特別企画
日本版Amazon Go!? トライアルがスマートストアの実店舗営業と自動会計の実証実験を開始
2018年2月23日 06:00
福岡市に本社を持ち、212店舗のスーパーを展開するトライアルカンパニーが、パナソニックとの協業により、2つの新たな小売店向けソリューションを導入した。
ひとつは、ウォークスルーによる自動会計を実現する「ウォークスルー型RFID会計ソリューション」、もうひとつは、ショッピングカートにセルフレジ機能を搭載し、決済を簡素化したり、カメラを利用して商品動向を把握したりすることができる「スマートストア」の取り組みだ。
米国では、自動で決済を行うAmazon Goが注目を集めるほか、中国でも無人化店舗の動きが見られるが、今回のトライアルカンパニーの取り組みは、日本版無人化店舗への取り組みとも位置づけられるだろう。
トライアルカンパニーでは、「スマートレジカートの活用によって、決済のスピード化を進めるほか、われわれ自身がウォークスルー型の価値を理解すると同時に、顧客に対する価値を提供したいと考えている」(トライアルホールディングス 取締役CIO兼ティー・アール・イー 代表取締役の西川晋二氏)としている。
また、「将来的には、コンビニやドラッグストアのように、忙しい消費者を対象にする小規模の『クイック』店舗におけるレジの無人化につなげたい。eコマースの伸長によって、既存小売市場は30年後には半減するとも言われている。この時代を生き抜くには、寡占化による効率化と、ITおよびAIによる効率化が不可避である。リテールITおよびリテールAIにより、日本の流通小売業と、マーケティングのあり方を変えていきたい」と述べた。
ウォークスルー型RFID会計ソリューションの実証実験をスタート
このウォークスルー型RFID会計ソリューションは、トライアルカンパニー本社構内の実験店舗「トライアル ラボ店」で、同社社員を対象に、2月19日から3月6日までの期間限定で実証実験を行い、将来的に実用化を目指すという。
RFIDが貼付された商品を、エコバッグなどに入れたまま購入者が会計レーンを通すだけで、自動的に精算を行えるものだ。トライアルカンパニーが発行するプリペイドカードをかざすと、商品読み取り後にそのまま精算が完了する。
また、弁当やおにぎり、サンドイッチなどの場合には、賞味期限の残時間にあわせて自動値引きを行うなど、商品個品管理によるダイナミックプライシングも実現しているという。
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さらに店舗向けには、商品展示棚にRFIDを読み取るセンサーを設置することで、商品残数を1時間単位で確認できる機能を提供する。これらにより、店員の作業を大幅に削減でき、店舗オペレーションの省力化につなげることができるとした。
なお、プラットフォームにはMicrosoft Azureを採用している。
パナソニックによると、ウォークスルー型RFID会計ソリューションでは、これまで平均25秒かかっていたレジでの決済が5秒で完了。スマートシェルフによる在庫管理により、在庫状況を一括かつリアルタイムに可視化できるため、棚卸し作業の工数は10分の1にまで削減できるとのこと。
さらにウォークスルー型RFID会計ソリューションでは、トライアルカンパニーが、自社ブランドで展開している飲料水や、自社工場で製造している弁当などを対象に、製造段階や物流段階でRFIDのタギングをしたり、データ管理をしたりといった活用も視野に入れている。
パナソニックの青田広幸執行役員は、「当社は、メカトロニクス技術やセンサー技術を持っており、これらを活用することで、製造業を対象に、モノづくりプロセス最適化ソリューションを提供してきた。こうした製造業での省人化、自動化のノウハウを、物流業界にも活用できると考え、このほど、流通業務向けソリューションとして、ウォークスルー型RFID会計ソリューションを提供する。製造業と同じような課題を流通業でも抱えており、これを解決できると考えている」と話す。
加えて、「小売業では、レジに長い待ち行列が発生したり、商品登録作業が面倒であったりといった課題のほか、スタッフが雇用できない、棚卸し作業が手間であるといった課題もある。また、商品が欠品したり、期限切れの商品が多く発生し、これを廃棄しなくてはならなかったりといった点も問題だ。ウォークスルー型RFID会計ソリューションは、こうした課題が解決できるものになる」と語った。
米国や中国が行われている無人化店舗は、カメラを活用したものが多いが、トライアルカンパニーとパナソニックが取り組んでいるウォークスルー型RFID会計ソリューションでは、その名の通り、RFIDを活用しているのが特徴だ。
「RFIDはコストが高いという課題があるが、個品管理ができる点が特徴である。RFIDには重要な情報を埋め込んでおり、商品情報と買い物情報を連動させることで、小売りだけでなく、製造や物流といったサプライチェーン全体にも効果をもたらすものになるかどうかも検証したい。日本発で世界の流通を変えていきたい」(パナソニックの青田執行役員)とする。
現在、RFIDのコストは1個あたり十数円だが、「将来は、単価10円のチョコレートでも運用できるように、1円未満のコストにまで引き下げたい」という。
また、「RFIDでは、水や金属などの読み取りが難しいという課題があったが、これも解決しつつあり、誤読み取り防止技術についても改善を図っている」とした。
経済産業省では、2017年に「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」を打ち出し、2025年までに、セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソン、ミニストップ、ニューデイズのすべての取扱商品に、電子タグを利用することで合意したが、今回の取り組みもこうした流れを視野に入れたものだといえる。
パナソニック スマートファクトリーソリューションズの足立秀人執行役員は、「コンビニ電子タグ1000億枚宣言では、2025年を目標としていたが、これを前倒しする動きもある。パナソニックとしても、ウォークスルー型RFID会計ソリューションを2020年までには実用化できるようにしたい」と述べた。
福岡市のトライアルカンパニー本社で行われた記者会見では、経済産業省 商務・サービスグループ商務・サービス審議官の藤木俊光氏が出席。
「経済産業省は、店舗のスマートストア化を促進したいと考えている。店舗のオペレーションをIT化したり、AIを活用することで効率化したりするだけでなく、消費者が、便利で、楽だと思える新たな消費体験ができること、そして物流を含めたサプライチェーン全体の効率化を実現することができるのがスマートストアの狙いである。それを実現する上で、RFIDは重要なツールになる。高齢化や人口減少による需要の減少や、eコマースの台頭によって、リアル店舗は厳しい環境に置かれるといわれているが、新たなテクノロジーや知恵を活用することで、次の飛躍があると考えている」などと述べた。
スマートストア実現に向けた取り組み
一方、トライアルカンパニーが実現したスマートストアは、タブレット決済機能付きスマートレジカートを導入することで、レジ待ちをなくすとともに、合計700台のスマートカメラを使用して、顧客のニーズにあわせた品ぞろえを実現するのが狙いだ。
「TRAIAL GO」を名付けられたこの仕組みは、2月14日にグランドオープンした福岡市東区香椎の「スーパーセンタートライアル アイランドシティ店」に導入したもので、トライアルカンパニーでは、「日本初のスマートな購買体験を実現したスマートストア」と位置づけている。
タブレット決済機能付きスマートレジカートは、トライアルカンパニーと、スタートアップ企業のRemmoが共同開発したもので、決済機能およびレコメンド機能を搭載。ショッピングカートそのものにセルフレジ機能を搭載していることから、専用のプリペイドカードでログインすると、レジに並ぶことなく、ボタンひとつで会計を済ませることができる。
来店客は、商品を買い物かごに入れる際に、スマートレジカートの手前にある赤外線スキャナーでバーコードをスキャンし、商品を登録。スマートレジカート専用レーンにスマートレジカートを持っていき、プリペイドカードで決済する。
現時点では、通常の買い物のようにスキャンをしないままかごに入れてしまうミスも想定されるため、専用レーンで担当者がチェックをし、決済後にレシートを手渡している。
また、スマートレジカートに取り付けられたタブレットの画面上には、売り場でスキャンされた商品の情報に基づいたレコメンドや、関連する商品のクーポン券情報などが表示されるという。商品をスキャンしたところで関連商品のクーポンなどが表示され、購買を促すことができる。将来的には、スマートレジカートを特定の売り場に移動した際に、その売り場でのお買い得商品などを、タブレットの画面に表示できるようにするという。
「洗剤やシャンプーなどは購入する商品が決まっている場合が多いが、お菓子や歯ブラシなどは、売り場に行ってからどの商品を購入するかを決めることになる。そうした場合には、お勧め商品やお買い得商品などをタブレットの画面に表示するメリットは大きい」とした。
また、商品情報や属性情報などをもとに買い忘れ商品なども表示したり、お買い得品の場所を表示したりといったことも行う予定だ。
トライアルカンパニーでは、スマートレジカートの導入によって、買い物客のレジ待ち時間を解消するとともに、レジスタッフの人手不足を解消できるとアピールするが、さらに、買い忘れの防止や潜在的なニーズの発見など、買い物客の新たな購買体験を実現したり、店頭メディアのひとつとして、各メーカーやベンダーに広告や販促の機会を提供したりできる点もメリットだと説明する。
現在、同店には130台のタブレット決済機能付きスマートレジカートが導入されており、開店約1週間の利用状況を見ると、レジ通過数、売上高とも約30%がスマートレジカートを通過しているとのことで、想定を上回るものになっているという。一般的に、買い物客の約6割がカートを利用している中で、この利用率はかなり高いといえる。
同店は24時間営業となっているが、スマートレジカートには、フル充電までに8時間、フル充電時の連続稼働時間が16時間のバッテリーを搭載。開店中にスマートレジカート専用置き場で充電できるようになっている。
バッテリーは、カートがひっくり返らないように重心が低い位置に設置。さらに、複数台のカートを省スペースに収納する際にも邪魔にならない位置に配置する、といった工夫を凝らしている。
また、スーパーセンタートライアル アイランドシティ店では、スマートストアのもうひとつの取り組みとして、商品動向分析や来店者分析も行っている。
VAIOのVAIO Phoneや、エルモ社製カメラ「VRK-C201」をベースにトライアルカンパニーが独自に開発したスマートカメラを活用。パナソニックが開発したVieureka(ビューレカ)プラットフォームを活用することで、店内に設置した700台のカメラを通じて、商品、来店客の動きをデータ化している。
そしてこの情報を分析し、商品の見つけやすさや品ぞろえを改善して、商品棚の欠品などを防ぐ取り組みを行っているという。
スマートカメラ700台のうち100台はVRK-C201をベースにしており、ここでカメラ自らが、来店客の動きを把握して消費行動を分析。パナソニックのVieurekaプラットフォームと、パナソニックと任天堂が出資するPUXが開発した画像認識エンジンにより、個人のプライバシーに配慮しながら、カメラ内で来店客の属性と行動を分析できるようにしている。リアルタイムで来客の行動を可視化したり、滞留時間、売り場到達率、店内回遊率などを定量化したりすることが可能だ。
「スマートカメラにより、エッジ処理を行い、カメラの外に映像そのものを出さないといったことでプライバシーを保護した運用が可能になる。また、クラウドの活用により、導入コストの低減も可能である」(パナソニックの青田執行役員)とした。
また、VAIO Phoneをベースにした残り600台のカメラが、店舗内の商品棚を撮影するとともに、トライアルカンパニーが独自に開発した画像認識エンジンと連動。商品棚の商品陳列状況や顧客の商品接触状況を分析する。ここでも、個人のプライバシーを守りながら商品動向の可視化および定量化を可能にしており、売り場の設計や管理が遠隔で行えるという。
これまではレジを通過した時点でのデータであったため、商品を購買した結果しかわからなかったが、来店客がどんな商品同士を比べているのか、どの商品が選択に迷いやすいのか、手に取ったものの購入しないことが多い商品はなにか、といったように、購入前の動きを分析できるようになり、こうしたデータが店舗づくりや商品づくりにも反映させる考えだ。
トライアルホールディングス 取締役CIO兼ティー・アール・イー 代表取締役の西川晋二氏は、「当社では、レジにかかる人件費は、年間約40億円に達する。具体的な削減目標が現時点であるわけではないが、このコストを半分や4分の1へと下げることを目指したい」としたほか、「人の目や足だけでは売り場を完全に把握することは不可能である。600万人のカード会員による顧客データ、売り場や棚割りの状態、消費者の店内行動と販促といったデータを活用し、カメラとAIが人の目や足となり、売り場の状態を正確に把握することで、労働力の削減にもつながる」とした。
また、パナソニックの青田執行役員は、「これまでは、メーカー、卸/倉庫、店舗、消費者ごとに情報が収集され、それぞれが分断されていたが、これらの情報をつなぐことで、一気通貫での価値向上が図れると考えている。これによって、次世代サプライチェーンの実現を目指す」と述べた。
トライアルカンパニーでは、これまでにもITを活用した先進的な取り組みを行ってきた経緯があるが、今回の2つの小売店向けソリューションは、将来の小売店の姿を示すものとして注目される。どんな成果が生み出されるのかが楽しみだ。