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より多くのテクノロジーを生み出すことができるためのテクノロジーを作っていく――、MicrosoftナデラCEO
Microsoft Tech Summit 2018基調講演
2018年11月6日 00:00
日本マイクロソフト株式会社は11月5日~7日までの3日間、東京・芝公園のザ・プリンス パークタワー東京において、「Microsoft Tech Summit 2018」を開催している。
Microsoft Tech Summit 2018は、日本マイクロソフトが国内で開催する3大イベントのひとつに位置づけられるとともに、2018年9月に米国オーランドで開催された「Microsoft Ignite」で発表された技術情報や製品情報などを、日本のエンジニアなどに提供するものになっている。
会期中には、7つのセッショントラックにおいて、190以上のセッションや、30以上のワークショップが行われるほか、ハンズオンコーナーやMicrosoft HoloLensの体験コーナーを設置。展示エリアには20を超える展示ブースが出展し、ビジネスシーンに役立つ最新テクノロジーとソリューションの最新動向を紹介するイベントとなっている。
初日の基調講演には、日本のITインフラエンジニアやITインフラアーキテクト、IT戦略立案にかかわる人たちを対象に、600人以上が参加し、満席の状態となった。
最初に、ビデオを通じて同イベントの概要を説明した日本マイクロソフト Microsoft 365 ビジネス本部長の三上智子業務執行役員は、「Microsoft Tech Summit 2018を通じて、新たなテクノロジーを紹介するとともに、ベストプラクティスやアイデアを共有し、日本マイクロソフト自らも学びたいと考えている。参加者には、未来を作るテクノロジーと、次の一歩につながるアイデアをつかんでほしいと考えている」と述べた。
なお、エグゼクティブおよびビジネスリーダーを対象にした「Business Leaders Summit」も同時に開催された。
“りんな”との自然な会話の様子を披露
Microsoft Tech Summit 2018の開催初日の11月5日の13時30分からは、米Microsoftのサティア・ナデラCEOが登壇した基調講演が行われた。ここには、Business Leaders Summitの参加者も出席した。
最初に登壇したのは、日本マイクロソフトの平野拓也社長。舞台裏で、女子高生AI「りんな」と会話をしながらネクタイを選んでいる様子をスクリーンに映し出したあとに、ステージに登場。胸ポケットには“りんな”が入ったスマホを入れて、自然な会話の様子を披露してみせた。
「AIと人が同じモノを見て、それを話題にして、自然な会話をするということが共感視覚モデルによって実現することになる。“りんな”は、共感視覚モデルの採用によって、認識結果ではなく、感情がこもった会話ができるようになった。当社が目指しているのは、人間の創造性を拡張するAIである」と紹介。
さらに、「日本マイクロソフトは、インダストリーイノベーション、ワークスタイルイノベーション、ライフスタイルイノベーションの3つのイノベーションに取り組んでいる。これにより、日本の社会変革の推進に貢献したいと考えている」などと述べた。
Tech Intensityの方程式
続いて登壇したナデラCEOは、「テクノロジーは、われわれの生活から切り離して考えることはできない。この変革のなかにおいて、ビジネスリーダーやテクノロジーリーダーは、Tech Intensityということを考えておく必要がある」と切り出す。
そのTech Intensityの方程式は、2つの要素によって構成されているとのことで、「ひとつは、どれぐらいのスピードでワールドクラスのテクノロジーを採用するかということ、そしてもうひとつは、テクノロジーによって差別化した能力をいかに確立するかという点である。この2つによって、あらゆる企業においてTech Intensityが実現されることになる」とする。
そして、「Tech Intensityは、Microsoftが掲げた『地球上のすべての個人と、すべての組織が、より多くのことを達成できるようにする』というミッションの礎になる」と語る一方、「多くの人たちが、より多くのテクノロジーを生み出すことができるためのテクノロジーを作っていく。それがMicrosoftの役割である」と述べた。
国内2つのデータセンターの容量を今後1年で2倍に
また、クラウドサービスMicrosoft Azureの現状についても言及。現在、54リージョンにおいて、それぞれに複数のデータセンターを設置。業界別や国別の認証を最も多く取得していること、データセンター間をつなぐケーブルは、月を3往復できる長さに達していることなどを示しながら、「日本には2カ所のデータセンターがある。この2つのデータセンターの容量を今後1年で2倍にしていく予定である。グローバルに拡張をしており、世界中の人に強固なインフラを提供していく」と語った。
さらに、Azure StackやAzure IoT、Azure Sphereを通じて、エッジに対してもAzureの環境を提供。「Azureを、すべての工場やすべての医療機関などのエッジ環境でも利用できるようになる。全世界で年間90億個のマイクロコントローラが出荷されている。これはどんなデバイスよりも数が多い。これをAzureでつなぐことができる。特に、Azure Sphereでは、電子レンジや冷蔵庫がAzureの一部になる」などとした。
AIに対する取り組みについても言及し、「Microsoftは、AIの分野においても最先端である。音声認識や機械編訳などにおいて、人のレベルを超えるところにまで至っている。そして、AIの民主化によってすべての組織がAIカンパニーになる。Microsoftは、それを支援していきたい」と語る。
また、社内でもCortanaをはじめとするAIを利用していることに触れながら、ナデラCEOがメールを送信する際にその内容が適切かどうかといったことや、どの仕事を優先的にやるべきかといったことをCortanaが教えてくれる、といった日常の様子にも触れた。
さらにナデラCEOは、テクノロジーがビジネスを変化させている日本の企業の事例として、小松製作所、JTBおよびナビタイムジャパン、トヨタ自動車、JR東日本、ニトリ、東北大学を紹介。
「今日、ここにいる人たちには、決断をすることで事業の方向性を変え、組織を変え、業界を変えていくことに期待している。テクノロジーはコモディティ化しているが、エクスペリエンスの部分において差別化ができ、事業によって生み出す結果を変えることができる」とした。
このほか、「私は日本にくるたびに、日本の社会や日本の経済がテクノロジーを活用して新たなものを作っていることを学んでいる。起業家や教育機関が多国籍企業と一緒になって仕事をしたり、中堅・中小企業がデジタル技術を取り入れて、製品やサービスを作り出し、結果を生んだりしていることに感銘を受けている。日本の社会や経済はこれからも大きな進歩を遂げることは間違いないだろう」と語って、講演を締めくくった。
すべての企業がAIカンパニーになる
また、基調講演では、米Microsoft Microsoft 365 GTM担当のキャサリン ボーガー ゼネラルマネージャーが登壇し、モダンワークプレイスへの取り組みについて説明。
「生産性の高い仕事をセキュアな環境で行うこと、それによって社員を満足させることができるのが、Microsoft 365である。AIの活用によって、クリエイティビティを実現でき、チームワークがしやすい環境を作ることができる。完全なものであり、インテリジェントであり、セキュアなソリューションである」などと述べた。
ここでは、Microsoft Igniteで発表された、Microsoft 365のいくかの新機能を紹介した。
さらにニトリの事例について紹介。登場したニトリホールディングス 上席執行役員 情報システム改革室の齊藤めぐみ氏は、「ニトリは、全国に500店舗を持っているほか、5つの物流センター、100近い配送拠点を持っている。店舗は12時間、物流センターと配送拠点は24時間で動いており、違う場所で、違う時間で動いている人をどうやってコミュニケーションを取るかは大きな悩みであった。これを解決したのがTeamsである」などと述べた。
続けて、米Microsoft エンタープライズ 最高技術責任者(CTO)のノーム・ジュダ氏が、AIとデータについて説明。
ジュダCTOは、あいおいニッセイ同和損保がDynamics 365を導入した事例を示しながら、「プロセスをデジタル化して、これまでとは異なる取り組みを実現した事例」と発言。
さらに、「AIサービス」「アジャイルAI」「AI成熟度」「AIの倫理」という、AIが持つ4つのテーマから説明。いくつかの事例を交えながら、「Microsoftが追求しているのは、『人間の創造性を高める責任あるAI』である。だが、いまのテクノロジーは人間よりも先に進んでいる。人が活用する能力がついていっていない」などと指摘した。
またジュダCTOは、「すべての企業はソフトウェアカンパニーになるが、その先には、すべての企業がAIカンパニーになる。そして、AIの倫理は重要であり、すべての企業はAIマニフェストを作る必要がある」などと語った。
GitHubは引き続き独立した運営を行う
最後に、日本マイクロソフト 執行役員常務 デジタルトランスフォーメーション事業本部長の伊藤かつら氏は、デジタル化におけるマイクロソフトのテクノロジーへの取り組みを、「Secure」「Deliver」「Innovate」の3つの観点から説明。
また、米Microsoft セキュリティ担当コーポレートバイスプレジデントのロブ・レファーツ氏が、セキュリティに関する説明を行った。
レファーツ コーポレートバイスプレジデントは、「年間100万ドルがサイバー攻撃によって失われている。攻撃者はイノベーティブであり、われわれはこの戦いに負けている。5万社以上攻撃を受け、96%のマルウェアが、姿を変えることができるポリモーフィックである。そして、48時間あればIDやパスワードなどを盗むことができる。一方で、それに対抗するためには、180万人の人材が不足しており、部屋にあるカメラやモーションセンター、水槽のなかで使われている温度コントローラでさえも、今後は、攻撃の対象になる」との現状に言及。
「これに対抗するためには、Microsoftは、オペレーション、テクノロジー、パートナーシップによって、エンドトゥエンドで対応し、企業のミッションクリティカルを守ることになる」などと述べた。
一方で、「これまでのセキュリティは生産性を犠牲にするものであったが、将来は、生産性とセキュリティを両立することが前提となる。そのためにはパスワード入力をなくし、さらにセキュアなものにしなくてはならない」と話している。
さらに、10月25日に買収を完了したGitHubについては、伊藤本部長が言及。「Microsoftは以前から、GitHubに対する最大の貢献企業であり、いまでも1万6000人のMicrosoftの技術者が貢献している。GitHubを統合することはMicrosoftにとっても大きな責任が生じるものになる。引き続き独立した運営を行い、オープンプラットフォームとして、すべてのデベロッパーコミュニティをサポートするというのがコミットメントである」とした。
講演のなかでは、Microsoft Azureとの連携を強化したWindows Server 2019や、クラウドとの親和性を高めたSQL Server 2019のほか、Microsoft Secure Scoreを紹介したり、Microsoft Igniteで発表した仮想デスクトップであるWindows Virtual Desktop、大量のレコードを短時間に分析、解析するAzure Data Explorerなどを紹介。デモンストレーションも行った。
日本マイクロソフトの伊藤本部長は、「新たなテクノロジーが生まれ、それが時代の革新の源泉になっている。この時代にテクノロジーにかかわることができているのは、とてもワクワクすることである」と、聴講していたエンジニアなどに呼びかけていた。