事例紹介
ビッグデータ分析で「顧客時間」の拡大に挑む、無印良品のO2O戦略
「Redshift」「Tableau」「Tresure Data」を駆使する先進事例
(2014/6/6 10:00)
「生活の基本となる本当に必要なものを、本当に必要なかたちでつくる」――安くて良い品をノーブランドで作るというポリシーで誕生した無印良品。30年以上が経過したいま、「無印良品」の赤いロゴはシンプルで美しい商品であることを表す一大ステータスブランドに成長した。
設立当時は40品目だった商品も7000品目を超え、営業収益も約1800億円にのぼる。店舗数も国内外で増えており、2014年2月時点で国内直営店は269店舗、商品供給店は116店舗、海外もアジアや欧米を中心に255店舗を展開。従業員数はパートタイムを含め、5700名を超えた。
30年という長い歳月は、事業規模だけでなく、ビジネスを取り巻く状況も大きく変えた。小売・流通業界では「オンライン販売」が大きな影響を与え、オンラインとリアル店舗の売上げや集客を分析し、顧客ごとの満足度を高めていく施策が求められるようになった。無印良品を運営する良品計画も、これまで育んできたブランドイメージはそのままに、いかにネットとリアルの両方で顧客に受けいられるかを試行錯誤しており、さまざまな取り組みを実践している。
象徴的なのが、オンラインストアの「無印良品ネットストア」や、2013年5月より提供を開始した「MUJI passport」の展開だ。これらはネットとリアルを結びつける「O2O」という施策に該当するもので、無印良品ではこれを「顧客時間」を増やすための施策と位置づける。
顧客時間とは、顧客が無印良品に関わるすべての時間のことで、この時間をいかに長くするかを優先課題としている。そのために求められるのは膨大なデータを分析するための基盤。良品計画はMUJI passportのリリース以来、この基盤を急ピッチで整備し、現在は「Amazon Redshift」「Tableau」「Tresure Data Service」という3つのソリューションを目的に応じて使い分けている。
今回、「顧客時間」を重視する同社のマーケティング戦略について、「新しい時代の新しいソリューションを駆使しながら、国内のパイオニアと呼ばれるようにがんばりたい」を意欲を見せる、良品計画 WEB事業部 システム担当 課長 山際高志氏に話を聞いた。
「顧客時間」を重視する無印良品
山際氏が所属するWEB事業部は本来、「無印良品ネットストア」の運営を任務としていた部隊だ。それ以外にも、FacebookやTwitterによる情報発信や、顧客の意見・要望を受け付けるオウンドメディア「くらしの良品研究所」の運営も担う。主にWebにかかわる施策を受け持つ部署だったのだが、「リアル店舗での売上げを5%底上げするために、店頭に向けた施策も何か必要ではないか」と考え始めた頃から、ネットとリアルを絡めたO2O施策も受け持つようになった。
MUJI passport誕生以前、無印良品にはいわゆる「会員証」や「ポイントカード」は存在しなかった。社内でもその必要性の可否については議論を重ねてきたというが、「紙の会員証を作っても基本的に会員証としての機能しか果たさず、フィードバックが得られません。また、当時すでに無印良品ネットストアの会員が390万人ほどいて、これらも統合しようとカードを郵送するとなると、コストも手間も膨大になってしまう」ため、実現には至らなかった。
ちょうどそのころ、店舗と商品を検索できるショッピングガイド機能の開発が進められていた。「ならば、この機能も会員証もまとめて、ネットとリアルの橋渡しになるツールを作ったらどうか」という企画が立ち上がり、そうして誕生したのがMUJI passportだった。
「スマホアプリであれば、紙のカードを郵送するコストがかかりません。同時に、いつ、どこで、何が売れたかという従来のPOSデータに加え、“誰が”それを購入したのかというデータも得られるようになった。顧客時間を創出するために必要だったのが、まさにその“誰が”という視点だったため、MUJI passportを軸に顧客情報の統合に取り組みました」(山際氏)。
「顧客時間には、Webで商品を検索した時間、店舗に訪れた時間、購入後使用する時間、感想を投稿する時間など、顧客が無印良品に接するすべてが含まれます。この顧客時間を増やせば、かならず顧客単価が上がっていく。無印良品ネットストアの売り上げを伸ばすだけでなく、顧客時間をいかに増やすかが我々のチャレンジです」。
MUJI passportで実現していること
MUJI passportは、さまざまな顧客行動を可視化するための、ひも付けツールの役目を担っている。アプリには無印良品ネットストアのIDもひもづけて、購入履歴などを統合できる。このアプリを通じて、ネットとリアルの両方で買い物時に「MUJIマイル」を貯められるほか、Twitterなどのソーシャルメディアとの連携、同社発行のクレジットカード「MUJI Card」会員情報とのひも付けも可能だ。
「MUJIマイル」は買い物の際に付与されるほか、店舗来訪時にチェックイン機能を利用することで10円相当のマイルが得られるのがユニークなところ。また、商品について自社オウンドメディアである「myMUJI」上でコメントを投稿したり、「くらしの良品研究所」などで意見・要望をしたり、レビュー書き込み時にもマイルが付与される。
こうして顧客行動につながる機能を統合し、それらの行動データを蓄積。「顧客時間」を明らかにし、さらに継続的に無印良品に付き合ってもらえるよう「顧客時間の拡大」に挑もうというのがMUJI passportの狙いだ。
とはいえ、商品の検索、来店、購入、利用、感想などを顧客ごとに測るのは容易ではない。これを実現していくために、MUJI passportを軸に生成されていく行動データをすべて蓄積し、後付というかたちながらも分析基盤の構築を進めていった。