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シスコ、顧客企業のDX推進に向けた新たなパートナープログラムを発表 「事業成長」と「新たな価値創造」の両輪で展開

 シスコシステムズ合同会社(以下、シスコ)は1月26日、メディア向けにパートナー事業戦略についての説明会をオンラインで開催した。

 本稿では、その内容を詳細にレポートする。

パートナー事業における両輪、「Perform」と「Transform」

 マーケットの変化に伴い、テクノロジーも変化している。シスコは自社の持つさまざまなテクノロジーによって、パートナーとともに顧客企業の成功に貢献してきた。専務執行役員 パートナー事業統括 大中裕士氏は、「パートナー事業の戦略の柱は、『Perform』と『Transform』という両輪で事業を走らせていることにある。Performは「事業成長」を意味しており、セグメントごとにシスコが持つポートフォリオを、パートナーと戦略を持って事業を推進していく。もう一方のTransformでは「新たな価値創造」を意味し、中長期的な変革を通じて新たな成長軸を作り出すことにある」と述べた。

 このうちPerform(事業成長)では、顧客を規模に応じて「Service Provider(サービスプロバイダー/通信事業者)」「Enterprise/Public Sector(大規模)」「MM(Mid Market)/SMB(中小規模)」というセグメントに分け、それぞれのセグメントで異なる事業戦略をとる。

 一方、Transform(新たな価値創造)の取り組みには、「New Buying Center」「DevNet」「Customer Success」という3つの領域があるという。New Buying Centerは新たな市場の開拓を意味しており、「ヤフードームや西武ドームのようなデジタルスタジアム」「トラベルやツーリズムのデジタル化」などを例に挙げている。Customer Successは、シスコの製品やソリューションを導入した顧客に新しい成功体験を、パートナーと共に提供していく取り組み。DevNetは、シスコ製品のAPIを公開してプログラマビリティを実現していく取り組みであり、新しいオートメーション、パートナーや顧客アプリケーションとのリンケージによる新たな価値の創出を実現していくという。

シスコ 専務執行役員 パートナー事業統括 大中裕士氏
パートナー事業戦略の柱は、『Perform』と『Transform』

 またPerformでは、前述のように、顧客を規模に応じて3つのセグメントに分け、それぞれのセグメントで異なる事業戦略をとる。

 もともとシスコが得意としてきたService Providerのセグメントでは、現在5Gの需要があり、ネットワークのバックボーン高速化を急速に進めている。こうした需要に対し、設備についてきちんと専門性を持ったパートナーとともに顧客を支援する。

 Enterprise/Public Sectorのセグメントでは、事業所内のLANや無線LAN、事業所間をつなぐWAN、データセンター/マルチクラウドをセキュアにコントロールし、顧客のDX推進を支援するネットワークビジネスを推進していく。

 MM/SMBセグメントでは、シンプルで高度なテクノロジーを組み込み式で構築できるポートフォリオをCisco Designedとして定義し、全国にある2000社あまりの販売パートナーを通じて顧客に提供していく仕組みを作っている。

 こうしたセグメントごとの戦略をとっていく中で、テクノロジーにも大きな変革が起きているとのことで、「導入したハードウェアをソフトウェアで高度化していくというアーキテクチャにシフトしている。Merakiなどが広く受け入れられているが、1つのダッシュボードの中でシステムの状態を可視化し、定義の変更ができるようになってきている。このようなテクノロジーは、ここ5年ほどで実装が進み、顧客のDX推進の大きなファクターとなっている」(大中氏)という。

 そして、この理由としては、「これまでのインフラマーケットの常識では、インフラを変更する際には、再設計やシステムテストを実施し、プロフェッショナルなエンジニアが定義変更するといった作業が必要だった。しかし、これをダッシュボードだけで変更できるアーキテクチャに切り替えていくことで、顧客がDXにチャレンジする際にインフラの変更頻度を上げていくことができるようになる」と説明した。

 また、こうしたアーキテクチャシフトによって、マネージドサービス型のソリューションを展開するパートナーも増えている。「こうしたシンプルなサービスを組み合わせてマネージドサービスを提供していくのは比較的簡単にエントリーできるマーケットだが、こうしたサービスがMM/SMBだけでなくEnterprise/Public Sectorのセグメントにも伸び始めている時代に入った」(大中氏)。

 そのためシスコは、顧客規模によるセグメントのほかに、新たに「Managed Serviceプロバイダー」を注力領域をセグメントの1つに加え、4つのセグメントでおのおの適切なパートナーとともに顧客に成功体験を提供していくという。

Performでは、4つの注力領域でセグメント戦略を展開する

 大中氏は「プログラマビリティによって、ビジネスとITを緊密化させることができるようになる。パートナーもこれまでのように製品をインテグレーションして終わりではなく、アーキテクチャシフトによって顧客環境を進化させ、DXを推進するような新しい付加価値を創出することができる。そのためには、ネットワークエンジニアにもプログラマビリティのスキルが必要になる」と述べた。

シスコのマルチドメインプラットフォーム戦略

 こうしたDXを支援するソリューション変革について、パートナー事業 アーキテクチャー推進本部 本部長 菊池政広氏が「マルチドメインプラットフォーム」「Customer Experience(CX)」「DevNet」という3つのテーマで詳細を解説した。

シスコ パートナー事業 アーキテクチャー推進本部 本部長 菊池政広氏
DXを支援するソリューション変革

 マルチドメインプラットフォーム戦略について菊池氏は、「シスコはこれまで、パートナーと共に、ドメインごとにさまざまな製品やソリューションを展開してきた。ここで言うドメインとは、『キャンパスネットワークをつなぐLAN』『ブランチをつなぐWAN』『データセンター』などを指しており、それぞれのドメインでユースケースが異なるため、個別に開発してきた。ところが、DX推進によってインフラの変更や更新にスピードが求められるようになったことで、既存の方法では対応できなくなってきている」と述べる。

 また、現状のネットワークインフラの課題について菊池氏は、「インフラ全体が個別のドメインで構成されているため、コントロールポイントが複数あり、DX推進のための変更や更新に時間がかかってしまう。更新や変更作業の90%はマニュアルであり、アクセスリストは5年も運用すれば、事実上管理は無理な状態になる。また、クラウド利用やSASE(Secure Access Service Edge)など包括的なセキュリティニーズに対応できないといったことも課題となっている」と説明した。

 この課題を解決すべく、シスコではマルチドメインプラットフォーム戦略を提唱し、さまざまなドメインの製品やソリューションを融合させようとしている。

「マルチドメインの目的は、運用保守の自動化やAIを活用した高度な分析を、ドメインをまたいで一括で実現することにある。これによって、ネットワークが自律的に監視・運用され、それぞれのドメインのアプリケーションやビジネスの特性に沿ってネットワークを展開していくことができるようになる。シスコでは『インテント(意図)ベースのアプローチ』と呼んでいるが、これはSDNの手法と同じ」(菊池氏)

マルチドメインプラットフォーム戦略
従来のネットワークの課題を解決するには、ドメインごとに独立した世界からの脱却が必要
インテントベース(意図)のアプローチ

 また、インテントベースのネットワークは、ネットワーク管理における問題の特定にも大きな影響を与える。これまではダッシュボードで状態の可視化を可能にしても、それらの譲歩を基に問題を特定するのは"人"であったため、問題の解決には時間がかかっていた。

 一方、インテントベースのネットワークでは、すべての情報はメタデータとして収集され、"AI"が常にネットワークの状態を監視している。AIは自動的に状態をスコアリングし、対策をリコメンドしてくれるという。

インテントベース・ネットワークとAIは、運用管理にも大きな影響を与える

 これまでシスコはドメインごとにさまざまな製品やソリューションを展開しており、それぞれに専門性がある。しかし、マルチドメインプラットフォーム戦略では、これらをAPIでコントロール可能にすることで抽象化し、ドメインをまたいで一貫した設計や維持管理を可能にする。

 「APIによって製品をコントロールし、インテントベースの一環した管理をマルチドメインで実現するため、開発グループを『Intent-based Networking Group』として1つに統合している。5G領域においてもシスコのスタンスは変わらない。例えば、今後ローカル5Gネットワークを構築した際、既存のキャンパスネットワークと同じポリシーを適用するといったことが簡単にできるよう、現在設計・開発が進められている」(菊池氏)。

マルチドメインプラットフォームはドメインをまたいで一貫した設計や維持管理が可能
マルチドメインプラットフォームは、5Gの領域でも適用される

 Customer Experience(CX)について菊池氏は、「そもそもDXとは、エンドユーザーの体験を向上させ、新しい価値を提供するもの。それをどう使っていくかが重要であり、今後の差別化要因は、商品やサービスの価格や内容よりも、CXがマーケットでの勝敗を分けるとシスコは考えている。そのため、パートナーがより良いCXを顧客に提供できるよう、顧客、パートナー、シスコが同じ情報を共有し、素早く対応できる仕組み『CX Cloud』の準備を進めている」と説明。

 このプラットフォームについて「顧客企業で利用されている資産の状況を正確に把握し、すでに導入されている製品の有効活用を促進するほか、AIを活用して運用リスクを低減する」とした。

これからはDXとCXが両輪が必須になっていく
顧客、パートナー、シスコが同じ情報を共有し、素早く対応できる「CX Cloud」と「PX Cloud」

シスコのノウハウを結集したCX Cloud

 なお、菊池氏は「CX Cloudには、シスコのノウハウが結集している」と述べ、CX Cloudを、デモを交えて紹介している。

 例えば製品を購入した顧客のもとに製品が届き、これからパートナーが顧客の要件に沿って展開していく「オンボーディング」という状況で参照する画面では、これからパートナー何をしていけばいいのかについて、製品ドキュメントやコミュニティの情報を参照、する、シスコのエキスパートによるワークショップに参加する、必要なチェックリストを確認するといったことが可能になる。

オンボーディングの画面では、これから顧客要件に沿って展開していく製品の情報を参照できる

 そのほかにも、「アセット&カバレッジ」では、いま顧客が持っているデバイスは何台あり、それぞれの契約状況はどのようになっているかを一目で確認することができ、「アドバイザリ」では、導入しているシスコの全製品のうち、脆弱性がどこにあるか、それらの脆弱性の影響度がどの程度なのかがわかるようになっている。これはいままでシスコのPSIRT(Product Security Incident Response Team)からの情報としてメールなどで通知されていた内容だが、これをAPI連携によって自動的に表示させることができる。「ケース」では、トラブルが発生してシスコのテクニカルサポートにケースをオープンした際、それぞれのケースがどのような状態にあるのかを一覧で確認できる。

「アセット&カバレッジ」では、デバイスの一覧と契約状況を確認できる
「アドバイザリ」では、いまある脆弱性とその影響度を確認できる
「ケース」では、それぞれのケース(障害)がどのような状態にあるのかを一覧で確認できる

 そして、もっとも特徴的なのは、常に収集している情報をAIが分析した結果を表示する「インサイト」の画面だ。利用されているソフトウェア群を一覧で表示し、それぞれの状態を表示できるほか、クラッシュリスクを表示することもできる。このクラッシュリスクは、シスコのテクニカルサポートに上がってくるケースの情報をもとに、それぞれのソフトウェアのクラッシュリスクがどれくらいあり、パートナーとしてどのように対応したらいいのかをAIが自動的にリコメンドするという。

「インサイト」では、導入されているソフトウェアのクラッシュリスクが表示可能。
それぞれのリスクに対してどのような対応をとれるか、AIリコメンドを確認できる

 なお、CX Cloudは、顧客が参照するダッシュボードだが、パートナーが顧客の情報を参照するための参照するダッシュボードとしてPX Cloudも提供されている。こちらは、複数の顧客の情報を参照できるようになっているという。さらに、今後パートナー向けには、「PXP (Partner eXperience Platform)」を提供していく予定となっており、このプラットフォームには、PX Cloudが1つのコンポーネントとして統合されるという。

今後、パートナー向けにPXP (Partner eXperience Platform) が提供される予定であるという

 DevNetは、プログラマビリティを実現するフレームワークだ。シスコ製品のAPIを公開し、顧客アプリやパートナーソリューションとシスコ製品を連携させ、新たな価値を創造することを目的としている。「パートナーの直近の課題は、顧客のDXをアクセラレーションすることであり、そのためにはDevOpsを実行していかなければならない。DevOpsをサポートするには開発エンジニアが必須だが、これまでネットワークレイヤーのエンジニアは開発から遠いところにいたため、今後はネットワークもやりながら、開発できるエンジニアを育てていく必要がある。これをサポートするのがDevNet」と菊池氏は説明する。

 具体的なDevNetの施策としては、「学習・スキル」「技術と創造力」「成果の共有」「価値あるビジネス」という領域ごとに、eラーニング、テスト用のサンドボックス提供、アイデアハッカソン、イノベーションチャレンジやアワード、サンプルコードの公開、活用事例の共有、DevNetが得意なパートナーをスペシャライゼーションとして公開するなどが挙げられている。

DevNet

20年来変更していなかったパートナープログラムをグローバルで刷新

 シスコでは、こうした取り組みを通じ、パートナー各社はユニークな付加価値を創造し、顧客のデジタル化の成功に貢献してほしいと考えているという。こうしたビジネスモデルの変革をうけ、シスコは20年来変更していなかったパートナープログラムをグローバルで刷新し、「INTEGRATOR」「PROVIDER」「DEVELOPER」「ADVISOR」という4つのカテゴリーで、「Gold」「Premier」「Select」というランク付けをして認定していく。

 既存のパートナーはINTEGRATORとして認定されることとなるが、マネージドサービスを提供していくパートナーについてはPROVIDERとして認定されていくことになる。さらに、シスコ製品に特化したアライアンスパートナーや、シスコのポートフォリオを自社の製品やソリューションに組み込んで提供するようなデベロッパーについても、DEVELOPERとして今後は認定していくという。なお、最後のカテゴリーであるADVISORについては、コンサルティングファームなどを想定しているが、詳細については年内をめどに定義を決めて紹介していく予定であるという。もちろん、1社のパートナーが複数のカテゴリーの認定を受けることも可能となっている。

パートナープログラムをグローバルで刷新し、「INTEGRATOR」「PROVIDER」「DEVELOPER」「ADVISOR」という4つのカテゴリーとなる

 なお、日本国内では約2000社がシスコのパートナーとして認定されているが、これらのパートナーについても、年内をめどに随時移行していくことになるという。