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ネットの“大動脈”を支える巨大船 NTT海底ケーブル敷設船「SUBARU」船内見学会をレポート

 NTTドコモビジネス株式会社(旧称:NTTコミュニケーションズ株式会社)のグループ会社であるNTTワールドエンジニアリングマリン株式会社(以下、NTT WEマリン)は、海底ケーブル敷設船「SUBARU」の報道向け船内見学会を12月11日に開催した。

 筆者も参加したので、今回はその模様をレポートする。

NTT WEマリンの海底ケーブル敷設船「SUBARU」。総トン数9,557トン、全長123m。写真右側が船尾

累計で地球1.3周を超える海底ケーブルを敷設

 インターネットにより世界中を通信が行き交う時代に、特に四方を海に囲まれた日本において、それを支えるのが世界の海底に張りめぐらされた海底ケーブルだ。2025年時点で、世界中で約570本、合計148万km(地球約37周分)を超える国際海底ケーブルが使用されているという。

 この海底ケーブルを海底に敷設したり、故障箇所を修理したりするのが、海底ケーブル敷設船だ。

 NTT WEマリンは、日本電信電話公社(電電公社)から日本電信電話株式会社(NTT)を経て、1998年に会社として設立され、これまで国内外で総計5万km(地球約1.3周分)を超える海底ケーブルを敷設してきたという。

 取材時点では、ケーブル敷設船として、大型の「SUBARU」(9,557トン、1999年竣工)、中型の「きずな」(8,598トン、2017年竣工)、ケーブル保守船のVEGA II(5,545トン、2025年竣工)の3隻を保有している。特にSUBARUときずなの2隻が、現場海域で作業したり、港で待機したりと、機動的に対応しているという。

オフィスの展示ブースに貼られた海底ケーブルマップから、アジア付近の部分
オフィスの展示ブースに展示された「SUBARU」の模型
オフィスの展示ブースに展示された「きずな」の模型
オフィスの展示ブースに展示された「VEGA II」の模型

 NTT WEマリンの役割としては、海底ケーブルを敷設する施工会社と、修理する保守会社の2つがある。敷設では、ケーブルオーナーからシステムサプライヤーを経て、施工会社が作業する。修理では、ケーブルオーナーからの修理依頼により、保守会社が作業する。

 海底ケーブルの保守には、「ゾーン保守」と「プライベート保守」の2種類の形態があり、NTT WEマリンは、自社の担当する海底ケーブルを自社で保守するプライベート保守の形態をとっている。

 ちなみに、日本でケーブル敷設船を持っているもう1社であるKDDIケーブルシップ株式会社は、ゾーン保守の形態をとっている。ゾーン保守では、世界の複数社が協定を組み、世界の海をいくつかゾーンに分けて、各ゾーンの全協定会社の海底ケーブルを担当会社が保守する。

海底ケーブルの敷設と保守における各企業の役割

深海には無外装のケーブル、浅瀬には鉄線で覆った太くて重いケーブル

 海底は平らではなく、陸地と同様に起伏がある。できるだけ急勾配にならないルートでケーブルを張り巡らせるが、それでも場所によっては急勾配になることもある。

 そうした設置場所に合わせて、海底ケーブルには複数の種類が用意されている。深海用ケーブルが最もシンプルなもので、光ファイバー本体や金属シールド、保護層などからなる無外装のものだ。

 しかし浅瀬では、船の錨(いかり)や漁網などによって海底ケーブルが損傷することがある。そのため、鉄線で覆ったり、さらに鉄線を二重にしたりと、太くて重いケーブルが使われる。

 また、こうしたケーブルの途中で、光信号を増幅する海底中継器が概ね40~100kmごとに接続される。

海底ケーブルの経路の模型
海底ケーブルの種類
深海で使われる無外装ケーブルが、岩によって損傷した箇所
海底中継器

ケーブルタンクに蓄えられた海底ケーブルをシーブから繰り出す

 海底ケーブルは、ケーブル敷設船の船尾に設けられた「シーブ」と呼ばれる滑車を通って、敷設や引き上げが行われる。SUBARUでは、平型で幅広のシーブが1基と、V型で狭いシーブが2基備えられており、例えば、機器やアンカーを通すには平型シーブといったように、用途によって使い分けられる。

船尾部分に海底ケーブルの敷設や引き上げの設備がある
船内の作業デッキから見ると、船尾にシーブが3基ある
平型シーブ
V型シーブ

 船内からシーブを通って海底ケーブルを繰り出したり巻き上げたりする力を加えるのには、ケーブルエンジンが使われる。SUBARUでは、直線状に並んだタイヤに海底ケーブルを挟み込んでケーブルを繰り出す「リニアケーブルエンジン(LCE)」(敷設時に使う)と、金属ドラムに海底ケーブルを巻き付ける「ドラムケーブルエンジン(DCE)」(巻き上げにも使う)がある。

リニアケーブルエンジン(LCE)
ドラムケーブルエンジン(DCE)

 ケーブルは船内中央付近の、ケーブルタンクと呼ばれる大きなリールに巻かれて保管される。SUBARUでは、大型のケーブルタンク2基(2,620立方メートル)と予備タンク(150立方メートル)で合計2,770立方メートルの容量があり、最大で約4,000kmの海底ケーブルを一度に搭載できる。ケーブルタンクは作業デッキの下の階に置かれている。

ケーブルタンクの説明動画
作業フロアから下の階に見えるケーブルタンク
船首側から船尾側を見た作業フロア。ケーブルタンクが写真下部に、ケーブルエンジンやシーブのある船尾方向が写真上半分に見える

 なお、ケーブルの間に挟まれる中継器は、ドラムケーブルエンジンで巻き上げるわけにはいかない。そこで、天井のレールに沿って作業デッキ内を移動するクレーンで持ち上げるようになっている。

クレーン。作業デッキの船首側にある状態
クレーンのレールは船尾側までつながっている

普段は貯線槽に海底ケーブルを保管

 海底ケーブルは、普段は船が接舷する箇所に面した貯線槽の建物に保管されている。貯線槽にはさまざまな会社の海底ケーブルが保管されていた。

 船が出航するときには、必要な分の海底ケーブルが貯線槽から船に積み込まれる。その作業には2~3日かかるという。なお、出航にあたっては、手続きや作業海域の漁業組合との調整など、さまざまな作業が必要になる。

 貯線槽からは、キャタピラでケーブルを送る「ホーリングマシン」(小型のケーブル牽引機)でケーブルが送られる。貯線槽の建物から船の近くまで橋がかかっており、建物内で1階のケーブルタンクから2階にケーブルを上げ、貯線槽側のホーリングマシンから橋を経由し、船側のホーリングマシンに渡され、船内にケーブルが積み込まれる。

貯線槽の2階から1階にあるケーブルタンクが見える
1階から2階にケーブルを通す穴
貯線槽側のホーリングマシン
橋を経由して、向かいにある船にケーブルを送る
船側のホーリングマシン

鋤状の埋設機や水中ロボットがケーブルを海底に埋設

 海底ケーブルは、海底の土の下に埋設する。これには2種類の装置が使われる。

 1つ目は、敷設同時埋設機だ。自走できず船から伸ばされたケーブルで動くもので、鋤(すき)状の部分と水圧ジェットで海底を掘りながらケーブルを敷設する。SUBARUに搭載されたものの埋設深度は最大3.3mだという。

敷設同時埋設機による埋設作業のイメージ動画
SUBARUの敷設同時埋設機
先端の鋤状の部分
水圧ジェットのノズル
後部から。埋設深度は最大3.3m。
掘削した後からケーブルを出す部分
敷設同時埋設機は船尾からアームで上げ下げされ、ケーブルで動く
敷設同時埋設機のケーブルの船体側

 もう1つは、遠隔操作型の無人潜水機、いわば水中ロボットのROV(Remotely Operated Vehicle)だ。あらかじめ海底に置かれたケーブルを、水圧ジェットで埋設するのに使われる。SUBARUに搭載されたものは、キャタピラを備え、海底を走行できる。埋設深度は最大3m。

ROVによる埋設作業のイメージ動画
SUBARUのROV。キャタピラで自走できる
すでに海底に置かれたケーブルをまたいで進み、水圧ジェットのノズルで海底を掘る
ノズルの上のカメラとライト
ROVのマニピュレーター
磁気センサーでケーブルを探す

切れたケーブルは、片方ずつ補修して接続

 切れた海底ケーブルを修理するときには、何段階かの作業が必要になる。

 まず、切れたケーブルの片方の端を、アンカーで船に引き上げる。その切り口付近の不良部分を切り離した後、いったん海にブイで浮かべておく。

 続いて、もう片方の端を引き上げ、同様に不良部分を切り離し、両側の間をつなぐ補修用ケーブルを接続する。そのうえで、ブイで浮かせた側のケーブルを再び船に引き上げ、両側のケーブルを接続して、つながったケーブルを海に沈める。

海底ケーブルの補修の手順
船の横に取り付けられたブイ

 接続作業は、作業デッキの側面にあるJOINTING ROOMで行う。2本の光ファイバー部分を接続したうえで、被覆を被せていく。水圧に耐えるように、エックス線で被覆の気泡検査も行っているとのことだ。なお、作業時間は約24時間かかるという。

切れた海底ケーブルをJOINTING ROOMで接続する
ケーブル接続の見本。4つある上から下の状態に作業が進む

 試験室では、ケーブルの動作試験が行われる。中継器の動作確認もあり、高圧電力が使われるため、そのときは人は作業デッキから退避するとのことだった。

ケーブルの動作試験
試験に使う高圧電力の給電装置

DPSがコンピュータ制御で船を目的の位置にキープ

 こうした作業のために船を動かす操作は、ブリッジから行う。

 前述のとおり、修理のときには、一度ブイで浮かせたケーブルに船を寄せるなど、高精度で船の位置を調整する必要がある。これは、通常のスクリューと舵ではできない。

 大きな船には、接岸や離岸のときに船を横に動かすための小型の推進機(スラスター)が備えられていることがある。SUBARUでは、これをさらに発展させて、船尾にアジマススラスター(方向を変えられるスラスター)2基と、船首にトンネルスラスター(船の左右をトンネル状に貫いた横向きのスラスター)およびアジマススラスターが設けられている。これらのスラスターを使って、船が向きを変えずに前後左右に細かく移動できるわけだ。

 そのうえで、指定した位置に船を移動させたり位置をキープしたりする「DPS」(Dynamic Positioning System、自動船位保持装置)が備えられている。コンピュータ制御によって、目的の位置を指定すれば、GPSや潮流などを計算に入れながら、船がスラスターを使って自動的にその場所に移動し位置をキープするという仕組みだ。

 DPSの操作盤は船首側と船尾側に設けられている。人間が位置を調整するときにはジョイスティックを使う。ジョイスティックを前後に倒すと船が前後に動き、左右に倒すと船が左右に動き、回すと船が回る。

 なお、DPSが故障した際には人間が操作できるようにもなっている。ただし、それには人が最低2人必要になるとのことだ。

SUBARUのブリッジ
「SUBARU」の模型の下部分。船尾(写真左側)と船首(写真右側)にスラスターが見える
船首側のDPSの操作盤。ジョイスティックで操作できる
手動で操作するときの操作盤
船尾側のDPSの操作盤。窓の外の下側には、シーブや敷設同時埋設機などが見える
接岸時にもDPSと同じ装置を使う(左右舷に設置)

 SUBARUの最大搭載人数は80人。この規模の船では、船を動かす船員の最低要員が21人と法で定められており、それに加えて海底ケーブルの作業をする人や、ケーブルオーナーなどが乗船する。

 海底ケーブル敷設船の1回の航海の長さはまちまちだが、通常は2カ月ぐらいで、長いときは6カ月ということもあるとのこと。船の設備などが昔に比べて向上していても、出航したらその間は降りられないのは変わらない。

 ただし近年では、船で衛星インターネットが使えるようになり、また船内はどこでもWi-Fiが利用できるようになっているとのこと。そのため、家族や友人と連絡がとれるなど、テクノロジーによってホームシックなどが薄らぐようになっているようだ。