特別企画

進化し続けるヤマハの遠隔会議用スピーカーフォン「CS-700」開発に至るまでの道のり

 2018年1月に、ヤマハからビデオサウンドコラボレーションシステム「CS-700」が発売される。これは、2014年にヤマハが傘下に収めた米Revolabs社との、初の実質的な共同開発製品になるという。

 そもそもRevolabsとはどんな企業で、どういう経緯で「CS-700」をリリースするに至ったのか、そして、これまでヤマハが発売してきた音声コミュニケーション機器とどう違うのだろうか。

 2006年にこの分野の製品を初めて発売して以来、進化を続けているヤマハの遠隔会議用のコミュニケーションツール開発の背景を紹介しよう。

なぜヤマハが遠隔会議システムを開発し始めたのか

 ヤマハとRevolabsの関係の前に、まずは、なぜヤマハが遠隔会議システムの分野に参入したのか……という原点から振り返ってみよう。

 ヤマハというと、楽器やオーディオをはじめとする"音の会社"、というイメージを持つ人が多いと思うが、同社はかなり古くからルーターなどネットワーク技術に関連する製品も手掛けてきた歴史がある。

 このネットワーク技術を、ヤマハが得意とする電子楽器やAV機器などのデジタル信号処理とうまく組み合わせ、次に何ができるか、といったアイデアから新規事業がスタートしたのだという。

 もちろん、ビデオ会議システム自体はヤマハが手掛ける以前より存在していたが、音とネットワークを組み合わせたヤマハにしかできない技術を武器に、最初の製品となるIP電話会議システム「PJP-100H」が生まれた。またPJP-100Hをベースに、USB接続タイプの会議用マイクスピーカー「PJP-100UH」も製品化されている。

PJP-100H

 このPJP-100HとPJP-100UHには、1台に32個ものマイクが搭載されているほか、12個のスピーカーが底面についたモデルになっていた。複数のマイクを使って最適な音声を拾うという、現在のビームフォーミングの初期型ともいえるマイクアレイ処理を搭載している。

 より使いやすい製品を開発するという試みは当初から行われており、この世代の製品であってもさまざまな工夫は凝らされていた。IP電話会議は3拠点や4拠点で同時に会議を行うことがあり、そういった場合、例えば東京事務所から来た音は右から聞こえ、福岡事務所から来た音は左から聞こえるなど、異なる音源を違う方向から出力することで臨場感を出す、といった工夫が盛り込まれている。

 次に発売された音声会議システム「PJP-50R」では、長机の両側に会議参加者が座ることを想定していたPJP-100シリーズから、360°声を収音できる円形にマイクを配置する形状で開発された。

 さらに「PJP-25UR」は、Web会議ソフトウェアが増えていくだろうという想定のもと、少人数向け会議用マイクスピーカーとして開発したものだ。

PJP-50R(左)とPJP-25UR(右)。PJP-50Rは、現在も販売されているロングセラー製品である

 当時はまだビジネス現場においてネットワーク越しの会議というのは少なかったが、大きな成長が見込まれる遠隔地とのユニファイドコミュニケーションの市場に対して、ヤマハとしてアプローチを続けていったのだ。

PJPシリーズからYVCシリーズへ

 これらのPJPシリーズは2014年、大きな技術革新とともにYVCシリーズへと進化した。

 最初に発売された「YVC-1000」では、デジタルオーディオ処理技術が大きく進展したことで、ユーザーエクスペリエンスも大幅に改善。利用者からの評価も上々だという。

外付けとなったマイクユニットでは、マイク数が3個に減っているが、少ない数でも明瞭(めいりょう)度の高い音にする技術が搭載されているほか、拡張マイクを利用することで、最大で40人程度の会議室でも利用可能な拡張性を備えた製品だ。

 2015年には、4~6名の会議室に最適な小型製品「YVC-300」もリリースした。

新世代の音声処理技術が採用されているYVC-1000(左)とYVC-300(右)

 この両製品については前述のように、"音のメーカー"であるヤマハが培ってきたさまざまな音声技術が搭載されており、その詳細については弊誌で何度も取り上げてきた。詳細はそちらを参照いただきたい。

 さらにヤマハでは、YVCシリーズのラインアップを拡充し、「YVC-1000MS」という製品も2017年10月にリリースしている。このYVC-1000MSのMSとはマイクロソフトを指しており、「Skype for Business」向けマイクロソフト認定モデルとなる。Skype for Businessで使うときの基準を満たしており、動作が保証されているわけだ。

 認定製品であることを除くと、基本的な機能・性能はYVC-1000を踏襲しているが、「自動音響測定ボタン」から「コールボタン」に変更されている点がハードウェア的な違い。Skype for Businessの着信時にこのボタンを押すことでコールに応えたり、逆にSkype for Businessを終了したりすることができる。

「Skype for Business」向けマイクロソフト認定モデルYVC-1000MS。製品上面に認定ロゴシールが貼られているのがわかる

Revolabsとの共同開発による技術の進歩

 さて、ここで登場してくるのが、現在ヤマハが販売を行っている6~10名向けのUSBスピーカーフォン「FLX UC 500」の開発元であり、かつ今回ヤマハが発売する新製品、「CS-700」の共同開発元でもある米Revolabs社だ。

 "Revolabs"と聞いてどんな企業かすぐに分かる人はそう多くないだろう。Revolabsは2005年に米国で設立された企業で、大型の会議場で使用するワイヤレスマイクや、ユニファイドコミュニケーション(UC)端末、SIP端末などの電話会議システムを得意としている。

 ヤマハとは少し異なるアプローチの技術を持っており、世界的な展開を目指していたRevolabsと、新技術分野において海外のR&D拠点を作りたいというヤマハ側の思惑が合致したこともあり、2014年にヤマハはRevolabsを買収し、傘下に収めた。

 まずは、Revolabsがどんな技術を持っているのか日本側にレポートしたり、品質管理などの観点からRevolabsのメンバーに相談を受ける、といったことからスタート。徐々にお互いの強みや補完し合える点なども分かってきたところで、共同の開発プロジェクトも始まった。

 その成果として最初に実を結んだのが、Revolabsが開発し、すでにRevolabsブランドで発売していたUSBスピーカーフォンFLX UC 500の性能向上だったという。

 Web会議システムのキーテクノロジーの1つにエコーキャンセリングがある。これは、スピーカーから出てくる相手の話声が、マイクに入って戻ってしまうことを防ぐ技術であり、より効果的なエコーキャンセリングを行うには、部屋の特徴や機器の設置場所に応じて的確な処理をする必要がある。スピーカーから出た音がそのままマイクに入ってくる直接音だけでなく、壁などに反射して戻ってくる2次反射、3次反射、4次反射…といったものもあるからだ。

 これらのエコーは場所や状況によって異なってくるため、取り除こうとした場合には、部屋の特徴を測りながら、声をクリアに届けるための最適化をする必要がある。また除去の際には、最適化のための学習時間をいかに短くするかも重要な要素になっているという。

 そこで、Revolabsが持っていたエコーキャンセリング技術に、YVCシリーズにも搭載されてきたヤマハのエコーキャンセリング技術を組み合わせ、より応答性能の高いものを、アップデート用のファームウェアの形で共同開発した。

カメラへの挑戦

 そして今回、Revolabsが主体となり、ヤマハとの共同開発で完成したのが、新製品「CS-700」だ。少人数向け会議室(ハドルルーム)に最適な、オールインワンデバイスとして登場した。

最新製品のCS-700

 マイク、スピーカーといった音声入出力だけでなくカメラが搭載されているのが、"オールインワンデバイス"たるゆえん。YVCシリーズが机の上に置いて使う音声専用のシステムだったのに対し、CS-700は、壁掛けやテレビのサウンドバー的な扱いで取り付ける製品となっている点も異なる。

 ヤマハでも以前、「PJP-CAM1」という魚眼レンズ搭載のWeb会議用カメラを出したことはあった。映像については音声に比べてノウハウが少なかったこともあり、ユーザーの期待に十分応える製品ではなかったという。

カメラ製品のPJP-CAM1(現在は生産完了しています)

 しかし今回はそうした反省も生かし、まったく違う体制で製品作りが行われている。今後、ハドルルーム向けのニーズが急拡大することが明らかであり、カメラと音声を一体化した製品の開発が急務であるということから、Revolabsは社内にカメラ・映像処理のためのチームを作り上げた。日本と比較して人材の流動性が高い米国の利点を生かし、高い技術を持ったチームを編成できたという。

 そうした"映像のプロ"のチーム、以前からのRevolabsの音声チーム、さらにヤマハからのメンバーが加わる形で開発されたのが「CS-700」なのだ。このCS-700では、YVCシリーズなどで培われてきた音声処理技術が搭載されているのはもちろんのこと、映像チームによって開発された技術により、映像についてもクリアなものを届けられるようになっている。

 例えば、CS-700でもカメラ部分に魚眼レンズを採用しているが、魚眼レンズでは広い範囲を映し出すことができる代わりに、映像の端の方では歪みが生じてくるため、これを補整する必要がある。かつてのPJP-CAM1では、こうした映像の補整処理をうまく行えていな面があったものの、CS-700ではソフトウェアによる補整処理により、きちんとした映像を届けられるという。

音声コミュニケーション機器事業の今後

 まだRevolabsとヤマハの協力体制はできあがったばかり。国内の遠隔地コミュニケーションツールにおいて、だんだんと認知度を上げつつあるヤマハではあるが、まだまだ発展途上。ワールドワイドにおいてはなおさらだ。

 まずは、Revolabsとの共同開発によるさらなる高品質を武器にして、ヤマハのブランドイメージの認知を図っていこうという段階である。

 その一環として今回は、ハドルルームの活用という新しい働き方に焦点を絞り、CS-700という製品を開発したわけだ。

 次回は、CS-700というその戦略的な製品について、より詳細な特徴をお伝えする。

(協力:ヤマハ)