特別企画

インフォマティカ、サーバーレスデータ統合などDXを加速する「データ4.0」の機能を強化

 エンタープライズデータのマネジメントソリューションを展開しているインフォマティカは、年に4回(季節ごとに)に機能のメジャーアップデートを行っている。

 今回、CPO(Chief Product Officer)に就任したジテシ・ガイ氏にオンラインでインタビューする機会を得たため、2020年秋のアップデート内容を中心に、エンタープライズデータの管理・統合・利活用などについてお話を伺った。

Informatica CPO ジテシ・ガイ氏

 2020年を象徴するのは、やはり新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による、社会の変化である。インタビュー冒頭は、やはりCOVID-19に関連した話題から始まった。

 「COVID-19の影響で、2020年は多くの企業でクラウドのテクノロジーを活用する動きが加速しています。お客さまはクラウドによる回復力や柔軟性を必要としており、AWS、Azure、GCPといったクラウドにおいて、分析、データガバナンスやプライバシー、ビジネスの360度表示などにスピード感を持って取り組んでいます。また、クラウド化が進むことで、データはクラウド間で移行されるようになり、ワークロードの移行も進んでいます」(ガイ氏)。

 世界的なパンデミックによって社会全体が強制的に改革を受け入れざるを得ず、さまざまな物事が変化した。そんな中で、ITが社会を支えるために不可欠なインフラとなっていることが、あらためて浮き彫りになった年であるともいえるだろう。変化が著しいビジネス環境を乗り切るため、エンタープライズデータの利活用を中心としたDXへの取り組みは確実に加速している。長年に渡って企業のデータ管理を支えてきたインフォマティカは、この変革の時代において、非常に大きな役割を持ったベンダーのひとつとなっている。

DXを加速させる「データ4.0」とは

 「これまでインフォマティカは、お客さまのデータに関するジャーニー(道のり)を支援するためさまざまな取り組みを世代ごとに続けてきました。『データ1.0』は個別の業務アプリケーション内でデータを処理する世代、『データ2.0』はいろいろなソースからデータを取得してエンタープライズのレポートにしたり、データウェアハウスに対応する世代、『データ3.0』はビッグデータをHadoopやSparkを利用して活用するデータのトランスフォーメーションを推進する世代でした。そして、現在私たちが立っている『データ4.0』は、AIを活用したデータマネジメントを行う世代であり、DXの中核に位置するものだと考えています」(ガイ氏)。

 インフォマティカがデータ4.0を推進する背景には、IoTの普及などによって爆発的に増加しているデータや多様化するデータタイプに対応するデータマネジメントが不可欠だと考えているためだという。

 「増大し続けているデータボリューム、データタイプの多様化に対応するには、AIを活用して自動的にデータを処理し、信頼できるデータを提供できるインテリジェントなデータマネジメントが必要です。それがデータ4.0世代です。また、クラウド化が進んでいる現状では、データマネジメントはクラウドネイティブで、インテリジェントな自動化によって信頼できるデータをエンタープライズ全体の規模感を持って運用できるものでなければなりません。インフォマティカのインテリジェントなデータプラットフォームは、IoT、製造、医療といった分野で多岐に渡って利用されています」(ガイ氏)。

データマネジメントのジャーニー

AI/MLのエンジン「CLAIRE」を搭載した統合データプラットフォーム「IDP」

 インフォマティカの推進するデータ4.0を実現する基盤となっているのは、統合データプラットフォーム「Intelligent Data Platform(IDP)」だ。IDPはマイクロサービスで構成されたクラウドネイティブなプラットフォームであり、API駆動のアーキテクチャを採用している。マルチクラウド/ハイブリッドクラウドに対応しており、スケールすることも可能だ。そして、IDPに配置されているAI/MLエンジンの「CLAIRE」によって、メタデータに対してAI/MLを適用し、自動化されたデータマネジメントを実現する。

統合データプラットフォーム「Intelligent Data Platform(IDP)」とAI/MLエンジンの「CLAIRE」

 「IDPは、クラウドのデータウェアハウスやデータレイクで活用する分析機能、データガバナンスやプライバシー、ビジネスの360度表示という3つの側面から、お客さまのDXをサポートしています。データはあらゆるアプリケーション、データベース、プラットフォームに存在しています。それらすべてのデータに接続し、一カ所で管理できるデータマネジメントのプラットフォームには、独立性や中立性が肝要です。また、インフォマティカは、あらゆるアプリケーションに対応できるメタデータ型のコネクタを1万以上持っています」(ガイ氏)。

 ちなみに「ビジネスの360度表示」とは、顧客、パートナー、サプライヤー、従業員などビジネスにかかわるあらゆる要素の可視化である。また、「データガバナンスやプライバシー」では、適切なユーザーによるデータ活用、データに関する法令順守といった、データの信頼性/透明性を担保する。これらを実現するには、特定のアプリケーションやプラットフォームに依存することなく、あらゆるデータソースからデータを集めて処理する必要がある。

 システムインテグレータとのパートナーシップも重要だ。インフォマティカはアクセンチュアなどグローバルなシステムインテグレータとのパートナーシップはもちろん、地域ごとのパートナーとの関係も重視している。日本でもNTTコミュニケーションズをはじめとするインテグレータと協業し、データ駆動型のDXとイノベーションを推進しているという。

 「メタデータに対するインテリジェンス、データファブリックの実現、AIを活用したデータマーケットプレイス、ビジネスの360度表示、データの統合プラットフォーム(iPaaS)など、私たちはクラウドネイティブでサーバーレスな新しいエンタープライズクラウドデータマネジメントを提供しています。また、これらの取り組みは、お客さまのクラウド化が加速していることを念頭に置いています。COVID-19の影響で、多くのお客さまがオンプレミスでの対応が難しくなっていると感じています。そのため、as a Serviceとして提供することで、しっかりとデータガバナンスやプライバシーを保ちつつ、回復力、俊敏性、対応力を高めることができるようになります」(ガイ氏)。

分析機能、データガバナンスやプライバシー、ビジネスの360度表示という3つの側面でDXをサポート

マルチクラウド環境でサーバーレスデータ統合

 2020年秋のアップデートの中でも、特に大きな投資であり目玉となっているのは、マルチクラウド環境でのサーバーレスデータ統合の機能強化だ。

 「この機能を使うと、データを電気や水道のように使うことができるようになります。リクエストを投げるだけで、自動的にデータを処理してパイプラインを作成し、お客さまが利用可能な形で提供することができます。サーバーは一切不要で、ワークロードの数に応じて自動的にオートスケールし、設定する必要もありません。これがサーバーレスデータ統合の機能です」(ガイ氏)。

 今回のアップデートでは、AIを活用したオートスケール機能の強化、プッシュダウンの最適化、Sparkによるデータ処理、Azure/AWS/Snowflake/Google向けマルチクラウド機能の強化が含まれている。

 「マルチクラウドに対応したデータ統合を通じて、お客さまはアプリケーション、データベース、インフラを刷新することができます」(ガイ氏)。

マルチクラウド環境でのサーバーレスデータ統合

メタデータ主導のインテリジェントなデータファブリック

 インテリジェントなデータファブリックは、メタデータをアクティブに管理し、AIを活用したデータカタログ作成、データリネージ(データの依存関係追跡)の自動化などを実現する機能だ。米Informaticaは先ごろCompact Solutions社を買収しており、今回のアップデートで、メタデータの接続性とデータリネージ機能をさらに強化している。なお、今回発表された新機能には、データの価値を評価・最適化するデータ資産アナリティクス、高度なカスタムメタデータローダーツール、Azure Data Lake Storage Gen2のクラウドスキャナーの機能強化、Azure Clearlake HDInsightのクラウド実装オプションが含まれている。

 「インフォマティカのインテリジェントデータファブリックでは、メタデータを抽出し、クラウドに適した形に処理しすることで、インテリジェントに活用する機能です。今回のアップデートは、Compact Solutions社を買収したことで、データスキャン機能を強化しています。メインフレームやIoTなどあらゆるデータをスキャンすることが可能で、手組のデータファブリック、PySpark、Teradataなど多様なデータソースからデータリネージを作成します。データがどのように変換されているのか、データがどのように動いているのかを、お客さま側でディスカバリーし、必要なアセットを選択してクラウドに移行することができるようになります」(ガイ氏)。

インテリジェントなデータファブリック

AIを活用したインテリジェントなデータマーケットプレイス

 今回の発表により、インテリジェントなデータマーケットプレイスを利用した、迅速かつセキュアなエンタープライズデータへのアクセスが可能になりました。また、今回のアップデートには、データ活用の評価や高度なデータ資産の要求フレームワークなど、データマーケットプレイスのコラボレーションやクラウドソーシングの強化が含まれています。さらに、構造化データと非構造化データソースにわたる、エンタープライズ規模のデータプライバシー管理も可能になりました。信頼性が高く、保護されたデータにセルフサービス方式でアクセスできるので、全社レベルでデータの民主化が実現可能になりました。

 「インテリジェントなデータパイプラインは、すべてサーバーレスなインフラ上に構築されています。信頼できるデータを品質やプライバシーを確保しながら処理し、データセットをデリバリーする仕組みです。そして、AIを活用したデータマーケットプレイスを実現し、データを民主化します。これは対象がデータというだけで、Amazon.comのようなものだと思ってください。データアナリストなどの専門家でなくても、必要なデータを必要な時に、カートに入れて会計するだけで購入できるようになります。エンタープライズのビジネスユーザーに向けてさまざまなデータや機能を公開しておけば、分析やデータサイエンスにおいてそのデータや機能を必要とするユーザーが購入できるのです。すでにグローバルな大手製薬会社でもこの機能を利用しており、創薬期間を短縮したり、より深い分析を可能にしています」(ガイ氏)

インテリジェントなマーケットプレイス

あらゆるユーザーに必要なビジネスデータを360度表示

 インテリジェントな自動化とドメインに特化した360度表示ソリューション(顧客、製品、サプライヤー、財務)を組み合わせることで、インフォマティカは企業全体にわたる可視性の向上と、コンテキストの理解を支援している。このビジネスデータの360度表示を活用することで、企業は、顧客維持の強化、eコマースの促進、サプライチェーンのレジリエンスの確保、財務管理の向上が可能になるという。

 また今回のアップデートには、セルフサービスのカスタマーポータル、顧客行動とパターンの豊富なビューによる顧客のセグメンテーションとパーソナライゼーションの精度・粒度の改善、製品データエクスペリエンスの刷新、多次元階層の参考データおよび財務データの機能拡張が含まれている。

 「インフォマティカのデータマネジメント機能は、市場をリードするMDM(Master Data Management)の上に作られているため、さまざまなソースのデータを組み合わせ、あらゆる側面からデータを表示できます。今回は新たにセルフサービスのカスタマーポータルも提供を開始しました。非常にリッチで深い振る舞いパターンやデータを、360度表示に基づいて提供することが可能で、例えば財務のデータやリファレンスのデータなど多面的な階層のデータを表示することができます。日本のお客さまであるセイコーエプソンは、この360度表示機能を利用し、デジタルコマースの情報を管理しています。製品のさまざまな情報をeコマースサイトに載せるにあたり、製品の機能だけなく、お客さまの情報や時計やプリンタの色といった細かいデータまで活用しています」(ガイ氏)。

ビジネスデータの360度表示

モダナイゼーションを実現するエンタープライズiPaaS

 次世代のエンタープライズiPaaSである「Informatica Intelligent Cloud Services(IICS)」は、AIを活用したクラウドネイティブなデータマネジメントプラットフォームだ。データの信頼性、ガバナンスやプライバシー、セキュリティなどを確保したエンタープライズレベルのデータマネジメント機能を提供することで、アプリケーションのモダナイズを支援し、マルチクラウド環境でデータ駆動によるDXを推進する。

 今回のアップデートには、高度なサーバーレスのデータ統合、マスインジェスチョンとデータ品質に対応するランタイム継続性のサポート、業務に関するインサイトと自動改善機能の強化、データ表現能力が向上したREST API、AWS/Azure/GCP/Snowflake上の新サービスによるマルチクラウドサポートの拡大が含まれている。

 「データ分析、データガバナンスやプライバシー、データの民主化、ビジネスの360度表示はもちろんですが、アプリケーションのモダナイゼーションも重要です。アプリケーションがオンプレミスからクラウドやSaaSに移行する際、プロセスの統合やデータの同期が必要になります。インフォマティカは、AWS、Azure、GCP、Snowflakeの上でもこれらの機能を提供し、品質の確保をしながらのデータ一括投入など信頼できるデータをお客さまに提供することで、アプリケーションのモダナイゼーションを支援しています」(ガイ氏)。

次世代iPaaS「Informatica Intelligent Cloud Services(IICS)」

AIによるデータマネジメントの自動化がカギ

 IoTの普及などによって、社会全体が膨大なデータを生成するようになっている。こうした増大するデータボリュームと、多様化するデータタイプに柔軟に対応してデータを活用するには、AIによるデータマネジメントの自動化が必須だとガイ氏は説明する。

 「データボリュームやデータタイプが増大している現在のデータマネジメントは、AIの活用による自動化がカギになります。だからこそ、インフォマティカがデータ4.0という取り組みを先駆けて行っています。データを自動的に処理してパイプライン展開し、信頼できるデータを展開することが重要だと考えているからです。CLAIREはデータの統合、品質管理、マスタデータマネジメントなどの処理を自動化し、データマネジメントをよりシンプルなものにします。これまでは専門家にしかできなかったデータマネジメントを、より多くの立場の人が実行できるようになります」(ガイ氏)。

 もちろん、オンプレミス、クラウド、エッジなどさまざまな場所に存在する、多様なデータを一元的に管理するデータマネジメントは容易ではなく、自動化されたインテリジェントなデータファブリックが重要になる。

 「インテリジェントなデータファブリックでは、メタデータをインテリジェントに管理し、データカタログ作成し、データリネージを自動化します。例えば工場にはどういったデータがあるのか、本社のERPで管理されている財務のデータはどういったものか、マーケティング部門ではどのような顧客データを管理しているのかなどすべてのデータを把握することで、どのデータをクラウドに移行して分析するのか、AIで処理したいデータは何かを考えることができるようになります。また、データカタログを確認することで、不要なデータを把握することも可能になるため、合理的にアプリケーションの統合や廃止を検討することもできるようになります」(ガイ氏)。

データ駆動型の意思決定が重視されるようになってきている

 COVID-19の影響でクラウド化が加速したことで、2020年のインフォマティカのビジネスは大きく成長している。特に日本をはじめとするアジア太平洋地域については、3けたの成長が実現できているという。

 「もちろんクラウドだけではありません。お客さまはデータ駆動型の意思決定や分析を重視するようになっています。特に医療、公共、政府機関とは密に連携を取りながら、当社の機能を活用いただくケースが増えています。例えば米国の大きな州政府でも、COVID-19の感染者や接触者を追跡するのに当社のデータマネジメントの機能を活用しています」(ガイ氏)。

 また、データの重要性が認識されたことで、アプリケーションのモダナイゼーションなどの重要性も高まっているとのこと。

 「データ駆動型の意思決定やアプリケーションのモダナイゼーションといったトピックは、取締役会などでも議論されるようになっています。それに伴い、CDOなどの役職に就いている人たちの果たす役割も大きなものとなっています」(ガイ氏)。

 インフォマティカでは、毎年2億ドルを超えるR&Dへの投資を行っている。2020年秋にはデータ統合を民主化するサーバーレスデータ統合、データセットを民主化するマーケットプレイスといったさまざまな機能を強化している。このR&Dへの積極的な投資は、今後も継続していくとした。また、ガイ氏はパートナーシップの拡大や、コミュニティへの積極的な投資についても触れている。

 「2020年秋の新しいイノベーションには、パートナーシップの拡大もあります。現在、データレイクの管理機能についてAWSと一緒に取り組んでおり、この内容についてはAWSの年次イベントである『re:Invent』でも発表しています。Snowflakeとも包括的なデータガバナンスを提供するための取り組みや、マーケットプレイスの機能をSnowflakeでも使えるような取り組みを行っています。また、グローバルなコミュニティへも継続的に投資を続けており、企業のCDO(Chief Data Officer)を対象に、どのようなトレンドがあり、優先課題は何かといった調査も行っています。長年に渡って継続的なイノベーションを行ってきたことで、ガートナーからはデータマネジメントに関するさまざまな領域において、リーダーであると認定されています。例えばメタデータマネジメントの領域では5年連続、エンタープライズデータインテグレーションプラットフォームの領域では7年連続でリーダーとして評価をいただいています」(ガイ氏)。

 主要なクラウドベンダーや、多くのシステムインテグレータとパートナーシップを提携し、データマネジメント領域において高く評価されているインフォマティカは、今後もエンタープライズデータマネジメントを牽引するベンダーとして、継続的なイノベーションに取り組んでいくことをアピールしている。