特別企画

シスコは“未知の領域”を開拓できるか? 小規模向けビジネスを本格化

クラウド管理型無線LAN「Meraki Go」、小規模向けWeb会議サービスなどをラインアップ

 シスコシステムズ合同会社(以下、シスコ)は11日、個人事業主やスタートアップなど、従業員25名以下の事業者のデジタルトランスフォーメーション(DX)を促進する新規事業を発表した。「Meraki Go」「Cisco Webex」など、中小企業向けポートフォリオを刷新するほか、販売チャネルもeコマース中心で展開を開始する。

 本事業を統括するシスコ 執行役員 SMB・デジタル事業統括 兼 東京2020マーケティング担当 鎌田道子氏は「(新規事業では)シスコが大企業向けソリューションで培ってきたノウハウを凝縮し、10名以下のオフィスでもデジタライゼーションを実現できることにこだわっている。ITの知識がなくてもデジタルビジネスに必要な環境を簡単に立ち上げられることを実感してほしい」と語っており、小規模事業者へのリーチを本格化していく姿勢を見せている。

シスコ 執行役員 SMB・デジタル事業統括 兼 東京2020マーケティング担当 鎌田道子氏

小規模事業者向けに無線LANやWeb会議のソリューションを提供

 シスコが今回、小規模事業者向けに投入するポートフォリオは以下の通り。いずれも2019年5月から販売開始する予定だ。

Meraki Go

 シスコが提供するクラウド型ネットワーキングソリューション「Cisco Meraki」の小規模事業者向けモデルで、「Wi-FiなどITの知識がなくても、箱から出してスマホからQRコードを読み込むだけで、無線LANアクセスポイントを簡単かつセキュアに構築/設定できる」(鎌田氏)点が最大の特徴。

 屋内型アクセスポイント「Cisco Meraki Go GR-10」(2万円台から)と屋外型アクセスポイント「Cisco Meraki Go GR-60」(3万円台から)の2モデルが用意されている。ゲストWi-Fiの設定やネットワーク状況の確認などの管理は専用のモバイルアプリ「Cisco Meraki Go Mobile App」でスマートフォンから行うことが可能。販売チャネルは通販サイトのAmazon。

箱から出してすぐにWi-Fiを設定できるシンプルさが売りの「Meraki Go」は、屋内型(左)と屋外型の2モデルが用意されている。Amazonから購入可能
箱から出し、スマホからQRコードを読み込むだけでアクセスポイントを構築できる。利用状況などのネットワーク管理もスマホの専用アプリで行え、シンプルでわかりやすいダッシュボードが提供される
Cisco Webex新プラン

 既存のWeb会議ソリューション「Cisco Webex」シリーズに、小規模事業者向けラインナップとして「Cisco Webex Starter」(月額1700円)、「Cisco Webex Plus」(月額2250円)、「Cisco Webex Business」(月額3400円)が追加された。なお、3名までなら無料で会議システムが利用可能。シスコが運営する直販サイトでの提供となる。

Web会議サービス「Webex」にも小規模向けプランが登場。利用人数などで月額料金が異なる。なお、3名までなら無料で利用を継続することも可能に

中小規模ではなく、10名以下の“小規模”にフォーカス

 今回発表された新規事業の最大の特徴は、いわゆる一般的な“SMB(中小企業)”ではなく、従業員25名以下、さらには個人事業主も含む、1~10名程度の“小”規模事業者に徹底的にフォーカスしている点だ。

 シスコは2015年9月、SMB向けのソリューションとして「Cisco Start」を日本で立ち上げており、現在ではグローバルでも順調に成長中だ。しかし今回のターゲットは、Cisco Startのメインユーザよりもさらに規模の小さい、SIやパートナーを必要としない(あるいはその予算がない)ユーザーであり、例えばカフェの経営者や法律事務所、コンビニエンスストア、自宅とオフィスを兼ねている個人事業主などを想定している。

 「小さなカフェであってもお客さまにゲストWi-Fiを提供したい、あるいは小さな事務所だが機密情報を扱っているのでセキュアなゲストWi-Fi環境やWeb会議システムが欲しい、という声は多い。彼らはITのリテラシは高くないが、自分で環境を構築することを望んでいる」(鎌田氏)。

Meraki Goのイメージキャラクターには、タレントの渡辺直美さんを起用、カフェやオフィスで、誰でも簡単にアクセスポイントを設定できるイメージを伝えている

 製品自体が小規模事業者に特化しているだけでなく、Meraki GoやWebex新シリーズでは、販売チャネルにおいても「入手/登録のしやすさ」にこだわっている。Meraki Goは当面、Amazonからのみの提供となり、パートナー経由での提供は「ユーザーの要望があれば検討する」(鎌田氏)予定。Webexの新ラインアップも、最初は直販サイトからのみの提供となる。

 これは、エンタープライズ/SMBを問わず、パートナービジネスを販売体制の中心にしてきた従来のシスコの戦略からは一歩踏み出した、前例のないアプローチだ。

 シスコは2019年度から新たな販売組織として、鎌田氏を統括責任者とする「SMB・デジタル事業」を立ち上げている。Cisco Startは日本から始まった中小企業向けビジネスだが、「日本企業の99.7%を占める中小企業のデジタル化を促進するには、さらなる販売体制の強化が必要」(シスコ 代表執行役員社長 デイブ・ウエスト氏)という方針のもとに新組織をスタート、今回のMeraki Goなどの発表につながっている。

シスコ 代表執行役員社長 デイブ・ウエスト氏

 シスコのマーケティング本部長を長く務め、2020年の東京オリンピックのスポンサードを精力的に進めてきた鎌田氏が中小企業向けビジネスを新たに統括するのは、中小企業のデジタライゼーションを進めることで、大企業中心のブランドイメージから脱却し、2020年のオリンピックが終わってからも日本企業の競争力向上を支援していくというシスコの意向をあらわしている。

 「国内企業全体の体力を底上げするためにも、中小企業がITにリーチできる環境は絶対に必要。我々がエンタープライズで蓄積してきた多くのノウハウを中小企業向けにも役立てていただきたい。(Meraki Goなど)今回の発表はそのスタート」(鎌田氏)。

企業数では99.7%、従業員数では70%を占める日本の中小企業だが、ITを活用できていない企業の割合は80%にも上る。このレイヤのデジタライゼーションをデジタライゼーションを進めることが、鎌田氏率いるシスコ新事業部の重要なミッションとなる

 今回の発表のために来日した米Cisco Systems シニア・バイスプレジデント チーフオブオペレーションズで、Ciscoのデジタル事業を統括するアーヴィン・タン氏は「規模の大小にかかわらず、世界中の企業がデジタライゼーションの実現に必要なワークフォースやスキルセットに悩んでいる。特にSMBはエンタープライズほどの人員も資金も用意することは難しいが、ITはビジネスのキーイネーブラーであり、DXに欠かせない。シスコはシンプル、クラウドネイティブ、セキュアという3つのメッセージをコアにして、今回の新製品を皮切りに日本の平均的な人々に質の高いIT環境を提供していく」と、日本の中小企業への支援を強調する。

 Cisco Startは開始から3年で販売数を6倍に伸ばしたが、今後はそれよりもさらに広い、シスコにとっても未知となるターゲットにも焦点が当てられることになる。

米Cisco Systems シニア・バイスプレジデント チーフオブオペレーションズのアーヴィン・タン氏