大河原克行のキーマンウォッチ

Microsoftが提唱する「インテリジェントクラウド」「インテリジェントエッジ」の世界はどう進んでいるのか? ~米Microsoft 沼本健CVP

 Microsoftが提唱する「インテリジェントクラウド」「インテリジェントエッジ」の世界が大きく進展している。その歩みを大きく進めたのが、Mixed RealityのMicrosoft HoloLens 2と、それに対応したDynamics 365の製品群、そして、Mixed Realityに対応した新たなAzureサービスである。

 2019年2月にフランス・パリで開催された「Microsoft Business Forward」、同じく2月にスペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress」の2つのイベントを通じて、Microsoftは、これらの新たな製品群を発表。新たな「インテリジェントクラウド」、「インテリジェントエッジ」の世界を発信してみせた。

 新たなステップに入った「インテリジェントクラウド」「インテリジェントエッジ」はなにを目指すのか。来日した米Microsoft クラウド+エンタープライズマーケテイング担当 沼本健コーポレートバイスプレジデント(CVP)に話を聞いた。

米Microsoft クラウド+エンタープライズマーケテイング担当 沼本健コーポレートバイスプレジデント(CVP)

インテリジェントクラウドとインテリジェントエッジは切り離せないもの

――Microsoftでは、20017年から「インテリジェントクラウド」と「インテリジェントエッジ」という2つの言葉を使っています。今年に入って、この考え方がより進化したように感じます。

 インテリジェントクラウドとインテリジェントエッジは、切り離せないものです。インテリジェントクラウドなしには、インテリジェントエッジは語れませんし、インテリジェントエッジなしには、インテリジェントクラウドは語れません。一体的な世界観が前提となります。

 それをよりリッチな形で具現化したのが、2019年2月に発表した一連の製品およびサービスとなります。その重要な鍵のひとつになるのが、Mixed Reality(MR)です。ここではMicrosoft HoloLens 2の発表に注目が集まっているため、インテリジェントエッジの進化にフォーカスが当たりがちですが、同時に、インリジェントクラウドも大きく進化しています。

 例えばAzureにおいては、Mixed Realityに活用できるサービスは提供していましたが、Mixed Realityのシナリオに特化したサービスはひとつもありませんでした。それが、今回の発表では特化したサービスが用意され、Mixed Realityの世界がより大きく進化しました。これによって、インテリジェントクラウドとインテリジェントエッジを一体化して提供するというビジョンが、Mixed Realityにおいても具現化され、より一歩、深い取り組みが始まったといえます。

 その最初の発表が、2019年2月にフランス・パリで開催された「Microsoft Business Forward」でした。

――Microsoft Business Forwardでのポイントはなんですか。

 Microsoft Business Forwardでは、Dynamics 365のSpring Releaseを発表しました。ここでは350以上の機能を追加するとともに、Dynamics 365 Customer Insights、Dynamics 365 Customer Service Virtual Agent、Dynamics 365 Fraud Protection、Microsoft Forms Pro、Dynamics 365 Product Visualizeという新たな5つのサービスを発表しています。

 Dynamics 365 Customer Insightは、AIの技術を活用して、顧客に対する洞察を高めることができます。このサービスは、仮にDynamics 365 for Salesを使用していなくても、幅広いユーザーが利用できるものとなっています。

 またDynamics 365 Virtual Agent for Serviceは、カスタマーサービス用のボットをすぐに構築し、利用できる環境を提供するもの。Dynamics 365 Fraud Protectionは、eコマースにおける支払い詐欺の防止に貢献。Dynamics 365 Forms Proは、アンケートなどを容易に作成できます。

 そしてDynamics 365 Product VisualizeはMixed Realityの製品であり、例えば、商談の際に実物を目の前に持ってこられないような大型商品などをホログラフィとして見せることができる製品です。

HoloLens 2に関連したさまざまなMRの新サービス

――一方で、2月にスペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress(MWC)」では、Microsoft HoloLens 2の発表に注目が集まりました。

 Mixed RealityのMicrosoft HoloLens 2は、発表直後から大きな注目を集め、多くの報道も行われています。ピクセル密度を2倍に高め、視野角を2倍以上に広げ、ホログラムがより鮮やかで、リアルになったことで、より没入感を実現し、快適性を高め、価値を創造するまでの時間を早めることができるようになります。

Microsoft HoloLens 2

 ここで大切なのは、テクノロジーそのものの進化に加えて、コマーシャルバリューにフォーカスした点です。エンタープライズユーザーが活用でき、すぐにROIを享受できる「Time to Value」を重視しています。

 そのために、ファーストパーティーであるMicrosoftが提供するMixed Reality向けSaaSを追加したわけです。それが、Microsoft Dynamics 365 Guidesと、Dynamics 365 Remote Assistとなります。

 Microsoft Dynamics 365 Guidesは、HoloLensで従業員が早く新しいスキルを習得できるようにサポートします。従業員は必要なツールや部品が何か、それを実際の仕事環境でどのように使うのかがわかるようになり、学習能力が高まります。ここでは、インタラクティブなコンテンツを作成したり、写真やビデオを添付したり、3D モデルをインポートしたり、トレーニングをカスタマイズして組織内の知識を反復学習ツールに変えるといったことが簡単にできるようになります。

 特に日本では、高齢化が進むなかで世代交代の流れが顕著であり、技術の伝承が大きなテーマとなっています。Microsoft Dynamics 365 Guidesによって、物理的にものを見ながら、その上で、Mixed Reality環境でガイドすることが可能になり、技術や作業ノウハウなどを伝承することができるようになります。

 またDynamics 365 Remote Assistは、2018年10月にすでに発表しているもので、さまざまな場所から連携して作業することで、技術者たちが問題をより効率的に解決できるように支援します。

 ここでは、フィールドサービスの人たちが、HoloLensを活用しながら、Microsoft Teamを通じて、エキスパートと接続して、故障個所の修理方法などをリモートで指示をしてもらい、鮮明なホログラフィで、修理をサポートするということが可能になります。しかも、Dynamics 365 for Field Servicesと連携して、必要な部材はなにかといったことを提示したり、作業用マニュアルを表示したりといったこともできます。

 さらに、ISVがインダストリーで業界に役立つMixed Realityアプリケーションを開発するためにAzure Spatial Anchorsを提供したほか、クラウド上の高品質な3Dコンテンツをレンダリングし、エッジデバイスにストリーミングするAzure Remote Renderingの提供も開始しました。

 このなかでも、Azure Spatial Anchorsは戦略的な製品です。これによって、HoloLensで見ているホログラフィと同じものを、Androidタブレットをかざすだけで、同じように見られるようにします。

 これはMicrosoftのMixed Reality戦略において、「HoloLensはMixed Realityのシナリオを牽引するヒーローデバイスではあるが、HoloLensだけで完結するものではない」という点を明確に示すものになります。Mixed Realityの基本戦略はマルチプラットフォームなのです。

 一方でAzure Remote Renderingでは、デバイス側に十分なレンダリング能力がない場合にも、AzureのGPUやコンピューティングパワーを使ってレンダリングし、リアルな3D映像を見ることができるようになります。

 これらの製品やサービスは、クロスプラットフォームの上で、コンテキスト型で提供し、すべての開発者や企業が、エンタープライズクラスのMixed Realityアプリケーションを簡単に構築できるように設計されています。エンタープライズユーザーがコンテンツを簡単に作れる環境を実現する製品とサービス、というわけです。

 一方、MWCではAzure Kinect DKも発表しました。Xboxで培ってきたKinectの技術に、TOFデプスセンサーと高解像度RGBカメラ、7マイク サーキュラーアレイ(7-microphone circular array)を搭載したものであり、これを開発者向けに提供し、IoTソリューションの開発を支援します。

Azure Kinect DK

 MWCは、通信や携帯電話のイベントからIoTのイベントへと進化していますが、Microsoftが提案するインテリジェントエッジは、IoTという範囲を変えた幅広いものを提供しています。例えば、Azure SphereからAzure Stackまでの幅広いポートフォリオがあります。今回のAzure Kinect DKは、こうした流れのなかで新たに提供したものとなります。

オープンなMixed Realityのプラットフォームを提供していく

――デバイスの強化だけでなく、Dynamics 365やAzureの新たなサービスの提供によって、Mixed Realityの世界も大きく進化したわけですね。

 先にも触れましたが、ここで重要なのは「MicrosoftはMixed Realityの世界においてもオープンに取り組んでいく」と宣言したことです。

 Microsoftは、Mixed Realityのプラットフォームは提供しながら、そこではARKitやARCoreをサポートし、iOSやAndroidデバイスにも対応。企業や開発者が開発したMixed Realityアプリケーションを、さまざまなデバイスを通じて利用できるようにします。

 開発したアプリは、どのマーケットプレイスに入れてもらってもいい。サードパーティーのブラウザもサポートし、APIやドライバーも公開し、Mixed Realityの世界を拡張していくことで、コミュニティとともにオープンにやっていくという意思を表明したわけです。

――HoloLensは、これまでにはB2CやB2B2Cといった、最後にCの部分に行き着くソリューションが多かった気がしますが、今後は、B2Bが中心になっていくのですか。

 いえ、B2B2Cといった領域はなくなるものではありません。エンターテインメントとしての利用はこれからも増えていくでしょう。

 しかし、我々が最もフォーカスしているのはエンタープライズユーザーであり、そこに対するTime to Valueをいかに速くするかということであり、そのために、そのまま使ってもらえるものを、ファーストパーティーとして提供することに力を注ぎます。

 同時に、ISVとの協業によって、すぐに使えるサードパーティー製品も増やしていくことになります。

 これまで、HoloLensをエンタープライズに導入する際にはカスタムアプリが必要であり、開発者がコード書かなくてはならず、導入までに何カ月もかかっていました。Microsoftでは、その課題を解決するための製品群を用意するとともに、ISVとも協力してインダストリー向けのソリューションを揃えていくというのが、今回の我々のメッセージです。

 洗練されたMixed Reality向けの開発環境を用意し、すぐに利用可能なアプリが入手できるわけです。そうした環境がそろったというのが、これまでとの大きな違いであり、大きな進化です。

 Mixed Realityのデバイスを買ってなにをするのかといった状態ではなく、あれもできる、これもできるという状況を生み出すことができます。

Dynamics 365はエンドトゥエンドのビジネスプロセスをカバーできるSaaS

――Microsoftは、Microsoft Dynamics 365 Guidesなどの発表を前に、2018年10月に、Dynamics 365 Remote Assistと、Dynamics 365 Layoutという2つのMixed Reality向けサービスを発表していますね。

 はい、これが、最初のMixed Realityに特化したサービスになります。

――こうした流れを見ると、Dynamics 365はERPやCRMの域を超えた製品群になってきたと強く感じます。Dynamics 365という製品は、今後、どういう領域の製品だととらえればいいのでしょうか。

 オンプレミスとしての従来のDynamicsは、確かに、CRMやERPという領域の製品でした。2016年にDynamics 365をローンチしましたが、そのとき、私はこうお話しました。これまでCRMとERPという製品に分かれていたのは、あくまでもベンダーの都合であり、ユーザーがCRMとERPを分けて欲しいと思ったことは一度もないと。

 ユーザーは、カスタマーエンゲージのところから、リード、オーダー、請求、入金に至るまでのすべてを、一貫した環境のなかで最適化したいわけです。Dynamics 365は、そうしたエンドトゥエンドのビジネスプロセスをカバーできるSaaSとして提供し、ベンダー都合で分けていた、カテゴリーからのアプローチを取らないことを宣言しました。

 しかもDynamics 365は、エンドトゥエンドのスイートとして提供する一方で、モジュール化していますから、すべてを購入するのではなく、必要なところだけを選択できるようにしました。どんな入り口からでも入れるようにして、最終的にはエンドトゥエンドのビジネスプロセスをカバーできるようになります。これが、Dynamics 365の基本的なコンセプトです。

 その上で、新たな差別化要因として、Mixed Reality向けのサービスをビジネスプロセスに対するイノベーションのひとつとして追加したわけです。Dynamics 365が、ビジネスプロセス全体をカバーするというサービスであるという観点でとらえれば、Mixed Reality向けのサービスを追加するというのは不思議なものではありません。

 さらに、Dynamics 365ではAIの機能追加にも力を注いでいますが、これも同様の観点でとらえることができます。

 AIに関しては、2つの役割があります。ひとつは、既存のDynamics 365のアプリケーションのなかに入れることで、よりインテリジェントな使い方ができるようになるということです。

 Dynamics 365 for SalesにはRelationship Analyticsという機能があり、成約に向けたプロセスが40%達成されていると自分では思っていても、行動履歴を見ていると、とてもそこまでは行っていないということをAIが判断して、それを指摘することが可能です。また、在庫切れの予兆などにおいても、Dynamics 365に搭載されたAIを使うことができます。

 もうひとつは、Dynamics 365 Customer Insightのように、「AIを活用する際、Dynamics 365のデータを分析するだけでなく、Salesforce.comをはじめとする他社のデータも分析できます」という特徴です。

 このようにDynamics 365は、ユーザーのビジネスプロセスをデジタルトランフォームするためのツールセットであり、どんなビジネスプロセスに対しても、エンドトゥエンドで適用できる形で、幅広いサービスとして用意しています。

――これらは、Dynamics 365のサービスというよりも、むしろ、Microsoft Azureのサービスとして位置づけた方がいいようにも感じられますが。

 Microsoft Azureは、完成したサービスを作る人のための環境を提供することが中心になっています。IT部門やデベロッパー向けのプラットフォームです。

 一方で、Dynamics 365は、完成したサービスそのものだといえます。その上で、ビジネスアプリケーションのポートフォリオとして展開をしているわけです。そうとらえると、Dynamics 365のサービスとしてMixed Reality向けのサービスを提供し、ビジネスプロセスを変革する支援をするという狙いが明確だといえます。

――Dynamics 365の進化や、HoloLens 2の発表は、日本にどんな影響を及ぼしますか。

 日本の市場は、クラウドを活用したトランスフォーメーションの余地が、まだまだあるといえます。また、Mixed Realityの世界は、ユニークな将来のテクノロジーというフェーズはすでに終わり、働き手不足や技術の伝承など、日本が抱える問題を解決できる技術へと進化しています。

 Dynamics 365 GuidesやDynamics 365 Remote Assistは、まさにそうした役割を担うことになります。わかりやすい形で、ユーザーが持つ課題を解決できる提案が今回の発表であり、日本の社会に貢献できるアプローチになることを期待しています。

――Dynamics全体のビジネスの進捗はどうですか。

 クラウドサービスであるDynamics 365だけで、全世界で年間15億ドルの売上高に到達する計画ですし、Dynamics全体でも、第2四半期(2018年10~12月)の売上高が前年比51%増という高い成長を遂げています。これだけの規模を誇りながら、これだけの成長率を誇っているSaaSはほかにはありません。この数字からも成長には大きな手応えを感じていますし、開発投資もさらに加速しています。

 これまでやってきたSFAやCRMといった領域だけでなく、Mixed Realityのケーパビリティを取り入れたサービスを提供したり、AIによる機能強化を行ったりといったことにも取り組んでいます。

 この成長の背景には、ビジネスアプリケーションをクラウド化したいという高いニーズがあります。従来のERPやCRMをクラウド化したいといった動きに加えて、新規ビジネスを始めるといった場合にも、クラウドベースで始めたいというニーズがあります。また、Microsoftの提供価値に対する期待や認知が高まっているという点も挙げられます。

 そして、ビジネスプロセス全体にDynamicsのポートフォリオを広げてきたことも大きな要素です。また、OfficeやAzureとも親和性が高いという点が評価されています。

Tech Intensityという言葉の持つ意味

――Microsoftでは、2018年秋以降、Tech Intensityという言葉を打ち出しています。あらためて、この意味を教えてください。

 これは、Microsoftのフイロソフィーそのものであり、ビジネスモデルそのものであるといえます。

米Microsoftのサティア・ナデラCEO(左)や、日本マイクロソフトの平野拓也社長(右)などが、「Tech Intensity」というキーワードを取り上げるようになった

 Microsoftの企業ミッションは、「地球上のすべての個人と、すべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」ということであり、これが、Tech Intensityの基礎となります。このミッションに基づいて、Microsoftは、より多くの人々が、より多くのテクノロジーを生み出すためのテクノロジーを提供することを目指しており、Microsoftのテクノロジーが、すべての企業におけるTech Intensityの実現に貢献できると考えています。

 つまり、お客さまの成功のために仕事をしているのが、Microsoftの基本姿勢です。エンタープライズ企業は、すべてがテックカンパニーになります。自分たちのビジネスやビジネスプロセスの課題を解決し、市場で勝っていくためには、自分たちでテクノロジーを活用し、コントロールすることが必要になってきます。

 それをサポートするのがMicrosoftの役割です。お客さまのビジネスにファーストパーティーとして参加するのではなく、成功をサポートするのがMicrosoftの基本姿勢となります。

 AIひとつをとっても、MicrosoftのAIを使ってくださいというのではなく、MicrosoftのAIテクノロジーを使って、お客さまのAIを作ってくださいというのが、我々の提案の仕方になります。

 Microsoftの技術や製品を使って、独立性を確保してほしい。それをサポートすることになります。サティア(米Microsoftのサティア・ナデラCEO)は、この話をするときに、どこにIntensityを求めるかということに言及します。

 調達したITが、顧客との接点を阻害したり、ロックインされてしまうようなものであれば、それを選択することはマイナスになります。また、自ら開発する部分は、競合他社と差別化できる部分にフォーカスしたものでなくてはいけません。

 そしてTech Intensityとは、お客さまが、自らがテックカンパニーになる旅路のなかで、その戦略がどのぐらい進捗しているのかという度合を推し量る指標であるともいえます。ただ、それを推し量る指標のようなものが用意されているわけではありませんから、いわば、心構えといえるものかもしれません。

 Tech Intensityという言葉は、そうした幅広い要素を持っていますから、ひとことで示すような日本語には訳しにくいといえますね。

あらゆる業界と深い連携を進めている

――Microsoftでは、さまざまなインダトリーでの成功事例を公開していますが、最近では、小売業界における事例が目立ちます。例えば、ウォルマートやウォルグリーンでの事例のほか、(協業した米国スーパー大手の)Kroger(クローガー)では、自ら導入したソリューションを外部にも提供するRaaS(Retail as a Service)を展開していくということを発表しています。これは小売業界の各社の危機感の表れだといえますが、一方で、日本の企業ではそこまでの危機感を感じていないようにも思えます。

米国スーパー大手のKrogerでは、自ら導入したソリューションを外部にもRaaSとして提供している

 企業の栄枯盛衰の速さをどうとらえるのかということが重要です。私は、1997年にマイクロソフトに入社して22年が経過しましたが、入社したときに、Microsoftは時価総額の世界トップ10に入っていました。また、2007年のときも入っていましたし、2017年にも入っていました。

 しかし、Microsoft以外のトップ10の顔ぶれを見ると、Microsoft以外に同じ会社はありません。2017年のトップ5には、1997年には存在しない会社も入っています。それだけ栄枯盛衰が激しい世界なのです。この激しさをどこまで皮膚感覚として持っているかが大切であり、米国の小売企業は、これを危機感ではなく、前提としてとらえているのです。日本の企業もそうした意識を持つことが大切だといえます。

 小売業界との連携が目立っているかもしれませんが、Microsoftは、あらゆる業界の方々と深い連携を進めています。そして、どのお客さまとデジタルトランスフォーメーション(DX)をやるにしても、すでにMicrosoftの製品だけでは成り立たないということも理解しています。いかにパートナーのソリューションを活用して、DXにつなげるかが、より重要になってきたといえます。Microsoft自身も、それを活用するノウハウや、それに向けたメンタリティが成長したといえます。

 例えば、Microsoftは2017年7月から、自社の製品やサービスだけではなく、パートナーの製品を売っても、それを促進した社員に対して自社製品を販売したのと同じ報償を行う仕組みを導入しています。これまでの間に、パートナーが自ら登録した案件の成約額だけで、80億ドルを超えています。

 パートナーの製品やサービスがMicrosoftとの協業を通じて展開されており、DXのエンゲージメントも増えています。こうした活動を通じて、業界固有の課題を解決したり、新たな価値を提供したりといったことを実現しています。

――今後、RaaSのような言葉が各業種で生まれることになるのでしょうか。

 RaaSという言葉はMicrosoftが考えたわけではなく、Krogerが提案した言葉です。Microsoftが今後、RaaSという製品を提供したり、同じような形で、他の業界向けにXaaSと呼んだりするようなものはありません。

お客さまと、より深い接点づくりをしたい

――最近、沼本さんが日本に来る回数が増えていると聞きましたが(笑)、なにをするために日本を訪れる回数が増えているのですか。

 よくご存じですね(笑)。

 これまでは年1回ほど日本に来ていましたが、いまは年4回、日本を訪れることを目標にしています。私は製品部門に所属していますが、本社に勤務している日本人の1人として、日本のエンタープライズのお客さまにお邪魔して、お会いする機会を増やしたいと思っています。

 年1回、日本を訪れてお客さまとお会いしても、どうしても表敬訪問という側面が強くなります。しかし、年4回お邪魔するとなると、お互いに課題を持って、それをどう解決するかといった議論を前提に接点を作ることになります。

 まだ始まったばかりで、成果が出ているというわけではないですが、DXの案件は世界中で増えており、しかもひとつの案件の規模が大きくなっています。そうした取り組みにおいて、日本の企業をサポートしたいですね。

 DXの提案は、製品を選ぶというよりも、パートナーをどう選ぶかということが重要になりますから、より深い接点づくりをしたいという思いがあります。主体は日本法人ですが、そこに本社の人間としてなにか支援をしたいと思っており、それを模索しているところです。

 また3カ月後には日本を訪れたいと思っています。