特別企画

VMAXからPowerMaxへ――、フラグシップのリニューアルに見るDell Technologiesのトランスフォーメーション

Dell Technologies World 2018レポート

 2016年5月、米国ラスベガスで開催された、旧EMCとしては最後の主催カンファレンスとなった「EMC World 2016」のオープニングキーノートの壇上、当時のEMCのCEOを務めていたジョー・ツッチ(Joe Tucci)氏は、自身の後継者として、そしてVMwareやPivotalも含むEMCグループの新しいリーダーとして、マイケル・デル(Michael Dell)氏を紹介した

 もっとも、当時のデル氏はまだEMCが招待したゲストといった雰囲気が強く、エンタープライズのイメージが薄いDellの総帥が、エンタープライズを主戦場とするEMCとそのグループ企業をうまく率いていくことができるのか、その確信は得られなかったと記憶している。

Dell Technologiesの会長兼CEO、マイケル・デル氏

 2年後の現在、「EMC World」は「Dell Technologies World」とその名称を変え(昨年は「Dell EMC World」)、同じラスベガスにおいて4月30日~5月3日(米国時間)の4日間にわたって開催された。

 1万4000名を超える参加者を前に、初日(4/30)のオープニングキーノートに登壇したのは、もちろんデル氏である。エンタープライズ向けのインフラベンダーとしてDell Technologiesは、この2年でどんな変化を遂げたのか。

 本稿では現地での取材をもとに、買収完了から2年が経過したDell Technologiesグループの“トランスフォーメーション”を追ってみたい。

テクノロジーがイノベーションのコア

 「Dell Technologies World」としては初の開催となった今回のカンファレンスのテーマは、「Make It Real」――。

 ここ数年、IT業界のキーワードとなっている“デジタルトランスフォーメーション(DX)”を現実のものとすることを、抽象化した表現でもって提唱している。

「Dell Technologies World」としては初のカンファレンスとなった今回のテーマは「Make It Real」、DXの現実化を呼びかけている

 デル氏はキーノートで「テクノロジーこそが、いままで不可能だったことを可能にし、現実の事象へと変える。いまやすべての企業にとって、テクノロジー戦略とはビジネス戦略そのものだ」と、テクノロジーがイノベーションのコアであることを強調する。

 では、世界最大級のインフラベンダーであるDell Technologiesは、顧客の“Make It Real”を支援するために何を提供していくのか。

 デル氏は「トランスフォーメーションジャーニー」として、以下の4つのトランスフォーメーションを挙げている。

デジタルトランスフォーメーション

ITを競合に対する優位点とし、DevOpsによる内製化などを促進し、ソフトウェアを企業のDNAとして位置づける

ITトランスフォーメーション

マルチクラウドの適切な運用を実現し、オールフラッシュアレイやハイパーコンバージドインフラなど、データを格納するインフラをモダナイズする

ワークフォーストランスフォーメーション

働き方の効率化を促進し、どこからでもデータを扱えるようにする

セキュリティトランスフォーメーション

データの安全性を高めるために、ハイレベルのセキュリティをネイティブでインフラに組み込む

Dell Technologiesが提唱する「Make It Real」のための4つのトランスフォーメーションジャーニー

 これらの4つのトランスフォーメーションにおける主役はデータである。デル氏はデータのことを「燃料(fuel)」と表現したが、DXの成功は、データに対する適切なアプローチを取れるかどうかにかかっており、バズワード化しているAIやIoTといったトレンドも、そのコア技術がデータアナリティクスである以上、データがなくては意味をなさない。

 そしてDell Technologiesが果たすべき役割は、グループ企業――Dell、Dell EMC、Pivotal、RSA、SecureWorks、Virtustream、そしてVMwareの総力を結集し、データに対する適切なアプローチを可能にするソリューションをエンタープライズに対して提供していく、ということになる。

新たなフラグシップストレージ「PowerMax」

 顧客のトランスフォーメーションジャーニー、そしてデータへのアプローチを最適化するための支援として、Dell Technologiesは今回のカンファレンスにあわせ、ハードウェアを中心にいくつかのソリューションを新たに発表している。

 スケーラブルなオールフラッシュアレイ「XtreamIO X2」、VMware環境を含むマルチクラウド対応のハイパーコンバージドインフラ(HCI)アプライアンス「VxRail」など、データセンターのモダナイズにフォーカスした製品群のなか、もっとも注目された存在が、NVMeサポートのオールフラッシュアレイ「PowerMax」だ。

オールフラッシュアレイ「PowerMax」

 旧EMCのフラグシップストレージ「VMAX」をリニューアルしたストレージで、2ブリックの「PowerMax 2000」と8ブリックの「PowerMax 8000」が用意されている。

Dell Technologiesの新たなフラグシップとなるオールフラッシュストレージアレイの「PowerMax 8000」。エンドツーエンドでNVMeをサポートし「世界最速のパフォーマンス」(Dell EMC)を誇る。急速にニーズが高まるAI分野での導入拡大を狙う

 もともと旧EMCでのオールフラッシュアレイの市場投入は、競合に比較して早かったほうではなく、どちらかといえば最後発に近い。だが、旧EMCが“満を持して”投入したVMAXは、パフォーマンスやスループットの高さから、ハイエンドストレージ市場で大きな支持を獲得するに至っている。

 そのVMAXの後継であり、エンタープライズ向けのオールフラッシュストレージとして登場したPowerMaxについて、Dell EMCで戦略およびプランニング部門のシニアバイスプレジデントを務めるマット・ベイカー(Matt Baker)氏は、「業界No.1の性能と信頼性を備えた、最新鋭のオールフラッシュアレイ」と表現する。

Dell EMC 戦略およびプランニング部門のシニアバイスプレジデント、マット・ベイカー(Matt Baker)氏

 1000万IOPSというパフォーマンスに加え、デュアルポートNVMeのサポート、SCM(Storage Cluster Memory)レディ、NVMe over Fabric、1日あたり60億の判定を可能にするマシンラーニングエンジンのビルトイン、マルチプルアレイコントロールなど、まさしく最新技術をあますところなく詰め込んだ印象だ。

 特にデータの柔軟性と冗長性を担保し、永続的ストレージとしての利用を可能にするデュアルポートNVMeの実装は、SASに代わってNVMeがモダンデータセンターの主役になり始めたことを象徴している。

 VMAXはSAP HANAやHadoopなど、ミッションクリティカルなアプリケーションワークロードに適していたが、PowerMaxもその路線を引き継ぎ、Dell Technologiesのフラグシップモデルとして、エンタープライズのトランスフォーメーションジャーニーに貢献していくことをうたっている。

顧客のトランスフォーメーションを導くことにフォーカスしたラインアップへ

 VMAXからPowerMaxへと名称が変化したのは、もちろん、旧Dellのサーバー製品「PowerEdge」と統一感を出すためである。

 この2年をかけて、旧Dellと旧EMCはポートフォリオの大幅な統廃合を行ってきたが、Dell EMCが扱うエンタープライズ領域に関しては旧EMCの製品が多く残っている。

 しかし、いくつかのブランドは開発中止となってしまったものもあり、そのひとつにラックスケール型のオールフラッシュアレイというユニークな存在だった「DSSD D5」がある。

 DSSD D5はなぜ、Dell Technologiesのポートフォリオから消え去ってしまったのか。カンファレンス期間中にインタビューしたDELL EMC APJ データセンターソリューション部門 バイスプレジデント ポール・ハナガン(Paul Henagan)氏は、筆者の質問に対し、「日本の顧客にDSSD D5が人気があったのは知っている。特に金融でのニーズが大きかった。個人的にもDSSD D5は良い製品だったと思っている。だが、アーキテクチャがユニークすぎる製品は、現在のDell Technologiesが描くモダンデータセンターのあり方に適さない部分が出てくる。われわれにとっての“選択と集中”を考えた結果だった」と答えている。

DELL EMC APJ データセンターソリューション部門 バイスプレジデント ポール・ハナガン氏

 DSSD D5では、高速なアナリティクスを要求される分野、例えばDNAシーケンスの解析やマネーロンダリング対策などでのニーズが高かったが、そうした分野で要求される機能は今後、PowerMaxやIsilonで実装していくという。

 モダンなデータセンターにポートフォリオを“寄せて”いく戦略を取るDell Technologiesだが、では何をもって“モダン”と定義すべきなのか。

 「モダンデータセンターに必要な条件はいくつもある。だがもし、その最初の一歩として何に手を付けるべきなのかを悩んでいるのなら、まずは自動化を中心に考えることを推奨する」とハナガン氏は言う。

 データセンターのモダナイズは、Dell Technologiesが提唱する4つのトランスフォーメーションジャーニーの“ITトランスフォーメーション”を実現するために欠かせないが、そのスタートは自動化にある。自動化により、人間の作業の多くをマシンに肩代わりさせることで、劇的な時間短縮とコスト削減効果が生まれる。その時間とコストをもってしてビジネスにフォーカスすることがDXにつながっていく。

 「データセンターのモダナイズとは単に最先端の技術を実装するのではなく、デジタルトランスフォーメーションを促進するIT環境を整えることだ。したがってわれわれのポートフォリオは顧客のトランスフォーメーションを導くことにフォーカスしたラインアップとなる」(ハナガン氏)。

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 この2年でDell Technologiesは組織的にも大きく変わった。Dell EMCに限ってみても、これまで旧EMCを率いてきたデイビッド・ゴールデン氏が2017年に退社し、代わりに現在ではデル氏に次ぐ立場として、バイスチェアマンのジェフ・クラーク(Jeff Clarke)氏が、プロダクトおよびオペレーション部門の指揮を執っている。PowerMaxなど戦略的に重要な製品の開発方針やブランド統廃合に関しては、クラーク氏の意向が強く働いているのは間違いない。

デル氏の右腕的存在として知られるジェフ・クラーク氏。ストレージを含むDell Technologiesの製品戦略のリーダーとして指揮を執る

 また、カンファレンスの直前には、旧EMCの名物CMOだったジェレミー・バートン(Jeremy Burton)氏がDell Technologiesを離れ、これも代わりにデル氏の側近であるアリソン・デュー(Alison Dew)氏が新たなCMOとして着任している。

Dell EMCの対外的な窓口として有名だったジェレミー・バートン氏に代わってCMOに就任したアリソン・デュー氏。今回がCMOとして登壇する初の公式の場となる。デュー氏をはじめ、旧Dell出身者には女性エグゼクティブが多く、そうした意味でもEMC Worldから雰囲気は大きく変わった

 こうした動きを見ても、旧EMCが確実にDell Technologiesのアンブレラのもとに統合されてきたといえるだろう。フラグシップモデルのVMAXがPowerMaxへと名前が変わったことは、まさにこの2年の間に起こったマージを象徴している。

 オープニングキーノートに登壇したデル氏は、2年前のような“ゲスト”の面影はなく、グループの総帥として「ハンドヘルドPC、サーバー、ストレージ、そしてバーチャライゼーションまでを含めたNo.1カンパニーとしてトランスフォーメーションジャーニーを推進していく」と強い自信を見せていた。

Dell Technologiesグループの全企業のパワーを結集して、顧客のトランスフォーメーションジャーニーを支援する

 マージを完了させ、インフラベンダーとして新たなスタート地点に立ったデル氏とDell Technologiesが、今後、エンタープライズにおける存在感をどこまで強められるのかに注目したい。