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日立の2023年度連結業績は減収増益、“成長と収益向上のドライバー”Lumada事業は拡大
2024中期経営計画の進捗も説明
2024年4月26日 22:34
株式会社日立製作所(以下、日立)は26日、2023年度(2023年4月~2024年3月)の連結業績を発表した。それによると、売上収益は前年比10.6%減の9兆7287億円、調整後営業利益は同1.0%増の7558億円、Adjusted EBITAは同3.8%増の9181億円、税引前利益は同0.7%増の8258億円、当期純利益は同9.1%減の5898億円と、減収増益になった。
だが、2023年10月に連結対象から外れた日立Astemoを除いた3セクター(デジタルシステム&サービス、グリーンエナジー&モビリティ、コネクティブインダストリーズ)の売上収益は前年比12%増の8兆5643億円、Adjusted EBITAは1426億円増の8674億円であり、大幅な増収増益になったという。
日立 執行役専務 CFOの加藤知巳氏は、「DXおよびGX市場の堅調な受注を獲得したのに加えて、成長と収益向上のドライバーであるLumada事業も拡大した。さらに、キャッシュ創出力向上により、3セクターでは増収増益になり、為替影響を除いても8%増になっている。コアFCFは過去最高値を達成し、ROICも8.7%と向上している」と総括した。
2023年度のLumada事業の売上収益は前年比19%増の2兆3340億円となり、全社売上収益に占める割合は27%。Adjusted EBITAは同20%増の8674億円となり、全体の39%を占めた。利益率は約15%となっている。Lumadaの売上収益の内訳は、マネージドサービスが7190億円、コネクテッドプロダクトは7780億円、システムインテグレーションは5530億円、デジタルエンジニアリングは2840億円となった。すべての領域において2けた成長を遂げたという。
Lumada事業のセグメント別売上収益は、デジタルシステム&サービスが前年比22%増の1兆470億円、コネクティブインダストリーズが同12%増の8770億円、グリーンエナジー&モビリティが同29%増の4100億円となった。
Lumada事業に関するこれまでの主要な成果についても触れた。
日本においては、次期中央給電指令所システムを共有化する大規模システムを受注。日立の社会BUが持つ基幹システムおよびミッションクリティカルSIと、日立エナジーの電力ネットワーク管理およびSCADAプラットフォーム、GlobalLogicのソフトウェア開発支援を組み合わせて、電力安定供給と脱炭素化に貢献するという。
欧州では、鉄道車両や鉄道設備の状態を管理するとともに、予兆保全ソリューションを統合して、保守コストの削減と信頼性向上を実現した実績があるという。ここでは、日立レールの状態監視と予兆ノウハウ、Hitachi Digital Servicesのデータ収集分析とクラウド化技術を活用し、「鉄道スマートメンテナンス」を実現している。
サウジアラビアでは、NEOMと呼ばれるスマートシティギガプロジェクトに参画。クリーンエネルギー100%で運営するスマートシティづくりの構築に貢献しているとのこと。日立エナジーのHVDCやグリーン水素製造向け電気設備、日立インダストリアルプロダクツおよび日立産機システムのUPSや空気圧縮機、GlobalLogicのデジタルツイン技術を組み合わせているという。
「Lumadaによる社会イノベーション事業がグローバルに増加しているという手応えがある」(日立 執行役社長兼CEOの小島啓二氏)とした。
セクター別では、デジタルシステム&サービスの売上収益は前年比9%増の2兆5986億円、Adjusted EBITAは前年から397億円増の3334億円となった。そのうちフロントビジネスの売上収益は前年比13%増の1兆1112億円、Adjusted EBITAは前年から295億円増の1238億円。ITサービスは前年比9%増の9698億円、Adjusted EBITAは前年から117億円増の1120億円。サービス&プラットフォームは前年比4%増の9835億円、Adjusted EBITAは前年から81億円増の871億円となった。
GlobalLogicの業績は、売上収益が前年比23%増(ドルベースでは15%増)の2551億円、Adjusted EBITAは前年から47億円増の499億円と増収増益になった。
グリーンエナジー&モビリティの売上収益は前年比24%増の3兆523億円、Adjusted EBITAは前年から356億円増の1991億円。そのうち、日立エナジーは、売上収益が前年比31%増の1兆8492億円、Adjusted EBITAは前年から563億円増の1573億円。コネクティブインダストリーズの売上収益は前年比3%増の3兆579億円、Adjusted EBITAは前年から84億円増の3206億円となった。
2023年度の受注状況についても説明した。デジタルシステム&サービスは前年比9%増の2兆7652億円。そのうち、そのうちフロントビジネスは同11%増の1兆2567億円、ITサービスは同11%増の1兆395億円、サービス&プラットフォームは同4%増の9835億円となっている。また、グリーンエナジー&モビリティの受注高は前年比25%増の4兆7942億円。そのうち、日立エナジーがHVDC案件を中心に同49%増の3兆4159億円という高い成長をみせている。コネクティブインダストリーズの受注高は前年並の3兆497億円となっている。
日立の小島社長兼CEOは、「国内IT分野の受注は旺盛であり、むしろ、私たちの人材不足がネックになっているほどだ。強いデマンドはしばらく続くと考えている。生成AIに関するニーズに加えて、生成AIをうまく使うためのITシステムをモダナイズしなくてはならないといったニーズが増えている。また、労働生産性をあげていかないと、海外企業に太刀打ちができないという意識が強くなり、日本の企業にとっては、ITに投資をし、デジタルをうまく活用することが大命題になっている。古いITをモダナイズし、生成AIのような新たなテクノロジーを取り入れる必要があることに気がついた。日本の企業も成長のためにIT投資が必要であることが浸透し、少しでもITコストを減らしたいという文化から切り替わりつつあるという印象がある」と述べた。
また、「生成AIの広がりにあわせて、データ管理インフラが相当伸びると見ており、今後は、ストレージの成長が期待できる。生成AIは、ハイブリッドクラウドで活用することが前提となり、日立の技術はプライベートクラウドとパブリッククラウドを意識せずに利用できるだけでなく、手元のものはセキュアな環境で管理できるのが特徴である。他社にはない技術であり、ハイブリッドクラウドでは大きなチャンスがあると考えている。また、ミッドレンジモデルにおいては、パフォーマンスの改善と、チャネルの強化が課題だったが、この改革の成果が2024年度には出てくる。これまでの日立とは、違う姿をみせることができる」と強気の姿勢をみせた。
なお、日立全社の地域別業績では、日本の売上収益が前年比8%減の3兆77333億円となり、構成比は39%。海外は前年比12%減の5兆9553億円で、構成比は61%となった。海外のうち、中国が前年比14%減の1兆1547億円で構成比は12%、ASEAN・インド他が同23%減の9967億円で構成比は10%。北米が同16%減の1兆5829億円、構成比は16%。欧州は同1%増の1兆5508億円となり、構成比は16%。その他地域が同6%減の6699億円で、構成比は7%となった。
一方、2024年度(2024年4月~2025年3月)通期業績見通しは、売上収益は前年比7.5%減の9兆円、調整後営業利益は同13.1%増の8550億円、Adjusted EBITは同12.7%増の1兆350億円、税引前当期利益は同2.9%増の8500億円、当期純利益は同1.7%増の6000億円とした。
日立の加藤CFOは、「3セクターの売上収益は前年比8%増となり、増収増益の見通しである。また、コアFCFは3年累計で目標を3000億円上回り、1兆5000億円になる見込みである」とした。
Lumada事業の売上収益は前年比14%増の2兆6500億円を見込み、全社売上収益に占める割合は29%。Adjusted EBITAは同19%増の1兆350億円となり、全体の41%を占めることになる。Lumadaの売上収益の内訳は、マネージドサービスが8500億円、コネクテッドプロダクトは8600億円、システムインテグレーションは6300億円、デジタルエンジニアリングは3100億円を見込んでいる。
「Lumada事業の成長と収益性の向上が、日立全体の売り上げと収益の拡大に貢献することになる」(加藤CFO)と位置づけた。
セクター別の見通しでは、デジタルシステム&サービスの売上収益は前年比4%増の2兆7000億円、Adjusted EBITAは前年から315億円増の3650億円とした。そのうちフロントビジネスの売上収益は前年比3%増の前年から1兆1400億円、Adjusted EBITAは前年から162億円増の1400億円。ITサービスは前年比2%増の9900億円、Adjusted EBITAは前年から60億円増の1180億円。サービス&プラットフォームは前年比4%増の1兆200億円、Adjusted EBITAは前年から319億円増の1190億円としている。
なお、GlobalLogicは、売上収益が前年比11%増(ドルベースでは15%増)の2839億円、Adjusted EBITAは64億円増の563億円を見込んでいる。
「GlobalLogicでは生成AIに早い段階から取り組んでおり、生成AIに関する売り上げ、受注が増えている」という。
グリーンエナジー&モビリティの売上収益は前年比12%増の3兆4300億円、Adjusted EBITAは前年から958億円増の2950億円。そのうち、日立エナジーは、売上収益が前年比12%増の2兆667億円、Adjusted EBITAは前年から484億円増の2057億円としている。コネクティブインダストリーズの売上収益は前年比3%増の31500億円、Adjusted EBITAは前年から403億円増の3610億円とした。
2024中期経営計画の進捗も説明
なお2024年度は、同社が取り組んでいる「2024中期経営計画」の最終年度となる。
日立の小島社長兼CEOは、「2024年中期経営計画は、構造改革成果を生かし、オーガニックな成長力を示して企業価値を向上することを目指してきた。目標としていた財務目標はおおむね達成する見通しである」とする。
2024年度には、3セクターの売上収益は9兆円(2024中期経営計画の目標は8兆円)、Adjusted EBITAは1兆400億円(同9600億円)、ROIC9.5%(同10%)、EPS成長655円(同600円)、コアCFCは1兆5000億円(同1兆2000億円)となっているほか、サステナブルの経営で掲げたCO2排出削減貢献量や外国人役員比率、デジタル人財の強化といった非財務目標も達成する見込みだという。
「売上収益についてはGXの追い風があり、欧米でも大きく成長している。また、DXもグローバルで成長している。中期経営計画期間中の年平均成長率は10%を達成することができるだろう。また、各セクターでの受注額、バッグログがともに大きく伸びている。特に、グリーンエナジー&モビリティでは、欧米でのインフラ需要の拡大を受けて力強く成長している。日立エナジーの受注の強さは、中期経営計画策定時の想定をはるかに超えるものになっている」と総括した。
一方で、「2024中期経営計画の期間中には、経済環境の急激な変化やパンデミック、地政学などのさまざまなリスクが顕在化したが、リスクマネジメントシステムの強化によって、リスクへの早期対応が進み、損失が低減でき、当期利益が安定化できている」と述べたほか、「コアFCFの拡大を最優先のテーマにし、キャッシュ重視経営を進めた。前中期経営計画からは50%以上伸ばすことができる」とした。
2024中期経営計画では、成長投資の当初計画を1兆4000億円としていたが、これを1兆8000億円に拡大し、この1年間で1兆円の投資を行う考えを示した。
これまでの2年間では、日立エナジーの完全子会社化に2000億円、GlobalLogicのボルトオンM&Aに1000億円、タレスのGTS部門買収で3000億円、FlexwareやTelesisの買収などに2000億円といったように、個別事業強化に向けた中規模M&Aを中心に合計8000億円を投資してきたが、今回は、個別事業の強化に加えて、新たな成長機会を獲得するための投資計画を進める考えを示した。ここでは、「生成AI」に3000億円、「DXおよびGXで拡大する成長する製造分野」で2000億円、「社会インフラ事業のサービス化の加速」で2000億円、「案件に恵まれた際の機動的M&A」に3000億円の投資を計画している。
小島社長兼CEOは、「成長の速度を緩めずに、さらなるキャッシュを創出することを目的に、成長投資を拡大する。生成AIの出現や、高成長な製造分野を新たな成長機会ととらえており、そこに重点的に投資する。この成果が、次期中期経営計画におけるオーガニックな成長の柱になる。日立グループにとって、新たな成長機会をしっかりとものにしていくことで、サステナブルな成長につなげることができる」との考えを示し、「日立は新たな成長機会をしっかりと獲得できる企業であることを証明して、2024中期経営計画を終えたい」とのコメントした。
「生成AI」では、ソフトウェア生産性向上とともに、生成AIで成長が期待されるデータセンターへの投資を進める。また、AI人材の強化やM&Aも行うという。
「GlobalLogicを中心に日立グループで生成AIを活用することで、要件定義、設計、テスト工程でのソフトウェア開発作業効率が向上するだけでなく、ヒューマンエラーを削減でき、品質向上が見込める。これにより、ソフトウェア生産性向上が実現でき、エンジニア不足の解消につなげることができる。また、労働人口の8割がフロントラインワーカーであり、この領域の生産性向上は、日立グループにとっても重要な意味を持つ。コールセンターなども対象になり、現場の知識やノウハウを存分に生かすためにも生成AIの活用は不可欠だと考えている。エネルギー、鉄道、産業分野に対して、生成AIをいかに活用するかといったことも考えていく。そのための先行投資になる。インダストリアルメタバースの開発に積極的な投資を行う」とした。
また「生成AIの出現によって、急拡大しているデータセンター需要に対応するため、Hitachi Vantaraのハイブリッドクラウド、日立エンジーの受変電設備、日立グローバルライフソリューションズの冷却設備などによるオファリングを強化。さらに、NVIDIAとのパートナーシップに基づいた高信頼データ管理ソリューションであるHitachi iQへの開発投資も進める」と述べている。
なお、生成AIの取り組みについては、「LLMに注目が集まっているが、LLMにデータを供給するデータインフラが重要になっており、そこに、Hitachi Vantaraのデータストレージを活用できる。また、LLMの上にあるOTとITを組み合わせたアプリケーションにおいても、社会インフラと組み合わせた提案ができる。日立は、こうした領域で、生成AIが生み出すインパクトを、ビジネスにつなげたいと考えている」と語った。
また、「DXおよびGXで拡大する成長する製造分野」に対しては、半導体製造やバッテリー製造分野に投資する考えを示した。「データセンターの需要拡大や、GX投資の拡大にあわせて市場規模が拡大する領域に投資をしていく」とする。
半導体分野では、製造検査装置やラインビルド事業を強化。測長SEMの提案や、クリーン環境の構築を進めるとともに、GlobalLogicの需要予測およびデータ統合基盤と組み合わせた提案も行うという。「今後は半導体製造の後工程向けソリューションをLumadaとして提供していくことになる」という。
次世代バッテリーの製造やリユース、リサイクルによる循環型サービスの創生に対しても投資を拡大。検査装置やラインビルド、ライフサイクルマネジメントを組み合わせたバッテリーソリューションを強化するという。
なお、日立エナジーでは、変圧器の製造能力向上に向けて、2027年までに15億ドル以上の投資を行うことを発表しているが、小島社長兼CEOは、「データセンターを作るときに、世界中で最も足りないのが変圧器である。製造能力の向上は、複数の案件をまとめてキャパシティを確保するフレームアグリーメントによるものであり、そのための投資になる」と述べた。
また、「社会インフラ事業のサービス化の加速」では、エネルギー、鉄道、産業機器の領域における大きなインストールベースを活用して、サービス事業化を加速するという。GlobalLogicが持つデジタル技術を活用し、稼働率向上や保守の高度化、運用と維持の最適化なども進めるとしている。