションを、着実に築きはじめているように見えます。

ロボトム: レノボグループ全体では、PC事業以外の売上構成比は37%に達し、ここからも、レノボがソリューションカンパニーへと着実にシフトしていることが裏づけられます。デバイス領域でレノボを活用していただいているお客さまが、レノボのソリューションに注目しており、特に、ハイブリッドワークなどのソリューションに高い関心が集まっています。

 日本における今年度の最注力領域として、レノボグループでは、「ハイブリッドワーク環境とコラボレーション」、「モダンデプロイメントからモダンマネジメントへ」、「設計とデザインプロセスの刷新」、「ハイブリッドクラウド」、「アナリティクス & AI」、「エッジコンピューティング」を挙げ、「ポケットからクラウドまで」の事業方針のもと、デバイスおよびソリューションを提供していきます。

 レノボでは、新たなパートナープログラム「Lenovo 360」をスタートしましたが、これも、ソリューションカンパニーへの転換を図るための重要な要素になります。

レノボが提供する価値を最大化するためのプログラム

――Lenovo 360の狙いをあらためて教えてください。

荒木: Lenovo 360は、グローバルで展開しているプログラムで、2021年10月から開始しており、日本およびアジアパシフィックにおいては、2022年4月からスタートしています。

 従来のレノボは、デバイスやシステムを中心に事業を展開し、サービスは二次的に提供するというものでしたが、Lenovo 360では、「ポケットからクラウドまでをカバーするオファリング」と、「お客さまに解決策を提供するための仕組み」を掛け合わせて、レノボが提供する価値を最大化するために、サービス主導型で、エンドトゥエンドソリューションを提供するための仕組みとしました。

 ただしLenovo 360は、固定した形で運用するものではなく、変化を取り込み、パートナーやお客さまの意見を反映し、月単位や年単位で更新していくものになります。これからも変化を続けていくことになります。

Lenovo 360

――Lenovo 360では、「ピープル(人材)」「プラットフォーム(ツール)」「プログラム」の3つの仕組みでパートナー支援を強化するとの方針を打ち出していました。進捗はどうですか。

荒木: プログラムの観点では、ハイブリッドワーク、インフラストラクチャ、バーチカルの3点にフォーカスしています。さらにこのなかで、VDIやバックアップ/リカバリ、リモートワーク、カンファレンスソリューション、ハイブリッドクラウド、イマーシブデザインなど、9つのソリューションタイプに力を注ぎ、それぞれにレノボが推奨するパッケージを用意しています。

 PCやサーバー、ワークステーションなどのハードウェアと、サービス、ソリューションを組み合わせたものになっており、日本独自のパッケージとして、アセットリカバリサービスを用意しています。

“プログラム”における3つのフォーカス

 そして、これらの領域におけるソリューション販売の実績に対して、追加のインセンティブを新たに用意するとともに、パートナーと共創して、お客さまに提案する上で、何が強みになるのかといったことを精査し、これをキーワードとして提示するといったことも進めていきます。この取り組みは、2022年4月時点では明確にできていなかったものですが、いよいよ2022年10月からスタートすることになります。

 プラットフォームでは、従来はレノボ・ジャパンとレノボ・エンタープライズ・ソリューションズで別々だったパートナー向けの会員制ポータルサイト「Lenovo Partner Hub(LPH)」を一本化し、レノボグループのすべての製品やソリューションを見ることができるようにしました。日本語によるコンテンツも充実させ、さらにパートナーの担当者がより検索しやすく、欲しい情報にたどり着きやすい仕組みに変更しました。

 新たなLPHは、すでに成果につながっており、LPHへの登録パートナー数は、前年同期比で170%以上となり、LPHを通じて新たなパートナーを獲得することに成功しています。ディストリビュータとの協業や地方拠点を通じて、全国の販売パートナーとの連携強化を進めており、これも新規パートナーの拡大につながっているといえます。また、特定業種などを得意とするパートナーとの連携も増えています。

 その成果は実績にも表れており、第1四半期は、パートナーを経由した販売額は、前年同期比16%増に達し、コアになるパートナーではクロスセルが増加していることに加え、新規パートナーの拡大もプラスに影響しています。

Lenovo Partner Hubの日本における新規登録数は順調に伸びているという

「ポケットからクラウドまで」を一気通貫で提案できる体制へ

ロボトム: レノボ・ジャパンとレノボ・エンタープライズ・ソリューションズは、同じ場所に本社がありながらも、別々にオペレーションを行ってきたという経緯がありました。レノボ・エンタープライズ・ソリューションズが、パートナーと対話をしても、サーバーやストレージの範囲に限定されてしまうことが多かったのですが、現場では、レノボグループ全体として提案をしてほしいという要望が増えていました。

 また、私自身も「ポケットからクラウドまで」の強みを生かしたいという気持ちがありました。レノボグループは、ポケットに収まるスマートフォンから、PC、サーバー、ストレージ、クラウドを支えるハイパースケールコンピュータまで、世界中で最も幅が広いハードウェアポートフォリオを持っています。LPHへの新規の登録数が大きく増加しているということは、「ポケットからクラウドまで」を一気通貫で提案してほしい、それができるのはレノボであるという期待感の表れだと思っています。

 ただ課題といえるのは、すべての製品、サービスを網羅する形で提案ができる人材が、まだ少ないという点です。とはいえ、この課題は一気に改善が進んでいます。これまでPCなどを担当していたレノボ・ジャパンのメンバーが、レノボ・エンタープライズ・ソリューションズが持つサーバーやソリューションに強い関心を持っていますし、パートナー事業本部のメンバーは、「ポケットからクラウドまで」のすべての製品を見なくてはいけないという意識に変わっています。また、パートナーに提案するためには、それぞれの分野に得意な人材を集めてチームで動くといったことも始まっています。

 個人的な意見ですが、期待以上のスピードでスキルアップが進んでおり(笑)、パートナーにとって役に立つ情報を提供するための質やスピードが上がっているのは確かです。レノボ・ジャパンとレノボ・エンタープライズ・ソリューションズのパートナー戦略が一本化したことで、何ができるのかということをしっかりと伝えることができる人材を育成していきます。ここが最後のピープルという観点での取り組みになります。

荒木: 私も、パートナー事業本部のメンバーのアンテナの張り方が変わってきたということを感じます。社員のスキルアップや若手社員の育成という点でも成果が生まれ、100点以上の取り組みをしてくれています。パートナー事業本部は、約100人の体制でスタートし、レノボ・ジャパンとレノボ・エンタープライズ・ソリューションズから、それぞれ売上規模に応じた人員で構成しています。デバイスを取り扱うパートナーが多いですから、それらのパートナーに対して、クロスセルをしていただくための提案をもっと加速したいですね。まずは、そのための人員強化、人員配置を進めていきます。

 Lenovo 360を日本でスタートして約半年を経過しましたが、パートナーからはポジティブな反応がありますし、このプログラムを通じて、レノボが目指す将来像についても理解していただけていると感じています。パートナーの声を聞きながら、今後もプログラムを強化していく考えです。

――Lenovo 360では、Everything-as-a-Service プラットフォームと位置づける「Lenovo TruScale」はどう扱うことになりますか。

荒木: Lenovo 360の今後の拡張のなかで扱うことになります。いまは、どんなお客さまに提案するのか、日本におけるパートナーとの協業領域をどう拡大していくのかということも含めて検討しています。

 私は、Lenovo TruScaleを展開する上で、まずは、Outcome-based Solutionと呼ぶ成果報酬型の仕組みを強化したいと考えています。今後、社会全体が「成果基盤型経済(アウトカムエコノミー)」に向かうなかで、製品やサービスの提供によって生まれる価値や成果が、競争の源泉になっていきます。レノボは、長年にわたり、プロダクトフォーカスで業界をリードし、デバイスを中心に差別化を進めてきました。これを、Outcome-based Solutionによって、サービス主導型のビジネスに転換し、ソリューション志向の企業になることを、レノボは目指しています。その点でも、Lenovo TruScaleは、成果ベースでサービスを提供するための仕組みになるともいえます。ビジネスの成果に対価をいただく仕組みづくりを目指していきます。

レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ パートナー事業本部の荒木俊彦執行役員

ロボトム: Outcome-based Solutionの考え方が浸透すると、デバイスを売って終わりではなく、お客さまのためのソリューションを、パートナーと一緒になって考える、という姿勢に変わっていきます。お客さまが求めている結果をしっかりと描き、それに向けてソリューションを提供するということが、これからのレノボが目指す方向性といえますし、レノボ・エンタープライズ・ソリューションズのビジネスを成長させることにつながります。

One Lenovoとしての成果は?

――レノボ・ジャパンとレノボ・エンタープライズ・ソリューションズのパートナー戦略が一体となった成果はすでに出ていますか。

荒木: One Lenovoとしての成果はすでに出ています。そのひとつが、京都に本社を置き、歯科医院および歯科技工所向けに歯科器材の製造販売を行っている松風の事例です。従来の仮想化基盤は3Tier構成であり、設定変更時などに柔軟な対応ができないという課題がありました。そこで、サーバーのリプレースにあわせて、Nutanixを搭載したHCIアプライアンスのThinkAgile HXシリーズを導入し、リモートによるサーバーの停止、起動が可能になり、点検保守作業にかかる時間も半減できました。

 このときに、もうひとつの課題として生まれたのが、PCのキッティングに約3カ月の時間を要してしまうということでした。そこで、ThinkPadの導入にあわせて、Windows Autopilotを活用してキッティング作業の負荷を大幅に軽減し、ITシステム担当者や現場の社員は、本来業務に専念できるようになりました。

 HCIは、2016年から、NECパーソナルコンピュータの米沢事業場で出荷前検品を実施しており、これまでにトラブルは1件も発生していません。一方、PCのWindows Autopilotは、NECパーソナルコンピュータが群馬事業場を活用して実施しています。この事例は、システム、デバイス、ソリューション、サービスを一体化し、提供したものであり、レノボグループが持つさまざまなアセットも活用しています。さらに、パートナーであるNDIソリューションズとの連携によって推進したものであり、いわば「One Lenovo with Partner」による成果だといえます。

米沢事業場や群馬事業場などのリソースを有効に活用

ロボトム: 海外生産をしたHCIも、国内で出荷前検品を実施してから出荷することで、エンタープライズユーザーにも、安心して利用していただけることは、レノボを選んでいただける要素のひとつになると考えています。

サステナビリティへの注力

――サステナビリティに対する取り組みにも力を入れていますね。

ロボトム: レノボグループでは、2025年度までに、電力の90%を再生可能エネルギーから調達すること、PCのプラスチックパッケージにおけるリサイクル素材の割合を90%とする計画を打ち出しています。また、サプライチェーン全体での温室効果ガス排出量を100万トン削減する目標を掲げ、スコープ1および2でのCO2排出量を50%削減するとともに、バリューチェーン全体では、排出原単位の25%を削減することを目指しています。
 日本のデジタル化が進展するなかで、データが急増し、それを分析するためにAIを活用し、さらにあらゆる企業がDXに取り組んでいます。それによって、ITの電力使用量が急増しているのが実態です。ITの電力削減が、日本のカーボンフットプリント削減には重要となっているのです。調査によると、日本のITに関わる電力のうちの52%が、サーバールーム内で消費されており、これをどう減らしていくのかが今後の大きな課題のひとつといえるでしょう。DXを推進するのはいいのですが、もっと環境に配慮した形で推進していく必要があるといえます。

レノボのサステナビリティに対する取り組み
日本でもIT機器による電力消費が問題に

――レノボ・エンタープライズ・ソリューションズとして、日本市場にはどんな提案をしていきますか。

ロボトム: ひとつの提案がサーバーの水冷化です。サーバーを空冷するために搭載しているファンは、サーバー全体の約1割もの電力を消費しています。また、サーバールーム全体を冷却するための設備にも多くの電力を使います。レノボでは、サーバー製品向けに、Lenovo Neptuneという水冷技術を提案し、パフォーマンスを上げながら、環境にも配慮できる特徴を訴求しています。

電力と冷却コストの説明

 サーバーは、ビジネスに利用する製品ですから、環境に配慮するために、パフォーマンスを犠牲にするということは最適な回答ではありません。水冷技術を搭載したLenovo ThinkSystemでは、Turbo Modeによりプロセッサの周波数を高め、10%の性能向上を実現できます。

 その一方で、お風呂よりも熱い45℃までの温水でも冷却可能であり、90%以上の熱を回収することができます。水冷ですから、サーバー冷却用ファンが不要であり、補助的な冷却設備も不要になり、データセンター内のチラーも不要になります。

 さらに、水冷であればファンを回さないためサーバールームの音が静かになり、静音性は80%も向上します。お客さまとお話しすると、サーバールームの音が想定以上にうるさくて防音設備に余計な費用がかかったという声も聞きます。

水冷システムでデータセンターの運用コストを効率化

 企業においては、サステナビリティへの取り組みが不可避となるなるなかで、水冷システムは、使うのか使わないのかという議論ではなく、いつ使うのかという議論に変わるタイミングに入ってきたといえます。日本のお客さまに水冷のメリットをもっと知っていただきたいですね。水冷技術に関する技術チームは、台湾にいますので、渡航制限の緩和にあわせて、技術者を日本に呼んで直接お客さまに説明したり、日本のパートナーやお客さまを台湾にお連れしたりするということも考えています。

――水冷サーバーの導入は進んでいますか。

ロボトム: 海外ではアニメーション作品を手掛けるドリームワークスの事例があります。コロナ禍において、ドリームワークスは、データセンターの刷新に取り組み、レノボのNeptuneによる水冷技術を搭載したHPCを導入することで、消費電力を3分の1に削減しながら、従来のデータセンターに比べて演算能力を20%向上させています。

ドリームワークスの事例

 水冷に対しては、日本でも、多くの企業から関心が集まっています。いま、お客さまからの問い合わせで多いのが、空冷から水冷にシフトするとコストアップになるのではないかという点です。私たちの試算では、3年間で投資は回収できます。そして、環境について先進的に取り組んでいる企業であるという訴求も可能になります。水冷については、まるで大きなトラックを2人ぐらいで押しているという段階で、なかなか前に進みませんが(笑)、押し続けることが大切だと思っています。引き合いはいただいていますので、水冷の提案は粘り強く継続的に進めたいと思っています。

荒木: 環境に先進的なお客さまやパートナーからは、サステナビリティに対する取り組みについて、回答書を求められるケースが出てきています。2022年1月以降にこうした話が増えており、今後、ますます増加するのではないかと思っています。サステナビリティに対する関心が高まっていることを感じます。

2022年下半期の注力ポイント

――今年度下期は、国内においてどんな点に力を注ぎますか。

ロボトム: サーバー分野では水冷システムの提案を加速したいと考えています。また、エッジコンピューティングの分野にも力を注いでいきます。エッジサーバーでは、Think System SE350に加えて、より性能を求めるユーザーに対応した新エッジサーバーとして、Think Edge SE450を発表しました。エッジでの提案では、新たなパートナーとの連携も進めることができると考えています。

製品ポートフォリオ ファーエッジからコアまで

 またLenovo 360を開始したことで、パートナーにとっても、お客さまに対してより提案しやすい環境が整い、提案の幅も広がっていくと考えています。しかし、組織を変えたから、自動的にすべてが進むとは思っていません。まずは組織を変えてやりやすくして、しっかりと結果につなげていくことが、今年度下期以降のテーマです。

荒木: パートナー戦略という点では、2つの分野に取り組みます。Lenovo 360を通じて、ソリューションは何か、それをお客さまにどう伝えるか。そして提案をどう作っていくのかということを、レノボがサポートし、時間を効率的に使うことで、これまで以上にお客さまに対して、効果を提案できる営業活動につなげてもらいたいと考えています。

 もうひとつは、多くのコンポーネントをレノボが提供できるという強みを生かしてもらいたいという点です。ハードウェア、ソフトウェア、サービスを組み合わせた試験済みのさまざまなソリューションやパッケージを用意しており、これを活用することで、パートナーにとってもリスクを削減した形で、お客さまへの提案が可能になります。また、ここに、パートナー各社が持つ独自のケーパビリティを組み合わせてもらうことで、パートナーの能力を最大限に発揮することができます。Lenovo 360によって、パートナーの成長を支援したいと思っています。