特集
海底ケーブルを修理する船を見てきた!
「KDDIオーシャンリンク」見学会レポート
2010年10月1日 06:00
日本は海に囲まれている。通信のバックボーン回線をつなぐには光ファイバーなどのケーブルを使う。そこで、日本から世界と通信するために、通信事業者は海の底に延々と“海底ケーブル”を這わせて継いでいるのだ。
そんな海底ケーブルを敷設したり修理したりするケーブル船の見学会が開催された。普段は決して見られない海底ケーブルの世界、おっとり刀で参加してみたので、その様子を紹介したい。
今回見学した船は「KDDIオーシャンリンク」。KDDIの100%子会社である国際ケーブル・シップ株式会社(KCS)の船だ。
365日待機、障害があれば24時間以内に出動
船内を見学して回る前に、KCSの皆田高志さんがケーブル船や修理作業についてレクチャーしてくれた。
KDDIオーシャンリンクの竣工は1992年。初代ケーブル船である「KDD丸」(4700トンクラス)の後継として建造され、総トン数9510トン。僚船にKDDIパシフィックリンク(7960トン)がある。KDDIオーシャンリンクが保守作業中心に、KDDIパシフィックリンクが建設作業中心に活躍している。
海底ケーブルを保守する範囲は、国や地域で“ゾーン”に分けて分担している。KDDIオーシャンリンクは、西経167度から西、台湾、グアム、ハワイの手前を結ぶ線より北の「横浜ゾーン(YZ)」を受け持つ。
2006年末から2007年年始にかけて、台湾地震によって海底ケーブルが何箇所も切断される障害があった。このとき世界中からケーブル船が駆けつけた中、KDDIオーシャンリンクはKDDIパシフィックリンクとともに一番初めに駆けつけて修理にあたったそうだ。
母港は横浜。ふだんは停泊して365日待機しており、いざトラブルがあれば24時間以内に出航する。「消防署にいる消防車と同じ」とは皆田さんの表現だ。1回の工事期間は平均して3週間程度、最長で50日を想定している。2009年には13回出動したということで、乗組員は陸にいるより海にいるほうが長いそうだ。
海底ケーブルの故障の原因は、底引き網などの漁具に誤って引っ掛かってしまうものが多い。特に中国沿岸沖は、水深も浅く漁業も盛んで、そのぶん事故も多いという。そのために海底ケーブルは海底面の下に埋めるように敷設しているのだが、それでも事故は絶えない。
そのほかの原因には、地震によって切断されるケースや、底層流でケーブルが擦られて摩耗したり岩などで切断されたりするケースがあるという。
海底ケーブルは非常に長いため、一定区間ごとに中継器を設けて信号を増幅している。ケーブルが故障したときには、どこの中継器まで信号が届くかといったことから障害箇所を特定したりするそうだ。
故障した海底ケーブルは、船上に引き揚げて修理する。まず、該当箇所に船を移動し、切断された片方を探して引き揚げる。切れずに故障している場合には、切ってから引き揚げることになる。そうして引き揚げた片方は、ケーブルにブイ(海上に浮く目印)を付けていちど海底に戻してしまう。
そのあとでもう片方を探して引き揚げ、間につなぐ予備ケーブルと接続する。そして、ブイを付けたほうのケーブルを再び引き揚げ、予備ケーブルの反対側と接続すると、両側が繋がるわけだ。ケーブルが繋がれば、試験のうえ海底に戻す。
海底を這っているケーブルを海上に引き揚げるには、少なくとも水深の分の長さの余裕が必要だ。そのため、修理が終わると水深の2.5倍ほどケーブルが長くなるのだそうだ。
では、船内の見学に出掛けよう。
海底ケーブルを船内に引き込む大きなドラム
ヘリポートやブリッジの下に、ケーブルを引き込んで修理作業をする「作業甲板」がある。ほぼ船首から船尾までの広い空間だが、ケーブルが通るため、柱は一本もない。
ケーブルを海から引き揚げたり海に繰り出したりする動力装置には、船首側に設けられた「ドラムケーブルエンジン」と、船尾側に設けられた「リニアケーブルエンジン」がある。ドラムケーブルエンジンは、回転するドラムにケーブルを巻いていくもので、ケーブル保持力や細かな制御に優れるため、主に保守作業に使われる。一方のリニアケーブルエンジンは、直線に並んだタイヤにケーブルを挟んでケーブルを引き揚げたり繰り出したりするもので、速度に優れるため主に敷設作業に使われる。
KDDIオーシャンリンクの主な任務は保守作業のため、ドラムケーブルエンジンが中心で使われている。船首のバウシーブ(滑車)から引き揚げられたケーブルがそのままドラムケーブルエンジンに巻き取られる。そこで張力ゼロに調整されたうえで、船内で接続作業がなされるわけだ。
波に揺られながら繊細な光ファイバー接続が十数時間続く
1本の海底ケーブルは、何本も収納されている光ファイバーと電気を流すための銅テープから成っている。このうち、光ファイバーを接続するにはデリケートな作業が必要だ。作業は、作業甲板の一角、ビニールテントのクリーンルームでなされる。
作業手順は、まず光ファイバーの接続箇所の被覆を取り除いて超音波洗浄し、さらに切断面が垂直になるようにカッターで切る。そのうえで器械にセットして2本を融着する。融着して接続されたら、被覆で保護してから収納体に収める。海底に沈めた後20~30年持つように、また接着点で減衰が起こらないよう、一般の地上での光ファイバー接続に比べ信頼性の高い作業が求められる。
1本のケーブルには多数の光ファイバーが収められているため、接続するファイバーを間違わないように色分けがなされている。光ファイバーを接続するには資格が必要なのだが、海底ケーブルシステムに使用されているケーブルはシステムごとにそれぞれ種類が違うため、すべてを接続するには十数種類の資格を取得している必要があるのだそうだ。また、色分けや光ファイバーの本数もケーブルごとに異なり、4色に色分けされたファイバーがそれぞれ42本ずつ収納されたタイプなどもあり、間違わずに接続するためには慎重な作業と知識が必要となるという。
接続は、カットまでの作業が1人、癒融着が1人と、2名で行う。癒融着だけなら1箇所で2時間程度だが、本数があり、接続箱を組立てるため、作業は連続十数時間に及ぶ。ファイバーは折れやすいうえ、海の上で揺れるので、集中力も問われる。
海底の作業に水中ロボットが行く
海底ケーブルを引き揚げたり敷設したりするときに活躍する最新メカが、水中ロボット(ROV:Remote Operational Vehicle)の「MARCAS-II」だ。水深2,500mまで潜り、マニピュレーターでケーブルを切断したり、底面のウォータージェットで海底面の土砂を掘削して修理の済んだケーブルを埋設したりする。
ROVは船内のコントロールキャビンから操縦する。コントロールキャビンはちょっとした操縦席で、パイロットとコパイロットの2人がパイロットシートに着く。船とROVの間は、アンビリカルケーブル(「へその緒」)によって電力や信号が送られる。
ROVは、海底面との距離をソナーで測りながら、8つのスラスターで移動する。カメラが装備されているが、ライトで照らしてもカメラの視界が効かない場合には、ケーブルの磁気を検出するケーブルファインダーや、金属探知機などを頼りにケーブルを探す。
コンピュータ制御で船を同じ位置にキープ
ケーブル船が特殊な点として、同じ場所に長く留まって作業するということがある。航行装置もそれに合わせて独自の工夫がなされている。
まず、特徴的なのは、船を推進させるプロペラの回転数が一定なことだ。かわりに、プロペラの羽根の角度が変わることで推力を制御する。同様に、角度を変えることで推進する向きを変えることもできる。これと、船体を制御するスラスターとによって、船を細かく制御できるようになっているわけだ。
操船は船長の役割だ。ブリッジには特徴的な機器として、自動船位置保持装置(DPS:Dynamic Positioning System)が装備されている。DPSは、GPS情報や風速、潮流などを計算し、船を長時間一定地点に留めたりできる。また、設定したコースを、設定した方向に船首を向けながら進めるといったこともできる。
北太平洋の荒波を超えて進む船乗りたち
生活空間も少し見せてもらった。平均3週間ほどの航海の間に船員が暮らす居室は、個室が用意され、ホテルのシンプルなシングルルームといった様子だ。
船乗りというと男性のイメージがあるが、女性の乗組員もいる。また、フィリピン人の船員も多く、特に食堂の料理人としてはほとんどフィリピン人が働いているという話だった。
最後に、横浜ゾーンで最も厳しいという北太平洋での船の写真を見せてもらったので紹介したい。まさに荒海である。























































