特別企画
Microsoftのこれからを示唆する「HoloLens 2」
2019年3月11日 06:00
2月25日からスペイン・バルセロナで開催されたモバイル系イベント「MWC19」において、米MicrosoftがHoloLens 2と、その周辺の関連施策を発表した。初代のHoloLensが披露されたのは2015年春の開発者向け会議Build2015、そして翌春のBuild 2016では開発者向けキットの出荷がアナウンスされたので、ほぼ3年ぶりの刷新といっていい。新しいデバイスとしてのHoloLens 2ばかりが注目されているが、コトの本質は別のところにある。そして、それはMicrosoftのこれからを示唆するものでもある。
Nadella CEOも登場してHololens 2をアピールする背景は
Hololens 2は、SoCとしてSnapdragon 850を搭載したMRデバイスだ。VR、ARとは異なり、現実の光景が素通しで見える中に、仮想現実をホログラフィックで表示することで、さまざまな体験を提供する複合現実がHoloLensの世界観だ。これはMR(Mixed Reality)と呼ばれている。
もちろん、ハードウェアとしてのHoloLens 2は、初代に比べて格段の進化を遂げている。3年前のPCやスマホなどのデバイスと現在のデバイスを比べるようなものなので、これは当たり前といえば当たり前だ。
視野を2倍に広げ、解像度も高めた。アイトラッキングでホログラムとの対話ができるようにもなった。また、装着時の快適さも「ゴーグルをかける」から「かぶる」に近いものになり安定性も増した。装着中、終始、ズレを気にすることは本当に少なくなっている。
MWC開幕前夜に開催されたプレス向けのイベントには、HoloLensの始祖ともいえるTechnical FellowのAlex Kipman氏も登壇した。それはともかく、CEOのSatya Nadella氏までが登場するなどアピールの度合いが尋常ではなかった。とにかく、なぜ、MWCというイベントで、HoloLensなのかということを考えると、そのバックグラウンドに何があるのかが見えてくる。
Microsoftは、新ハードウェアとしてのHoloLens 2と同時に、もうひとつのハードウェアとしてAzure Kinect Developer Kit(DK)を発表した。これは、HoloLens 2に搭載された各種センサーをひとつのデバイスに集約したもので、Azureプラットフォームを介し、AIと連携して各種の情報を収集することができるインプットデバイスだ。
さらに、Dynamics 365 Guidesも発表された。現実の作業現場における手順チュートリアルをHoloLensでアプリケーション化するためのものだ。
目の前にある現実社会空間を丸ごとコンピューティングする未来
興味深いのはここからだ。Azure Mixed Reality Servicesが公開され、AzureプラットフォームにおけるMRアプリの開発環境の提供が発表されたのだ。
Azure Spatial AnchorsとAzure Remote Renderingは、限られた機能しか持たないHoloLensハードウェアをクラウドサービスのパワーで大幅に拡張する。前者はマルチユーザーによる空間共有を実現し、後者はいわばホログラフィックのストリーミングを可能にする。
この展開は、MicrosoftがHoloLensをキーボードやマウス、タッチスクリーンといったシンプルなHID(ヒューマン・インプット・デバイス)にしたいと考えていることを意味する。Azure Kinect Developer Kitなどはその典型だ。
装着感が格段に向上したとはいえ、大きく重いHoloLens 2を丸一日装着して作業をする現場はたいへんだ。そういう意味では、このハードウェアは単なる過渡期の成果にすぎないことがわかる。デバイスがもたらす未来を見せるための方便として提供されているだけで、それはMicrosoftがめざしている最終的なゴールではない。今回は、HoloLensカスタマイズプログラムも発表され、建設現場で重宝されそうなヘルメット一体型HoloLensが紹介されたことを見ても、その方向性は間違いない。MicrosoftはHoloLensをもっともっと身近でシンプルなデバイスにしたいと考えている。
このデバイスを軽薄短小化して装着時の快適性を飛躍的に高めるためには、ローカル処理を限定的なものにすればいい。だからこそ、Azureと緻密に連携する必要があったのだ。コンピューターパワーが必要な処理はクラウドサービスに委ね、ドラえもんのひみつ道具のようなデバイスとしてHoloLensが普及浸透する未来がそこにある。メガネやコンタクトレンズ的な装着感のカジュアルなデバイスで、今、目の前にある現実社会空間を丸ごとコンピューティングする未来。今回の一連の発表の本質はそこにある。
これは、Microsoftのビジネス戦略にとっても大きな賭けとなるだろう。Azureがプラットフォームとして使われれば、そこにつながるデバイスはWindowsが稼働するPCである必要性は皆無になる。これはビジネスモデルのトランスフォームでもある。
プレスイベントに登壇したSatya Nadella氏は、HoloLensが世界を見る方法を変えたとしたうえで、これからのコンピューティングはすべてインテリジェントクラウド、インテリジェントエッジの時代にシフトしていくだろうとした。そして、その方便としてのクラウド to エッジをアピールした。それによって、身の回りのすべてをコンピュートすることで、あらゆる経験を変えるという宣言をした。
折しも、今年のMWCは5G一色に染まっていた。5Gが持つ広帯域、低遅延、超大量接続といった特徴を活かすことができれば、そして、Qualcommがもくろんでいるアンライセンスドのローカルエリア5Gネットワークを組み合わせれば……、といった世界観を提示するには今年のMWCは絶好の機会だったということだ。
Microsoftは確実にもたらされるであろう未来の世界観を先に作った。そして、それをクラウドのパワーで具現化する方法論も示した。あとはデバイスがついてくるのを待つ。繰り返すが今回のHoloLens 2は通過点に過ぎない。誤解を怖れずにいえば、エンドユーザーデバイスとしてはまだまだひどい未完成のしろものだ。だが、それを装着して見えるかすかな仮想未来を、ホンモノの未来と重ね合わせてとらえられる者だけが最終的な勝利を得るはずだ。