大河原克行のキーマンウォッチ

自らが実践・蓄積してきたノウハウや技術を持つ強み――、NECネッツエスアイ・牛島祐之社長

 働き方改革への関心が高まるなか、NECグループの1社であるNECネッツエスアイの取り組みが注目を集めている。

 2007年からスタートした「EmpoweredOffice」は、最先端技術を活用しながら働き方改革を自ら実践し、そのノウハウを蓄積。これをソリューションとして提供しているのが特徴だ。実践をベースにした提案は地に足がついたソリューションの提案につながっており、同社への累計見学者数は、1万社、3万人に到達。働き方改革は、まさに同社の看板事業になっている。

 そのEmpoweredOffice事業を立ち上げたのが、2017年6月に、同社社長に就任した牛島祐之氏である。2018年1月には、EmpoweredOfficeを進化させ、5000人の全社員が実施しているテレワークや、オープンイノベーションを視野に入れた働き方改革の提案を開始する。

 2018年は「1」にこだわるとする牛島社長に、社長就任後の成果と、2018年の取り組みを聞いた。

牛島祐之社長

2017年は、過去の課題の解決や次の成長に向けての準備が整った1年

――2017年は、NECネッツエスアイにとって、どんな1年でしたか。

 NECネッツエスアイは、2016年度から中期経営計画を推進しており、2017年はその中間にあたる1年でした。2年目までに基盤を作り上げ、3年目に大きく伸ばしていくという計画を掲げています。そうしたなかで、過去の課題の解決や、次の成長に向けての準備が整った1年だったといえます。

 NECネッツエイアイには、企業(民需)系事業、社会インフラ事業、海外事業といった3つの事業の柱があります。

 企業系事業では、働き方改革に対する関心が高まるなか、それぞれの企業が求めるテーマが変化。それに向けた提案を進めてきた1年でした。

 一方、社会インフラ事業では、ちょうど過渡期を迎えた1年でした。その点では、計画よりはやや遅れがありますが、4Kに関する放送局向けの商談や、メガソーラーのビジネスが積極化しており、これが今後の事業成長にプラスになると考えています。

 海外事業については、ASEANを中心に横展開していくことになりますが、これまでやってきたことが変わるタイミングに入ってきており、次のビジネスを推進するための基盤づくりを進め、ちょうどそのめどがたってきたところです。

――中期経営計画では、最終年度となる2018年度に、売上高3000億円以上、営業利益165億円以上、営業利益率5.5%以上、ROE10%以上という目標を掲げていますね。

 2017年を振り返れば、ほぼ想定通りにきています。社員にもがんばってもらっており、その点では、社員に感謝したいですね。

 ただ、最終年度の目標は高いものですから、達成に向けては最後にジャンプすることが必要です。私は、数値目標を達成することも大切ですが、そこに向けてどんなプロセスを作ることができるのかも大切な要素だと考えています。

 ビジネスのなかでも一番力を入れている「働き方改革」では、当社が掲げる「EmpoweredOffice」の取り組みを加速するとともに、新たな技術を活用した提案を進めるといった動きを加速していきたいですね。

注目集める働き方改革、ビジネスの本番はこれから

――働き方改革は、予想以上に追い風になっているのではないでしょうか。

 企業における働き方改革に対する気運は高まってきていますし、働き方改革を実践している当社の現場を見学にきたいという人も増えています。いまでは、1日に訪問できるキャパシティがほぼ満杯になるぐらいです。見学者数は、前年に比べても増加し、2007年からの累計見学者数は1万社、3万人を超えており、その点では手応えがあります。

 ただ、ビジネスとしてとらえた場合には、本番はこれからですね。働き方改革によって、当社の売り上げが劇的に増加したのかというと、決してそんなことはありません。確かに、じわっとは増加していますが(笑)、これを2018年の成果につなげていくことがテーマです。

 注目しておきたいのは、働き方改革のテーマが多岐に渡りはじめているという点です。NECネッツエスアイは、2007年から、「EmpoweredOffice」として、働き方改革を実践してきたのですが、初期の課題というのは、いかに部門間の壁を取り払うのか、あるいはペーパーレス化によっていかに効率化を図るのかということが中心になってきます。

 また、次のステップでは、テレワークによって、家庭や外出先で仕事をしたり、残業を減らしたりといった仕事のやり方を変える取り組みを進めることになります。

 一方で、働き方改革に伴って社内の制度をどう変えていくのかといった課題をどう解決したらいいのか、といったことも重要ですし、昨今では、オープンイノベーションという言葉に代表されるように、社内だけで完結するのではなく、社外といかに連携していくのか、そのための仕組みはどうするのかといったことに取り組む企業も出てきています。

 さらには、AIやRPAといった新たな技術を活用して、人の省力化とともに、人が持っている力をITで引き出すといったことにも注目が集まっています。われわれ自身も、どういうようにITを使えば、人のパワーを最大限に活用でき、生産性向上につなげることができるのかを考えていく必要があります。

 このように働き方改革といっても、さまざまな領域へとテーマが広がっており、これが2017年に見られた大きな特徴です。2018年にはこうした動きがますます加速すると思います。

――働き方改革が注目を集めるなかで、NECネッツエスアイの強みはどこに発揮できますか。

 NECネッツエスアイは、これらのさまざまなテーマに対して、自らが実践し、蓄積してきたノウハウや技術を持っていること、他社が持つ新たな技術と組み合わせて、それに関しても自らが使うことで、働き方改革のメッセージを出すことができる点が強みになります。

 当社を見学していただく際にも、ショールームで単に新たな技術を見ていただくというのではなく、われわれが実践してみてわかったいいところと、悪いところを示すことができるのが特色です。

 また、来社されたお客さまから、ご意見や要望をいただき、それをもとに、われわれが実証実験を繰り返し、それを社内で吸収し、新たな提案につなげるといったことも行っています。これは他社にはない強みだといえます。

 そして、働き方改革のテーマが多岐に渡るなかで、「強み」といえるものをいくつかの観点で生み出していくことが大切だと思っています。そこに積極的に取り組んでいくつもりです。

失敗からも学んでノウハウを蓄積する“実践型企業”

――その点では、実際に実践して、失敗したところを、明確に示すことができる点も強みであると(笑)

 例えば、社内にサイネージを設置しても、画面サイズが小さくて、結局、情報発信の効果には限界があったとか、高い位置に設置すると、近くに来たときには見上げなくてはならず使いにくい、といったように、社内には細かいノウハウが蓄積されています。

 これは、自分たちでやってみたからこそわかるのです。こうした失敗例もどんどん提示していきます。

 われわれは、もっと品質のいい映像体験を実現したり、もっとコミュニケーションしやすいものを追求していかなくてはなりません。施工品質といった点でも強化していく必要があります。NECネッツエスアイは、全国規模で展開ができ、設計、構築、運用を含めた保守までの一気通貫でソリューションを提供できる体制を持っています。

 しかも、NEC製品だけでなく、さまざまな企業の製品を組み合わせたシステムインテグレーションができます。働き方改革に向けて提供している製品、サービスのすべてを、もっと高い水準に引き上げていきたいですね。

 2018年からは、AIやIoTなどの最先端の技術にもっとフォーカスしていきたいと考えています。例えば、顔認証技術を使ってどんな効果があるのか、それによって人の力を最大限に活用できるようになるのかといったことを自ら実証していきたいですね。なかなかカタログ通りの効果は出ないものですからね。それを実現するには、われわれのような実践型の企業の存在が必要です。

 実は、2017年12月末から東京・飯田橋の本社において、社内の大改装をはじめており、2018年1月末には、これを新たな「EmpoweredOffice」として公開できる予定です。

 ここでは、従来のような社内の壁を取り払うといった社内に目線をおいたオフィス改革にとどまらず、テレワークやオープンイノベーションなどの社外と連携したオフィスづくりをテーマにしています。働き方改革では、テレワークが重要な取り組みのひとつになりますから、ここに最新の技術やITを、どう活用していけるのかということをお見せしたいですね。

 仮にタイトルをつけると「EmpoweredOffice 2.0」という言い方になるかもしれません(笑)。まさに、EmpoweredOfficeの進化版となります。働き方に関するテーマや課題は、時代ごとに変化していきますから、それをいち早く取り入れ、咀嚼してお伝えするという役割を果たしたいと考えています。

本社33階の働き方改革のショールーム「EmpoweredOffice Center」をリニューアルしている(NECネッツエスアイの広報資料より)

――もともと牛島社長は、2007年のEmpoweredOffice事業の立ち上げにも関与されていましたね。働き方改革が注目されるなかで、社長としてあらためて取り組むことになりましたが。

 EmpoweredOffice事業の立ち上げの際に、当時の社長と話をしたのですが、提供するサービスのラインアップをそろえただけでは意味がなく、やはり実践することが大切なのです。お客さまに「毒味」をさせるわけにはいきません。EmpoweredOffice事業では、スタート当初から、自分たちに使わせてほしいということを提案していました。それがずっと続いており、いまではそれがEmpoweredOffice事業の根幹になっています。

 その取り組みが11年目に入り、それだけの蓄積が当社にはあるということです。2017年7月には、2年前から実証実験を進めてきたテレワークの成果に基づいて、国内の全社員約5000人を対象に本格導入をしています。

NECネッツエイアイではオフィス全体が働き方改革の実践場になっている

――一方で、新たな技術への取り組みとしては、具体的にはどんなものがありますか。

 2017年には、「共創ワークソリューション Zoom」の販売を開始しました。これは、米カリフォルニアに本社を置くZoom Video Communications, Inc.が開発した製品で、時間や場所にとらわれず、個人や組織はもとより、社外の関係者が、常にメッシュにつながり、情報共有や課題解決、意思決定スピードを大きく変革していくことができます。

 会議室という場所や、会議システム、ネットワーク環境などの制約条件から解放し、さまざまな環境のなかで、誰もが簡単に使うことができ、手軽に自由なディスカッションができる共創ワーク環境の実現につながるものです。

 また、デリバリーロボット「Relay」は、米国カリフォルニアに本社を持つSavioke, Inc.が開発した、人から人へとモノを運ぶ自律走行型デリバリーロボットであり、各種センサーを搭載し、自動で障害物を避けて目的地までの自律搬送が可能になります。ホテルにおける多フロア間移動の自律走行ロボットの導入としては国内初となるなど、新たなソリューションの投入も着実に進んでいます。

自律走行型デリバリーロボット「Relay」

 このような新たな技術については、ベンチャー企業の方が、ユニークな着眼点を持ち、スピードを持って取り組むことができますから、そうした企業との連携を強化したいと思っています。

 彼らは、働き方改革の市場を大きくしていくための優れたパートナーになると確信しています。新たなEmpoweredOfficeも共創のためのオフィスづくりをしており、これを活用して、ベンチャー企業との連携強化を自ら実践していきます。

 われわれは、新しく素晴らしい技術を、いち早く使いこなして、お客さまにメリットを享受できるような役割を果たしたいと思っています。そして、その速度をもっと速めていきたいですね。

“NECという安心のブランド”がもたらす価値

――2017年6月に、NECネッツエスアイの社長に就任して、約半年が経過しました。直前までは、グループ会社であるキューアンドエーの社長も務めました。牛島社長の経験は、NECネッツエスアイの経営にどう生きますか。

 キューアンドエーは、テクニカルサポートやコンタクトセンターなどのサービス事業を展開する企業であり、2014年に、NECネッツエスアイの連結子会社になりました。もともとベンチャー企業としたスタートした経緯があり、私自身も、キューアンドエーの経営に当たったときに、初めて、NECグループではなかった企業が持つ文化に触れることができました。

 また、NECネッツエスアイという会社を外から見るといった経験をすることもできました。さらにキューアンドエーは、個人や家庭といったコンシューマと直接接する企業であり、B2Bを主体とする当社とは違った文化を持っているという点でもいい経験ができました。

 そこで感じたのは、NECグループには、NECという安心のブランドがあり、それによってお客さまから任せてもらえる部分があるという点です。これは当然のことなのですが、小さい企業の場合には、そこによほどの価値がないと、対価を支払ってくれる人が少なく、勝てるサービスを提供しているのかどうかが、業績に直接効いてくるわけです。これを体験することができました。

 NECネッツエスアイには、NECという安心のブランドがありますが、サービスや製品をもっと強くしていくことに取り組まなくてはならないということを感じています。他社に比べて、そこそこいいというのではなく、圧倒的に高い品質や付加価値を提供することができないといけない。

 またお客さまから、このサービスでないと困るんだ、この製品じゃないといけないんだと言っていただけるものを提供できなくてはなりません。いいものをお客さまに提供するというのは、商売の原点です。そこに回帰し、ベンチャー企業の考え方、あるいはB2Cの考え方といったものを、NECネッツエスアイに持ち込みたいですね。

 これは社会インフラ事業においても応用できる考え方です。そう考えたときに、いままでやってきた事業についても、もう少し目線を上げて、業界のなかでのポジションを高めていくといった取り組みを積極化させたいと思っています。

 もしかしたら、「ここまでやれば満足だ」というような部分があったかもしれません。社員が、もっとレベルを高めていくことに挑戦したり、新たなものをより積極的に取り入れる意識を持てる風土に改革していきたいですね。

新たなる打ち手を成果につなげて、再成長を加速する年に

――2018年は、NECネッツエスアイにとって、どんな1年になりますか。

 他社と比較して高い品質と付加価値を持ったサービスや製品を提供することにこだわるとともに、新たな技術の積極的な採用も続けますし、社員の意識改革にも取り組んでいきたいと考えています。

 いまは新たな技術が次々と登場していますから、これをいかに使える技術にしていくかが大切です。それによって、新たなビジネスを創出することにも取り組んでいきたい。IoTへの取り組みも、PoCレベルから実用レベルへと進める案件を増やしたいと思っています。

 現在、米国サンノゼに社員を置いて、新たな技術を持つ企業を発掘し、当社のソリューションに組み込むといったことにも取り組んでいます。外からも、新たな技術に積極的に取り組む会社であるということが見えるようになるといいですね。企業系事業のところだけでなく、社会インフラ事業や海外事業にも、こうした新たな技術は活用できると考えています。

 2018年は、これまで以上に高い目標を持っていきたいですね。ある領域においては、ナンバーワンやオンリーワンであることを明確な目標にし、そこに向けて、どんなプロセスを踏んでいくのかも重視したい。あらゆる活動に際して「ナンバー1」を狙い、ほかがまねできない「オンリー1」を創り、ほかに先んじた「1st」を意識するといったように、今年は「1」へのこだわりを社員で共有したいと思っています。

 特に、働き方改革は、NECネッツエスアイにとっては「看板」ともいえる事業ですから、そのなかでいくつのナンバーワンを作れるのかといったことにもこだわっていきます。3番手、4番手となっているものも、少しでも上に上げていきたいですね。

 働き方改革においても、さまざまな提案をしていくつもりですし、施工においても、メガソーラーや4Kなどの新たな分野への取り組みに力を注ぎます。

 そして、海外事業においても新たな取り組みをはじめたいと思っています。2017年は社長就任直後だったこともあって、2日間で3カ国を回るという強行軍だけで終わってしまったのですが(笑)、2018年は、海外に行くことが少し増えそうですね。海外事業はまだ規模は小さいのですが、着実に一手を打っていきます。

 2018年は、新たなる打ち手を成果につなげて、再成長を加速する年です。当社の注力領域の事業環境も良好であり、それらの風を確実にとらえることで、再成長を加速できます。そして、再成長の実現には、お客さまに対して、満足を越えた感動を提供し、当社でなければならないと言っていただけるレベルのサービスを目指す必要があります。先達(せんだつ)が築いた強みを継承しつつ、ゼロベースの発想で自分たちの活動を見つめ直して、「1」に挑戦します。

 NECネッツエスアイは、新たなことにチャレンジする会社であること、その善しあしについてのメッセージもきちっと提供する会社であることを、これからも目指していきます。まだまだ挑戦は続きますよ(笑)