2026年3月16日 07:00
変化の激しい時代に「25年先」を語る意味
旭化成ネットワークスは、旭化成グループ最大の生産拠点である宮崎県延岡市にデータセンターを設立し、2004年にサービスを開始している。旭化成の製造現場で培われた安全と品質を生かしたサービスを、20年以上にわたり旭化成グループ内外の顧客に提供している。
製造業を親会社とし、延岡でデータセンター事業を展開する旭化成ネットワークスにとって、現在の課題や今後の展望、近年急増するAIの需要への対応などをどのように考えているのか。旭化成ネットワークス代表取締役社長の堀越岳氏に話を伺った。
――本誌「クラウド&データセンター完全ガイド」は、おかげさまで創刊25周年を迎えました。四半世紀という節目に、あえて「25年後の未来」というテーマを掲げ、各社のリーダーにお話を伺っています。旭化成ネットワークス様としては、この遠い未来をどのように見据えていらっしゃいますか。
堀越氏:正直に申し上げますと、25年後というのはこれまで想像したこともないような遠い未来です。
ただ、旭化成グループとしては3年単位の中期経営計画を軸に動いており、今年の春には新しい中計を策定しました。その中では、あえて2035年という少し先のターゲットを定め、売上目標や外販比率を「夢」として掲げています。数字は半分「えいやっ」で決めた面もありますが、リーダーとして進むべき方向を指し示し、社員がワクワクできるビジョンを語ることが、今の時代には必要だと考えています。
――足元では、どのような事業の変化を感じていらっしゃいますか。
堀越氏:私たちがこれまで主力としてきた社内向けのホスティングサービスやファイルサーバー事業は、時代の流れとともに徐々に縮小していく傾向にあります。そこで次の一手として、外販向けの新しいクラウドサービスを検討していたのですが、昨今のBroadcomによるVMware買収の影響を受け、ライセンス体系の変化などから少し出鼻をくじかれた格好になっています。現在は、VMware以外の選択肢も含め、お客様にとって最適な「外販の形」を改めて再構築している最中です。
GPU需要がもたらすデータセンターの変質
――外販という文脈では、昨今の生成AIブームに伴うGPU需要が非常に高まっています。こちらについてはどう捉えていらっしゃいますか。
堀越氏:GPUを中心としたビジネスは、従来のデータセンターの常識を覆す可能性があると感じています。これまでのハウジングやクラウドは、一度契約すれば5年、10年と長期でご利用いただくのが一般的でした。しかし、GPUについては、特定のプロジェクトのために1年や1年半といった短期間だけ爆発的な計算能力を必要とするお客様が増えていくでしょう。
――確かに、ハードウェアの進化が早すぎて、GPUが陳腐化するのも早いですからね。
堀越氏:その通りです。また、GPUが発する膨大な熱をどう逃がすかという点も切実です。私たちの建物は築20年を超えており、そのままの設備で最新の水冷サーバーを導入するのは容易ではありません。そのため、現在ある3つのサーバールームのうち1つを段階的に整理してカラの状態にし、そこに水冷や液浸冷却といった次世代の設備を導入する準備を進めたいと考えています。幸い、私たちはコンテナ型の液浸冷却システムなどの知見も蓄積しており、こうした新しい試みにクイックに挑戦できるのが強みだと自負しています。
「延岡」という立地と人材獲得への危機感
――技術的な進化の一方で、運用を支える「人」の確保についても深刻な課題があると伺いました。
堀越氏:そこは非常に大きな課題です。私たちの拠点は宮崎県延岡市にありますが、少子高齢化に加え、隣の熊本県に海外企業の巨大工場が進出した影響が非常に大きいです。
――採用戦略も変わってくるのでしょうか。
堀越氏:これまでは地元の高卒採用が中心でしたが、今後は大卒採用にも本腰を入れる必要があります。ただ、それ以上に大切なのは、今いる社員のモチベーションをどう高めるかです。
データセンターの運用の現場は、どうしても「ミスがなくて当たり前、何かあれば減点」という評価になりがちです。これでは若い世代が夢を持てません。私は「失敗してもいいからチャレンジしよう」と繰り返し伝えていますが、やはり保守的な現場に新しい風を吹き込むのは難しい。そこで、今年春の実施に向けて、エンジニアのスキルアップを促す社内プロジェクトを動かしています。まずは会社側が「運用の評価軸を変える」という姿勢を示すことが第一歩だと思っています。
安全靴が象徴する、製造業としての矜持
――昨日センターを見学させていただいた際、最も印象的だったのが「安全靴」です。スリッパではなく、つま先に鉄板の入った本格的なものを履いて入館するのは、他のデータセンターではまず見かけません。
堀越氏:それこそが旭化成のDNAかもしれません。私たちは工場地区の中で長年ビジネスを営んできた背景があり、そこでの厳しい安全基準がデータセンターの運用にもそのまま持ち込まれています。サーバーのラッキング一つとっても、独自の安全ルールがあり、外部のパートナー企業様にもそれを徹底していただいています。
――BCP(事業継続計画)や避難訓練の細かさについても、他のセンターとは一線を画しているように感じました。
堀越氏:私自身、東京勤務からこちらへ赴任してきた当初はその徹底ぶりに驚きました。震度いくつで対策本部を立ち上げ、誰がどこに集まるか。備蓄はどう管理するか。こうした「現場の規律」は、地味ではありますが、お客様の大切なデータを預かる上で最も信頼に直結する部分です。
延岡という立地は一見すると不利に見えるかもしれませんが、この「製造業由来の安全性」こそが、25年後も変わらない私たちの最大の差別化ポイントになると確信しています。
――技術がどれほど進化しても、その根底にある「安全を守る姿勢」は変わらないということですね。ありがとうございました。


