事例紹介
太陽光発電所のM2Mデータをkintoneで集約・管理するYKD
(2014/5/19 10:20)
サイボウズの「kintone」は、データベース型のアプリをエンドユーザーがクラウド上で簡単に作れる、一種のPaaSサービスだ。用途としては、取引先管理などの業務アプリで使われることが多い。
太陽光発電を手掛ける株式会社横浜環境デザインは、このkintoneを使って、太陽光発電所の集中監視コンソールを開発し、自社で利用している。M2Mともいえる、この一風変わったkintoneの利用例について、同社総合企画部 主任の福村亜矢氏に話を聞いた。
太陽光発電所のセンサー情報をkintoneに集約
横浜環境デザインは1998年の創業以来、太陽光発電事業を展開する会社だ。設立からしばらくは、住宅の屋根に設置する太陽光発電設備の施工が主な業務だったが、「2012年に、再生可能エネルギーを電力会社が国の決めた価格で買い取ることを義務づける『電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法』が施行されて、全量買取のための大規模サイト(拠点)の設置が主流になりました」と福村氏は語る。
同社では、設置事業者(EPC)としてメガワットクラスの大規模サイトの建設を約30件請負った実績を持つと同時に、自社でも売電事業者(IPP)として大規模サイトを約2箇所保有する。そのうちの一つ、千葉の八街(やちまた)太陽光発電所は、820キロワット相当の太陽電池パネルが敷き詰められ、その電力を約250キロワットと約500キロワットの2台のパワーコンディショナー(パワコン)に集約して電力会社に売電している。
こうした太陽光発電所は無人で運営される。さらにその性質上、人の少ないような土地に設置される。そのため、動作状況などを現地で点検する回数はどうしても少なくなる。
「PCSや太陽光パネルに不具合が起きると、それが売電収入に直接つながってきます」と福村氏。そのほか八街の場合は、落花生の産地であるように砂が多い土壌で、その砂が風で飛んでパネルにかかって発電量が落ちるということもあるそうだ。
そのため、各サイトには監視システムを設置し、リモートからエラーや発電状況などをモニターする。国内では主に、パワコンのところで監視するシステムが使われているという。「ただし、メーカーごとに監視システムが違い、それぞれ表示方法などがまったくバラバラなのに困っていました」(福村氏)。
そこで、監視システムの情報をkintoneに集約するシステムを作り上げた。現地の監視システムの取ったデータを30分に1回、API経由でkintoneに取り込む。あとはkintone上で各サイトの情報を統合して表示するほか、kintoneの機能によってグラフ表示もできる。問題が発生したらメールを飛ばす、といったこともkintoneでできる。
「監視システムからは、照度とパワコンごとの発電量、その積算電力量が送られてきます。この照度と発電が比例していなければ、太陽光発電パネルやパワコンなどに問題があることがわかります。また、エラーの起きたときはその情報も取れます」と福村氏は説明する。
取引先ごとに項目が異なる業務情報をkintoneで管理
もともと同社では業務にkintoneを利用しており、それがkintoneを監視コンソールに利用した背景の一つだ。顧客管理や工程管理などにkintoneを使っていて、現在2年目だという。「当社の場合、住宅会社など取引先ごとに、それぞれ仕事のスキームが違ってきます」と福村氏。「たとえば、お客様の情報や工事の情報、補助金情報、ステータスなどが入っています。こうしたものを40以上のアプリに作り、すべてkintoneにまとめて管理しています」。
このように、データの項目がまちまちになるため、取引先ごとに自在にカスタマイズするのが難しい既存のシステムやシステム会社の開発するシステムでは用途に合わないと判断。kintoneを選び、自社でアプリを開発した。
「最初のアプリは、kintone上で雛形を元に2~3週間で作りました。マニュアルを見なくてもアイコンで直感的に作れましたし、サイボウズに問い合わせると親切に教えてくれるので、毎日のように質問していました(笑)。むしろExcelからデータを取り込むほうが手間がかかって大変だったぐらいです」(福村氏)。
また、kintoneを使うことで、協力会社に特定の部分だけアクセスさせるといったこともしている。「こうしたセキュリティ管理ができるのも、kintoneのいいところの一つです」と福村氏。現在、協力会社を含めて40人がkintoneを利用している。また、グループウェアのサイボウズガルーンも利用している。
そうした流れから、太陽光発電の監視画面も同じkintoneに集約することにした。「普段使う、何でも載っている画面に、稼働状況も表示されるのが見通しがいいと考えました」(福村氏)。今後、自社の発電サイトの情報は全面的にkintoneに集約していくほか、施工先の大規模サイトにも提案していきたいという。
サイボウズの野水克也氏も、「M2M(機械どうしのデータ通信)だけでなく、それを見て人間の行動につなげる“M2M2H”となるところに、kintoneを使う意義があります。今後、M2Mがワークフローにつながって中に入ってくると、kintoneによるM2Mの真価が発揮されるでしょう」と、M2M分野におけるkintoneの将来性を語った。
現地でのメンテナンスも強化
太陽光発電所のリモートでのモニタリングに続いて、横浜環境デザインが今後強化したいと考えているのが、現地でのメンテナンスだ。同社では、日々のモニタリングと現地でのメンテナンスを運用管理の両輪として、「O&M」(オペレーション&メンテナンス)と呼んでいる。
「太陽光発電パネルの目に見えない傷が、経年変化で広がって不具合や故障に至ることがあります。まだ大規模サイトが作られて2~3年なのでリスクが露見していませんが、いま問題が現れていなくても10年経って3分の1に不具合が起きているといったこともありえます」と福村氏。こうした現地でのメンテナンスは、どの設置事業者(EPC)でもまだ確立されていないだろうという。
それを見据えて、横浜環境デザインでは、太陽光電池モジュール検査自動車「PVテストカー」を現在テスト中だ。PVテストカーは、太陽光電池パネルの電圧特性を測定するIVカーブトレーサー、傷などを透かして検査するELテスト、発熱している箇所を測定することで故障箇所を見つけるホットスポット検査の3つを、現地で実施できる。
「まずIVカーブを検査します。IVカーブの形状がきれいに出ていないところは、しっかり発電できていないということですので、パネルを外してPVテストカーでELテストで検査します」と福村氏。ELテストは現在、工場のみでしか行なわれておらず、現地で検査することで問題を確実に発見できるようになるという。
「こうしたメンテナンスの報告書もkintoneで管理しています。モニタリングの情報もkintoneに乗ったので、これから両者を紐づけて活用するといったこともやっていきたいですね」(福村氏)。