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「働きやすい環境を提供する」、オフィスをショールーム化するNECネッツエスアイの狙いとは?

 NECネッツエスアイは、オフィス改革ソリューション「EmpoweredOffice(エンパワードオフィス)」の提案を加速している。

 EmpoweredOfficeは、ICTの活用と新たなオフィス空間の融合によって、働き方の改革を促進し、生産性向上や効率性向上につなげるソリューション。自社での実践を通じて、顧客ニーズにあわせた提案を行っているのが特徴だ。

 同社での実践では、オフィスコストを20%削減したほか、電力消費も52%削減。さまざまな知識を持った人とコラボレーションしやすくなったと感じた社員が45%増加するなど、多くの成果が上がっている。

 また、同社オフィスをショールーム化し、実際に働いている場を見学できるようにしているのもユニークな取り組みのひとつ。このほど、オフィス見学者の累計人数が3万人を突破したという。

 同社のEmpoweredOfficeの取り組みについて取材した。

社内実践で進化を遂げるEmpoweredOffice

 NECネッツエスアイは、1953年に設立したNECグループ企業。通信インフラの設置工事を中心として事業をスタートし、現在では、ネットワークをコアとするICTシステムに関する企画、コンサルティング、設計・構築などを事業の柱とし、売上高は2800億円、従業員数は7464人を誇る。国内400カ所以上のサポートサービス拠点による24時間365日対応の保守・運用・監視サービスや、アウトソーシングサービスも提供している。

 EmpoweredOfficeは、経済産業省が「クリエイティブオフィス宣言」を行った2007年から事業を開始したオフィス改革ソリューションで、同年に本社の一部にEmpoweredOfficeを自ら導入。2010年には、現在の東京・後楽のオフィスへと本社を移転するのに伴い、本社全体にEmpoweredOfficeを導入した。

 2012年からは、12カ所の支社および支店にも、オフィス改革の実践の場を広げ、これをライブオフィス見学として、顧客に対して広く公開している。現在、国内14拠点、海外2拠点でライブオフィス見学が可能になっており、地域の市場特性や、支店などが持つオフィスの特徴などにあわせた活用提案が行える体制を構築している。

 「社内実践を通じて、課題を発見し、それを改善につなげることで、EmpoweredOfficeを進化させてきた。また、本社には3000人が勤務しているが、こうした大規模オフィスでの実践だけでなく、支社、支店にも展開することで、10人規模から数百人規模のオフィスでも、オフィス改革が実践できることを示すことができる。オフィス改革を進めたいが、どうしたらいいのかわからない、あるいはどんな成果があるのかわからないといった顧客に対して、具体的な事例を通じて提案ができる」(NECネッツエスアイ エンパワードオフィス事業統括本部 プロモーショングループの大類亨グループマネージャー)という。

NECネッツエスアイ エンパワードオフィス事業統括本部 プロモーショングループの大類亨グループマネージャー

 本社では、最新のオフィス改革ソリューションをデモストレーションできるEmpoweredOffice Centerを設置。ここでは、NECネッツエスアイ社内でも、まだ実践していない新たなオフィス改革の事例を紹介し、顧客に対するヒントを提供している。

最新のオフィス改革ソリューションをデモストレーションするEmpoweredOffice Center
EmpoweredOffice Centerの様子
プロジェクターで投影した画像をタッチするとさまざまな情報が表示されるデモ

閉ざされた会議室は多くのムダを生む?

 EmpoweredOfficeの基本的な考え方は、「オフィスのさまざまなムダをOFFして、創造性と生産性を高める」ことにある。

 ムダのOFFを「スリムオフィス」と表現し、創造性と生産性を高めることを「スマートワーク」と称し、これを両立することで、社員一人一人が主役になって働き方の価値を高めることができるようにするという。

 例えば、オフィスの「ムダ」という観点では、「パーティションで閉ざされた会議室」の弊害があると指摘する。意外に思う読者もいるかもしれないが、これはNECネッツエスアイが提案するオフィス改革の大きな成果のひとつといえものだ。

 NECネッツエスアイでは、現在の本社に移転する前までは、個室の会議室やパーティションで区切られた会議室をいくつも用意していた。だが、会議室を使いたくても使えないという状況が生まれていた。

 その背景には、いくつもの無駄が発生していたことが挙げられる。例えば、会議室の席数は決まっているため、10人入れる会議室を3人の会議に使用するということもあった。残り7席が余っていたとしても、当然、そこで別の会議を行うということはできない。

 また、予約を取る際に、会議の招集がかかっていない段階から仮予約として押さえたり、1時間で終わる予定のものを1時間30分予約したりといったものもあった。つまり、会議室が効率的に運用されていないため、会議室が不足するという事態が発生していたのだ。

 EmpoweredOfficeでは、閉ざされた会議室を基本的に置かずに、ミーティングエリアを設置。稼働式の机と椅子を設置して、オープンスペースで会議を行えるようにした。予約の仕組みは導入せず、集まった人数に応じて、机や椅子を集めてそこでいつでも会議が行える。

 一部の机にはPCとカメラを設置したテレビ会議システムを用意。従来はテレビ会議システムが設置されている部屋でしか遠隔地と結んだ会議ができなかったものが、2、3人の会議でも簡単に、テレビ会議システムを使ったコミュニケーションができるようになった。

 さらに、やぐらを組んで10人規模が入れるオープンな会議スペースでは、複数台のプロジェクターを使った投影が可能であり、無線環境を通じて、社員が持つシンクライアントPCから資料を映し出すことができる。ここもオープンスペースとなっているため、どうしても使いたいという場合以外は、予約は不要だ。

 NECネッツエスアイ エンパワードオフィス事業統括本部 プロモーショングループの佐々木綾乃氏は、「管理職にとっては、部下たちがどんな会議をしているのかを、遠くから見ることができ、会議の方向性が違っていると感じたら途中で修正したり、必要に応じて自ら参加したりといったこともできる。最初は参加予定がなかった管理職が、会議スペースの柱に寄りかかって、会議の流れを見ている姿もたびたび目にする」と笑う。

 また、「会議をしている場所から、社員の在席状況が確認できるため、詳細な内容を知りたいという場合には、周りを見回して担当社員を見つけて、呼んでくることもできる。閉ざされた会議室では実現できなかったことが実現されている」というわけだ。

 オープンな会議スペースというのは使い慣れないと敬遠する社員もいるだろう。だが、慣れればそんなことは感じないようだ。実際、このオープンな会議スペースには、ロールカーテンを設置したり、ガラスの色が変わって中が見えなくなる機能も用意したりしていたのだが、ほとんど利用されていない。

 このエピソードは、できれば触れてほしくないと言われたのだが、ロールカーテンを降ろしてもらったところ、そこにはホコリがついていたという状態だった。社員がロールカーテンを降ろすことがないまま会議を行っていることを示すものだといえる。むしろ、オープンの方が効率的で、成果が高い会議が行えることを社員自らが体感しているのではないか。

オープンな会議スペース。プロジェクターを使うことも可能。管理職が柱にもたれかかって会議の進ちょくを確認したり、助言することもあるという
ミーティングエリアの様子。机と椅子は可動式で参加人数にあわせて最適な状況にできる
簡易なテレビ会議もできるように準備されている

 同社の本社には3000人の社員が勤務しているが、実は、社員が会議に使用できる個室型の会議室は6室しかない。取材当日には、夏季休暇前というタイミングでもあったが、使用されている会議室は6室中1室だけ。「結構、空いていることが多い」という。なかには、「会議室のあるフロアに移動することが手間に感じる」という社員の声もあるほどだ。会議は閉ざされた会議室のなかで行うという概念が崩れると、社員の意識も大きく変わることがわかる。

社内会議で利用する個室の会議室の様子。3000人の社員に対して6室しか用意されていない
予約表をみると意外と空いている
会議予約はITで管理。15分間利用がないと予約がキャンセル。また、会議終了時にボタンを押せばほかの人が使える。さらに終了5分前には音楽が鳴るなど、会議室を効率的に使う仕組みが施されている
応接フロアの会議室ではICTを駆使した環境が用意されている

 同社社内では、フリーアドレス制を導入しているため、個人の私物はロッカーに入れることになるが、このロッカーの高さも110cmにしており、その上にPCを置いて、立ちながら会議をすることも可能だという。こうした簡単な会議のやり方も社内に定着している。

 ムダの削減だけでなく、新たな会議の仕方によって、効率性や創造性も高まっているというわけだ。

営業部門のフロア。部門ごとに分かれているが、基本的にはフリーアドレス方式だ
スクリーンとプロジェクターを天井に設置。これによって月1回の営業部門全員参加の朝礼も場所を借りることがなく、その場で出席できる
出入口にはプロジェクターで最新ニュースを表示し、営業担当者への話題を提供
セルフマネジメントエリア。1人で進めたい仕事をやる場合に最適
出張者はタッチダウンPCと呼ばれる常設PCを利用することもできる
SE部門のフロア。こちらもフリーアドレスとなっている
社内サイネージでは社内外の情報を表示。ランチタイムには食堂の混雑具合を映像で表示してタイミングを見計らっていくこともできる
文具の収納エリア。ここにも社内での実践ノウハウがたくさんある
斜めにしているのは、取り出しやすいことと、女性がしゃがんでスカートの裾が床に触れるのを避けたいという声を反映したという
製造現場で利用されているトヨタのカンバン方式を採用。無くなった順番に当たった人が、カンバンをポストに入れておけば担当者が補充をしてくれる仕組みだ
NECネッツエスアイのデザイナーがデザインした机。効率的な使い方が可能だ
社員食堂は「コミュニケーションホール」という名称がついている
コミュニケーションホールではランチタイム以外は社員が自由に利用できる。会議を行ったり、大規模イベントの開催なども可能だ
カーテンで仕切れるようにしたのは女性社員でも簡単に準備ができるようにしたため
社員は私物をロッカーのなかに入れて管理する
高さ110cmは災害対策上のメリットのほか、こうやって立ちながら会議をすることも想定している

ノーペーパー、ノーディスタンスを目指す

 EmpoweredOfficeでは、紙を減らす一歩進めた、紙を使わない働き方を行う「ノーペーパー・ワーキング」、ICTの活用によって、チーム内の連携を取りやすい働き方を行う「チーム・ワーキング」、離れた場所との距離を感じさせない働き方である「ノーディスタンス・オフィス」、人と情報が交差するオフィスで創造的な働き方をする「クリエイティブ・ワーキング」の4つの視点から新たな働き方を提案する。

 ノーペーパー・ワーキングでは、独自に開発したSmoothMeetingにより、紙資料を電子化することで、iPadなどを活用したノーペーパー会議を実現するほか、オフィス内にサイネージを設置して、社内外の情報を表示。サイネージに、オフィス内の電力使用量をリアルタイムで表示しはじめたところ、社員の意識が大きく変わり、大幅な電力削減につながったという。

 「これまでは1カ月後に電力使用量がわかり、それからようやく対策を取るため、成果が上がりにくかった。社内サイネージに現時点の電力使用量を表示するとともに、それがどれくらいの水準であるのかを表示。赤や黄色で警告が表示されると、社員が電力消費を意識して仕事を行うようになった」という。EmpoweredOfficeの導入により、電力使用量は、52%減という大きな成果を達成したわけだ。

 また、タッチパネル方式のテーブル型ディスプレイを導入して、それを見ながら議論ができるようにしている。工事案件などの検討では、このテーブル型ディスプレイが効果的だという。さらに7月には、タブレットやパソコンから操作が可能なホワイトボードシステム「SmoothDiscussion」を発表。離れた場所と結んだ会議でも、参加者全員が同じホワイトボードにフリーハンドで書き込むことができるといった独自ツールを活用した新たな提案も行っている。

ホワイトボードにフリーハンドで書き込むことができる「SmoothDiscussion」
SmoothDiscussionはタブレットやPCからも利用できる

 チーム・ワーキングでは、社内全体を無線LAN環境にすることで、社員が持つシンクラアントPCを接続。Skype for Businessを活用したユニファイドコミュケーションにより、情報共有を行ったり、社員同士の連携を図ったりできるようにしている。

チーム・ワーキングの提案コーナー
タッチパネル方式のテーブル型ディスプレイを利用した提案も
コラボレーションゾーン。手前の机はNECネッツエスアイのオリジナル。机に角度をつけることで参加者がディスプレイを見やすくなる
集中ゾーンとして一人で仕事ができる環境を提案。この椅子も独自デザインの製品。PCや資料などが置けるスペースを用意している

 ノーディスタンス・オフィスでは、多拠点を結んだ合同会議のほか、タブレットを活用した簡易なテレビ会議システムを導入。さらに、同社が開発したSmoothSpaceでは、テレビ会議システムとプロジェクションマッピングの技術を活用し、離れた空間と空間を、臨場感がある形で接続することができるようになる。

 「紙をなくしたことで棚が不要になり、角部分の壁スペースが空き始めた。ここを利用して、遠隔地と常に結んで、壁の向こう側に離れた空間が存在しているような状況を生み出した。本社では、大阪、名古屋の拠点と結んだ環境を用意しており、話したい相手が、そこにいれば、マイクで呼び出してすぐに話すことができる」(大類グループマネージャー)という。やぐらを組んで角スペースを作り、そこに接続先のオフィスの画像を表示することも可能だ。

 SmoothSpaceの技術は、文化庁が、京都市への移転に伴い、7月11日に行ったテレビ会議システムの実証実験でも利用されているほか、会津若松市の小学校でも実証実験を行うなど、今後は自治体や教育分野での活用も見込まれているという。

テレビ会議システムとプロジェクションマッピングの技術を活用したSmoothSpace。ここで名古屋の拠点と接続している。まるでオフィスがつながっているようだ

 さらに、同社では2015年1月から、100人規模でのテレワーク実証実験を開始しており、この取り組みが評価され、今年1月に発表された一般社団法人日本テレワーク協会の第16回テレワーク推進賞のテレワーク実践部門奨励賞を受賞。これもチーム・ワーキングの提案に生かしていくことになる。

 「独自の勤怠管理アプリケーションの導入などにより、大がかりな制度変更を不要にしたり、幅広い職種にも対応できる仕組みを導入したりといった、日本の企業に最適化したテレワークを模索している」という。

 そして、クリエイティブ・ワーキングでは、部門の特性に応じたクリエイティブポイントを設置。会議やセミナーに社員が自由に参加したり、創造性を発揮するための作業を各部門の社員が連携しながら行える環境も構築しているという。こうした環境の実現や、それを構成する什器などは、オフィス家具メーカーとの連携だけでなく、同社のデザイナーが独自に設計して製品化するものもあるとのことだ。

クリエイティブポイントを設置。会議やセミナーに社員が自由に参加することができる
ラボラトリーと呼ぶエリア。机が可動式であり、自由にレイアウト変更が可能
くつろいだ環境で会議が行える提案も
映像技術を駆使したバーチャルオフィスを提案するEO Theater。SmoothSpaceの技術を活用している

EmpoweredOfficeで大きなコスト削減を達成

 NECネッツエスアイでは、EmpoweredOfficeの自社導入において、さまざまな成果を生んでいるという。同社によると、オフィスフロア面積は32%減、オフィスコストは20%減、複合機の台数は59%減、シュレッダーの台数は55%減、コピー用紙購入枚数は60%減、出張旅費は20%減したという。

 また、ワークスタイル変革の成果としても、「さまざまな知識を持った人コラボレーションしやすくなった」と回答した社員が45%増、「遠隔地のメンバーとも距離を意識せずに働きやすくなった」との回答が33%増、「業務内容に合わせて働く場所を選びやすい」とした社員が57%増、「インフォーマルコミュニケーションがしやすい」とした社員が40%増となったほか、「紙を使わなくても仕事をしやすい」とした社員が34%増、「リフレッシュしやすい」と回答した社員が29%増などの成果があがっているという。

2018年度には540億円の事業規模を目指す

 2015年度実績におけるEmpoweredOffice事業の売上高は440億円。これを2016年度には445億円に高め、さらに2018年度には540億円にまで引き上げる考えだ。

 NECネッツエスアイ エンパワードオフィス事業統括本部・大川久夫本部長代理は、「NECネッツエスアイは、社内実践を通じて、改善に取り組むことができる環境を持っていることが特徴。その成果を提案でき、さまざまなニーズに対応できるほか、ICT領域の知見のほか、自らオフィスをデザインするファシリティ領域のノウハウもある。自社のオフィス改革実践で培った経験とノウハウを活用して、ユーザーのワークスタイル改革に適ったオフィスの設計、ICT活用や運用サービス、ファシリティ インフラ工事までトータルで提案できるのが強みである」とする。

NECネッツエスアイ エンパワードオフィス事業統括本部の大川久夫本部長代理

 今後は、企業向けの提案だけに留まらず、自治体などへの提案も加速。さらに、キャリアと連携した提案活動も活発化させたいという。

 自らの実践を通じてノウハウを蓄積し、それを提案しているEmpoweredOfficeは、日本の企業の働き方や経営に合致したオフィス改革ソリューションといえそうだ。