大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

パナソニックが3カテゴリーで推進する変革への取り組み「PX」の現在地を追う
2026年3月17日 06:15
パナソニックグループの企業変革プロジェクト「PX(Panasonic Transformation)」の進捗状況について、パナソニック ホールディングス 代表取締役 副社長執行役員 グループCIO兼グループCTROの玉置肇氏が合同取材に応じた。
パナソニック ホールディングス 代表取締役 副社長執行役員 グループCIO兼グループCTROの玉置肇氏は、「PXは、物流や調達における削減効果の目標はあるが、全社のコスト削減効果の達成が最大の目的ではない。PXは、ITの変革ではなく仕事の変革である。いまでは、パナソニックグループ全体の経営基盤となっている」と述べた。
2021年7月から開始したPXは、2025年度から、「PX2.0」としてビジネスモデル変革を加速するフェーズに入っており、物流や調達といった領域での具体的な取り組みについて説明した。
なお、今回の説明では、発言や資料において「PX2.0」という言葉は使わなかったが、社内では「変革の常態化」をゴールとするこの名称を現在でも使用している。また、CES 2025で発表したAIを活用したビジネスへの変革を推進するグローバルな企業成長イニシアティブと位置づける「Panasonic GO」について、PXのなかに組織体制として取り込み、推進していく姿勢も明確にした。
PXとは?
PX(Panasonic Transformation)は、2021年7月にスタート。初年度を「変革の立ち上げ」とし、楠見雄規グループCEOが「PXプログラム」の始動を宣言した。
2022年度には、「変革の波を拡大する時期」と位置づけて、それまでのIT領域のDXだったPXの取り組みを、全社プロセス変革として本格化させることを社内に向けてアピール。役員全員が参加した合宿を通じて「PX:7つの原則」を制定し、経営陣全員がPXにコミットして、ここで示したプロセス、データ、人材の考え方をベースにした取り組みを推進することにした。
3年目となる2023年度は、PXを全社アジェンダとしてとらえ、「PX:7つの原則」を、各事業の特性にあわせて実装。「PX-AI」の全社導入や、PXポータルのオープン、PXアンバサダーの公募を開始するなど、「3年目で、PXが形になりはじめてきた手応えを感じた」と振り返る。なお、2023年8月には、PXの取り組みが、「IT Japan Award 2023」のグランプリを受賞している。
2024年度は、「グループ内の連携を加速」することに取り組み、グループCEO 業績表彰に「PX推進」を追加したり、Copilotを全社に展開したり、社内で現場PXコンテストを実施するといった取り組みを行った。
2025年度は、「攻めと守りの両面で変革推進」を行い、One Panasonic ITプロジェクトを社内公開したほか、PXポータルの英語版および中国語版を公開。IT投資とKPIダッシュボードも社内に公開した。
また2025年4月には、パナソニックグループに、CTRO(Chief Transformation Officer)を設置して、玉置氏が就任。2026年4月には、玉置氏が兼務していたグループCIOに、パナソニックインダストリーズ出身の近田英靖氏が就任して、役割を分離し、明確化する。
PXのオーナーは楠見グループCEO、リーダーは玉置グループCTROとし、グループCTROのもとで、近田グループCIOは、継続的なIT変革を推進していくことになる。
また、新設したグループCAIO(Chief AI Officer)に就任する榊原彰氏は、グループCTROのもとで、Panasonic GOを中心とする生成AI活用を起点とした業務変革を、AI-Driven Transformationの観点からリード。隅田和代グループCSO(Chief Strategy Officer)と、パナソニック オペレーショナルエクセレンスの社長を兼務する玉置氏が、ポートフォリオマネジメントの推進、競争力を生み出す経営基盤の実装などを推進することになる。
玉置氏は、「これからのPXプログラムは、Digital Transformation、AI-Driven Transformation、Corporate Transformationの3つの柱で全社変革を推進していくことになる」と述べた。
新会社「パナソニックデジタル」の発足とIT体制の再編
さらに、2026年4月から、新体制としてパナソニックデジタルを発足する。これは、2024年度下期からスタートした、情報システム部門のDXに位置付けられた「One Panasonic ITプロジェクト」に基づいたものだ。
同プロジェクトでは、情報システム部門の役割を再定義し、不明瞭さや重複を徹底的に排除することを目指しており、各事業会社などに分散していたインフラやセキュリティなどの共通業務をシェアード化し、重複をなくし、スケールメリットを生かす体制へと移行するという。
新会社では、パナソニック インフォメーションシステムズ、パナソニック ソリューションテクノロジー、パナソニック ネットソリューションズの3社を統合。外販拡大にも貢献し、パナソニックグループが注力するソリューション領域の事業強化にもつなげる。
パナソニック オペレーショナルエクセレンス 執行役員 情報システム担当兼情報システム本部長の豊田彰朗氏は、「パナソニックデジタルは、パナソニックグループ内で培った製造DX、グローバルERP、ICT基盤構築/運用サービスなどの経験を活用し、お客さまの暮らしや仕事に寄り添ったITソリューションを提供する。新会社の詳細については、2026年4月以降に説明したい」と述べた。
調達DX:プロセス改革によるコスト削減とサプライチェーンの強靭化
なお、PXでは、「業務プロセスの変革」、「データ利活用」、「人材育成」の3点から取り組んでいる。
このうち「業務プロセスの変革」では、2023年10月にスタートした「プロセスオーナー」が、2026年3月時点で43人に拡大。社内プロセスの進化や、社内でのデータ利活用の推進役となっており、それらの成果として、調達業務、物流業務のDXが進行していることを示した。
調達業務については、プロセスオーナーの1人でもあるパナソニック オペレーショナルエクセレンス 執行役員 調達担当兼グローバル調達本部長の髙田哲史氏が説明した。
調達業務では、パナソニックグループの購買力が相対的に劣化していることを指摘。その一方で、各事業や各拠点での購買体制となっていたため、グループ全体として購買力が発揮できていなかったり、重複業務が発生していたりする課題もあったという。
パナソニックグループでは、2002年度から集中購買契約を開始して以降、調達プロセスの改革に取り組んできたが、2021年度からのPXのスタートにあわせて、調達DXの活動を加速し、Quality、Delivery、Cost(QCD)の観点から調達業務を進化。調達先とのシステム、オペレーションの改善により、「太く、短いリレーション」の構築を目指しているという。
具体的な取り組みとして挙げたのが「QCD三位一体のプロセス改革」である。
先にも触れたように、パナソニックグループでは、各事業、各拠点での個別調達となっており、調達先はそれぞれの発注に対応するための業務体制や営業体制、出荷体制を構築していた。パナソニックグループでは、グローバル調達本部を設置し、303拠点からの注文を束ね、調達先から購買する仕組みに変更。Blue Yonderのエンジンを活用した調達DXツール「ALGO」の導入などにより、ひとつの拠点から、ひとつの注文で、ひとつの場所に納入する形に集約した。これにより、注文数は65%減少、変更作業が84%削減、納品回数は91%も削減したという。
髙田氏は、「まだ限られた品目での展開であり、集中化が必要な部材および調達先から順次拡大していく」という。
さらに、調達先が販売したい部品を、パナソニックグループが持つ技術との組み合わせによって、積極的に採用するための部品選定プロセスも構築。「競争力がある部品を、推奨部品として事業会社に開示し、技術者がスムーズに検討したり、メリットを理解したり、迅速に調達できる仕組みとしている。現在使用している部品を推奨部品に置き換えた場合のコスト効果なども示すことができる」という。
推奨部品が検索できる調達DXツールの「ARIAデバイス」、推奨状態を可視化し、効果検証を確認できるツールである「REAL」を提供。推奨部品の比率は62%から83%に拡大し、合理化効果として年間54億円のメリットを創出したという。
もうひとつが「サプライチェーンの強靭化」である。ここでは、ハザードマップシステムを活用し、自然災害の発生時などに、サプライチェーンのリスクを可視化。いち早く対策を打てるようにしている例を紹介した。「以前は、電話による人海戦術で対応していたが、被災しているところに連絡を行って確認する作業などが発生し、調達先にとっても十分な対応ができない状態だった。日常的に状況を把握し、2次、3次、4次サプライヤーの状況まで把握できるようになった」という。年間の業務削減効果は1億3000万円としており、自然災害が発生した際の状況確認も自動発信、自動回答の収集が可能になっているという。
また、金型管理においては、新たに金型管理プラットフォーム(SACT)を構築。調達先に保管してある金型をバーコードで読み取り、クラウドサービスにより一元管理できるもので、写真に付与する位置情報によって所在を確認したり、海外への金型貸与でも利用が可能になったりする。金型管理は、前述したハザードマップにも適用しており、金型への影響も確認できる。
拠点集約と物流標準システムで効率を最大化
物流業務のDXでは、同じくプロセスオーナーの1人であるパナソニック オペレーショナルエクセレンス 執行役員 物流担当兼物流本部長の安藤健太郎氏が説明した。
「パナソニックグループは、2012年に、松下電器、松下電工、三洋電機を1社に統合したが、物流現場に関してはまったく変わっていなかった。PXの取り組みのなかで、グループ全体の統合拠点を設置し、20年間硬直化している輸配送を見直す。これを標準システムで支え、物流現場をデジタル化して、パートナーとともに現場力を強化する」と、物流業務DXの狙いを示した。
パナソニックグループでは、国内物流の改革として、まずは関西エリアにおいて、9拠点に分散していた物流拠点を京都府京田辺市の拠点に集約。11万1688平方メートルというパナソニックグループとしては世界最大の倉庫面積に、約1万3000品番を対象に運用し、1日に約43万個を入出庫する。
グループ会社横断での標準プラットフォームである「One Panasonic Logistics」の採用や、バラ積みピッキングを行う「GTPシャトルユニット」を2026年6月から稼働するほか、約5000パレットを収納できる「移動棚」、トラック待機時間の可視化などを行う「トラックバース予約受付システム」、配送状況をリアルタイムで監視する「トラック動態管理システム」などの最新設備を導入することで、物流効率の最大化や、競争力強化を実現するという。
電材代理店配送網の再編では、同社営業部門とパートナー企業の約1400人を巻き込んだ業務改善に着手。すでに、受注締め切り時間を1時間短縮したほか、定期車両数の10%削減、積載率の2割向上などの成果が上がったという。今後は、電材と空質空調との配送統合、ハウジング事業の配送網再編、住建業界における企業を超えた共同配送などに取り組む考えを示した。
物流現場のデジタル化や現場力の強化においては、携帯端末を活用した入出庫オペレーション、1300×1100cmのサイズに統一したグループ標準パレットの制定、物流現場における大部屋活動の推進などにも取り組んでいる。
これらの取り組みを通じて、年間10億円以上の効果を想定。配送ルートを10%削減するほか、保管効率では27%の向上、作業生産性では26%の向上を見込んでいる。
安藤氏は、「今後は、首都圏エリアの拠点再編のほか、ホストのモダナイゼーションを機に、グループ内外に貢献するプラットフォームへと進化させ、グループ内共同配送の拡大や、住建業界での共同配送へと進化させることで、パナソニックグループの物流網を、社会インフラへと展開していく。AI活用による業務革新も追求していく」と述べた。
IT基盤の高度化とAI人材の育成:Blue Yonder、SAP、生成AIの全社展開
また、Blue Yonderの社内活用を拡大することで、計画系および実行系コア業務のプロセスを標準化し、大きな成果を創出していることも強調した。
先に触れた調達DXツール「ALGO」もBlue Yonderを活用した事例のひとつだが、このほかにも、パナソニックコネクト モバイルソリューションズ事業部では、製造リードタイムを90日から40日に削減。納期回答順守率を20%から85%に高めるといった成果が出ている。
玉置氏は、「Blue Yonderは、使えれば使うというスタンスであり、パナソニックグループで活用するためにBlue Yonderを変えていくということはしない。これまでにも物流拠点でトライアルを行ってきたが、ようやく米国の物流拠点で採用できるめどが立った。これはBlue Yonderの機能そのものが強くなってきたことが背景にある」とした。
パナソニックグループでは、SAPを数多く導入しており、作業効率化やコスト効率化など、業務システムとしてのメリットを享受しているものの、迅速な経営判断のための活用では遅れが出ているという。
豊田氏は、「プロセスの標準化、刷新を含めて、SAPを活用していきたい。過去の実績値を並べながら経営判断をするのではなく、データを迅速に一元管理し、先行指標の管理を含めて、経営判断を促す使い方に昇華させていく」とする。
パナソニックインダストリーズで実践しているSAPによるプロセス標準化の取り組みを、それぞれの事業会社に横展開する考えも示した。
さらに、プロセス改革の事例として、北米の拠点では、人事に関する業務を統合し、2万2000人の従業員接点を整流化。従業員からの問い合わせに関して、2091時間をセルフサービス化し、人事担当者の電話による問い合わせを37%削減。複数システムの統合によって、運用費用を200万ドル以上削減したという。
2つめの「データ利活用」では、従業員自らがデータ分析を行うプラットフォームである「DIYA(Do It Yourself Analytics)」を開発。セルフ型利用者は、これまでは2万人程度だったが、2025年度には4万人にまで増加しているという。「DIYAの活用の促進とともに、データ活用のリテラシーの底上げにつながっている」としている。
また、蓄積したIoTデータを利用し、家電製品の新機能開発に取り組んでいる例も示した。
パナソニックでは、冷蔵庫のドアの開け閉めなどの運転状況データから、各家庭に最適な霜取り制御を導き出すことができるAI機能を開発。庫内の霜に関する課題を解決しながら、省エネも実現しているという。
3つめの「人材育成」では、パナソニックグループ独自のAIであるPX-AIの導入成果について説明した。2025年度は、PX-AIの1日あたりの利用者数は、約9000人となり、月20万時間の効率化に貢献。さらに社内情報をRAG化して、それぞれの業務に特化したPX-AI Plusを、43部門2558人に展開。業務の生産性向上に寄与しているという。「PX-AIは、活用から成果創出フェーズに入ってきた」と位置づけた。
4万人の従業員を対象にしたアンケートによると、生成AIを業務で利用しているとの回答者は、2024年度には全体の37%だったものが、2025年度は66%に拡大しているという。
また、現場PXコンテストを3回開催し、合計1070件の応募があり、これらの活動を通じて活用事例を共有。昨今では生成AIを活用した事例の応募が増えているという。PXアンバサダーには、国内で約60人が任命され、2025年度には約350件の困りごとを解決している。
こうした活動は海外においても広がっており、中国では31社70人のAIアンバサダーが、各拠点におけるAI活用をリード。AIに関して学ぶイベントを32回開催し、参加者数は1万人を突破したという。
パナソニックグループでは、富士通製のメインフレームを活用しており、同社が発表しているメインフレーム事業の終息を視野に入れながら、大規模なモダナイゼーションに取り組む必要がある。
また、パナソニックオートモーティブが連結子会社から外れたことなどにより、売上高は減少しながらも、ITコストの減少も同時に進めなければ、売上高に対するITコストは、相対的に増加することになる。だが、パナソニックグループでは、これまでは事業継続を前提としていたプラットフォームを構築していただけに、事業会社の分離は一時的なITコストの増加につながる可能性もある。玉置氏が社内目標として掲げている、売上高に対するITコストを2.0%にまで抑えむ計画に対しては、むしろ逆風の状況にあるともいえる。
豊田氏は、「事業のカーブアウトへの対応を含めて、柔軟性を担保したプラットフォームを再構築する必要がある。事業を継続することを前提としたエンタープライズアーキテクチャー(EA)から、ポートフォリオが変わることを前提としたEAに変革しなくてはならない。EAのなかにAIを取り込むことも必須になる。スピード感を持って取り組みたい」とも語る。
なお、パナソニックグループでは、1万2000人の人員削減を実施しており、情報システム部門をはじめとしたPXの推進組織においても、大幅な人員削減が進められている。そうしたなかでの新たな挑戦にも注目したい。
2026年度以降は、事業成長のためのIT投資と、生産性や効率性を背景にしたITコストの削減を、どうバランスするかの舵取りが重要になるフェーズに入る。この取り組みの成否が、パナソニックグループが2026年度に目指している調整後営業利益6000億円の達成にも影響することになる。























