大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

Hitachi Investor Day 2025から、日立の成長戦略を追う

 株式会社日立製作所(以下、日立)は11日、Hitachi Investor Day 2025を開催した。

 2025年4月に就任した德永俊昭社長兼CEOが打ち出した日立グループ新経営計画「Inspire 2027」に基づき、デジタルシステム&サービス、モビリティ、エナジー、コネクティブインダストリーズの主力4事業(セクター)の責任者から方針が示された。

 德永社長兼CEOは、「日立は、企業価値のさらなる向上に向けたトランスフォーメーションの途上にある。Inspire 2027により、デジタルセントリック企業への変革を加速することになる。サステナブルな社会インフラへの革新ニーズの拡大するなか、デジタルをコアに、独自の価値を創り出し、社会イノベーション事業でのグローバルリーダーを目指す」との基本方針をあらためて強調。

日立 代表執行役 執行役社長兼CEOの德永俊昭氏

 「Lumada事業の拡大」、「キャピタルアロケーション」、「ガバナンスの深化」の3点を経営の優先事項に位置づけ、Inspire 2027で経営指標に掲げた売上収益の年平均成長率7~9%、Adj. EBITA率13~15%、CFコンバージョン90%超、ROICで12~13%の達成に意欲をみせた。

デジタルセントリック企業への変革加速に向けた優先事項

 また、Lumada事業の拡大に向けては、生成AIの急速な拡大により、データから新たな価値を創出できるようになったことが大きな転換点になっていると指摘。「生成AIの活用により、Lumadaをさらに進化させ、高い収益性と持続的な成長を実現できると考えている」と述べた。

 同社では、Lumadaの新たな長期目標として、Lumadaの売上収益比率80%、Lumada のAdj.EBITA率20%を目指す「Lumada80-20」を打ち出している。

 「Lumada 80-20を軸に、ポートフォリオの強化を継続する。Lumadaを強化するミッシングピースの獲得に加え、次の成長領域や技術革新を見越したポートフォリオの整備を進める。その一方で、Lumada 80-20との親和性が低く、成長性や競争優位性が低い事業については再編を進める」と語る。

生成AIがデータから新たな価値を創出、Lumada事業の成長を加速
Lumada 80-20を軸にポートフォリオ強化を継続

 また、「日立が持つ幅広いドメインナレッジ、巨大なインストールベース、高度なデジタルケイパビリティの強みを、飛躍的な成長のドライバーへと変えていく。これらの強みは、主力4事業(セクター)でのシナジーを実現する上でも大きなアドバンテージになる。Lumada事業を飛躍的に成長させることにつながる」と語った。

デクのロジーとビジネスモデルの革新で、日立の強みを飛躍的な成長のドライバーに

 さらに、「価値創出やリターンの最大化を実現する上で、キャピタルアロケーションは極めて重要になる。リターン重視の成長投資と、株主還元をバランスよく機動的に配分していく。厳格な投資基準により、ボルトオンM&Aを中心に投資し、ROIC向上に寄与する成長投資を積極的に実施する。また、自律分散型グローバル経営を推進しながら、ガバナンスを深化させ、持続的成長を実現する経営と企業文化への変革を図る。そして、日立のトランスフォーメーションを支えるのが、4つの主力事業(セクター)とコーポレートの一体運営になる。デジタルをコアに価値創出を加速する真のOne Hitachi目指す」と、今後の方向性を示した。

成長投資と株主還元の両輪で、価値創出・リターンを最大化

DSSセクター:収益性の高いSIやサービスに注力し、さらなる生産性向上とプライシング最適化を推進

 デジタルシステム&サービス(DSS)セクターに関しては、日立 代表執行役 執行役副社長 社長補佐 デジタルシステム&サービス事業責任者の阿部淳氏が説明を行った。

日立 代表執行役 執行役副社長 社長補佐 デジタルシステム&サービス事業責任者の阿部淳氏

 まずは、2024年中期経営計画の成果について振り返った。

 DSS事業では、Lumada事業が成長をけん引し、売上収益およびAdj. EBITAが、ともに拡大したことを報告。モダナイゼーションや大規模ミッションクリティカル案件の受注が拡大したこと、GlobalLogicを中心にサービス事業が伸長したこと、プライシングの見直しなどにより収益性が改善したことなどを要因に挙げた。

Lumada事業が成長をけん引し、売上・Adj.EBITAを拡大

 その上で、阿部副社長は、「SI事業は1兆円を超える規模となり、サービス事業とともに順調に売上収益を拡大し、収益性も改善した。その一方で、国内およびグローバルの競争力をさらに高めること、経営基盤をさらに強化する必要がある」と総括した。

 新経営計画「Inspire 2027」においては、ミッションクリティカルなIT、OT、インテグレーションに、先進的なAI技術を組み合わせることで、社会インフラをAIで革新する事業をグローバルに展開し、「ハーモナイズドソサエティの実現に貢献するとともに、持続的な成長を追求する。AIを成長ドライバーに、国内事業のさらなる成長とグローバル事業の加速に重点的に取り組む。また、すべてのセクターにおけるLumada事業の拡大に貢献し、日立グループ全体の収益性向上をDSSセクターがけん引する」との方針も示した。

ハーモナイズドソサエティの実現に向けて社会インフラをAIで革新

 2027年度までに売上収益の年平均成長率は7~9%を想定。そのうち、Lumada事業の年平均成長率は22~24%とし、Lumadaの売上収益比率は2024年度の45%から、2027年度には約65%にまで高める。Adj. EBITA率は2024年度の13.9%から、2027年度には16%超を目指す考えだ。力強い成長戦略を描いていることがわかる。

 DSSセクターの基本戦略として、国内事業では、SIおよびサービス/リカーリングに注力。その一方で、グローバル事業では、GlobalLogicと、One HitachiによるLumada事業を加速する方針を打ち出した。

 国内SI事業においては、「実行力を強化する」と述べ、売上収益の年平均成長率は7~8%、Adj. EBITA率は16~17%を計画。生成AIの徹底的な活用による生産性の向上、豊富なドメインナレッジを強みにした顧客業務の効率化、社会インフラの高度化を進めるという。

 「日立ならではの新たな価値を迅速に提供する。2027年度には生成AIの活用により、SI工程全体で1000億円の適用効果を創出することになる。また、GlobalLogicおよびHitachi Digital Servicesのインド、ベトナム、東欧のエンジニアを、国内システムの開発に活用し、3500人/月にまで高める。国内のSI実行力を強化することができる。さらに、GlobalLogicが持つ先進的デジタル技術を活用し、AI開発環境を整備して、ソフトウェア開発の効率化、IP資産の利活用を推進する」と語った。

SI事業の実行力強化

 生成AIを活用したプロジェクト事例についても紹介。共栄火災では、2025年4月から大規模基幹システムのモダナイゼーションを開始。必要とする大量の情報検索に生成AIを活用して、システム移行や開発作業における負担の軽減と、開発精度の向上を実現した。

 JR東日本では、2025年9月からのプロジェクト開始を想定し、東京圏輸送管理システム「ATOS」における鉄道運行管理および保守業務の効率化を目的に、生成AIを活用した検証を共同で実施する計画を発表。鉄道運行管理に特化したLLMの構築や、熟練者の思考プロセスを再現した故障対応シナリオに基づくAIエージェントの開発、システム開発における要件定義、設計および製作業務への生成AI適用を視野に、鉄道運行システム全体の信頼性向上を目指すという。

 また、日立 大みか事業所では、品質保証業務に生成AIを適用。お客さまシステムへの対応、トラブル対応に関する熟練者のノウハウを、次の世代に継承するために、蓄積したデータをもとに、100以上の質問と模範回答に基づいて、複数の判断ポイントをAIが学習。経験値に関わらず、適切に情報を検索し、迅速に正確な回答ができるようになったという。

 「社内で実証した成果を、お客さまのミッションクリティカルな業務に実装することができる。AI技術を持っているだけでなく、社会インフラを支えるハードウェアやソフトウェアのモノづくり、システムの構築および運用を担っている日立ならではの強みが発揮できる」とした。

大みか事業所「品質保証業務への生成AI適用」

 また、国内事業のもうひとつの柱であるサービス/リカーリングでは、2027年度までの売上収益で年平均成長率6~7%、Adj. EBITA率は16~17%を目指すという。

 顧客業務に最適なLLMの構築などによる業種特化型LLMサービスに加えて、Hitachi iQ with NVIDIAやHARC for AIなどによって、顧客データをベースにしたAI活用を、高信頼、低コストで実現。AIエージェントなどの高付加価値ソリューションを強化することで、コンサルティングによる業務変革からAI利用環境、AIオファリングまでをトータルでサービス提供するという。

サービス・リカーリング事業の拡大

 グローバル事業での取り組みの柱のひとつであるGlobalLogicについては、2027年度までの売上収益で年平均成長率20%を計画。「日立グループ全体およびDSSセクターの成長エンジンとして、市場を上回る高成長を継続する。Inspire 2027では、ボルトオンM&Aなどにより、デリバリー力をさらに高め、デジタルエンジニアリング事業の継続的な成長を図る。また、各セクターとのシナジー創出を加速させ、事業アセット、サービスのデジタル化を推進する」と述べた。2024年度のシナジー売上収益は前年比67%と大きく成長しており、これをさらに拡大する計画だ。

 さらに、GlobalLogicが持つ高度なデザインエンジニアリング力に、先進AI技術を融合し、ソフトウェアアセットベースのソリューションビジネスにも注力し、市場競争力をさらに強化する考えも示した。特に、GlobalLogic のVelocityAIは、AIエージェントの開発や導入を簡素化する支援サービスであり、企業運営の支援、製品開発スピードの加速、業務改善、顧客体験の向上を実現するという。

 「GlobalLogicは、生成AI分野においてリーダーのポジションにあり、その技術力とともに、約1万6000人のAI人財を活用して、グローバルでソリューション事業を拡大していくことになる」と語った。

GlobalLogicの持続的成長

 また、グローバル事業のもうひとつの重点施策であるOne HitachiによるLumada事業の拡大については、2027年度にLumada売上収益比率で50%、Adj. EBITA率 では18%を掲げ、インストールベースとAIオファリングを融合したHMAX(Hyper Mobility Asset Expert)により、Lumada事業を拡大していく考えを示した。

 HMAXは、NVIDIA AI テクノロジーを搭載したデジタルアセットマネジメントサービスで、モビリティ、エナジー、インダストリーの各セクターにおける成長市場に展開。さらに、HAMXの事業をスケーリングするために、One Hitachi Advisory Boardを新設し、各セクターとTop to Topで戦略共有や、投資を含めた意思決定を迅速に行うという。

One HitachiでのLumada事業拡大

 ここでは、One Hitachiによる事例も紹介した。

 米Southwest Power Poolでは、送電網運用をAIで革新する取り組みを開始。送電網運用のノウハウやAIアルゴリズム、Hitachi iQを中核とする高速データ処理などを、日立社内の事業部門が一体となって、One Hitachiのケイパビリティを融合。これにより、インダストリアルAIシステムを開発して、米国で急速に拡大するエネルギー需要と供給のギャップを解消することを目指すという。

 また、パートナーリングの強化を進めており、NVIDIAとの協業では、日系企業としては初めて「グローバルシステムインテグレーター(GSI)パートナーシップ」に参画。さらに、パートナー各社との協業を通じたAI活用を加速し、DSSがハブとなって日立グループ全社にパートナーリングの成果を展開していく考えも示した。

パートなーリングの進化

 一方で、ROIC経営を徹底するとともに、事業拡大投資を計画的に実行。さらに、人財戦略を強化する考えを示した。ここでは、低成長および低収益事業の継続的な見直しにより、DSSセクターのROICを1~3ポイント向上するほか、日立グループ全体で研究開発投資を3年間累計で1兆3000億円を計画。生成AIプロフェッショナルを5万人に拡大する計画にも触れた。

ROIC経営を徹底、事業拡大投資を計画的に実行するとともに人財戦略を強化

 阿部副社長は、「DSSセクターは、収益性の高いSIやサービスに注力し、さらなる生産性向上とプライシング最適化を推進する。成長戦略を完遂し、持続的な売上拡大と収益向上を目指す」と意気込みを語った。

モビリティセクター:HMAXが長期的なデジタル収益を生み出す基盤に

 モビリティセクターについては、日立 執行役専務 モビリティ事業責任者のジュゼッペ・マリノ氏が説明した。

日立 執行役専務 モビリティ事業責任者のジュゼッペ・マリノ氏

 同事業は、現在50カ国以上で展開し、300以上の顧客に導入。1万6000両の車両を稼働させており、信号設備導入区間は、都市間鉄道では2万6000km、都市内鉄道では4000kmに達するという。また2024年6月には、16億6000万ユーロを投じたタレスGTSの買収を完了させており、その買収効果もあり、現時点での受注残は6兆2000億円の大規模なものとなっている。

2024年度 ハイライト

 Inspire 2027においては、サステナブルの推進、次世代交通のためのイノベーション、リカーリングおよびソフトウェアベースソリューションへのシフトを打ち出し、事業モデル変革を通じたLumada3.0を加速する考えも示した。

Sustainable Global Mobility Player

 Lumada 3.0は、これまでの事業ポートフォリオ改革によって、日立のデジタルケイパビリティ、ドメインナレッジ、インストールベースが大幅に強化されたことをベースにした事業を展開。日立のドメインナレッジで強化したAIを活用して、社会インフラのトランスフォームに取り組むことになる。

 モビリティセクターの2024年度の売上収益は1兆1900億円、Lumada売上比率は29.6%であったが、2027年度の売上収益では1兆4600億円を計画。そのうち、Lumada売上比率は40%にまで引き上げる。また、2030年度には売上収益で2兆円を目指す。

 今後のモビリティ事業の成長において、重要な取り組みのひとつがHMAXである。

 HMAXでは、鉄道車両や沿線信号システム、鉄道インフラ、電力供給設備などに搭載した数多くのセンサーからデータを収集。共通のデータレイクに保存し、AIによって分析する。それを活用したアプリケーションが鉄道現場で利用されているという。

HMAXプラットフォーム

 マリノ執行役専務は、「HMAXは2000両以上の鉄道車両に搭載されており、運行遅延を最大20%削減し、信頼性の高い運行を実現するほか、保守コストおよびエネルギー消費量を最大15%削減できる。買収によって鉄道向けに開発した独自のセンサー技術を持つことで、質の高いデータを収集できるだけでなく、Hitachi DigitalおよびGlobal Logicが開発した強固なアーキテクチャーとソフトウェアを活用し、生成AIやAgentic AIを活用。NVIDIAのエッジコンピューティングソリューションと、ディープラーニング技術によるプラットフォームで駆動させることができる」と説明した。

 プロフィットシェアリングやサブスクリプションモデル、オペレーションコストの最適化といったアプローチにより、HMAXを提案。2025年5月末時点で、すでに200億円の受注を獲得しており、潜在案件パイプラインは2000億円以上に達している。「HMAXは、長期的なデジタル収益を生み出す基盤になっている」と位置づけた。

HMAX始動から加速へ

エナジーセクター:将来的にはサービスファースト企業への変革を図る

 エナジーセクターは、日立 執行役専務 エナジー事業責任者のアンドレアス・シーレンベック氏が説明。「エネルギー市場は劇的な進化を遂げている。日立は、未来のパワーグリッドを実現するキーテクノロジーと位置づけられるデジタルとパワーエレクトロニクス、持続可能な製品、ソリューションを提供することができる。Lumadaや革新的技術などのデジタルを活用し、ナンバーワンサービスプロバイダーへの進化を目指す」と切り出した。

日立 執行役専務 エナジー事業責任者のアンドレアス・シーレンベック氏

 現在、エナジーセクターにおける受注残は430億ドルに達しており、それにあわせて世界各地での製造拠点の拡大や効率的なオペレーションの実行、2027年度までに1万5000人の増員などを計画。2027年度までの売上収益の年平均成長率は11~13%、Adj. EBITA率で12%超、Lumadaの売上収益比率は約30%にまで高める。また、2030年度までの売上収益の年平均成長率は10~12%という高い成長を見込んでいる。

持続可能な成長のための戦略的スケーリング

 シーレンベック執行役専務は、「グリッド投資全体に占めるデジタルソリューションの投資比率が大幅に増加している。また、再生可能エネルギーの活用が増加することで、デジタル化はさらに進展する。今後は、エナジー事業においても、HMAXを活用した提案を加速していく」と述べた。

 HMAX for Energyの活用事例としては、鉄道用変電所における予兆保全のケースを紹介。モデリングと予測を通じてアセットの健全性を視覚化するとともに、システム信頼性のための手法を導入。コストとリスクに基づき、ポートフォリオリソースとパフォーマンスのバランスを最適化しているという。「エナジー事業がモビリティ事業と一緒になって鉄道事業者にアプローチした事例となり、One Hitachiを実現している」とも述べた。

鉄道用変電所における予兆ケイパビリティの実装

 また、米Ameren Illinoisでは、Lumada Asset Performance Managementを導入し、1200以上の変電所を対象に、設備全体を可視化し、予兆分析を実施。保守および更新プロジェクトの優先順位づけを行うことで、アセット稼働率を15%向上させ、計画外ダウンタイムを30%削減、リソースおよび在庫管理コストを30%削減できたという。

 「コネクテッドアセットであるDigital Passportと、クラウドベースのプラットフォームと分析技術の提供、予兆保全の実現、効率向上のイネーブラーとしてのHMAXの活用により、デジタルサービスを拡充していく。2027年度までにLumadaの売上収益を4倍に高める」と意欲をみせた。

 さらに、原子力事業については、日本におけるすべてのBWRプラントの再稼働ならびに建設再開に貢献。日立グループのデジタルケイパビリティを活用し、新しい技術と知識、ノウハウ、経験を融合したDXの提案を進めるという。

 現在、エナジーセクターでは、全世界に50万アセット、2300億ドル相当のインストールベースを持つが、サービス契約率は1%未満にとどまっているという課題がある。そこで、2025年4月にサービスBUを新設し、6300人以上が40カ国での事業展開を開始したところだ。サービス事業をオーガニックな成長で4倍に引き上げ、ボルトオンM&Aで5倍にまで拡大するという。

 まずは、Horizon Xとして、デジタルとサービスの機会をとらえて、既存アセットのライフサイクルを延長。続くHorizon Yでは高度なデジタルサービス事業を構築。さらにHorizon Zとして、サービスファースト企業への変革を図る考えを示した。

事業機会の獲得と未来への準備

CIセクター:最も価値を提供できる領域でビジネスチャンスを獲得していく

 コネクティブインダストリーズ(CI)セクターでは、日立 代表執行役 執行役副社長 社長補佐 コネクティブインダストリーズ事業責任者のブリス・コッホ氏が説明した。

日立 代表執行役 執行役副社長 社長補佐 コネクティブインダストリーズ事業責任者のブリス・コッホ氏

 同事業では、プロダクト×OT×ITによるトータルシームレスソリューション(TSS)に取り組んできた経緯があり、2024年度までの中期経営計画では、コネクテッドプロダクトが120万台から250万台に、リカーリングの売上収益は年平均成長率が10%となり、GX売上収益は7250億円から8460億円に拡大。北米市場での売上成長率は35%増、欧州市場では66%増という高い伸びを達成したという。また、デジタル人財は70%増の9500人に拡大している。

2024中期経営計画の振り返り

 「CIセクターにおけるLumadaの年平均成長率は26%という力強い成長を実現しており、利益率も継続的に改善している」とした。Lumada売上収益比率は33%に達しているという。また、2027年度までの売上収益は年平均成長率が6~8%を計画しており、Adj. EBITA率は13%超を目指す。Lumadaの売上収益比率は約45%にまで高める。

 「Inspire 2027においては、最も価値を提供できる領域でビジネスチャンスを獲得していく。ドメインナレッジ、インストールベース、デジタルケイパビリティという日立の強みを垂直に組み合わせて、One Hitachiによって提供するIntegrated Industry Automationソリューションによって差別化を図る」と述べたほか、「TSSはこれまでの実績を生かしながら進化させ、AIを活用してバリューチェーンを統合。具体的には、HMAX for Industryへと進化させることになる」とも語った。

TSSを進化させ、AIを活用してバリューチェーンを統合

 Integrated Industry Automationソリューションでは、バッテリーやバイオ医療などのハイブリッド産業において、高成長、高付加価値なミッションクリティカル分野でのビジネス獲得を目指すほか、AIを活用したプロダクト×OT×ITによる差別化を推進。HMAX for Industryによるリカーリングビジネスの強化も進める。さらに、インテグレーションやシナジー創出が可能なコア事業を強化するため、事業ポートフォリオ改革を推進する考えも示した。

 また、HMAX for Industryは、IT、OT、プロダクトに、AIによる最適化を加えることで、設備故障診断、予兆保全、ライン最適化、オペレーションガイダンスおよび安全アラートといった領域に加えて、高付加価値なデジタルサービスの提供にも拡大し、顧客価値の創出に貢献することができるとした。

 HMAX for Industryによる事例では、NVIDIA AI Blueprint for Video Search and Summarization(VSS)を活用した安全ガイダンスによって、作業効率および安全性を向上させたケースを紹介した。定期検査の作業効率を2倍に高めるといった実績があがっているという。

AIを活用した安全ガイダンスで、作業効率と安全性を向上

 また、ダイキンとの協創事例では、メンテナンス用OTにAIを活用することで、安定稼働と技能伝承を強化。メンテナンス記録、操作手順書、設備図面などのOTデータと、分析プロセスとの組み合わせにより、設備故障に関する診断を10秒以内に回答し、回答精度を90%以上に高めることができたという。

 さらにバイオ医療の分野では、先進AIと培養シミュレーション、センシングを統合することで、スケールアップ期間を30%短縮したほか、先進材料分野では、設計と製造の工程間における自動化および最適化の範囲をシームレスに拡大。データの数値化とインフォマティクスが、設計を高速化することで、製造プロセスを改善しており、材料設計時間を900分の1にまで短縮できたとした。

 コッホ副社長は、「HMAX for Industryは、Lumada 3.0モデルを活用しており、グローバルスケーリングを加速させていく」と述べた。

*****

 今回のHitachi Investor Day 2025は、2025年4月に発表した新経営計画「Inspire 2027」に関して、より具体的な事業戦略が、4つの主要セクターから示された。いずれも力強い成長戦略を打ち出し、Lumadaを中核としたデジタルセントリック企業への変革を加速する姿勢が鮮明に伝わったきた。そして、Lumada 3.0の取り組みが、いずれのセクターにおいても、日立ならではの差別化になることも強調されていた。

 一方で、「Lumada 80-20」との親和性が低く、成長性や競争優位性が低い事業については、再編を進めることもあらためて強調した。どの事業が該当するのかいったことについて明言しなかったが、日立グループにおける構造改革が常態化していることを示す内容ともいえる。成長戦略とともに、構造改革による体質強化にも継続的に取り組んでいることが、強い日立の実現につながっているのは明らかだ。