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日立が新経営計画「Inspire 2027」を発表、Lumada事業の強化に重点投資
2024年度連結業績は増収増益、2024中期経営計画ではすべてのKPIが大きく伸長
2025年4月30日 06:15
株式会社日立製作所(以下、日立)は28日、2027年度を最終年度とする新経営計画「Inspire 2027」を発表。売上収益は、2027年度までの年平均成長率で7~9%、Adjusted EBITAは同13~15%とするほか、キャッシュフローコンバージョンでは2027年度に90%超、ROICでは12~13%の水準を目指す。
さらに「Lumada 3.0」を発表し、Lumada事業の強化に重点的に投資。日立が持つドメインナレッジで強化したAIによって、社会インフラを進化させる新たな方向性を示した。2027年度には、Lumadaの売上収益比率は50%、Adjusted EBITA率で18%を目指す。
日立の德永俊昭社長兼CEOは、「日立はIT、OT、プロダクトを併せ持つ、世界でもユニークな企業である。その強みは、テクノロジーとドメインナレッジを統合し、社会インフラをトランスフォームできること、分断が加速する世界においても、地域ごとの課題に寄り添える自律分散的な事業構造を持っていることにある」と、日立のユニークなポジションを強調。
「Inspire 2027は、現在の不透明な事業環境を踏まえ、これまで以上に、キャッシュフローの強化、キャピタルアロケーションの最適化、ポートフォリオ改革に取り組むことになる。これにより、日立の強みをフルに発揮して、企業価値のさらなる向上を目指す」とした。
さらに、成長と収益性のエンジンとするLumadaの売上収益比率を80%、Adjusted EBITA率で20%を目指す「Lumada 80-20」を打ち出し、「日立をデジタルセントリック企業に変革するという揺るぎない決意を示すために、これを経営の長期目標として新たに設定した」と宣言。継続的なLumadaへの投資強化と、事業ポートフォリオ改革を進める考えを示した。
「日立は今後もLumadaに注力し、Lumadaの成長で、日立全体も成長していくことに変わりはない。成長性や収益性向上が見込めないノンLumada事業については、領域を選ばずに、着実に対応し、整理を進める」とも述べた。
続けて「2025年度に入り、事業環境は不透明さを増している。そうした状況においても、リスクを見極め、高いアジリティで、経営の打ち手を講じていく。Lumada 80-20という長期的な方向性を、揺るがすことなく経営にあたり、持続的に成長させ、日立を次のステージに引き上げる。そして、環境、幸福、経済成長が調和するハーモナイズドソサエティの実現に貢献したい。日立グループ28万人の力を、『真のOne Hitachi』として統合し、Inspire 2027の実行により、企業価値のさらなる向上に取り組む。持続的成長に向けた主要課題にも正面から向き合っていく」との基本姿勢を示した。
Inspire 2027の推進体制として、デジタルシステム&サービス、エナジー、モビリティ、コネクティブインダストリーズの主力4事業を、日本、米州、EMEA、APAC、インド、中国のグローバル6極で展開。CEO直下に新設した戦略SIB(Social Innovation Business)により、One Hitachiによる新たな主力事業の育成に乗り出すことを掲げた。
新たに打ち出したのが「Lumada 3.0」である。
2016年にローンチしたLumadaは、IoTプラットフォームとして、顧客の業務をデータドリブンで進化させる役割を担ってきた。これをLumada 1.0とすると、2024中期経営計画において、GlobalLogicを買収し、デジタルエンジニアリングを大きく強化したのがLumada 2.0だ。顧客のバリューチェーン全体をデジタルによって進化させる役割を果たしてきた。そして、Inspire 2027において打ち出したLumada 3.0は、これまでの事業ポートフォリオ改革によって、日立のデジタルケイパビリティ、ドメインナレッジ、インストールベースが大幅に強化されたことをベースにして事業を展開。日立のドメインナレッジで強化したAIを活用して、社会インフラのトランスフォームに取り組むことになるという。
また、Lumada 3.0への進化に伴い、Lumadaの事業内容も明確化およびシンプル化する考えも示した。これまでのコネクテッドプロダクトとシステムインテグレーションを「デジタライズドアセット」に集約。マネージドサービスとデジタルエンジニアリングを「デジタルサービス」へと統合した。
デジタライズアセットでは、日立がグローバルに展開しているエネルギー、鉄道、インダストリーのインストールベースが、データを生み出す源泉であるのと同時に、価値を生み出す資産であることを明確化。また、デジタルサービスでは、収集したデータを価値に変換する取り組みを強化するという。
Lumada 3.0の具体的な事例のひとつにあげたのが、HMAX(Hyper Mobility Asset Expert)である。
HMAXは、NVIDIA AIテクノロジーを活用するとともに、日立が持つ鉄道のドメインナレッジとAIを組み合わせることで、車両、信号、鉄道運行状況などの稼働データをリアルタイムで収集、分析し、鉄道インフラの資産効率を高めるという。すでに全世界で8000両の鉄道車両にHMAXが適用され、保守コストの15%低減、列車遅延の20%削減などを達成しているという。
さらに、Lumada 3.0では、鉄道向けに開発したHMAXをベースに、HMAX for Energy、HMAX for Industryとして、他業種にも展開することを計画。他社のインストールベースにも展開することも視野に入れるという。すでに欧州では他社の鉄道車両にもHMAXを適用しているという。
Inspire 2027では、Lumadaをコアに、主力4事業の強化に乗り出す姿勢も明確にした。
ひとつめのデジタルシステム&サービス(DSS)セクターでは、DX市場の拡大をとらえて、成長と収益性の向上を持続。同時にデジタルを全セクターに供給し、全社Lumada事業をけん引する役割を担うことになる。
DSSでは、2027年度までの3年間の売上収益は年平均成長率で7~9%とし、Adjusted EBITA率では16%超を目指す。「DX市場は、国内、海外ともに引き続き成長が続く。課題は、OTとAIの融合によるケイパビリティの強化、収益性向上に向けた事業ポートフォリオの継続的な見直しとなる。一方で、成長戦略としては、GlobalLogicを中核として、AI適用を含むグローバルDX事業の拡大、日本における良質な大規模ミッションクリティカルSI案件の獲得に加え、関連するDX案件を獲得し、トップラインとボトムラインの成長を実現する」とした。同社では、GlobalLogicにおける継続的なボルトオンM&Aを進める考えも明らかにしている。
2つめのエナジーセクターでは、GX(Green Transformation)のスーパーサイクルをとらえて成長を持続。サービスを強化し、収益性の向上を目指す。
2027年度までの売上収益は年平均成長率で11~13%とし、Adjusted EBITA率で12%超を目指す。「2030年以降も継続的な成長を遂げる分野であり、6兆5000億円のバックログに対応できる生産能力の増強と、収益性向上のためのサービス事業の拡大が課題となる。HMAX for Energyにより、保守サービスを革新するほか、SMR(小型モジュール炉)を将来の成長エンジンのひとつに位置づけ、グローバル展開を検討していく」という。
3つめのモビリティセクターでは、HMAXを通じてサービス事業を、車両および鉄道インフラ全体に拡大。2027年度までの売上収益は年平均成長率で7~9%を見込み、Adjusted EBITA率で11%超を目指す。「デジタルサービスの伸長が期待できる分野であり、ここでも6兆円を超えるバックログがある。生産効率のさらなる向上と、サービス事業の拡大を進める。地政学リスクに対応した地産地消の拡大や、HMAXやAIによるサービス事業の展開を進める」とした。
最後に、コネクティブインダストリーズセクターでは、事業ポートフォリオ改革を急ぐ一方で、産業オートメーション市場での成長を目指すという。2027年度までの売上収益は年平均成長率で6~8%を見込み、Adjusted EBITA率では13%超を目指す。「バッテリー、バイオファーマ、高機能材料で高い成長が続いている。また、産業オートメーション市場において、フロントワーカーの生産性向上につながる自動化、効率化などのサービスの具体化を進める。HMAX for Industryの展開も進めることになる」とした。
Inspire 2027では、持続的成長を支える新たな事業機会の獲得にも挑む。
CEO直下に新設した戦略SIBがその推進役となり、One Hitachiのリソースを結集し、新たな成長領域での事業創出に取り組むことになる。ここでは、R&D部門との連携により、先進的な自主技術開発によるイノベーションの創生にも取り組む。さらに、コーポレートベンチャー部門である日立ベンチャーを戦略SIBの管掌とし、スタートアップ企業への投資やエコシステムを活用したイノベーションにも注力する。
德永社長兼CEOは、「Inspire 2027期間中に、戦略SIB向け事業開発投資として、最大5000億円を投じ、企業価値向上につながるリターンの創出に取り組む」と述べた。戦略事業領域として、Data Center、eMobility、Smart City、Healthcareの4つを挙げ、「中でもData Centerは、アプリケーションからエネルギーまで、One Hitachiによって、トータルインテグレーションできる力を持っている分野である。新たな成長を獲得するために、データセンターのドメインナレッジを持つ業界エキスパートを採用した。データセンターが戦略SIBのアーリーサクセスとなるように取り組みを加速する」と位置づけた。
さらに、R&Dの強化によって、日立自らが新たな技術を通じてイノベーションを起こし、次の成長領域を作る取り組みも強化。具体的には、治療、移動、量子、宇宙といった領域にフォーカスしながら、3年間で最大1兆3000億円の研究開発投資を行う。
一方、真のOne Hitachiを支える経営基盤の強化として、グループおよびグローバルでのリスクマネジメントを継続的に強化。グローバル自律分散型経営を推進するとともに、リスクとともに生まれる新たな成長機会を追求することにも取り組む。「例えば、米国市場は日立グループにとっては重要な市場であり、1兆3000億円の事業規模がある。だが、現在の自国優先主義への移行は一過性のものではないと考えている。地産地消をさらに強化し、事業リスクの低減に取り組む」と述べた。
人的資本への投資にもついても言及。役員を対象にしていた株式報酬を、初めて従業員にも拡大し、報酬水準の向上を図るとともに、企業価値向上へのコミットを高める。また、生成AIの利活用人材の強化、Future50によって成果をあげてきた次世代リーダー育成プログラムの強化も図る。
さらにサステナブル経営の深化として、関連指標を定めるとともに、役員報酬とも連動させ、社会への貢献にも継続してコミットするという。
德永社長兼CEOは、「真のOne Hitachiとなることが、Inspire 2027で目指す姿の実現において鍵になる。デジタルをコアとして、各事業の強みを掛け合わせ、日立ならではの価値を創出し、持続的な成長を目指す」と述べた。
なお德永社長兼CEOは、2025年度から、戦略SIBを含む全セクターのリーダー、地域のリーダー、コーポレートのトップが一堂に会して、戦略を議論し、具体的な動きを決めていく場を用意したことを明かしながら、「当初想定したよりも、活発な議論を生んでおり、今後の戦略実行には大きなプラス材料になると考えている。One Hitachiを実行することができており、今後の事業成長に期待できる状況にある」などとし、経営層による新たな取り組みに手応えを示した。
2024年度連結業績は増収増益
日立は、2024年度(2024年4月~2025年3月)連結業績を発表した。
売上収益は前年比0.6%増の9兆7833億円、調整後営業利益は同28.6%増の9716億円、Adjusted EBITAは同24.4%増の1兆1418億円、税引前当期利益は同16.6%増の9627億円、当期純利益は同4.4%増の6157億円と、増収増益となった。
2024年度は、2024中期経営計画の最終年度であったが、德永社長兼CEOは、「2024年度の業績は素晴らしいものであった」と自己評価。「2024中期経営計画では、すべてのKPIが大きく伸長し、目標としたオーガニック成長へのモードチェンジを実現した。また、企業価値が大きく向上し、ROIC重視の経営が定着した。10年以上に渡って進めてきたグローバル自律分散型経営が進展し、日立グループの現地調達率は82%に達し、地政学的リスクへの耐性も高まりつつある。だが、収益性や資本効率にはギャップがあり、次なる成長投資については、いい巡り合わせがなく、実行ができなかったという反省もある。リスクマネジメントの継続的に強化していくことも必要不可欠な要素である」と、反省点をふまえながら、2024中期経営計画を総括した。
2024年度のLumada事業の売上収益は前年比29%増の3兆210億円となり、全社売上収益に占める割合は31%。Adjusted EBITA率は15%となっている。Lumadaの売上収益の内訳は、デジタルサービスが前年比40.1%増の1兆4050億円、デジタライズドアセットが同21.4%増の1兆6160億円となった。
Lumada事業のセグメント別売上収益は、デジタルシステム&サービスが前年比22%増の1兆2810億円、コネクティブインダストリーズが同21%増の1兆610億円、グリーンエナジー&モビリティが同66%増の6790億円となった。
セクター別では、デジタルシステム&サービスの売上収益は前年比9%増の2兆8325億円、Adjusted EBITAは639億円増の3973億円となった。そのうちフロントビジネスの売上収益は11%増の1兆2280億円、Adjusted EBITAは306億円増の1544億円。ITサービスは9%増の1兆586億円、Adjusted EBITAは210億円増の1330億円。サービス&プラットフォームは9%増の1兆698億円、Adjusted EBITAは120億円増の991億円となった。
GlobalLogicの業績は、売上収益が前年比18%増(ドルベースでは12%増)の3017億円、Adjusted EBITAは75億円増の573億円となった。
グリーンエナジー&モビリティの売上収益は前年比28%増の3兆9155億円、Adjusted EBITAは1698億円増の3690億円。そのうち、日立エナジーは、売上収益が前年比30%増の2兆3955億円、Adjusted EBITAは1089億円増の2662億円。
コネクティブインダストリーズの売上収益は前年比3%増の3兆1631億円、Adjusted EBITAは413億円増の3620億円となった。
2024年度の受注状況についても説明した。デジタルシステム&サービスは前年比8%増の2兆9787億円。そのうち、そのうちフロントビジネスは7%増の1兆3030億円、ITサービスは11%増の1兆1518億円、サービス&プラットフォームは9%増の1兆698億円となった。また、グリーンエナジー&モビリティの受注高は前年比35%増の6兆4716億円。コネクティブインダストリーズの受注高は同1%減の3兆295億円となっている。
なお、日立グループの地域別業績では、日本の売上収益が前年並の3兆7792億円となり、構成比は39%。海外は1%増の6兆41億円で、構成比は61%となった。海外のうち、中国が前年比12%減の1兆154億円で構成比は10%、ASEAN・インド他が同17%減の8278億円で構成比は9%。北米が同3%減の1兆5280億円、構成比は16%。欧州は同23%増の1兆9026億円となり、構成比は19%。その他地域が同9%増の7302億円で、構成比は7%となった。
2025年度の通期業績は増収増益を見込む
一方、2025年度(2024年4月~2025年3月)通期業績見通しは、売上収益は前年比3.2%増の10兆1000億円、調整後営業利益は同3.4%増の1兆500億円、Adjusted EBITは同2.4%増の1兆1100億円、税引前当期利益は同8.0%増の1兆400億円、当期純利益は同15.3%増の7100億円とした。
日立 執行役専務 CFOの加藤知巳氏は、「世界経済の不透明性が拡大しているが、DXやGXのモメンタムは、中長期では変わらないと想定している。DSS、エナジー、モビリティの継続的な成長に向け、オーガニックな戦略投資を進めていく」とする一方、「米国相互関税がすべて適用されたと仮定し、米国事業での直接影響として、Adjusted EBITで300億円、当期利益で350億円を織り込んだ」とも説明した。
2025年度のLumada事業の売上収益は前年比28%増の3兆9000億円とし、全社売上収益に占める割合は38%にまで拡大させる。Adjusted EBITA率は16%とした。Lumadaの売上収益の内訳は、デジタルサービスが前年比28.1%増の1兆8000億円、デジタライズドアセットが同30.0%増の2兆1000億円とした。
セクター別では、デジタルシステム&サービスの売上収益は前年比7%増の3兆200億円、Adjusted EBITAは429億円増の4370億円とした。そのうちフロントビジネスの売上収益は5%増の1兆2950億円、Adjusted EBITAは193億円増の1725億円。ITサービスは5%増の1兆1110億円、Adjusted EBITAは84億円増の1410億円。サービス&プラットフォームは1%増の1兆1400億円、Adjusted EBITAは347億円増の1310億円とした。
GlobalLogicの業績は、売上収益が前年比12%増(ドルベースでは17%増)の3367億円、Adjusted EBITAは71億円増の644億円となった。
エナジーの売上収益は前年比7%増の2兆6270億円、Adjusted EBITAは619億円増の3140億円。モビリティの売上収益は前年比2%増の1兆1900億円、Adjusted EBITAは20億円増の970億円。コネクティブインダストリーズの売上収益は前年比2%減の3兆2300億円、Adjusted EBITAは6億円増の3460億円とした。
德永社長兼CEOは、「2025年度は、今後の成長に向けて、きちっと仕込みを行う重要な1年になる。足元の事業にはしっかりと取り組みながら、戦略SIBに代表されるような新たな事業の創生を行う部分にも注力する年になる」と位置づけた。